表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/163

69 保存食ビスケット


 商業ギルド長と会う場所は、竜人自治区の門近くの建物だ。

 外部からのお客様と会うための建物だと聞いている。


 マリアさんと一緒にそこへ行くと、ザイルさんとヘッグさんがいた。

「ミナ、おはよう。調子はどうだ」

「魔力が倍以上増えて、三十万近くになりました」


 報告すると、ザイルさんが固まった。

 固まったということは、予想外だったということだろう。

 歴代聖女の魔力がそこまで多かったわけでは、なさそうだ。


「あと精霊魔法とか召喚とか、スキルが増えました。それと聖女の称号が表示されて、聖魔法の必要魔力が半減するそうです」

 ザイルさんがフリーズしっぱなしだ。

 ヘッグさんがこっそり笑っているのは、私に対してか、ザイルさんに対してか。




「その…これまでの聖女が、どうだったか聞こうと思ったんですけど、違う…みたいですね」

「いや…」

 ザイルさんがフリーズをといて、ひと言だけ言って。

 言葉を選ぶように考え込んだ。


「そうだな。まず聖女の魔力値は、わからない」

 魔力値をはかる魔道具はあるものの、通常は人に使わない。

 人の魔力値は使える魔法の威力や回数で、おおよそを計算する。

 そして鑑定は、人のステータスがすべて見えるわけではないと説明された。


 そもそも鑑定とは、物の判別や状態の確認をするスキル。

 なので数値やスキルは見えず、称号や状態が見えるそうだ。


 例えば今の私をザイルさんが鑑定すると。

 料理人で聖女、異世界人、竜人族の番、健康体と出る。

 魔力値やスキルなどのステータスは見えない。

 ちなみに自分のステータスチェックも、一般的には出来ない。


 ただ「こういった特殊能力が使える気がする」という自己申告の上で、集中して詳細鑑定をすると、スキルについて調べられることもあるそうだ。

 普通に相手のスキルすべてが見えるわけではないらしい。


 一方で、私たち異世界人の鑑定は、人の魔力値まで見えた。

 召喚の場で、王様とその周囲の人を鑑定したら、最高で二千ほどの魔力だったのを覚えている。


 あの場は緊急だったのでステータスを勝手に鑑定したけれど。

 あれ以降は失礼かなと思って、人の鑑定はしていない。




 人や物の鑑定以外に、魔法が使われたとき、その魔法を鑑定することが出来る。

 なので私が結界を張ったり誓約スキルを使ったとき、何をしているかは見えた。

 そこから私が聖女だと当たりをつけることは、ザイルさんにも出来た。


 召喚の場で使われた鑑定石という魔道具は、特殊なものらしい。

 能力を数値化したり、スキルを表示できる鑑定魔道具は、とても珍しいという。

 ザイルさんも、あまり見かけたことがない魔道具だと言った。


 あれで表示された、マリアさんたち異世界人のスキルは覚えているそうだ。

 つまり私やシエルさんが非表示にしたスキルは、ザイルさんも知らない。


 あとステータスを変更するという意識はないので、あのとき表示された私やシエルさんの職業欄が、変更されていたとは、普通の感覚では思わない。

 ザイルさんは先に聖女ではないかと当たりをつけたので、職業欄などステータスの改ざんに気がついた。




 鑑定は、弾くことも出来るとザイルさんは言う。

 ザイルさんが私を鑑定した瞬間に、私は違和感を感じていた。

 相手がザイルさんだから、そのまま鑑定してもらったけれど。

 その違和感で咄嗟に弾けば、鑑定はされないようだ。


 魔力に敏感であれば気がつくものの、魔力が感知できなければ鑑定に気がつかず、弾くことは出来ない。

 あと鑑定など人のスキルを弾けるかどうかは、魔力量の差によるという。

 結界を破壊しようとした、魔法無効化スキルの人のときも、そんな話を聞いた。




 歴代聖女のスキルは、やってみたら出来たというものが多く、ステータスがきっちり判明していたわけではないそうだ。

