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調査結果を改めて宰相さんから話して頂いたところによると。
まずは公爵家の方に対して、レティへの嫌がらせが確かにあったと謝罪。
レティの王子妃教育は、かなりのスパルタだったそうだ。
本来ならあり得ないペースの詰め込みで、高い能力を求められた。
でもレティはむしろ、その教育を喜んだ。
彼女はずっと、魔力の大きさに体が見合っていなかった。
子供の頃から寝込むことが多かったという。
なので幼い頃から、教育はかなり手加減されていた。
もっとやりたいと願っても、ある程度で終わってしまった。
そのためどんどん詰め込まれる知識は、逆に楽しかったようだ。
スペックが高かったため、そんなものかで終わっていた。
むしろ嫌がらせでスパルタ教育を施した側の心を、折っていたという。
そう説明されたレティが、きょとんとしていたので、まあ、うん。
一番の嫌がらせがそれで、あとはちょこちょこと、セラム様と不仲になるような話を吹き込んでいた。
レティから聞いたのは、そのあたりの話だ。
なんと、メインの嫌がらせではなかった。
それらの調査は、竜人族の真偽判定スキル持ちに手伝ってもらったという。
ガイさんにあとでお礼が必要だろう。
パン騒動で、最初の印象と違う微妙な気分はあるけれど、それ以外は実直そうな人ではあるし。
さらに王太子の嫁も、第二王子の嫁も、それなりに嫌がらせを受けていた。
王家の嫁が、そこまで嫌がらせを受けるとは思っていなかったと、宰相さんたちは語った。
ただ王太子の嫁と第二王子の嫁は、それなりの爵位で、友人も多かった。
そのため被害は少なかったそうだ。
レティと同じくスパルタ教育の嫌がらせがメインだったらしい。
「レティアーナ嬢は、まだ最低限必要な夜会に出る程度だけれど、よろしければ私たちのお茶会で、他のご婦人方とも交流を深めましょうね」
王妃様がそんな提案をされた。
王妃だけでなく、王太子の嫁、第二王子の嫁の友人たちとも交流する。
それでレティの立場を作っていくそうだ。
ふふふ、ならばレティの手土産は、是非とも私のお菓子を使ってもらおう。
異世界のお菓子の魅力で、レティの味方を増やしてやろうじゃないか!
そんなことを心の中で考える。
嫌がらせをしていた教育係や、お城の管理官は、罷免となったそうだ。
私的な理由で、王子妃教育に影響を出したのだから、当然とのことだ。
あとその人たちに指示をしていたお家にも、調査が入った。
現在処罰が検討されているらしい。
そちらも真偽判定スキル持ちの方の協力で、調査中とのこと。
うん、ガイさんへのお礼だね。
一般販売する予定のお菓子にしておいた方がいいだろうか。
サブレをレシピ登録して、シェーラちゃんに販売委託してから、渡せばいいかな。
そんなよそ事を考える間にも、話は続く。
さてさて、軍務大臣という人物と、その関係者についてですが。
軍務大臣と神殿との間で、聖女の情報が入ればすぐに、神殿へ伝えるという取り決めが、されていたらしい。
そうして彼は、神殿へ既に報告を入れていたという。
へー、神殿ですか。
陛下は聖女の情報を公開したとき、厳命したそうだ。
聖女の情報はこの場にいる者だけで共有し、外には漏らさないと。
国として聖女と約束したからと、伝えたらしい。
なのに、神殿に漏らした。
さすがに国としての取り決めに反したからには、厳罰が必要になる。
ましてや今回の異世界召喚は、動きを掴んだ他国も、召喚した国を非難している。
なのに異世界召喚された中にいた聖女の情報を、神殿に流された。
何も知らない異世界の聖女を、利権として取り込もうとするような動きは、神殿に各国の非難が向く話だ。
国の信頼を損ね、国益を損ねる背信行為をした。
元軍務大臣は貴族籍剥奪の上、強制労働という話になるようだ。
もちろんレティに嫌がらせをした娘さんも、平民になった上で、さらに処罰が検討されている。
レティへの嫌がらせだけでは、処罰にならなかった可能性が高いが、聖女の情報をそれに利用したことが、処罰の大きな理由だ。
