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27 新生活

2章が長くなりすぎるので、章構成を変えました。


 竜人自治区と聞いて、なんとなく思い浮かべていたのは、中華街みたいな雰囲気。


 国の中に別の種族の社会がある。

 異世界の中でさらに、別の文化が存在しているのは、どんなものかと思っていた。


 私たちにとっては、この国も少し古い時代の洋風の雰囲気かなと感じる程度だ。

 そういう意味では竜人自治区も、西洋系の文化に思えるけれど。


 竜人族が住むその一帯は、建物の素材は同じようだけど、雰囲気が違った。

 イギリスの街並みに、北欧が混ざったとかだろうか。

 実は海外の風景に詳しくないのでよくわからないけれど。

 別の種族の住まいと聞いて、納得できるような印象の違いがあった。




 竜人自治区はレンガとは異なる、石積みの壁に囲まれていた。

 大きな石を積んでいるのではなく、灰色の平たい石を細かく積んであるような石積みの壁。


 壁の一部が広く開いて、両側に門柱のような大きな柱が立っている場所に、馬車が止まった。

 そこからは徒歩になると言われ、馬車を降りた。


「わあ…」

 門から覗き込めば、メルヘンチックな風景が広がっていた。


 建物の壁は漆喰的な、一面柔らかな色味で塗り込めてある壁だ。

 外の街並みが四角い系の造りが多いのに対し、竜人自治区内の建物は、入り口や窓が丸っぽい。

 私としては、こちらの方が可愛くて好みだ。


 ガラスはないと聞いたけど、窓枠にはめ込まれているのは、磨りガラスみたいだ。

 聞けば強化プラスチック的な特殊素材らしい。

 錬金術師が作成できるもので、たぶんマリアさんも扱えるとザイルさんは言った。


 その素材は、きっちり透明にはならず、濁りが入るものだという。

「磨りガラスと考えれば、ステンドグラスみたいに色をつけて、ランプシェードにしたら素敵ね」

 弾む声でマリアさんが言った。

 お部屋を自分好みに作れるという話に、浮かれているみたいだ。


 お部屋を作るにしても、最初は必要最低限だけでいいだろう。

 あとから少しずつ、好みの小物をそろえていけばいい。

 私もそのランプシェードは欲しいけれど、どこかで作ってもらえるだろうか。




「あれ?」

 門を入るところで違和感があった。

「気づいたか」

 ニヤリとザイルさんが笑う。

「竜人自治区は結界で囲んである。魔力を感じる力が強ければ、結界などに触れるとわかると聞くから、それだろう」


 住人として魔力登録されていない人が出入りすると、中の人たちに伝わるそうだ。

 私とマリアさんも、今から魔力登録をする予定だと聞かされた。


 建物ごとに色味は異なるが、メルヘンチックな街並みを楽しみながら歩く。

「こちらの扉とか窓が丸っこいの、何か意味があるんですか?」

「意味というか、この方が馴染むからな。竜人の里が、こうだから」


 どういうことかと首を傾げていると、ザイルさんが教えてくれた。

 竜人の里は、岩山をくりぬいた住まいになっている。

 岩山を削るにあたり、開口部は真四角にするよりも、縦や横に広げて最終的に角を曲線に整える。

 なので、竜人族にとっては丸みを帯びた開口部が、当たり前なのだとか。


 岩山をくりぬいた風景を想像し、行ってみたいなと思った。

 でも竜人の里は竜人族とその配偶者、子供たちのみが出入りできる場所だという。

 正直がっかりした。


「竜人の伴侶であれば行けるよ」

 いやいやいや、そんなことで結婚相手は決めないよ。




 大きめの邸宅は、ザイルさんの家のように、集合住宅になっているらしい。

 伴侶を求める独身竜人族のため、家主夫婦が管理するのだという。


 管理人も住人も、入れ替わる。

 竜人の里は別にあり、ここは基本的に、人族の国でお相手を探す独身竜人族のための場所なのだとか。

 子育てが一段落した夫婦は、竜人の里へ行くそうだ。


 個人用の住宅みたいな建物がたくさんある一角は、子育て中の夫婦や、ここに住み着いて役割を果たしている竜人族の住まいらしい。

 竜人族にはいろんな特殊スキル持ちが生まれ、この場所でそのスキルを役立てる人もいるという。

 この竜人自治区に長く住む竜人族もいるのだと、ザイルさんは語る。




 大きめの邸宅の一軒に進めば、門扉のところにグレンさんが待ち構えていた。

 私たちを見て、あの優しい目を向けてくれる。


「改めて、よろしくお願いします!」

 私が駆け寄って挨拶をすると、抱き上げられた。

 違う、そうじゃない。

 挨拶でナチュラルに抱き上げるのは、やめてもらいたい。


 そのままお邸に向かって歩き出したので、下ろして欲しいと訴えると、不思議そうな顔をされたが、下ろしてもらった。

 私の年齢の話をして、アウトだと説明するべきか。

 それとも女子を簡単に抱き上げるのはダメだと説教するべきか。

 悩ましいところだ。




 お邸の中に入ると、ザイルさんの奥さんが迎えてくれた。

 朗らかな雰囲気の小柄な女性で、お名前はティアニアさん。

 小柄と言ってもこの世界基準。二十歳だった私よりも背は余裕で高いだろう。


 可愛らしい雰囲気だが、なんと百二十歳だと言われた。

 あちら基準だと高齢者になるが、竜人族の寿命は四百歳ほどで、三百歳くらいまでは若々しいのだとか。


 そして彼女の後ろから顔を出す男の子がいる。

 ザイルさんとティアニアさんの息子、テオ君五歳だ。


 実はあと二人、成人した子がいたという。

