表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/163

29


 お風呂から帰るとようやく、こちらの世界初のお料理タイムです。

 厨房には、ティアニアさんと私とマリアさん、ソランさん。


 ソランさんは見た目二十代後半くらい。

 料理好きが高じて、元からあった錬金スキルに加え、調理スキルも持っている。


 いつも夕食は、ティアニアさんとソランさんが作っているそうだ。

 昼食なども頼まれて有料で作ることがあるとか。


 厨房には薪を燃やして調理する場所の他、魔道具のコンロや冷蔵食料庫もあった。

 竜人族は、体も頑丈で魔力も高く、最強に近い種族らしい。

 なので魔獣の素材集めを気軽にする人が多く、魔道具の素材が豊富にある。

 竜人の里も竜人自治区も、魔道具は色々とあるそうだ。


 ひとまず本日は、予定されたメニューの調理に参加させてもらうことにした。




 素材から説明してもらう。

 お肉はともかく、野菜が本当にわけがわからない。


 見た目は大きなドングリで、皮が固くて剥きにくいけど、ジャガイモとか。

 パステルカラーのグラデーションなレタスとか。

 赤いほうれん草みたいなのが、ニンジンの味と栄養だったり。

 外が青くて中が黄色のタマネギとか。


 実は説明がわからず、思いついて鑑定をしてみた結果、判明したことだ。

 地球のこういう野菜に近いと、ヘルプさんが教えてくれた。


 おおお、鑑定便利! 助かる!

 でも慣れるまで、頭が非常に混乱しそうだ。

 もし鑑定がなければ、何がどうなっているのか知るまで、かなりの苦行だった。




 バターはなんと、木の実だという。


 何を言っているかわかりませんよね。私もわかりませんでした。

 でも異世界だから、知らない素材に溢れているのです。


 アボカドが森のバターと呼ばれているようなものかも知れない。

 熟し具合や育成状況で香りや味が違うものの、確かにバターでした。


 少し種類が違う木の、チーズの実やクリームの実もあると聞いたので、乳製品関係の木だと理解した。

 残念ながら牛乳そのものはなく、クリームを薄めることになる。




 ちなみに異世界翻訳は「バターの実」だったけど。

 注意してティアニアさんの発音をそのまま聞いてみたら、「パタルの実」だった。惜しい。


 異世界言語は自動翻訳なので、こちらの物の名前を覚えられないという欠点がありそうだ。

 これからは意識して発音を聞き、こちらの名前も覚えるようにしようと思った。


 あと卵も木の実でした。

 これも何を言っているかわかりませんよね。


 あったんですよ、卵の実が。

 しかも黄身と白身が、きっちりあったというね。

 異世界摩訶不思議現象に、マリアさんと二人で遠い目になりました。


 卵みたいに割ることが出来ず、端を切って逆さにすればスルンと出てきた。

 真っ二つだと黄身が壊れるので、扱いが難しそうだ。




 小麦的な素材が、大きな丸い実で、乾燥させてから外の殻を割れば、中身が元から粉っぽいとか。


 塩が山椒みたいな小粒の実で、磨り潰した物を舐めれば塩味だとか。

 胡椒は、葉っぱを乾燥させて磨り潰したら胡椒になるとか。

 塩の実の一種類に、醤油味があったとか。


 味噌もどこかに木の実があるだろうか。どうだろうか。


 ちなみに砂糖は、椰子の実みたいな中に甘い蜜が詰まっていて、煮詰めたら砂糖になるという。

 本当に異世界摩訶不思議。




 鑑定はレアスキルらしい。

 でもそもそも、ザイルさんの鑑定と私たちの鑑定は、異なるみたいだ。

 普通の鑑定にヘルプ機能はないと言われた。

 異世界召喚された者たち特有の、鑑定機能らしい。


 食べ物だけでなく、布や物などの素材鑑定も、ヘルプ機能で「地球の何にあたる」と教えてくれるので、助かる。

 地球に近いものがなければ、おおよその特徴を教えてくれる。


 なぜ私たちだけ、こんなヘルプ機能のある鑑定なのか、謎だけれども。

 非常に助かる。

 これがなければ、生活レベルで困るだろう。




 夕食は、一般的な煮込み料理と炒め物、サラダなどを教わりながら一緒に調理。

 魔道具の使い方、調理器具の使い方を教わった。


 こちらの包丁は、普通は剥きにくそうなジャガイモのドングリ的な固い皮も、魔力を通せばスルスル剥けた。

 しかも自分の魔力なので、自分の指は傷つけない。なんて神仕様!


