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書籍、明日11月1日(土)発売です!
改めて手記の続きを読んだ。
ウロスさんを探し始めるまでの経緯は、過去を振り返った形式で書かれていて、ここからは日記になる。
家族とも思っていた冒険者たちを失い、竜人族に街まで送ってもらってから、新たな日々に踏み出すときに、日記を書き始めたようだ。
そこからはザイルさんが飛ばし読みをしながら、流れを口にしてくれた。
ウロスさんと会うまでホリトさんは少し手間取ったけれど、会って手紙を渡すと、ウロスさんは泣いたそうだ。
聖女様に会いたい、と。
聖女からの手紙には、ホリトさんがハイエルフであること、治癒を受けて泣いたところが同じ反応だったことなどが書かれていたらしい。
治癒で精霊が見えるようになったことを、ウロスさんはホリトさんに確認した。
その後、自分と同じ境遇だったなら当たり前のことも知らないだろうと、世間の一般知識からホリトさんに教えた。
いちばん多く存在するのが人族で、次に獣人族。
竜人族やドワーフなどの種族も存在すること。
里の外にいるエルフは、ごく少数のはぐれ者。
世界の瘴気と、それにより強化される魔獣の厄介さ。
大規模な瘴気でも浄化してしまえる、聖女という世界にとって特別な人。
その伴侶が竜王という、竜人族にとって特別な存在であること。
ハイエルフは長命であり、人族とは寿命が違うこと。
聖女の浄化で見える光の粒は、精霊であること。
精霊は世界の魔力を運び、魔力循環を司る。
ウロスさんもホリトさんと同じく、聖女の特別な治癒で、精霊を感じ取る機能まで癒やされたこと。
そして魔力の扱い方の基本や、魔法と魔術について。
魔力の多いホリトさんに合った知識を教えてくれた。
ホリトさんと二人の生活に慣れた頃、ウロスさんは自身と竜人たちの関わり、聖女についても、少しずつ語った。
ホリトさんと同じように迫害されて育ち、エルフの里を出たウロスさん。
人族の中で暮らす苦労もあったが、外の世界はエルフの里よりも快適で、魔術を身につけるとのめり込んだ。
しかし人族とは寿命のサイクルが違う。
人族の親しい人たちが、どんどん老いて亡くなっていく。
彼は寿命の長い者との交流を求め、竜人の里に身を置いた。
そこではハイエルフの賢者であったウロスさんを尊重してくれて、様々な発明を役立てることで、居心地良く過ごせた。
周囲の竜人たちは、異種族の彼にとても優しかった。
竜王という人物は特に、物作りに長けていて、親しくなった。
人族の中にいる番を見つけるため、竜人族はある程度の年齢になると旅立つ。
竜王も旅立ち、そして少女を連れ帰ってきた。
それが聖女だった。
ウロスさんから見れば、当時の彼女はまだほんの子供だった。
竜人族にとって特別な彼女を、ウロスさんも丁重に扱った。
番として過ごす聖女と竜王はとても幸せそうで、親しい竜王の番が見つかったことを、ウロスさんも祝った。
聖女の魔力は特別で、ある程度大きくなった聖女に、魔宝石へ魔力を入れて欲しいとウロスさんは依頼した。
浄化や治癒の魔道具が作れないかと考えたのだ。
残念ながら浄化や治癒を魔術としてとらえなおすことが難しく、魔道具は作れなかったが、聖女の特別な魔力の魔宝石は何かに使えそうだと、便利な魔道具と引き換えに、いくつか貰っておいた。
聖女への印象が変わったのは、竜人の里の近くで手強い魔獣と戦闘したとき。
ウロスさんが大怪我をして、聖女が治癒魔法を使ってくれた。
あたたかな魔力で癒やされたあと、周囲の瘴気を払った聖女が、光を飛ばしているのを見た。
それらが精霊であると知ったときの衝撃は、言葉に尽くせない。
精霊が見えないために迫害されたのに、あっさりと治った。
美しい女性に成長した聖女は、そのときからウロスさんの特別な存在になった。
精霊の光が舞う、聖女の浄化はとても綺麗だった。
聖女に恋をしたと気づいたのは、しばらくしてから。
でも彼女は既に竜王の伴侶だった。
奪いたいと思ったけれど、竜王にも世話になり、仲良くなった。
苦しくて、どうしようもなくて。
何も気づかない竜王に、やがて憎しみを抱くようになってしまった。
そして聖女と竜王は、竜人の里を出て行った。
伴侶に対する悪意を聖女が感じたのだと知り、ウロスさんは嘆いた。
醜い自分のそんな感情を、聖女に知られたくなかった。
そしてウロスさん自身も、竜人の里にいられなくなった。
竜王に悪意を向けたことで、竜人族のみんなが落胆した目を向けてきたから。