嫌がらせで追及できないというのは複雑な心境だが、レティの安寧に繋がるなら、まあ良しとしておこう。
この国のありようを、私がどうこうできる話ではないのだし。
あとは今回の件を契機に、やはり真偽判定スキルで軍務大臣やその一族に、色々と追及したところ、余罪が出て来たそうだ。
やり手だっただけに、今までもみ消してきた悪事が、一気に表面化した。
「今まで追及しきれなかった不正が、今回のことで暴き出せた。国の膿を洗い出すきっかけをくれたこと、感謝する」
うん。今までのことは、よくわからないけれど。
情報漏洩とレティの扱いに怒ったことが、何やら役に立ったなら良かった。
私の住まいは竜人自治区だけれど。
この国に住むからには、居心地のいい国になって欲しいと思っているので。
私の噂を広めたのは、狙いがあったそうだ。
セラム様たちから聖女を引き離し、自陣営に取り込むためだったという。
あの噂は、聖女がセラム様の保護を受け続けるのが難しくなるようにという意図があったようだ。
セラム様と婚約者に囲い込まれようとしている聖女を取り込む。
そのためにまず、レティと私の不和を狙った。
レティとの関係に亀裂が入ったところで、娘が私を助けるはずだったらしい。
なのに私が防音結界を張ったせいで、会話がまったく聞こえない。
軍務大臣のお嬢さんは、派閥貴族のいろんな能力持ちを、あの場に伴っていた。
何かあった際に聖女の魔法を無効化するため、魔法無効のスキル持ちも、あの場に呼び寄せていたそうだ。
セラム様まで呼びつけての話し合いになり、状況を知りたいと焦った。
そこで私の結界破壊を目論んだ。
魔力の大きさの違いで、あのときは効果がなかったけれど。
普通は結界も無効になるものらしい。
しかも私に感知されてしまった。
ちなみにあの侍女を配置した侍女頭も、軍務大臣の侯爵家派閥の人だった。
お城に広くはびこっていて、あの件に直接関係なかった人たちは、今も各所にいるという。
さすがに侍女頭は罷免になった。
「軍務大臣はサムエル侯爵家の当主だった。あの家も親戚筋も、今回の件でかなり処罰の対象になっている」
宰相さんが語る中、私はふと思った。
侯爵家って、どの程度の家なんだろう。
なんとなく、上の爵位だった気がする。
その家ぐるみ、親戚ぐるみで処罰って、影響が大きいんじゃないだろうか。
日本で県知事が不正して、交替がどうのとは、違う問題があるはずだ。
そっちはトップだけが変わっても、役所の人なんかは同じだ。
住民に大きな影響が出るわけではない。
封建社会の上位貴族ということは、江戸時代に藩主の家が取り潰し、国替えになるっていうのに近いんじゃないかな。
歴史の先生が授業の雑学的に話してくれたことを思い出す。
領民以外の土地の運営側、トップだけじゃなく、臣下もそっくり入れ替わる。
だから地域的なノウハウがわかっていなくて、苦労するとか言ってたやつだ。
領民との間で軋轢とかあったり、大変なことも多いっていう話じゃなかったっけ。
そんなことを考えていると、陛下が口を開いた。
「とはいえ、サムエル侯爵家がなくなると、国内への影響が大きくてな」
あ、やっぱりそうですよね。
そこから解説してくれたところによると。
国の爵位は上から公爵家、そして侯爵家と辺境伯家。
それらが、軍事権限を持つ大きな家らしい。
その下の伯爵家以下は、領地はあっても軍は持たないそうだ。
え、つまり侯爵家って、独自の軍を持ってるってこと?
昨日、アランさんと一緒に行った公爵領は、公爵家の騎士団がいたけれど。
あんな感じで侯爵家の軍があるの? それってヤバくない?
そんな考えは、当たっていたらしい。
「侯爵家の騎士団を使い、内乱を起こされれば、制圧は出来ても民への被害は大きくなる」
宰相さんの言葉に、ですよねーと、私さえも頷いてしまう。
そして、そういうことをしてしまいそうなお家だという。
「よってサムエル侯爵家そのものは存続し、今回の件に関わりがないと判明した、三男が新侯爵として立つ予定だ」
陛下の言葉に、微妙な沈黙が流れた。




