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25 (セラム)

※ セラム視点です。



 自分の見通しの甘さと、状況把握が出来ていなかった無能さに、憤りながら部屋を出た。

 エリクからは既に、室内だけではなく、この貴賓室一帯の侍女たちを隔離し、取り調べるための指示が出されている。

 廊下には護衛以外の者はいない。


 さて、聖女の話がどこまで広まっているのか。

 結界を破ろうとしたのは、どのような人物で、どのような背景があったのか。

 それは聖女に対してのものか、レティアーナに対してのものか。


 一帯すべての侍女を拘束してしまうと不便だが、ひとまずレティアーナについてきた公爵家の侍女がいる。

 今しばらくだけならどうにかなるだろう。


 聖女の周囲につける侍女は、改めて母王妃に信頼出来る者を借りよう。

 侍女頭に調整を投げては、また同じ事の繰り返しになる。




 グレンやザイルに対し、異世界人は国として保護をしたため、まずは城で滞在してもらうと説明した。

 その上で、竜人たちとは改めて引き合わせ、今後の話をすることになっていた。


 なのに城に招いた翌日に、このような事態になっている。

 これなら彼らが当初求めたとおり、グレンの番として、竜人自治区に滞在してもらうべきだったか。


 聖女が現れた情報が、広く漏れていたとして。

 今後どのような勢力が、彼女にどのように接触したがるか、頭が痛い話だ。

 少なくとも聖魔法スキル持ちを取りまとめる、神殿関係は口を出して来るだろう。

 そういう意味でも、竜人自治区で滞在する方が、彼女の安全につながる。




「セラム様、彼女から伝言だ」

 王と王妃にそれぞれ時間をもらいたいと使いをやったところで、エリクが来た。

「これから調査と、安全確保の調整が済むまで、あの部屋で結界に閉じこもる予定との話だ。レティアーナ嬢も、ともに結界内で保護をしてくれるそうだ」


 ああ、本当に自分は至らないと、頭を押さえて項垂れた。

 やらかした連中への追及に勇み、婚約者の安全確保を聖女任せにしてしまうとは。


 王としての器量を存分に持つ王太子と、武に秀でた第二王子。

 彼らに比較して自分の能力不足は自覚していたが、それ以上に大人の男としてどうなのか。




 智の第一王子、武の第二王子に比べ、平凡な第三王子。

 そう揶揄されて育ったものの、幸いなことに卑屈にならずに済んだのは、父王が私と似た立場だったから。

 優秀な兄に比べ、平凡な第二王子として育ったのに、第一王子の死去で王になってしまった父。

 幼少の頃から、天才的な兄に苦労をさせられていたという。


 天才であるが故に、凡人との差がわからず、突拍子もない方向へ向かってしまう。

 最善が見えるからこそだが、それを周囲に伝えることを怠っては、国の上部が混乱するばかりだ。

 父王は、その兄が王太子であったときに、王太子と周囲の調整役として立ち回り、苦労をしていた。


 だからこそ、私の兄二人に対し、平凡と呼ばれる弟の大切さを語ったそうだ。

 二人の思い至らないところを、セラムが補佐することになる。

 平凡であるという才能の持ち主だと。


 それを才能と呼ぶのはどうかと思うが、おかげで兄二人には、私なりの意見や働きを尊重されている。

 平凡なりに失敗も多いが、失敗を活かして成長を続けることこそが、平凡という才を活かすことだと父に言われた。


 天才の側に、こちらに合わせるようにと要求することは出来ない。

 そもそも抜きん出ているからこそ、こちらが理解出来ない思考を持っている。

 凡才に合わせろという要求は、彼らの才を殺すことになる。彼らは変わらないし、変えられない。

 つまりその点については、諦めが肝要だ。


 ならばどうフォローするかが焦点になる。

 例えば、一足飛びに答えにたどり着く王太子に、私自身が理解できないことを訴えることで、周囲の認識との差を埋めさせるのが、私の役割になっている。

 疎まれやすい立ち位置ながらも、兄弟仲が良いのは、平凡と呼ばれながらも賢王として立つ、父のおかげだろう。




 兄たちのフォローをするうちに、そういった者たちとの交流が増えた。

 他国の抜きん出た才を持つ方々から、名指しで招かれ。

 異種族たちも、なぜか私を名指しして来る。

 そうして、今の外交や、異種族との交渉役という私の立ち位置になった。


 部下にしてもそうだ。クセのある人物が多く集まる。

 私の護衛たちは特殊だ。

 才能が抜きん出ているために、正直過ぎたり遠慮がなかったり。

 聖女や賢者という存在を自然に受け入れられたのは、彼らだからだ。


 あの大規模な瘴気溜りに対応できたのも、彼らであればこそと言える。

 城の護衛たちが、皆あの基準だと思われては困るため、ミナたちにはいつか訂正が必要だ。

 今は出張後の休暇に入ったが、まとめ役のケントは比較的常識人の部類なので、部下たちを取りまとめるのに苦労をしている。


 護衛任務中に、客人が出してきた菓子に群がるなど、本来は懲罰ものだ。

 それぞれの能力で、危機察知や対処ができる自信があればこその態度だ。

 だからといって、グレンの見せ場のため、魔獣の足止めに徹していたとか。

 あちらから言い出したにしろ、客人の魔法空間に遠慮なく、瘴気を帯びた魔獣を収納してもらうとか。

