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お義母様たちとお茶をしたあと、私とグレンさんはシロさんの浄化。
そしてグレンさんはそのままダンジョン下層で魔獣討伐。
私に魔力を半分わけてくれたけれど、戦うのに支障はないらしい。
シエルさんはお義父様に案内されて、さっそくお風呂施設を見に行った。
私は先に竜人の里へ戻り、お義母様とお料理をした。
皆で持ち寄りというからには、私も持ち寄りたい。
クラッカーの作り置きに具材を載せて、カナッペにしてみた。
マリネや肉団子、炒め物、ソースなどを作り、野菜やチーズなどと合わせて彩りよくしてみる。
「あらあらまあまあ、ステキねえ! ちょっとつまむのにも良さそうだし、華やかだわあ。いろんな種類もあって、味も見た目でも楽しめていいわねえ。こんなのをさらっと作るなんて、本当にミナちゃんはすごいわね」
手放しで褒められて、照れてしまう。
「あちらの世界の料理を再現しただけですよ」
「謙遜しないのよ。再現できるのも、すごいじゃない! いいわあ、ステキだわ。異世界って本当にいろんなお料理があるのねえ。他の人と被らないし、みんな張り切ってメインメニューを作りそうだから、その合間に軽く食べられる物にしてくれたのよね。いいわあ」
被らない、他の人の料理を邪魔しないように。
そう考えたことをお義母様が言い当てる。
まあね。予定外に作ったから、張り切って作ってくださっている皆様を邪魔しないものがいいと思ったんだ。
そのあとお義母様と一緒にサブレも焼いて、準備のために大広間へ向かう。
大広間はお風呂施設のすぐ隣の岩山にあった。
大広間というだけあり、岩山の中の広い空間だ。
外への開口部も広く、明かり取りがされている。
少し薄暗いけれど、点々とあるランプが幻想的だ。
大広間は女性が多かったけれど男性もいた。
白竜族の人らしい髪色が多い。料理男子が準備に参加しているみたいだ。
「今日は非番だったから、さっきまで寝てたんだ」
テーブルを並べてセッティングをしている赤毛の男の人が、寝癖を直されてそう返していた。
非番。浄化か魔獣討伐なのだろう。
『わてらの瘴気がかなり減って、地上に噴き出す分は収まってきとると思うんやけどなあ。たぶん竜脈に流れる手前で溜まった分が、まだ噴き出しとるんやなあ』
「竜脈?」
首を傾げた私に、クロさんが説明してくれる。
『魔力の通り道や。精霊が魔力を運ぶ言うても、いっぺんに世界中へ散らせるわけやない。地中に魔力の道があらかた通ってて、そこを巡る魔力を精霊が周囲に撒く。その大きな通り道が竜脈っちゅうんや』
魔力あるいは瘴気の通り道。
瘴気が浄化できていたら、魔力としてその道を通り、世界に散らされる。
でも瘴気が浄化できていないままだと、瘴気として地表に噴き出す。
最近は瘴気を集める魔法陣を仕掛けられたので、変なところに瘴気が噴き出していたけれど、大体は竜脈に沿って瘴気が噴き出す。
その一番噴き出しやすい場所が、竜神の里の近くだと教わった。
『竜脈の最初の場所がこの近くなんや。せやからそこで噴き出しきれずに潜り続けて竜脈を巡ったら、他の場所から瘴気が噴き出すんや』
つまり噴き出した瘴気はそれなりに処理されているけれど、噴き出せないほど溜まっているものがあるということか。
「もしかして、その大きな魔力の通り道の最初の場所を浄化できれば、地表は安全になる?」
『完全やないけど、そうやなあ。地表の瘴気はかなり抑えられるやろなあ』
そうと聞けば、そこを浄化しておきたい。
シロさんの浄化と、どちらが優先かという問題もあるけれど。
「聖水を作るよりも、直接浄化する方が効き目あるでしょうか」
『覚醒した聖女はんは、浄化の力も上がっとるはずやからな。魔力の水を作るちゅうのは、現地に行かずに済ませられるから便利やけど、直接浄化する方が効きはええはずや』
となると、いちばん問題の場所で私が浄化をしておけば、状況がマシになるんじゃないかな。
お義母様にその話をすると、最初は渋い顔をされた。
