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 翌日はお義母様に抱えられて騎獣に乗り、向かうは世界の臍ラピドゥラ!


 強い魔獣がたくさん出る大森林の中にある窪地だ。

 地表の魔力循環の要になる場所だから、瘴気も魔力も豊富で魔獣が強くなる。


 クロさん曰く、竜脈の始まりの場所。

 そのため瘴気がいちばん噴き出すのだという。




 ラピドゥラの周囲を囲む大森林は、名のとおり緑深いジャングルだ。


 何人もで周囲を囲むほど幹の太い大木が生い茂り。

 水分を多く含む場所は苔のようなものや水棲植物が繁殖。

 見慣れない花や葉などもある。


 異世界なので見慣れない植物はもちろん他の場所にもある。

 でも大きさが異様だったり、独特の模様や色彩に溢れている。


「紫の葉っぱだなんて、すごい色ですね」

「あれは大森林ならではの植物なのよ。他では稀少植物だわ。葉に魔力を溜め込んでいて、魔法薬でも魔道具でも、いろんな活用方法があるそうよ。ソルが里に帰るたびに、これを大量に採っていくわ。ミナちゃんも何枚か採取していく?」


 私は即座に頷いた。

 マリアさんやシエルさんが喜んでくれそうだ。




 すべてが物珍しく、私はずっと周囲を見回している。


 竜人族のみんなにとっては慣れた風景なのだろう。

 微笑ましい視線を向けられている。


 魔獣も魔虫も、魔植物も道中で何度も襲ってくる。

 けれど私は、乗っている騎獣ごと結界を張っているので見ているだけだ。


 お義母様も私の結界に入っているので、最初は心配そうだったお義父様も今では安心した様子だ。

 グレンさんやロイさんと一緒に、魔獣たちを倒している。


 倒したものを亜空間に放り込むのも、今日の私の仕事だ。

 いつもは捨て置く素材が有効活用できると、喜んでもらえている。




 瘴気の影響を受けていれば浄化が必要だけど、そうでない魔獣も多い。

 ここ大森林は他の場所と違い、生物のほとんどが魔力を帯びている。


「普通の動物が、大気の魔力の影響を受けて進化したのが魔獣。特にこの地は魔獣独自の生態系があるの。大森林に普通の動物はほぼいないわ。強者がせめぎ合う、生き残りの厳しい土地なの。草食動物さえも魔獣でなければ生き残れないのよ」


 魔力を帯び身を守る手段がなければ、この大森林は生き残れない。

 かなり厳しい土地だけれど、それらを狩る竜人族は危なげなく、すごい人たちだなと改めて思う。


 まるで普通の、何気ない動作で魔獣を倒している。

 すごく強いと感じるグレンさんが、特別でもないように見える。


 これが彼らの日常か。



 

