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「ミナ様が、最初から既存業者に委ねる意思であったこと、あなた方の活動に賛同して、さらに支援をして下さるような方だとは、もうおわかりでしょう」

 ギルド長のその言葉に、ドランさんも頷いて同意を示してくれる。


「我々も、あなた方に不利にならないよう動くと、理解頂いているはずです」

 商業ギルド長も、彼らの活動を支援したがっている。

 だから私に、既存業者に委ねてはどうかと持ちかけた。


「あなた方の情報源となった方が、本当に善意だったとお思いですか」

 ドランさんたちが眉根を寄せた。




「聖女について、悪意ある噂が広まっているのはなぜか」

 ギルド長は真剣な目でドランさんたちを見据える。

「今この国では、聖女を自陣営に取り込もうとする権力者が、噂をまき情報操作をして、派手に動いている。城内では買収されて動いた方もいたそうです」


 おおう、なんか怖い話になってきた。

「それが商業ギルドにも食い込んでいるのなら、早期に止めなければなりません」

 商業ギルド長の強い口調。

 それはそうだ。そんな不正が広がっているのは怖い話だ。


「彼らは聖女の悪い話を広め、居場所を失った聖女を保護する。そうした目的で動いていたようです」

 ドランさんたちは、居心地悪そうに私に目を向けた。

 同情の目に、お城でもその話は耳にしたので、頷いて見せる。


 噂を流したというだけでは処罰が難しく、明確な悪意による行動だと判明した人だけが、何らかの処分をされたと聞いている。


「新規レシピを次々と打ち出した彼女たちが、異世界の方だと当たりをつけることは可能でしょう」

 私やマリアさんが異世界から来たと、すぐにはわからないと思ったけれど。

 今までになかった考え方を派手に持ち込んだ人物、イコール異世界人だという考えは、簡単に出来る。


「そうした方が、思惑を持った上で、あなた方を扇動したとは考えられませんか」




 悪意をもって、ドランさんたちと私がぶつかるようにした。

 そう考えることも出来ると、ギルド長は語る。


「私は今回の件が、善意だとはとても思えないのです。だからこそ、情報源を明かして頂きたい。その上で、きちんと処罰をせねばならない」

「処罰って、なんだよ」

 ドランさんは、まだ抵抗を見せているけれど、その声は弱い。


「情報を漏らすような職員を、ギルドに置いてはおけません」

 きっぱりと言うギルド長の、筋は通っている。

 商業ギルドのようなところでは、守秘義務は当然のものだ。


「起きてしまった過去は消えない。ですがその対処により、未来に起きることを防ぐことは可能です」

 ギルド内部の情報を漏らす職員が出てしまった。

 今後、二度と起こさないためには、まずは早期の事情把握。

 そして厳しい対処が必要だと、ギルド長は語る。


「放置すれば、例えばその方から、今回の新レシピの制作にスラムが関わるということまで、安易に広められる可能性もありますよ」

「そんなことは」

「ないと、言い切れますか」


 情報源が絶対的な彼らの味方なのか。

 そう突きつけられて、ドランさんたちは項垂れた。




 ドランさんが口にした名前は、私が知ることのない、商業ギルド職員の名前。

 登録レシピの閲覧権限を持っている、窓口業務の人。


 頷いて、ギルド長は深い息を吐いてから。

「あなた方が善意と解釈をされても、レシピ登録の情報を漏らすことは、あってはならないことです」

 重い口調でドランさんたちに語る。

「漏らされた側が思わぬトラブルに巻き込まれることもある」


 そうしてギルド長は、改まってドランさんたちに向き合うと。

「ギルド職員が、申し訳ないことをいたしました」

 深く腰を折り、謝罪をした。


 ドランさんたちは、微妙な顔をしながら、頷いた。




 契約も済んで、ドランさんたちは先に帰ることになった。

 魔道具を馬車に積み込んで、何度も頭を下げて帰って行く。


 門の外のそれを、私たちは建物の前に並んで見送った。

「ミナ様も、とんだ騒動に巻き込みまして、申し訳ございませんでした」

 ギルド長は私にも、丁寧に謝罪をしてくれた。


 確かに今回は、ギルド職員が関わっての騒動だったけれど。

 ドランさんたちの活動を、きちんと直接聞くことが出来たのは良かった。

 早期解決のために、彼らをここに連れてきたことも、理解が出来た。


 何より私に対する思惑に、商業ギルドまで巻き込まれて、申し訳ない気もする。

 そう伝えると、ギルド長は苦笑した。


「いいえ、巻き込まれたのはミナ様ですよ。この国で少しずつ、腐敗が蔓延りだした。そこにあなたが来られたことで、標的にされた」

 私が来たせいでは、けしてないと言ってくれて、少しほっとした。




 商業ギルド長とマルコさんとは、建物の中に戻り、改めてお話をした。

 今回の新しい保存食ビスケットは、美味しくなったことと、一新された商品として広まってくれるだろうとギルド側も考えている。


 もしかするとスラムの人が作っていると広まれば、また一部は使わなくなる可能性があるけれど。

 今あまり売れなくなっている状況よりは、良くなるはずだと考えられている。


「本当はミナ様があの木の実を活用されたこと、少し不安はあったのです」

 私は従来の保存食を鑑定して、あの木の実を知った。

 スーパーフードとして、かなり有用な食材だと。


 でも一般的な鑑定にはヘルプもなく、保存食から食材まではわからない。

 既存の秘匿レシピと似たレシピで、私は美味しい保存食を作ってしまった。

 それも私たちの鑑定の危険なところだと知った。

 下手に秘匿レシピを暴くようなことをすれば、トラブルになるだろう。


 今回は既存レシピに材料は似ていても、手順の違いで味などが大きく異なる。

 そうした新商品の登録拒否は、出来ないそうだ。

 でも彼らの活動やその理念を知っていたので、どうにかしてやりたいと商業ギルド長は思っていた。


 従来の業者への委託を提案して、私が賛成したことで、安堵されたらしい。

 あとスラムの人の雇用に対し、積極的に賛成したことでも、安心されたそうだ。




 保存食の話のあとは、聖水のことをギルド長は教えてくれた。

 神殿に出入りしている業者から、こっそり話を広めてもらったそうだ。

 水魔法の水に、聖魔力を入れ込んだら、商業ギルドが買い取ると。


 そして今日の午前中に早速、売りに来た人がいたらしい。

「聖魔力をお持ちの方々にこの話が広がれば、ミナ様からの納品だけでなく、聖水は流通するでしょう」


 早くそうなってくれればいいなと思う。

 神殿への収入ではなく、聖スキルを持っている人の個人収入で、きちんと活用してくれれば、何よりだ。


「グレン殿が遠征に行かれているのなら、ミナ様はしばらく外出は控えられるのでしょう。聖水の納品は、私がお預かりしてもよろしいでしょうか」

 商業ギルド経由で、お城に届けてくれるという話に、そのままお願いした。


 さすがに魔力量をはかる魔道具は持参されなかったので、何本預けたという預かり証を出してもらった。

 魔力量をあとからはかり、正式な納品書と、預かり証が交換になる。




 あと、聖水のお金は、保留にしておいて欲しいとお願いした。

 やっぱり自分の中で何かが納得出来ない。


 今回、障害者福祉のような活動をされている方に、会わせてもらえた。

 そういった方向で、あとから何かの活動に使うのもいいかも知れない。


 そう話すと、ギルド長からは「では聖女口座を作りましょう」と提案された。

 何だろうそれはと、少し思わなくもなかったけれども。


 まあ、お手数をかけてしまうけれどと、お願いした。


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