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61 シエルさんが来たよ


 最初はセラム様に専属護衛はいなかった。

 でも専属がいた方が色々とやりやすい。

 騎士団の要になる人を引き抜くのは難しいので、優秀だけど扱いにくいと評判の人に、護衛を頼んでみたら、確かにクセはあるけど優秀だった。

 それがケントさんだったそうだ。


 扱いにくいとされていたのは、獣人だからこそ、人より多くのことに気づくから。

 気づくから、言葉より早くに動いてしまう。

 言葉にしないために規律違反のように扱われる。


 でも彼が動かなければ、困った状況も起こりえたと、セラム様にはわかった。

 そうした事情を知り、セラム様はケントさんを専属護衛にした。


 でも護衛は単独ではない。

 チームを組ませるにあたり、ケントさんとうまくやれる人が少ないのは問題だ。

 なので、いっそケントさんに選ばせた。


 すると見事に各隊で扱いにくいとされていた人たちを推薦してきた。

 いずれも能力が傑出しているため、人と違う行動をとってしまうという人たち。

 騎士団の人たちからは、はみ出し部隊とされてしまっている。


 でも実際には、優秀な人たちだった。

 ちょっとマイペース気味だけどとセラム様は語る。




「まあ、規律という意味では、少し困ったところはあるが」

 例えば旅の間、私が出したおやつを、躊躇無く食べたことなど。


 なるほど、私のあの行動も、本来はアウトだったと知った。

 護衛任務中の人たちに、決まった食事以外を与えるのは、アウトらしい。


「彼らは自分たちで危機察知も出来るから、食べた。でも他の隊が、聖女の護衛につくというときは、気をつけてくれ」

 そう注意された。以後気をつけます。




 そんなふうに、待つ間に雑談をしていると。

 シエルさんより先に、商業ギルド長が戻ってこられた。

 宰相さんとの話が順調に済んだようで、満足そうな雰囲気を感じる。


「そうだ。シエルも竜人自治区へ行きたがっていた」

 ふと思い出したように、セラム様が言った。


 シエルさんはお城の蔵書で魔法のことを学び、ひととおり満足した様子らしい。

 竜人自治区には魔道具が豊富だと聞き、それなら自分も行きたいと話したそうだ。


 セラム様の言葉に、ザイルさんは笑って頷く。

「元々、異世界の三人をこちらに滞在させたいと言っていただろう」

「それはミナをグレンの番に迎えるための、口実だったのではないのか?」


 ザイルさんは微笑んで黙っていた。

 まあ、ここでそうだと言われても、今度は私が微妙な気分になるけれども。

 え、そういう話だったの?




「異世界から来られたもうお一人も、竜人自治区に住まわれるのですね」

 にこやかに、商業ギルド長が話される。

「その方も何か物作りをされるのでしょうか」


 私とマリアさんは顔を見合わせた。

 そういえば、シエルさんがどんな職業だったか、聞いたことがなかった。

「どうだろうな。そういえば、城の蔵書を読んでいたとき、素材を欲しがったので、何か作っていた様子はあったが」


 ほほう、シエルさんも何か作ったのか。

 日常生活で不便に感じて、何か作ったパターンかな。

 あとは単に、自分の魔法で何が出来るか確認したかったのかも。




 そうするうちにシエルさんが来た。

 緩いローブを着て、なんとなく魔法使いな雰囲気を出している。

 日本人顔に金髪なシエルさんがそれをすると、コスプレかという気がする。


「魔法のお勉強はもういいんですか?」

 マリアさんがにこやかに尋ねた。

「城の蔵書を色々と読ませて貰い、魔術師にも話を聞けた。それより竜人自治区には魔道具が豊富らしいな」

 うん。生活拠点としてではなく、魔道具目当てがあからさまだ。


「お城の魔法関係の本は、たくさんあったでしょう。いいんですか?」

「うむ。読み尽くした。私には速読のスキルがあるからな」

 何ですと!

