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 ドレスを選び終えて、応接室へと案内される。


 この公爵家は、お城のような居心地の悪さは感じない。

 使用人の皆様もとても好意的で、あたたかい感じがする。


 そう思っていたら、敵意らしい魔力を前方から感じた。

 いや、敵意というか、怒り?




「まあ、シオン。お客様にご挨拶しに来たの?」

 廊下を走ってきたのは、レティに似た印象の男の子。

 あどけない顔の男の子からは、特に嫌な感じはしない。


 私が敵意を感じているのは、男の子のさらに後ろ。

 廊下の向こうから歩いて来る、成人したばかりみたいな若い男の人。

「レティ、お友達が来ていると聞いたけど」


 表面上はとてもにこやかに、優雅な仕草の貴族らしい人。

 レティと同じ銀髪で、顔立ちも似ている男の人だ。




「アランお兄様」

 なんと、レティのお兄さんだった。


「二人とも、私の兄のアランと、弟のシオンよ」

 レティはまず私たちに、二人を紹介してくれる。

「シオン、お兄様。私のお友達の、ミナとマリアよ。グレン様はご存じよね」


「ミナ様、マリア様、はじめまして」

 シオン君の方が先に、私たちに挨拶をしてくれた。

 男の子の可愛いご挨拶に、私たちも自己紹介をする。

「ミナです。シオン様、どうぞよろしく」

「マリアです。お目にかかれて嬉しいです」


「ああ、グレン殿、お久しぶりです。それとミナさんにマリアさん、初めまして」

 続くお兄さんも、洗練された貴族の男性らしい態度で、にこやかに挨拶をされた。

 でも敵意のような、探る感覚の魔力を変わらず感じる。




 敵意と言うよりも警戒かなと思って、なるほどと気づいた。

「もしかしてレティのお兄さん、噂を聞いてるんじゃないですか?」

「え?」

 レティがきょとんと目を瞬く。


 それはそうだ。

 私やマリアさんみたいに魔力感知が出来る人しか、感じられない敵意だ。

 表面的には、とても和やかな挨拶をしている。


「ほら、レティが聞いたような、私とセラム様がどうのっていう噂」

「ええ!」

「なんだか私とマリアさんを、お兄さんが、かなり警戒してるっぽいから」

「まあ、なんてこと。お兄様!」


 レティが兄に向かい、怒った顔をする。

「ミナとマリアはお友達ですわ! まさかお兄様、サムエル侯爵家の方が振りまいた、変な噂を耳になさって、信じていらっしゃるの?」




 お兄さんは、少し戸惑った顔になるが、やはり警戒している様子だ。

 するとグレンさんが私の袖を引いて。

「噂とは?」

 訊かれて私は固まった。


 どうしようか。そのまま話して大丈夫だろうか。

 だって、聖女と王子、つまり私とセラムさんの婚姻を匂わせる噂だ。

 そんな噂が王城でされたなんて、グレンさん的にどうなのか。


 あのときは、まだ番だという話を私が知らなかったとしても。

 グレンさんは最初から、私に特別優しかった。

 ずっと私を番として、特別に優しく接してくれていたわけで。


 勝手に噂を立てられたことへの腹立たしさは、私にもあるけれど。

 なんだかマズイ気がする。


「あらあら、なんだか色々と話がおかしなことになっていたら、大変だわ。ここはちゃんと、お話をしましょう」

 マリアさんが声を上げて、ひとまず私たちは一緒に応接室へ向かった。







「まず私たちは、異世界から召喚されて参りました」

 取り急ぎお茶の準備をしてくれた侍女さんたちが、ひとまず下がったあと。

 マリアさんが、私たちのことをさくっとまとめて話す。


 お兄さんの敵意は感じているだろうに、年長者としての責任感らしい。

 マリアさんの声は、少しだけ震えていた。

「そして異世界召喚のことであちらの国に抗議にいらした、セラム様に保護を願い出て、この国に保護して頂きました」


 お兄さんは相変わらず、刺々しい魔力を纏いながら、話を聞く。

「王都に来てすぐは、お城に部屋を用意して頂き、レティから日常のことを教わる予定だったのですが、そこでトラブルが発生しました」


 続いて私に視線を寄越され、うっとなりながらも、話を引き継ぐ。

「えええと、王都に来る途中で、大規模な瘴気溜りに行き会ったとき、私がそれを浄化したのですが」


 まずは私の聖女スキルを話すべきかと、そこから話をすれば。

「ほう。あなたが聖女様であらせられましたか」

 にこやかな顔で、お兄さんからさらなる敵意が来た。


 ううっ、やめて欲しい。

 うっかり結界が切れたら、グレンさんからもらった髪飾りから攻撃魔法が出ちゃいそうだから、切実にやめて欲しい!