 フライパンや鍋などは形が同じだけど、魔力を通しやすい鍋やボウルだ。

 温めたり冷やしたり、蓋をして風魔力でみじん切りにしたり出来る。

 風魔法でサイコロ切りや、千切りなんかも出来る。


 ソランさんが色々と、得意そうにやって見せてくれた。

 私とマリアさんは思わず拍手をしていた。


 この鍋だったら、風魔法で泡立ても出来そうだ。

 ミキサー的な使い方も出来そうだ。

 異世界の調理スキル、すごい!




 途中でなぜか、厨房の入り口からグレンさんが覗いていた。

 お腹が減ったのかも知れない。


 掃除と家具の設置を終えて、おやつは食べたけど、あれだけ働いてくれたからね。

 力を入れてあちこち磨いてくれて、重い家具も軽々と運んでくれていた。

 そりゃあ当然、お腹は減るよね。




 独身竜人族の方々は、あちこちで働いたり、出かけたりしているので、いつも皆様そろっているわけではない。

 昼食メンバーから増えたのは、ガイさんという独身竜人族ひとりだけだった。

 私とマリアさんは、夕食の席でガイさんとだけ自己紹介をし合った。


 ガイさんは特殊なスキルを持っていて、お城に時々呼ばれているそうだ。

 昨夜呼ばれて、今までずっとお城で働いてきて、また明日も行くという。

 ずいぶんお疲れのご様子だった。


 彼は長年ここに住み、この国のお城に協力をしてきた。

 けれど、お嫁さんになるはずの番が見つからず、そろそろ諦めて竜人の里に帰ろうか迷っているという。


 番というのは魔力の相性なので、出会えるかどうかは運次第。

 見つからないときは、とことん見つからないのだと、遠い目で語られた。

 ドンマイと言っていいものかわからず、気休めを言っていいのかわからず。


 ザイルさんが慰めているのを耳に、黙って夕食を食べた。


 番が見つからない竜人族は、残念ながら他にもいるという。

 諦めて竜人の里に帰ることもあれば、各地を放浪した末に、旅先で骨を埋めることもあるそうだ。

 けれど寿命が長いので、諦めた頃に見つかることもあるらしい。


 ガイさんは二百歳。見た目は三十代くらいだ。

 今からでも番が見つかれば、結婚もアリな年齢だと思う。




 ガイさんのことはそっとしておいて、昼食の話の続きをヘッグさんから聞いた。

 先日まで潜っていたダンジョンがどういう場所なのか、詳しく教えて欲しいと。


 ファンタジーRPGのダンジョンイメージに、かなり近かった。

 階層によって風景や仕組み、出てくる魔獣が変わる。

 外の魔獣とは異なり、ダンジョンの魔獣は倒すと塵になって消える。

 でも魔石や素材の一部が残る。


 あとダンジョンの魔獣を倒すと、力がつくそうだ。

 いろんな能力が上がる気がするし、実際にザイルさんに鑑定してもらうと、新しいスキルが身についていたり、能力が上がっているという。


 しばらく休暇として下宿でゆっくりするというので、お時間があるときに、さらに色々と聞いてみたいと思った。

 私には結界魔法もあるし、行けるのではないでしょうか。

 そのうち挑戦させてもらえないだろうか。


 そんな興味の方向に気づいたのか、ヘッグさんが教えてくれたのは。

 グレンさんも、かなりダンジョンに潜っていたことがあったとか。

 マジですかとグレンさんに目を向けると、頷かれた。


「興味があるなら、一緒に行こうか」

 言われて力強く頷いた。




 そのあと異世界の食べ物の話になり、なぜか異世界言語の話になった。

 勝手に自動変換されるので、物の名前が意識しないと聞き取れないという話だ。


 そこで単位は変換されているのかという話になり。

 結果、わかったことがある。


 まずこちらの時間は、一日二十刻。一刻が一時間より少し長いようだ。

 分にあたる単位はないと言われた。


 たとえば私が二十分と言うと、四半刻と変換される。

 十五分でも四半刻と変換されるので、そこはアバウトみたい。

 三十分と四十分はそれぞれ半刻と変換された。