「あらあらそうねえ。かなり強い魔獣が出るから心配だわ。うちの人や長男にも行ってもらうとしてもねえ。あ、でもミナちゃんは結界が張れるから、大丈夫かしら。結界を張ったままでも浄化は出来るの?」
「大丈夫です」
最初に大規模な浄化をしたときも、自分とグレンさんに結界をかけていた。
その話をしたら、周囲からの人もそれならいいんじゃないかと言ってくれた。
「なんなら明日、さっそく行きますか。大森林やラピドゥラは珍しい場所だ」
ラピドゥラというのが、世界の臍と呼ばれる瘴気が噴き出す場所。
その周囲に大森林が広がっている。
この竜人の里から騎獣で二時間程度の場所にあるそうだ。
日帰りが可能だけれど、魔獣がこの岩山に押し寄せない程度の距離。
そんな話をするうちに、自然と宴会は始まっていた。
大広間の人数が増えてきた頃に、飲み物が配られ、料理が勧められる。
遅れた人は途中で合流になる。
グレンさんを待ちたかったけれど、なんだか流れで私も食べ始めてしまった。
大広間の食事は賑やかだった。
いろんな竜人族の人、番の奥様方と挨拶をして、おしゃべりをした。
グレンさんのお兄さんとその奥さんにも挨拶をした。
お兄さんのことは、勝手に寡黙系だと思っていたけれど、朗らかな人だった。
お義母様の雰囲気と似ている。名前はロイさん。
奥さんのミレイユさんは、褐色の肌の健康的な美人さんだった。
こちらも朗らかに笑って挨拶をしてくれた。
ミレイユさんも持ち寄った料理は、スパイシーな野菜炒め。
香りが食欲をそそり、とても美味しかった。
しばらくしてグレンさんも合流。
「すみません、先に食べてしまっています」
「構わない。料理が美味しいうちに食べた方がいい」
グレンさんもそういうものと認識していて、合流してすぐに自分も食べ始めた。
どれが美味しかったとか話しながら、一緒に料理を選ぶ。
明日はラピドゥラへ行き浄化がしたいとグレンさんに伝えた。
一緒に帰ってきたシロさんにも、明日はその浄化を優先したいと伝える。
少し渋る様子はあったけれど、折れてくれた。
『仕方ありませんわねえ。地上の人も大変みたいやし、うちのところもちょっと落ち着いて来たから、そちら優先してくれて構いません。でもそれが終わったら、またうちのところの浄化をしたって下さいねえ』
「もちろんです」
シエルさんとお義父様も遅れて合流した。
シエルさんは、すぐ料理に手をつけず、興奮したように話し出す。
「風呂の魔法陣で、やはりあらかた解決しそうだ! 魔法のないあちらの世界で、魔法の現象を起こせるかというのがネックだったが、遠隔の魔法陣の仕組みがわかった。あれならいける!」
シエルさんはお風呂の魔法陣で、異世界と手紙をやりとりする方法をあらかた思いついたみたいだ。
「魔法のないあちらの世界と手紙をやりとりするには、本体の魔力はこちらでどうにか出来る仕組みが必要だ。あの風呂の魔法陣のすごいところは、本体がこちらにあって、竜人自治区の魔法陣は現象を起こすだけになっているんだ」
そこで手渡された飲み物を一気に飲み、シエルさんは話を続ける。
「こちらの世界とつながる空間を箱として作り、竜人自治区にある魔法陣を仕込んで、あちらに持ち帰ってもらえばいいんだ。こちらの世界で、その仕組みを維持する魔力を注いでおけばいける」
手紙のやりとりに目処がついたのは、すごく嬉しい。
お礼を言うと、シエルさんも嬉しそうに笑う。
「常時展開のこちらとは違い、手紙が入ったときに転移が作動するようにしたい。その仕組みは以前読んだ本にあったと思う」
「魔力はシエルさんの作ってくれた、充電型の魔宝石でいけますね」
シエルさんは何度も頷く。
「ああ。こちらでは温泉水に含まれた魔力が電源になっているが、持ち運びをするなら魔宝石をつけておく形式がいいな」
かなりの手応えを感じたようで、明日は手元でその仕組みを作るそうだ。
シエルさんは話を終えると食欲旺盛に料理を食べ、食べ終わると部屋の隅でメモを始めた。
異世界の賢者と話をしたそうにしていた人たちが残念そうな顔をしている。
だよね。お風呂のシャワーとか竜人の里でも大人気だというからね。
話がしたかっただろう。
でも研究意欲に火がついた状態で、いろいろメモをとりたいみたいだ。
