04
「あのー、本当に私のステータス、良さそうに思えないんですけど、お手柔らかにお願いしますねえ」
チャラ男3人組にも愛想を振りまきながら、頭の弱い女の子な雰囲気を出し、前に進み出た。
ニヤニヤ見られて居心地は悪いが、時間稼ぎだ。
「じゃあ、ここに手を置けばいいですか?」
振り返ってみんなを見ると見せかけ、賢者の様子をチェック。
うん、たぶんステータス見ていじってる。どうにかしてくれそうだ。
「それでは、いきまーす」
時間稼ぎのため、緩いゆっくり口調で宣言し、石に手を置いた。
無事『料理人』に改ざんしたステータスが表示された。
とたんに爆笑する3人組。
「料理人て!」
「異世界関係ねえ職業来たー!」
「逆にすげえー!」
ふん、笑うがいい。それが狙いだ。存分に侮れ!
「ああ、やっぱりー。じゃああの、私も保護して欲しいです。お願いしますね」
愛想良く金髪異世界イケメンに駆け寄り、声をかけた。
眉はひそめられているが、うなずかれた。
私のしょぼいステータスのあとなら、楽だと思ったのだろう。
残る女性2人組が、ステータスチェックに出てきた。
なにせ賢者が先にやると、自分たちが最後になる。
それに気づいて、慌てて先にと出て来たのだろう。
よし、賢者の改ざん時間稼ぎは好調だ。
「マリアさん、よろしくお願いします。ミナと申します」
さっきバカにされた保護対象仲間の女性に声をかける。
ステータスで名前は確認済みだ。
「あ、はい。ミナさん、よろしくお願いします」
周囲を見ると、金髪イケメンに従っているふうの人が3人。
「あの、ミナと申します。お世話になります。よろしくお願いします」
丁寧めにペコリとお辞儀をすれば、うなずいて、ひっそり自己紹介をしてくれた。
まず金髪イケメン青年は、周辺諸国の代表として来た、セラムさん。
サフィア国の第三王子だという。
そのすぐ傍には、いちばん体格の良い、ザ・武人!という印象の、グレンさん。
浅黒い肌に鋭い顔立ちが、精悍でかっこいい。私のドストライクだ。
これで立ち回りも格好良ければ、私の最推しファンタジーキャラになるだろう、とても好みの見た目だ。
セラムさんの護衛だと紹介された。
少し目力が強くて怖めの顔だが、悪い印象ではない。
あとグレンさんと少し似た顔立ちの、細身の人がザイルさん。
護衛らしいが智恵者、という感じだ。
なんだか見透かされていそうな目つきに、背筋がひゅんとなる。
そして人の好さそうな顔をしたおじさん護衛、ケントさん。
以上の四名が、この国の外から来た人々だ。
同行者は他にもいるが、召喚の儀式に同席できたのは、四名だけだという。
私のあとに出て来た女性二人は、無難なステータスだった。
しょぼくはないが、飛び抜けていない。最初の3人組と同程度。
ひとまず、こちらに保護を願い出た人はいない。
そして最後に、あの金髪賢者がステータスチェックに進み出る。
石に手をかけ、ステータスが表示された。
途端に下品な声が上がった。
「しょっぼー!」
「すっげー!」
「ビックマウスかっこわりー!」
チャラ男三人組は、大声でバカにしている。
周囲のこの国の人たちも、冷たい笑いを浮かべている。
よし、追い出される準備はばっちりだ!
こちらに歩いてくる賢者改め『魔道具士』シエルさんに、ひらひらと手を振ると、顔をしかめられた。
助けてあげたのに、不機嫌なのは、これいかに。
まあいいけど。
「では、他に保護を願う方は、いらっしゃいませんね」
セラムさんが宣言。
「あ、あの、オレもそっちに行きます」
手を挙げたのは、勇者だ。
うん。もめるな。
これは、この国が黙っていない展開になるね。
「勇者殿は、我が国に協力をしてもらわねばならん!」
やはり国王の隣の細い人から声が上がった。
「これだけ人数がおりながら、聖女も賢者もおらぬのに、勇者の協力がなければ異世界召喚をした意味がない!」
そして彼らは語る。
異世界召喚には、魔術師の犠牲が必要だったと。
この国はそれだけの犠牲を払ったのに、勇者が協力しないなど、ありえないと。
やっぱりねー。
私やシエルさんが元のステータスを晒してたら、逃げられないやつだった。
なぜか勇者さんは、彼らの言い分で残留組になることを納得していた。
どうして納得したかが謎だ。私だったら無理だ。
いったん納得したポーズでいて、あとから逃げ出す作戦ならわかるけど。
「じゃあ勇者は残って、私たちはあちらに行ってもいい?」
最後の女性二人連れのうちの、ひとりが言った。
「いや、そなたらも残って欲しいのだが」
「ええ? でも私たちのステータスも、勇者みたいに特別感はなかったわよ」
「マリアさんを蔑むくらいだから、マリアさんが一般以下だったってことでしょう。なら私たちも、そこそこってくらいでしょう」
いいところを攻撃したものだ。
実は私、密かに国王やその周囲の人たちも鑑定してみたのだけれど。
奴ら、マリアさんを馬鹿に出来るわけがないレベルで下だった。
マリアさんの方が、数値的には圧倒的にすごかった。
私のしょぼいステータスですら、国王周囲より高かったほどだ。
なのに誘拐した相手のマリアさんを、使えない発言ともとれる嘲笑。
ありえないわー。
「いや、そなたらは高い能力を備えている」
「ええー? マリアさんより、ほんの少し高いだけなのに-」
「私たちで高かったら、マリアさんだって実は高かったんじゃないの?」
国王の隣の細い、宰相だという人は、とにかく協力して欲しいとしどろもどろで、彼女たちを説得した。
不満そうにしながらも、ちらりとこちらに視線を寄越した女性。
その顔に、あっと気づいた。
うちの和菓子屋の常連さんとして、見覚えのある顔だ。
つまり彼女は、私の厄介な客に対する接客を、知っている。
たぶん援護をしてくれた?
私があの態度で勇者に鑑定を受けさせ、次に私が時間稼ぎをしていたこと。
だから、シエルさんより先に自分たちが鑑定を受けた?
あああ、知っていたら、彼女たちにもステータス改ざん教えたのに!
今となっては、どうしようもないけれど。
私が危機感から、他国に保護されるのを選んだことで、彼女たちは用心してくれるはず。
それを信じようと割り切るしかなかった。
まだしばらく、召喚された部屋を脱出できません。