表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/163

37


 部屋に飛び込んできたのは、ホセさんの娘でマルコさんの孫、シェーラちゃん。

 糸目のホセさんとは似ておらず、マルコさんと似た、クリクリの大きな目をしている可愛い子だ。

 私の感覚では、高校生くらいだろうか。


 一直線にグレンさんを目指していたので警戒したけれど。

「グレン様の番になられる方ですか!」

 これまた私にも、キラキラした目を向けて来られた。


「可愛らしい方ですね! きれいな黒髪もお揃いで、お似合いですわ!」

 なんだか勢いがすごい。

 好意的ではあるのだけれど、こちらが仰け反る勢いだ。

「でもグレン様、さすがに幼女趣味はいかがなものかと」

 そしていきなりグレンさんが被弾。


「いや、幼女、というわけではありません。むしろ」

「かなり年齢差がおありのご様子ですが、大丈夫ですか」

「こらシェーラ!」


 なんとも、賑やかだ。

 私の幼女否定はさくっと流され、グレンさんに彼女は向かう。

「体が成熟していない女性に、無理強いはいけませんよ!」

「大丈夫だ。ミナが未成熟な間はちゃんと待つ。それでも番だ、傍にいたい」


 いや、グレンさん。

 真面目に答えられても、私は隣でどんな顔をすればいいのでしょうか。


「まあまあまあ、そうですよね、竜人族の方はそうですよね!」

 なんだかシェーラちゃん、ものすごく盛り上がっている。

「番との巡り会い、素敵!」

 彼女の頭の中で、いったいどんな物語が繰り広げられているのか。




 そこからシェーラちゃんが可愛く私の袖を引いたので、ちょっと席を離れて内緒話をすることに。

 なぜかマリアさんもついて来た。


「グレン様は素敵だと思いますけど、それは傍目に見ているには、ですわ」

 彼女は真面目な顔で、私を真剣に見つめて言う。

「あの方と番だと、何かと大変なこともおありでしょう。私に何か、できることはございませんか?」

 心配、してくれているのかな?

 意図は読めないけれど、悪い感情は流れてこない。


「ええと、ああいうズレたところも、可愛いと思ってしまっているので」

 会話の流れがわからないまま、そう返せば。

「まあまあまあ、理解されておいでなのね! ンもう、お二人そろって、なんだか私、胸がときめきますわ!」

「そういうのを箱推しっていうのよ」


 マリアさん、変な言葉を広めないで下さい。

 シェーラちゃん、箱推しですねと頷かないで下さい。




 話を聞けばシェーラちゃんは、この店に出入りするようになったグレンさんに、初恋をしていた時期があったらしい。

 まあね、見た目も声もイケメンだし、強くて誠実だし。


 ただお話をするうちに、ズレたところに気がついた。

 そしてうわあと、引いてしまったそうだ。

 そうか、引いたのか。そこが可愛いところなのに。


 恋心は冷めたが、祖父の恩人で、誠実な人柄は知っている。

 竜人族だと聞いて、番が見つかって引かれてしまったら可哀想だなと、勝手に同情していたらしい。

 うん。まあ、うん。うん?