「普通の動物より、魔獣の方がお肉が美味しいのよ! 今日はミナちゃんが全部持ち帰ってくれるから、楽しみねえ。あ、その木の実も採っていく? 炒ると美味しいのよね」


 魔獣を収納し、お義母様お勧めの木の実などを採取しながら大森林を進む。


「温泉でゆっくりして欲しかったけど、ラピドゥラの瘴気を浄化してくれるのは、本当に助かる。ありがとうな」

 お義兄様のロイさんが素早く魔獣を倒して騎獣に戻り、笑いかけてきた。


「夕べゆっくり入らせてもらいました。竜人自治区のお風呂もいいですけど、やっぱりこっちが本場って感じですね」

「そりゃあそうだ。あっちに送った湯はどうしても魔力が抜けるからなあ」


 そうなのだ。竜人自治区のお風呂に比べ、温泉は魔力の回復がすごかった。

 夜お風呂に入ってから、もう一度シロさんの浄化に行ったほどだ。




「岩風呂の雰囲気もすごく素敵でした」

「昼間に入ると、風呂から大森林が見えるのもいいもんだぞ」

「オレは朝風呂が好きだな。大森林から昇る朝日、いいよなあ」


 他の竜人族も会話に加わる。

 知人というより親戚の雰囲気だ。


 うん。大家族な感じ。とても心地いい。


「そういやあミナちゃんの魔法空間に収納するやつ、収納したそのまま腐ったりしないんだよな」

 ふと思いついたようにロイさんが訊いてきた。


「そうですね。温かい物を入れたら、温かいまま取り出せます。今日のお昼ご飯も作りたてですよ!」

「よっしゃ、プルーノの実を持ち帰ろうぜ! 番に食べさせてやれるぞ!」

 ロイさんが張り切りだし、騎獣の向かう先を少し変える。


「おおっ、いいな! あれは大森林に来ないと食えないけど、絶品だからなあ」

「なんなら竜人自治区に持ち帰ってもらおうぜ。こっちに帰らないまま、懐かしい味になってる奴らもいるだろう」




 先導されるまま進んだ先には、ツヤツヤの青い果実がたわわに実っていた。


「あらあらまあまあ、これがプルーノ! 私も初めて見たわ。もいですぐに食べないと、どんどん腐っていくらしいの。大森林の奥に自分で行かないと食べられないから、見たことのない人は多いのよ。ミナちゃんの結界のおかげで今回は同行させてもらえたけど、私も今まで奥には来させてもらえなかったから。こんなふうに実っているのねえ!」


 お義母様が騎獣に乗ったまま果実に手を伸ばし、私にも手渡してくれた。

 袖でこすり、そのまま囓る。

 私も真似をして囓れば、果汁が口の中に溢れた。


 桃に少し似た、濃厚な甘い香り。

 熟れたメロンのような、喉が痛くなるほどの甘さが来る。

 でもほのかな酸味もあるので、甘いだけではない。

 芳醇な香りが鼻に抜け、脳が美味しさに全力で反応している。


 確かに絶品だ。美味しい。

 口も鼻もプルーノの実で満たされて、飲み込んだあともちょっと幸せな感じ。


 なるほど。これは親しい相手にも食べさせたくなる味だ。




『美味あ! これええわあ、絶品やな! 人が作った料理もええけど、こういう果実も美味いなあ。ここまた来よ。連れてきてもろたから、場所もわかったし何度でも来れるわ!』

