表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/163

55


 聖女については、既に他国にも情報が出回り、協力依頼が来ているという。

 でも私が情報規制を希望したので、他国への協力方法が悩ましかった。

 それが聖水の提供で、一気に解決することになる。


「私の見立てでは、ポーションと同程度の保管具合です」

 聖水の詳細を話すにあたり、ザイルさんが口を挟んでくれた。

「実際に保管実験をしたものも持参したのだろう、ミナ」


 促されて、作業場に置いていた水瓶をこの場に出した。

「三日程しか実験できていませんが、五千の魔力で作成してから、水瓶の蓋なし、蓋あり、蓋あり結界内の三種類で時間経過実験をしました」




 結果は、蓋なしは翌朝の時点で、五パーセントほどの魔力が抜けていた。

 一方で蓋ありはどちらも、三日間で一パーセント程度の魔力抜け。

 結界のありなしは、関係がなかった。


 さらに密閉容器は、ほぼ抜けがなかった。


「水瓶から密閉容器に変更しただけで、魔力の抜けがほぼなかった。輸送に気をつけて、早期に消費すれば問題ないでしょう」

 そんなザイルさんの意見もあり、密閉容器の聖水をお城に納品すると決定した。




 価格については今から商業ギルドへ、話し合いのための使いをやるという。

 出来れば登城してもらい、セラム様と私、商業ギルド長で話し合いがしたいと伝えるそうだ。


 お城としては、価格が今日中に決まらなくても、ひとまず鑑定の上で買い取りはしたいと言われた。

 そもそも浄化の対価は、元の金額で予算を出そうとされていたのだから。


 まずはこの国の瘴気溜りを聖水で浄化し、国として正式に確認する。

 次に効果を確認した情報とともに、聖水を他国へ提供することになる。

 なので宰相さんに、三十五本すべての聖水をお渡しした。


 今からお城の鑑定スキル持ちがこの場に来て、鑑定した上で納品となるらしい。

 何事もなければ、日に十五本作成できたと伝えると、陛下が拳を突き上げられた。

 宰相さんも頷いていて、あれはこの世界のガッツポーズかなと思った。




 聖水での瘴気溜りの国内浄化は、軍務大臣を一切通さず、騎士団へ直接依頼をするそうだ。

 表向きは「瘴気溜りの影響で発生している魔獣対策」になる。

 その名目で騎士団を向かわせ、聖水で浄化をはかる。


 ひとまず聖水の持ち運びと浄化は、信頼の出来る人で行う。

 各チーム六本の聖水で、今発生している五カ所の瘴気溜りを浄化する。

 もし浄化仕切れなくても、瘴気溜りが小さくなれば、魔獣も脅威ではなくなる。


 セラム様と護衛の人たちが、近い場所にある瘴気溜り二ヶ所。

 残り三ヶ所は騎士団の上層部で人選する。


 騎士団は、神殿と癒着している可能性は低いそうだ。

 むしろ神殿とは険悪になっていたという。

 聖スキル持ちの護衛や扱いについて、神殿が尊大な要求をしてきたことで、かなり反発していた。

 なので騎士団に任せても大丈夫という話だった。




「グレンにも協力を求めたい」

 セラム様からグレンさんに、そんな要請があった。

 浄化のため瘴気溜りに向かうときの、巨大凶暴化した魔獣討伐を、グレンさんにも助けて欲しいと。


「今は番休暇中だ」

 グレンさんが眉を寄せて言った。

 うん、番休暇って何かな?