 それで私が番と紹介されて、ズレたところが可愛いと言ったので。

 ほっとして、私の器の大きさに感動したと言った。


 ええと、それ、どういう反応をするのが正しいのかわかんない。

 マリアさんまで半笑いになっている。




 私とマリアさんが、独自商品を作るにあたり、商売の話を聞きに来たと話すと。

「私、商売の訓練のために、自分の店を持つ話が出ていますの。分店として、特色を出す必要があるのです」

 特色に合わせた店の場所や、建物の選定をすることになっているそうだ。

 補佐の人もついて、経営を学んでいくそうだ。


「是非ともお二人の独自商品、私に扱わせて頂けませんか!」

 鼻息荒く、シェーラちゃんが迫る。

 それをホセさんが引き剥がしてくれた。


「申し訳ございません。ひとり娘で婿を迎えて店を継がせる予定ですので、確かに経験を積ませるために、店を持たせる話はしておりました」

 ホセさんが語る。

 シェーラちゃんは、そのまま商売人として通用する性格をしていないので、別の店で試す必要があるのだと。

「商売の勘や見る目はあるのですが、ちょっとアレなところがある娘で。しっかり補佐をつければ、いい商人になるのではないかと期待はしているのですが」


 ああー、そうね。そうですね。

 グレンさんをズレていると断じたシェーラちゃんだけど、彼女も大概ね。

 あの勢いとか、脳内物語の展開とか、ざっくり話し過ぎるあたりとかね。


 けれど、なるほど。

 お二人としては、シェーラちゃんに色々と経験させたい。

 確かに私たちの商品は、その経験のひとつとして、いい機会にはなりそうだ。

 でもお試し店舗で私たちに損害を出すわけにはいかない。

 そんなこんなを考えてしまい、ホセさんとマルコさんも、判断が難しいという。


 私としては、シェーラちゃんがやる気なら、試してみてもいいのではと思う。

 新しい世界での新しい取り組み。失敗も成功も、わからない。

 でも確かなのは、シェーラちゃんの後ろに、信頼できる商人であるお二人がついていること。

 下手に別の商人を紹介されるよりも、いい話に思える。




 ひとまず今は、商品も作っていない段階での相談だ。

 まずは試行錯誤でいくつか商品になりそうなものを作って、原価や品物から価格の相談などもして、本格的な商売の話をすることになった。

 その結果、別の店舗にするか、シェーラちゃんに委託するかは、要相談だ。


 シェーラちゃんにも誓約魔法で他言無用を誓ってもらい、私たちの商品概要を説明した。


「お母様には、話が本格的に決まるまでは、恐ろしくて話せませんわ」

 シェーラちゃんの言葉に、ホセさんが隣で頷いていた。

 えええと、恐妻家ですか?







 そんなこんなで、私たちは帰宅後、商品開発をしてみることになった。

 といっても、今日はひとまず構想からだ。

 試作は考えがまとまってから、始めることになる。


 ちなみに今日のお風呂時間ですが、女性の大浴場時間は昼食前と、夜間。

 朝の家事が一段落した頃と、夕食後の片付けを終えてからの時間。

 男性陣はほとんど利用しない時間でもあり、女性が利用しやすい時間でもある。

 マリアさんとは夜間の時間帯に、大浴場へ行こうと約束した。


 帰宅してまず共用食料庫に、今朝大量に使ってしまったものを補充して。

 夕食準備まで時間もあるので、頭の休憩ついでにお部屋の掃除をする。

 ティアニアさんから聞いた、こちらの一般的な掃除方法は、風魔法で埃を集めるというもの。

 魔道具は特になく、魔法を使わないなら箒やハタキ、雑巾でのお掃除だ。


 昨日も少し実験してみたけれど、これがなかなか難しい。

 毎日少しずつやってみて、自然と出来るようになろうと、日々の特訓を決めた。

 なのでその続きなのです。

 掃除と言うよりも、風魔法の訓練時間だ。


 洗濯は、洗濯の魔道具がある。洗濯機みたいなものだ。

 あまり頻繁にしないというので、三日分くらいを明日まとめてやるつもりだ。

 日常生活も、こうやって少しずつ覚えて、学んでいくことになる。




 お菓子の構想だが、ふくらし粉が使えるかどうかで、かなり違う。

 ふくらし粉が不要な焼き菓子を作ってみようかなと考えながら、調理場へ向かうと、ソランさんが帰っていた。

 なので錬金術で、重曹からふくらし粉が作れないかと相談する。


 快く引き受けてくれた。

 なんなら、そのふくらし粉で作れる物のレシピも知りたいという。

 なので、粉が完成してから、一緒にお菓子を作ることになった。


 そこから早速始まった、ふくらし粉制作ですが。

 ソランさんの錬金術に対して、私が鑑定して状況を伝えながら制作してもらうと。

 意外とすんなり、ベーキングパウダーが完成した。


 なんということでしょう。ベーキングパウダーですよ!

 一気にお菓子の幅が広がりましたよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 正直、修羅場になるか!?でも「女の子」なら年下の少女っぽいし大丈夫かなぁって気を揉んでたんですが、よかった〜 なんかいい子そうで商売がんばって欲しいですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