私は周囲の人とおしゃべりを続け、聖女の子孫という人とも話をした。
「聖女様がまったく現れずに、この世界を見捨てたと考える者もいた。この世界から聖女様が消えたのが事故だったと知り、救われた思いだ」
そんな話に驚いていたら、他の人も話に混ざってきた。
「竜人族は聖女を護り、聖女の浄化を手伝うというのが存在意義だからなあ。聖女様がずっと現れずに、みんな不安だったんだ」
「まったくだ。最近のキツさはまったく気分が違うからな。瘴気の噴き出し方が以前と同じだったときも、聖女様が帰還されたって知らせで頑張れたもんなあ」
聖女の不在は千年。
竜人族は寿命が長いといっても、だからこその厳しさはあったのだろう。
「異世界召喚をした奴らは、聖女様を狙う悪い連中だったってことだろうが、申し訳ないが感謝の気持ちでいっぱいだ」
「だよな。先の見えない戦いに比べれば、本当に救われたよな」
先代聖女も、こんなことになるとは思っていなかっただろうけど。
迂闊なことは出来ないなあと思う。
竜人族の奥様方とは、それぞれの番との出会いも話に出た。
大体が「好意的な態度でいきなり近づいてきた」パターンが多いみたいだ。
まあね。そうなるよね。
そこでお義姉様も、自分のことを話してくれた。
元は遠い国の貴族の娘だったそうだ。
「私はもう死んだことになっているのよ。ロイがそうしてくれたの」
どういうことだと私が首を傾げたら、教えてくれた。
彼女のご両親は、母が家付き娘で、父が養子に入った。
母が早くに亡くなったあと、父が後妻を家に入れ、二人の間に子供がいた。
でも家付き娘だった母の子はミレイユさんだけ。
養子の父の子に相続権はなく、跡継ぎはミレイユさんに決まっていた。
後妻は自分の子が跡取りになれないのが気にくわなかったのか、ミレイユさんに変な用事を押しつけては、嫌がらせをした。
古くからの使用人はミレイユさんを守るため、後妻が変な用事を押しつけようとすると、あえて厨房でミレイユさんを働かせるよう仕向けた。
厨房は基本的に、関係者以外を立ち入らせない。
そのため厨房に入らせれば、外部から変なちょっかいはかけられない。
厨房の隅でミレイユさんは勉強をすることもあったし、実際に料理に興味を持ち、手伝うこともあった。
スパイスの扱いをミレイユさんが熟知しているのは、そのためだ。
スパイス自体はミレイユさんの国では貴重品でもないが、その扱いは繊細だ。
家それぞれのスパイス料理があり、そのレシピはほぼ外に漏らすことがない。
ミレイユさんは、料理長から彼女の家のスパイスレシピを学んでいた。
そんなふうに彼女は使用人に守られていたが、成人前の婚姻は父に権限がある。
ろくでもない男を押しつけられそうになり、使用人たちは最終手段として、彼女を逃がすことにした。
しかし逃げたあと、どうなるのか。
ミレイユさんは、その婚姻から逃れるには死という結末しかないと考えた。
もし追っ手に捕まればあの男の妻にされる。
それなら死んだ方がまし。
それほどに追い詰められていた。
決意して家を出たところで、いきなり彼女に求婚する人と出会った。
ロイさんだ。
初対面での求婚という訳のわからない状況だったけれど、彼女はロイさんを悪人ではなさそうだと思った。
事情を打ち明け、死ぬしかないから放っておいてくれと言ったときだ。
「じゃあ死んだことにしようか! オレに任せて!」
ロイさんはそう言うと、魔獣を狩ってきた。
ミレイユさんに予備の服を要求し、服に血をつけて肉片をばらまいた。
魔獣に襲われ死んだ状況を偽装したそうだ。
うまく死んだことにできたようで、追っ手はかからなかった。
竜人族ネットワークでその後を確認したら、跡取り娘が亡くなり、その保護者として当主代理になっていた父とその家族は、平民になったそうだ。
家は先々代の血縁者のひとりが継ぐことになり、使用人たちも無事。
彼女は竜人の里に保護され、ロイさんと結ばれて、今は幸せだという。
竜人族の番、いろんな逸話があるものだ。
「ここは居心地が良くて幸せだわ。故郷の人たちと会えないのは残念だけれど、ロイは優しくて頼もしくて、いい夫だもの」
ミレイユさんは幸せそうに笑った。