「そうですね。聖女として浄化スキルを持っています。なのでセラム様から要望されて、今後も瘴気溜りの浄化に協力する約束をしましたが、条件をつけました」

「ほほう、条件とは?」


 さらなる敵意を感じる。だからもうやめてってば、危険だから!

「私の能力を変に利用されないよう、情報を制限して欲しいというものです」


 おやと、お兄さんが眉を上げた。

「情報を制限、ですか」

 どうやら予想外の言葉だったようだ。


「そうです。聖女の能力目当てで変な接触があっても面倒ですから」

 その言葉には、お兄さんは同意するように頷いて、先を促してくる。

「セラム様は応じて下さって、国王陛下と重臣の方だけに、秘密厳守前提で聖女について話をされました。ですが」

 そこで私はレティに視線を向けた。


 彼女は頷いて応じてくれる。

「私は聖女様のことは聞かされないまま、異世界の方々がこちらの常識を学ぶための手助けを、セラム様から要請され、お二人のところに向かいました」


 お兄さんは眉根を寄せて、弟君はキラキラした目で話を聞いている。

「すると軍務大臣のご息女が、侍女として私に耳打ちをしました。異世界から来られた聖女とセラム様の縁談が持ち上がっていると」




 瞬間、ぐわっと私の隣で、魔力が膨れた。

「グレンさん、でたらめだから! レティへの嫌がらせの、ウソだから!」

 やっぱりかと、私は必死でグレンさんをなだめる。

 だよね、そうだよね。こうなるよね!


「嫌がらせ、だと?」

 お兄さんの魔力も攻撃性を帯びる。

 もう、あっちもこっちも、ちょっと落ち着いてー!

 魔力を感じられるマリアさんも、驚いて身を縮めているじゃないですか!


「私は軍務大臣であったサムエル侯爵家派閥の方々から、ずいぶんと嫌がらせを受けていたようです。ミナやマリアと話して、気がつくことが出来ました」

 グレンさんやお兄さんの魔力に気づかないまま、レティは話を続ける。

「気づいたものの、抗議は難しいと思っていたら、ミナが聖女として調査を要請してくれたのです」

「聖女と、して?」


 話の流れがわからなくなったお兄さんの魔力が、おとなしくなった。

 グレンさんも、私になだめられてくれて、魔力を抑えてくれた。

 ああああ、怖かった。




「聖女に関する情報は、漏らしてはいけない話として重臣の方々に伝えられたのに、軍務大臣が噂を広めたそうです」

 レティが話を続ける。

「あのとき私にその噂を吹き込むことで、私と聖女様の間に亀裂を生じさせようとされたのだと、思われます」


 お兄さんの眉間の皺が深まる。渓谷のようだ。

「セラム様が保護した聖女様と、私が険悪になることで、セラム様の婚約者として不適格とするためだと、思われます」


 レティの言葉に、眉間に皺を刻んだまま、お兄さんが考え込む顔になった。

 敵意はおさまったものの、戸惑っているようだ。




「聖女と国との窓口を、私とセラム様が受け持つ。その私との亀裂を狙い、制限されていたはずの情報を広められた」

「サムエル侯爵家派閥が、そのようなことを」

「ええ。そして本来であれば、私への嫌がらせ程度で、サムエル侯爵家を追及などは出来ませんが」


「だから私が聖女として要請したんです」

 私がさらに話を引き継いだ。

「情報を漏らされたことにより、聖女が身の安全を憂慮して、国への協力姿勢を考え直す必要があると言い出したと、伝えてもらいました」

「は?」


 お兄さんが間抜けな顔になったが、構わずに話を続ける。

「それを理由に、相手が誰であろうとも、レティのことも含めて情報漏洩の背景となった事情の徹底調査と追及をお願いしますと、お伝えしました」




 レティのお兄さんが額を押さえた。

 なんだかザイルさんみたいな仕草をする人だなと、思っていると。


「レティのために、というのはわかった」

 はーっ、と、深い溜め息。

「セラム様の婚約者であるレティと、聖女様が、友好的な関係であることも」


 わかってくれた様子だが、眉間の皺が消えない。

「しかし瘴気溜りの件は緊急を要する。人命がかかっている」

 お兄さんが深い溜め息を吐いた。


「瘴気溜りの浄化を拒否されるのは、非常に困るんだ」




 まあ、そうだろうなと私は頷いた。

 だからこそ、迅速な調査をしてもらい、私が協力できるようにして欲しい。


いちおう補足です。

お兄さんの敵意は、魔力感知の能力を持つ人だけが気づくものです。

一般的には、貴公子スマイルで偽装出来ている状態です。

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