 二人とも人族の子供として生まれたので、その子たちが独立したあと、お二人は竜人の里へ行った。

 けれど竜人族のテオ君が生まれ、お相手を探すときのため、人族に慣れておくようにと考え、こちらに戻ってきたそうだ。


 ちょっと意味がわからないなと質問すれば、竜人族の意外な生態が判明した。


 竜人族は男性体ばかりで、人族の女性に番、いわゆる伴侶を求める。

 人族は高い魔力でも二百歳くらいの寿命だが、竜人族の番になった女性は、竜人族と同じ程度の寿命になるらしい。

 そして生まれる子供は、男なら竜人族になるかと思いきや、男児でも人族が生まれることもあるとか。


 ザイルさん夫婦の前のお子さんは、男女ひとりずつ、どちらも人族だった。

 この竜人自治区で子育てをしたあと、成人して独立できたのを見届けて、お二人はいったん、竜人の里へ向かったのだという。


「人族として生まれたあの子たちは、それなりに高い魔力を持っていたけれど、私たちの方が長生きしてしまうの。だからある程度の年齢になったら、もう会わないのよ」

 少し悲しい事実も判明した。




 ちなみに二十代後半か三十代前半くらいに見えるザイルさんは、百八十歳。

 思わずグレンさんはどうなのかと、つい目を向けてしまった。

「オレは四十八歳になるな」

 おおお、見た目は二十代前半くらいなのに、五十歳手前とは。異世界年齢の不思議さよ。

 まあ、私も二十歳なのに、中学生あたりに見えるらしいからね。


 もうすぐ五十歳のマリアさんと同年代だけど、グレンさんの方が若く見える。

 さっきの話からすれば、高い魔力の人族はそれなりに長命だけど、竜人族の方がさらに長命ということだ。

 若く見える期間も長いのだろう。




 この邸宅はザイルさんご夫婦が大家さんで、各部屋に独身の竜人族が住んでいる。

 グレンさんも、ここに部屋がある。

 独身竜人族は男性ばかりなので、女性の住人が来てくれて嬉しいと、ティアニアさんが歓迎してくれた。


 竜人族は基本的に、番の魔力以外には、性的に反応しないという。

 だから人族の女性が同じ建物にいるからといって、トラブルにはならない。

 もし番であれば、結婚を前提に迫られるので、遊びでちょっかいをかけられることはないから、独身女性の下宿としては、安心安全な住まいだと言われた。


 まず魔力登録だと、居間の隠し扉みたいなところにある魔道具に、魔力を通した。

 これで竜人自治区の住人として登録されたらしい。




 家具を見に行く前に、私たちの部屋を決める必要がある。

 建物の一階にザイルさんたちの居住区があり、下宿は二階と三階。

 私たちは三階の、日当たりの良い並びの部屋に案内された。


 扉はやはり、上部が丸っこくなっていて、可愛い。

 あと木の扉の色が、それぞれの部屋で違っていて楽しい。

 マリアさんは薄黄色、私はモスグリーンの扉の部屋を選んだ。


 部屋の中は、扉や壁の色に統一感がある。

 マリアさんの部屋は、柱や梁、窓枠などが扉と同じ色味だが、壁はクリーム色。

 私の部屋も柱や梁、窓枠はモスグリーンで、壁は白っぽい淡い緑。

 部屋は広めで、一角が寝室として独立した部屋になっている。


 広い独身用アパートで、キッチンやトイレ・お風呂が共用という感じだ。

 寝室横のウォークインクローゼットは、部屋からも寝室からも出入りができる。

 その他、壁に作り付けの棚があり、寝室にはベッドの台もあった。

 なんとも素敵なお部屋だ。


 ひとまず必要なのは、引き出しの物入れがついた、チェストや机、テーブルや椅子、カーテン、寝具などだろうか。

 ふむふむと部屋のイメージを頭に入れて。

 家具工房には、午後から行くことになった。




 普段は夕食だけティアニアさんと料理の得意な人で作り、朝食と昼食は各自で調達することが決まりだ。

 でも今日は、私たちが来る前提で準備をしてくれているらしい。


 お言葉に甘えて、準備が整うまでの間、私たちは部屋の掃除を進めることにした。

 私の部屋はグレンさんが、マリアさんの部屋は、独身竜人族の下宿人二人が手伝ってくれた。


 昼食は私たちとザイルさん一家、そしてお手伝いをしてくれた独身竜人族の方々と、一階の居間で頂いた。

 下宿人のひとり、ソランさんは、夕食作りを手伝う料理好きの人だった。

 普段は錬金術師として、素材加工をしたり、調薬などもしているという。


 もうひとりの下宿人はヘッグさん。

 なんと、いつもは冒険者活動をしているという。

 冒険者ですって!


 ファンタジーなラノベ定番のそれに、ちょっとソワソワしてしまった。

 つい先日までダンジョンに潜っていて、大きなひと仕事を終えて帰ってきたところだという。

 ダンジョンですって!


 グレンさんもお二人も、午後からの掃除と家具設置も手伝ってくれるそうだ。

 昼食の話題は、主にソランさんとヘッグさんの普段のお仕事について。

 素材加工はマリアさんが興味津々に、そしてダンジョンの話は私が興味津々に、楽しくお話を聞いた。


 ティアニアさんが作ってくれた昼食は、ガレット的な薄い生地に具材を乗せたもので、とてもおいしかった。


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― 新着の感想 ―
岩山をくりぬいた住まいって竜人の里は「カッパドキア」みたいな感じなのかな?
読み落としならすみません。 グレンさんの容姿(髪型とか身長とか)がもう少し知りたいです。あと定職?冒険者なのかな・・
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