 ちなみに五十分は一刻足らずになった。なるほど。


 五日ごとで一巡という区切り。五巡でひと月。

 十ヶ月で一年。春夏秋冬の季節の巡りがある。

 あちらと同じように公転や自転があるのなら、周期が違うようだ。

 魔法のある世界なので、こちらは天動説かも知れないけれど。


 重さや長さの単位は、巻き尺や重さをはかる器具があるらしい。

 使わせてもらって、感覚をつかんでいこうと思う。




 お金の単位は、銅貨や銀貨や金貨という、ファンタジーらしいもの。

 これも物価とお金の価値は、市場などで物と値段を見て知っていくしかない。

 十進法だったので、そこは理解がしやすかった。


 いちばん小さな単位が鉄銭。

 鉄銭が十円だとすると、鉄貨が百円、銅貨が千円。

 小銀貨は一万円で、銀貨が十万円、金貨が百万円。

 いちばん高価な貨幣は白金貨。金貨が百万円の前提なら、一千万円だ。


 高額の億越え資産は、貨幣よりも稀少素材などで持つことが多いという。

 白金貨は素材そのものが稀少価値があるので、インゴットの重量でも価値を持つ。

 その他、魔宝石や、稀少なファンタジー素材など、様々な資産があるらしい。


 高額な白金貨の素材は、『セラフィ』という美しい金属だった。

 基本的に白っぽい金色だが、光の加減で赤みや青みを帯びて、美しく輝く。

 魔力付与しやすい素材で、アクセサリーで守護の効果をつけることが多いらしい。

 ただし、高額な硬貨の素材だけあり、超貴重な金属だ。


 なぜその色が私にわかったかというと。

 お城からもらった私の報酬に、白金貨があったからだ。

 小さな貨幣だけど、とてもきれいな色だなと思っていた。


 え、待って。その価値だとちょっとおかしい。

 一回の浄化で一千万円も報酬を頂くのは、ぼったくり過ぎる。

 ということは、鉄銭は一円かな。それで報酬が百万円。それでも高いけど。

 いやいや、でもそれだと、ルシアさんから買った家具が安すぎる。




 私の動揺に、ザイルさんが答えてくれた。

 瘴気溜りの浄化は、神殿から派遣される聖魔法スキル持ちに協力依頼をする。

 その報酬は神殿に支払われ、ある程度の基準がある。


 あの大規模瘴気溜りは、かなり厄介なものだった。

 普通の魔力を持つ聖魔法スキル持ちなら、数十人で、数日がかりになる。

 それでも浄化仕切れるかわからないほどらしい。


 つまり、私に支払われた浄化の対価は、何十人かの数日分の報酬だという。


 瘴気溜りの浄化で聖魔法スキルを使う場合の対価は、そもそもが高額報酬だ。

 凶暴化した巨大な魔獣なども出るため、危険手当を含むからだ。


 たとえば一日ひとり五万として。

 二十人が派遣されて、十日かかったとしたら、一千万円になる。


 そしてあのときの大規模瘴気溜りは、それで済まないレベルだった。

 近隣の街にあれらの巨大化凶暴化した魔獣が行けば、被害は相当なものになる。

 それこそ復興に数千万とか軽くかかることもあるのだから、正当な報酬として受け取るようにと言われた。




 白金貨が一枚、金貨も一枚、銀貨以下が数枚ずつ。

 私の報酬は千二百万だった。

 あくまでも、金貨を百万換算するならだけれども。


 いろんな貨幣を入れてくれているのは、貨幣の価値を知るためや、利便性のためだろうか。


 マリアさんは、白金貨がない他は私と同じだったので、二百万の報酬だ。

 貰い過ぎていると恐縮したが、これから生活する支度金としては、必要なお金だ。

 そう割り切ろうと話をした。


 そんなふうに、真面目な話も勉強みたいな話も、雑談もしながら。

 いろんなおしゃべりをしながら、和やかな夕食をとった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
放射能に汚染された地域の浄化って考えたら、1千万でも全然高く無いか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