 私の困った顔に、ザイルさんが解説してくれる。

 竜人族は、番が見つかって口説いているときと、番になってすぐは、番から離れず仕事は休むそうだ。

 グレンさんがずっと下宿にいるなと思っていたけれど、どうやら私とお付き合いをするためだったようだ。


「まだ番になっていない今だから、その仕事は受けておいた方がいい」

 解説してくれた言葉に続けて、ザイルさんはグレンさんを説得する。


 ザイルさんとしては、私がまだ成熟した女性ではないので、番になるのは少し先になる。

 お付き合いにこぎ着けたのだから、仕事に戻るようにということらしい。


 マリアさんが、ふと私に視線を寄越した。

 うん。まあ、二十歳の女性なのにって、思ってますよね。そうですね。

 でも体が中学生くらいになっちゃったのは、事実なんですよ。

 だから未成熟といえば、そうなんじゃないかなと、私も思うところなんですよ。

 グレンさんの重すぎる愛情表現に、時間稼ぎをしているわけじゃないんですよ。


 年齢をバラしたら、一気に押し切られそうな予感がひしひしとするけどね。

 なんだか拒否れなさそうな気持ちもあるので、困るんだよね。

 出会って十日で結婚は、さすがに早すぎると思うんだよね。




 偽情報対策は、聖女について王家から正式な告知を行うこととなった。


 まず聖女は、竜人の番として、既に竜人族に迎え入れられている。

 人族の社会とは、セラム様やレティを通じて、協力していくことを約束した。


 その協力方法は、人族の社会とあまり関わらずに済むように、聖水を提供する。

 聖水は聖魔力が込められた水で、商業ギルドで登録済み。

 特定の魔力を入れ込んだ水というレシピ登録は、使用料不要で、誰でも聖水の売買が出来る。


 聖女は能力を下手に利用されないため、存在を知る人を制限するよう希望した。

 その希望は国として約束され、陛下からは情報を漏らさないよう念押しした上で、重臣たちにだけ聖女の存在が伝えられた。

 なのに軍務大臣は聖女の情報を神殿に流した。

 そして聖女を利用するために、誤った噂を広めた。


 今回のサムエル侯爵家や、その派閥貴族たちの処罰は、国の取り決めに反したために行われたこと。

 今広まっている聖女の噂は、サムエル侯爵たちがわざと広めた嘘の話であること。


 そうした情報を、お城から公式発表してもらうことになった。


 これで偽情報の「セラム様との婚姻」だとか、協力を拒否していることは、正式に否定が出来る。

 むしろその噂を流す人が、信用ならない人とされる流れだ。




 正規の情報で噂を否定。

 浄化への協力は聖水で、神殿とは関わらない。

 あとは、神殿がどう動くかで、対応を考えることになった。


「ひとつ、確認をしてもいいだろうか」

 セラム様が私に向いて、口ごもる。

 何だろうかと、促せば。


「グレンと、番になることを了承したのか?」

 そんな確認だった。


「ひとまずお付き合いを始めました」

 私が言い、グレンさんも頷く。

「ミナはまだ成長途中だ。番になるのは、時期を見る」


 なるほどと、周囲の視線が私の身長に向いた気がする。

 気のせいかもしれないが、ちょっと微妙な気分だ。




「そうか。ミナが特殊な趣味で良かった」

 セラム様から、そんなコメントが来た。


 待って欲しい。特殊な趣味って何だ。

 趣味が悪いみたいに言わないで欲しい。

 グレンさんはかっこいいし、素敵な人だ。


 そりゃあまあ、旅の中でのあれこれは、セーフかアウトか微妙なことはあった。

 竜人族の愛情表現を了承したら、指まで舐められたりもしたし。

 ときどき意図がわかりにくかったり、色々と言葉足らずだ。


 でも人一倍、私のことを考えてくれて、必要だった率直な言葉もくれる。

 きちんと色々と考えてくれて、思いやりのある優しい人だ。

 何よりカッコイイし。強くてカッコイイし。


 シェーラちゃんみたいに、勝手に好きになって、勝手に引いた人は、他にもいるかも知れないけれども。

 その言い方はどうなのか。


 そんなふうに、私がモヤモヤしていると。

 セラム様の隣に座ったレティが、セラム様の腕をつねってくれた。




 最後にお城の鑑定担当の人が来て、聖水の鑑定をした。

 密閉容器は聖魔力が五千入っていることが、確認された。

 鑑定結果を口にしたあと、担当者の人は二度見のように再確認をしてから、口をパカーンと開けていた。


 陛下と宰相さんが満足げに頷いて、預かり証とやらを書いて私に渡してくれた。

 あとで価格が決まれば、お金と預かり証が交換になるそうだ。


 それでひとまず、この場から退室することになった。

 庭園で、お昼ご飯を兼ねたお茶会をするそうだ。

 竜人自治区から来た私たち四人と、セラム様とレティ、アランさん、そして王妃様も一緒にお茶をする。


 私たちが退室するのにあわせて、壁際の侍従や侍女の人たちが動き始めた。

 部屋に入ったとき、アランさんの侍従やレティの侍女が、壁際に行くのは見ていたけれど。

 彼らの中にセラム様の側近、エリクさんがいたのに、今になって気づいた。


 セラム様はお茶に行くけど、エリクさんはこれから、セラム様が護衛たちと浄化に出るための、前準備をあれこれ手配するらしい。

 王族も忙しそうだけど、補佐の人も大変そうだなあと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