 色々と、普通の護衛ではあり得ないあれらは、本当にいつか訂正が必要だ。




 私は王家の三男で、なかなか婚約者が決まらなかった。

 第三王子という立場では、妻に与えられる実質的な利点はない。

 きっと苦労ばかりをかける。


 外交や他種族との調整役を引き受け、臣下に下った後も、その職務に見合った爵位は与えられる予定だ。

 けれど、元王族だからと贅を尽くした暮らしなどは出来ないし、すべきでもない。

 王弟のすべてが、領地や爵位を無条件に与えられるわけではないのだ。


 それでも王族という血筋に食い込もうと、欲を出す連中はいる。

 王太子の立場を安定させるためにも、第二王子、第三王子の婚姻は、野心のある家は避けるべきだった。

 すると適齢期の娘がいる高位貴族の中では、該当者が限られ、厳選の末に第二王子は婚姻が成った。

 だがその調査でふるい落とされた家が多く、私は婚約者が決まらないままだった。




 そんなときに、フィアーノ公爵家の娘、レティアーナ嬢の話を聞いた。

 幼少時に少し体が弱く、ずっと領地で療養をして、伸び伸びと育っていたという。

 成人に近づくにつれ、健康になり、王都で夜会デビューの準備をしていると。


 フィアーノ公爵は、温和な人物だ。

 野心のない家という認識だ。


 そこから夜会で彼女の様子を見て、ご令嬢からも野心は感じられず、王家から婚約申し入れとなった。

 貴族社会に不慣れであることを理由に、最初は懸念されていた婚約だったが。

 婚約者候補として受けてもらった王子妃教育は順調だった。

 そのため正式な婚約を交わし、彼女の成熟を待ち、婚姻予定となっている。


 十八歳差の年齢はどうかと思ったが、王家の者は魔力が豊富で寿命が長い。

 私も三十を超えた歳にしては、若く見えるらしい。

 彼女からも、私の年齢に対する忌避感は見えなかった。


 見目も性格も可愛らしい、努力家で才媛の彼女と婚約が成り、私は少々浮かれていたのかも知れない。

 彼女が嫌がらせを受けていたことに、思い至らなかった。

 少し考えれば、すぐに予想はできたはずだった。


 非凡な人物ばかりが周囲に集うために、普通の女性に対する心配りが欠けている。

 新たに発見した、私の弱点というべきか。

 彼女という癒やしに傍にいてもらうためには、克服しなければならない。




 野心のある家は、まだ私の相手になることを、諦めていないのだろうか。

 ミナから聞かされた話以外にも、きっと様々に嫌な思いをさせていた。


 単に、私の婚約者に嫌がらせをしたというだけなら、調査は難航しただろう。

 けれど大規模な瘴気溜りを消し去ってくれた、この国へ大きな貢献実績のある、聖女からの要請。


 瘴気溜りに各国が悩まされている今、聖女という存在は大きい。

 その彼女が、瘴気溜りへの対策に、積極的な協力姿勢を見せてくれていた。

 なのに、その信頼を裏切り、聖女の身に危険を呼び寄せる行いをした。

 彼女の安全のためにも、情報が漏れた原因に関する事柄すべての調査を行い、今後の安全対策をはかる必要がある。


 今回の情報漏洩の狙いは、レティアーナと聖女の亀裂を狙ったもの。

 レティアーナの失態を狙う、あるいは単なる嫌がらせ。

 いずれにしても、レティアーナに対する今までの嫌がらせも、調査の対象になる。

 彼女への嫌がらせ目的で重要な情報が漏れている今、他にも漏れてはいけない情報が、漏れている可能性がある。




 国と聖女との取り決めを壊した情報漏洩に対する調査。

 発覚した経緯も重臣たちに明かせば、その調査に対しての拒否権は与えられない。


 その調査を妨害する、あるいは解明を阻害することは、国への離反に値する。

 なぜなら調査が進まなければ、聖女の信頼回復が叶わず、瘴気溜りの浄化に協力してもらえない。


 さらには他国への協力も、『この世界の国』に対して信頼を損ねた以上、同様だ。

 つまり聖女の信頼を損ねたことで、国際的にも我が国は窮地となる。




 まずは母と面会が出来て、侍女を借り受けた。

 だが完全にその人員だけで固めるには無理があるため、私のもうひとつの案、竜人自治区で聖女を保護することの話し合いが必要になった。


 父王と宰相に、それも合わせて報告をすれば、軍務大臣の捕縛と、重臣たちの緊急招集の指示が出た。

 既に夜ではあったが、至急の案件だ。

 何より時間を置いては、隠蔽される可能性も高い。


 父や宰相と相談の上、竜人族の特殊スキル者へ協力要請も願うことになった。

 竜人族の子には、特殊なスキル持ちが生まれることが多い。

 中でも証言の真偽を判定できるスキルの持ち主には、重要な調査に、たびたび協力を要請している。


 夜に訪れる非礼は承知で、今後の相談もあわせて、私は竜人自治区へと向かった。


突き抜けた天才じゃないから平凡というのは、一般的ではありません。

父王とセラムにとっては、そういう認識というお話です。

いずれ本文で出すつもりですが、なんで?と思われそうなので、あえて解説。


そして突き抜けた天才側にとって、それなりに優秀な人が嫉妬もせず、迷惑をかけることを諦めて受け入れてくれたら、非常に付き合いやすいです。ツッコミでフォローもしてくれて万全です。

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