 本を読むのが遅い私には、羨ましいスキルだ。


「ついでに速記もある。社会人としては有能だったぞ」

 あらそうなんですねーすごいですねと、マリアさんがにこやかに返している。


 そうなのか、有能だったのか。

 シエルさんは気難しいところがあるので、普段の人間関係が気になるけれど。


 理不尽に対してきちんと抗議をしたり、自分の意見を言っていた。

 先に魔法が使えるようになった私に方法を訊いて、出来るように努力もしていた。

 なるほど、大人の社会人としては、それなりに周囲に馴染んでいたんだね。




「竜人自治区は快適か?」

 シエルさんの顔が私を向いたので、私も会話に参加する。

「快適ですよ。下宿のお部屋も素敵だし、調理場は広いし、温泉があるし」

「温泉!」


 どうやらシエルさんも風呂好きらしい。

 うん。日本人は風呂好き、けっこう多いよね。


「竜人の里には温泉があって、そこから湯を転移している」

 ザイルさんも、温泉自慢に加わった。

「すごいな! その転移の魔方陣も是非見せて欲しいが」

「あいにく、本体は竜人の里にある。こちらは補助的な魔方陣だけだ」

「それでも構わない。是非見せて欲しい」


 好き勝手な要求だけど、ザイルさんは快く頷いた。

 えええ、それいいの?




「シエルにも、うちの下宿に部屋を用意する。是非来てくれ」

 ザイルさんの言葉に、シエルさんが頭を下げた。

「ありがとう、世話になる。グレンさんも、今日からまたよろしく頼む」

「いや、オレは明日から不在になる。むしろミナを頼む」


 なんとグレンさんてば、シエルさんに私を頼んだ。

 え、グレンさんとシエルさんが絡んでいた場面が思い浮かばないのだけど。

 グレンさん、そんなにシエルさんのこと信頼しているの?


「なんだ、どこに行くんだ?」

「瘴気溜りの浄化だ」

「ん? 浄化なら、ミナも一緒じゃないのか?」




 そこで私は、聖水が作れたことを説明した。

 今日話し合って納品もできたので、今から浄化のため運ばれて行くこと。

 グレンさんも、セラム様に同行して浄化に行くという話をする。


 あとはさっきの軍務大臣と神殿の人との話だ。

 軍務大臣が、神殿に所属しないと浄化に参加させないと言ったので、参加できないのだと伝えた。


「聖女を浄化に参加させないと宣言するって、バカなのか?」

「どうなんでしょうね。私が焦ると思い込んでいたようですよ」

「まあ、この国も色々あるということか」


 シエルさんの言い様に、セラム様が苦笑した。

「残念ながら、そのとおりだ。色々あって、一番厄介な連中は排除できたが、まだ残っている」

「そうか。国の運営というのも、大変だな」

 シエルさんなりにセラム様を労っているようだ。




「それにしても、また遠出か。あの保存食を食べるのか?」

 シエルさんは眉を寄せている。


 うん。だよね。

 日本にいた人としては、あの味や食感はないよね。


「保存食もお菓子の範疇でどうにか出来ないのか?」

 シエルさんの話が、私に向いた。

「今朝ちょうど、ビスケットとして焼いてみました。栄養価も再現できたから、グレンさんが持って行くなら、もっと焼きますよ!」

 えへんと私が胸を張ると。


「保存食がおいしくなるなら、城として購入したい」

 意外なことに、セラム様が食いついてきた。

 しかもかなり真剣な顔だ。


 あ、セラム様も、あの保存食をまずいって思ってたんだ。




 って、待って待って。

「今回の遠征にという話だと、今夜中に大量に作ることにならないですか?」

「…なるが、頼みたい」


 セラム様も大変なお願いになっている自覚があるのか、目を逸らして言う。

 うん。だって何人分?

 いやそもそも、保存食の基準の量がよくわからない。

 ビスケット何枚分?


 でも、グレンさんだけに渡すのも、確かに気まずい。

 グレンさんなら気にしない可能性もあるけど、集団の中でひとりだけおいしいものを食べるというのは、どうなのか。


「何日ほど行くんだ? 長期なら、ビスケットの包みも工夫がいるだろう。湿気避けもだが、割れないようにとか」

 さらにシエルさんが厄介なことを言い出した。


「タッパーみたいな物を作ればどうかしら。最初はかさばっても、空になったら重ねられるようにとか」

 マリアさんから、さらに入れ物の発案がされる。

 あの樹脂素材で作ってくれるみたいだ。


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