 代々の聖女は、鑑定スキルを持っていなかった。

 ただ『状態判定』という、治癒のための鑑定みたいなスキルはあった。


 なので鑑定を始め、私のスキルのいくつかは聖女由来ではなく、異世界から召喚された者ならではのスキルだろうと言われた。

 召喚された全員が魔力値も高かったので、魔力値も異世界召喚補正が入っている可能性があるそうだ。

 どういう条件の補正かは、わからないけれど。


 たぶん、召喚された全員にあった異世界言語と鑑定、亜空間収納が、召喚された者に与えられる特殊なスキルなのだろう。

 恐らくは召喚の魔方陣に、意思疎通が出来るように、異世界人が状況の把握が出来るようにという条件付けがなされ。

 それにより、その能力がついたのではないかという話になった。


 そのあたりは、召喚の魔方陣そのものを解析しないと、はっきり言えないという。




 能力の話はそこで一段落して、ザイルさんからは納品書を渡された。

 保存食ビスケットは、グレンさんとザイルさん立ち合いで納品してくれたそうだ。

 お手数をおかけいたしました。


「番の儀の翌朝だから、君が起きることが出来ないと伝えると、残念がられたよ」

 セラム様の護衛さんたちは、昨夜のフルーツタルトも、今回の保存食ビスケットも、とても喜んでくれたようだ。


「オレたち竜人族も、ダンジョンへ行くときはあの保存食だったから、これからは改善されると思うと、嬉しいな」

 ヘッグさんがご機嫌な声で言う。

 そういえば、以前言っていたね。保存食がおいしくなるのかと期待されていた。


 そんな話をしていると、商業ギルド長とテセオスさん、ケネスさん、マルコさんが来られた。

 四人だけだと思っていたけれど、他に四人の男性が来ていた。

 ひとりは商業ギルドの人で、三人は保存食業者の人たち。


「申し訳ございませんな。どうしてもと、言われまして」

 商業ギルド長に謝罪されたけれど、どうしても会わせてはいけない人は、来させないようにしてくれるだろう。

 魔力も嫌な感じはしないし、大丈夫な相手だと思う。




 そう思っていたけれど。

「なんだ、ちんちくりんの子供じゃないか」

 暴言が来た。


 久しぶりな気がする。

 このところグレンさんに甘やかされ、可愛い可愛いと言われ慣れていた。

 ちょっと調子に乗っていたかも知れない。

 実はこちら基準だと、私は可愛いのかもなんて、思い始めていた。


 錯覚だった。レティが正統派に可愛いみたいだから、あちらとこちら、基準は似たようなものだろう。


「可愛らしい人に可愛いと言えない、可哀想な人なのですよ」

 商業ギルド長がフォローしてくれた言葉では、私は可愛いと認識されているみたいな言い方だ。

 うん。お世辞でもやっぱり、そう言われると悪い気はしない。


 こういう好感度の高い言葉での交流は、大事だよね。

 嘘にならない範囲で褒める、社会の潤滑油。これ大事。




 いちばん押し出しの強い、暴言を吐いた厳つい人が、ドランさん。

 細身の人がメケルさん、堅太りの人がオゾさんと紹介された。

 この三人が、保存食業者の方々らしい。


 保存食ビスケットについて、なぜか耳に入ってしまったそうで。

 ギルドに駆け込んで来たので、新レシピ登録者は既存業者にレシピ提供予定だと、テセオスさんが説明したところ。

 その話し合いに参加させろと言ってきたそうだ。


「作って見せてもらって、食ってみねえとわかんねえな」

 鼻息荒く、ドランさんが言う。




 ギルド長を見ると、頷かれた。

 こんなふうに言っているけど、目の前で実演しても大丈夫な人みたいだ。

 ギルド長が、トラブルになる人をわざわざ同行させるはずはない。


 マルコさんが隅で小さくなっているのが申し訳ない。

 私のアドバイザー的立ち位置で来てもらったけれど、ここは商業ギルド長主導で、この人たちと対応するのが先だ。


 よし、それなら実演してやろうじゃないかと、私も頷いて見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