『ホンマに美味しいわあ。外の世界ってええねえ。精霊から情報は入ってくるけど、実際に食べると違いますわあ』


 クロさんもシロさんも齧りついて、盛り上がっている。

 というかクロさん、ひとりでまた来るつもりみたいだ。


「私も浄化の帰りとかに、連れて来てくれますか? 竜人自治区の人とか、お友達にも食べてもらいたいし」


 セラム様たち王族の人や、レティのフィアーノ公爵家の人たち、シェーラちゃんやセシリアちゃんも喜んでくれそうだ。

 浄化が落ち着いたら、こういう美味しいものでゆっくりおしゃべりがしたい。


『もちろんや! 聖女はんを連れてきたら、収納してもろていつでも食べられるからなあ』

『美味しいスイーツにしてもらうのも、ええですなあ。これだけでも美味しいけど、キレイに盛り付けて食べるのも気分がええやろねえ』


 私はプルーノを鑑定してみた。

「スイーツには、頑張ればできそうですね。驚くほど劣化が早いみたいですけど、熱をすぐに加えるのはアリです。加工は時間との勝負になりそうですね」


 瞬間冷凍でシャーベットもアリだけど、溶けたら通常より劣化が激しいので、凍ったまま口に入れないといけない。

 シャーベットはすぐに食べてもらう前提だ。


 話をしながら実をもいで、手渡された物を私が亜空間に収納。

 この実は魔力で年中実るらしく、また次に来たときに収納すれば、竜人自治区の人たちにも食べてもらえそうだ。




 そんなふうに寄り道もしながら進み、大森林が途切れる場所に来た。


 すぐ前が下り坂になり、遠くに大森林の続きが見えるので、窪地だとわかる。

 でも坂の下の地形はよくわからない。

 低い位置全体に瘴気の靄がかかり、その底は黒く凝って見える。


 あの大規模な瘴気溜り以上の、すごい瘴気だ。

 これだけ瘴気が凝っているのだから、草木が生えていても枯れるだろう。


 見通しが良ければ、窪地としてのラピドゥラが見えるはずだという。

 でも今いる竜人族は、瘴気の底を見たことがない世代だ。


 大森林を出ると、瘴気の影響を受けた魔獣や魔虫がひっきりなしに襲ってきて、それらを倒しながら先へ進む。

 さすがにこのあたりは強敵で、倒しにくそうにしている竜人族もいる。




 瘴気の影響が強くなってきたので、周囲をいったん浄化。

 さあっと靄が晴れた。


「おお、これが聖女の浄化か!」

 坂の途中にいた人たちから声が漏れる。


 ラピドゥラの浄化や魔獣討伐をする、当番の竜人族たちだ。

 竜人族は交代制のキャンプをここでして、魔獣討伐や浄化をするそうだ。


「聖女の浄化は特別だというが、軽く浄化した感じでこれか」

「遠くまでの空中の瘴気が、あっという間に消えたな」

「ひとりの魔力で軽く出来るのは、すごいな」


 そんな呟きから、聖女の浄化は規格外らしいとわかる。




 当番の人たちも合流して、進んでは浄化をして、魔力の凝った場所へ。


「いつもはさっきの場所あたり、瘴気の影響があまりない場所から浄化をしていたのだが」

「ここまで近づいたのは初めてだな」


 魔力の凝った場所の縁までは、今まで来たことがなかったそうだ。

 私はグレンさんとともに一歩前に出て、強い魔力で浄化をする。


 あの大規模浄化のときみたいに何度か浄化をしてから、グレンさんから魔力を譲ってもらい、さらに浄化。




 凝った魔力が少しは削れたかな、というあたりで終了。

 あまりにも瘴気が多すぎて、一度では無理だった。


『こりゃあ影響強いやろなあ。聖女はん、しばらくはここに通った方がええわ』

『そうですなあ。ウチの浄化も進めて欲しいけど、これが世界に広がってると思うたら、先にここを浄化してもろときませんと、まずいですなあ』


 竜脈の根源がこれほど瘴気にあふれているのは、まずい状況らしい。


『聖女はんが浄化したら、数日でマシになりますやろ。あの温泉に入って、日に何度かここに通って浄化を進めたらよろしいわ』

『わてか相方が運んだるわ。ついでにさっきの果実も獲りに行こか』


 世界の深刻な状況の話が、クロさんシロさんにかかると軽くなる。

 まずいという言葉に構えていたけれど、肩の力を抜いた。


 このすごい瘴気も、何度か通って少しずつでも浄化を進めれば、どうにかなる。

 うん。大丈夫だ。




 瘴気から少し離れた場所に戻り、皆でご飯を食べた。

 亜空間収納したスープやパン、おかずなどを、ここで野営していた竜人族も含めて皆で囲む。


「すごいな、一気に浄化が進んだ感じだ! 聖女って本当にすごいんだな」

 ロイさんが感心した声を上げた。


「クロさんたちが、日に何度か転移で運んでくれるそうです。しばらく通って浄化しますね」

 私の言葉に、竜人族の方たちの明るい顔。


「そうしてもらえたら、ずいぶん楽になるなあ。魔獣討伐組は常駐させるとして、聖魔力を持つ奴らを休ませてやれるのは助かる。あいつら番探しにときどき出る以外は、ずっとここの浄化をしてもらっていたからなあ」


 その言葉に嬉しそうな顔をしたのは、聖魔力を持つ竜人族なのだろう。

 また番探しの旅に出たいと、明るい声で話す。


 そうだよね。ここにいたら番との出会いはないものね。




 竜人族の聖魔力を持つ人たちは、そう多いわけでもない。

 血を繋いでいくために、番探しは重要だ。


 でもここの浄化も大事なお仕事。


 そんなふうに不自由だった人たちを旅立たせてやれると、ロイさんたちも喜んでいる。

 他の人が楽になることを喜べるのって、いいなあと思う。


 ご飯のあとは、ここで野営をしていた人たちと、私とグレンさん、お義母様はいったん竜人の里へ帰ることになった。

 クロさんが転移させてくれるのだ。


「オレたちは元々、交代要員なんだ。そいつらは帰って休憩。オレたちはしばらくここで魔獣討伐をする」

 お義兄様はそう言って、幅広の大剣をひと振りする。


 その動作が魔法攻撃になっていたようで、少し離れた場所の魔獣が倒れた。

 本当に軽く倒すから、危なげがない。




 私とグレンさんはお風呂などで魔力を回復して、もう一度浄化に来る。

 そんなふうに浄化を進めれば、この状況も好転するだろうか。


「じゃあ私たちは帰ったら、温かいご飯をたくさん作るわね。ミナちゃんがここに通ってくれるなら、差し入れが簡単でいいわね!」


 お義母様の明るい声に、みんなが笑顔になった。


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