それらの話で、竜人族はウロスさんを警戒していたとホリトさんは知った。
聖女への執着心を言葉の端々に感じた。
聖女への感情を除けばウロスさんはまともな大人で、ホリトさんを教え導いた。
魔力の扱いをある程度身につければ、さらにハイレベルなものを教わる。
魔術理論の基礎を教えてもらい、魔道具の作り方も教わった。
魔法陣の基本も教えて貰った。
ウロスさんの住処には様々な資料があり、どれでも好きに見ていいと言ってくれた。
開発した魔術は、説明なしに魔術式の羅列として記載されていた。
それらは危険な魔術もあるからと、説明してもらえなかった。
ウロスさんとの生活は快適だった。
なりそこないと呼ばれ、エルフの里で迫害された体験がお互いにあり、きちんと気遣いをするための家の中のルールがあった。
ウロスさんはそれらを、人族や竜人族から教わったと言っていた。
懐かしい目で語られるそれらは、あたたかな家庭への憧れ。
でも、この快適な生活も長くは続かなかった。
ときに聖女を懐かしがるウロスさんに、ホリトさんは最近街で買い物をしたとき耳にした聖女の噂を、話してしまったのだ。
魔女の力を借り、瘴気を一ヶ所に集めて浄化しようとしていると。
ウロスさんはかつて研究していた魔女の呪術の資料を取り出し、瘴気を集める魔方陣を作った。
作り上げてから、彼は悩んだ。
伴侶を羨み憎しみを向けてしまったことで、聖女に嫌われてしまっただろう。
作り上げたけれど、聖女に渡せない。
聖女は会ってくれないだろうと、ウロスさんは嘆いた。
そうして彼はこうも言った。
老いてきた自分は、以前よりも感情の制御が出来ないのだと。
そんな話からしばらくして、彼は住まいを移した。
聖女が魔女たちと会っていると聞く場所にほど近い街の外れだ。
近くへ行きながらも、彼は聖女に会うでもない。
新たな住まいに引きこもり、次第に何かの研究にのめり込んでいった。
食事のときなどに穏やかな顔もするけれど、少しすると聖女に会いたい、あの伴侶が憎らしいと、彼は口から漏らす。
何の研究かはわからないまま、日が過ぎて。
やがて彼は、少し離れた岩場で魔法陣を描き始めた。
とても大きな規模の、見たことのないものだった。
以前に教わった、何かを召喚する魔法陣にも見える。
しかし見たことのあるどれとも違う。
それが完成すると、彼は魔力を注いだ。
設置された魔宝石が次々と割れていき、危険を感じたホリトさんが駆け寄ったときには、遅かった。
膨大な魔力を魔法陣に捧げたウロスさんは、魔力が尽きて亡くなっていた。
そして起動した魔法陣の中には、人がいた。
ウロスさんが彼を召喚したのだとわかった。
話をしてみれば、どうやら異なる世界から召喚をしたようだ。
ウロスさんが何をしたかったのか、ホリトさんにはわからなかった。
ただ召喚された青年は放置できず、連れて帰って世話をしながら資料を見る。
作成された魔法陣のメモに説明書きは何もなく、ただ魔術式が羅列してあった。
それらを読み解くのは難しく、ひとまずホリトさんは、青年がこの世界で生きていけるように様々なことを教えた。
幸いにも話は通じ、彼はこちらの世界について早々に理解した。
鑑定のスキルを持っているようで、様々なものを鑑定しては、こちらの世界の知識を増やした。
やがて彼は、この世界をもっと知ることを望み、二人は一緒に旅をすることになる。
強い戦闘力を持つ彼との旅は心強く、ホリトさん自身も楽しい旅になった。
広い世界を知り、旅をして回る人生も悪くないと思っていた頃だ。
元の住まいの近くに戻ってきたある日、異世界の青年が姿を消した。
慌てて探したホリトさんが見つけたときには、最悪の事態が起きていた。
そこにはかつて会った、聖女と竜王がいた。
青年に抱きつくようにスキルを使った聖女が崩れ落ち、異世界の青年が消えた。
瞬きほどの間の出来事だ。
伴侶の竜王は、全身血だらけで、動けないほどの重傷だった。
そんな体で彼は、聖女を失ったと絶叫していた。
慌ててホリトさんが駆け寄り、ポーションを注いでも血が止まらない。
そして次第に声が細く、体の力を失って。
竜王の死を感じたホリトさんは怖くなり、その場から逃げ出してしまった。
この悲劇は、ウロスさんが召喚した青年によって引き起こされたのだと、ホリトさんにはわかった。
聖女を慕うあまりに、竜王を排除することができる存在を召喚したのだ。
何が起きたのかは、よくわからない。
けれど竜王の様子からは、崩れ落ちた聖女も死亡していたみたいだ。
逃げ出したものの気にはなっていたホリトさんは、周辺で噂を拾った。
聖女と竜王の死は、人族の間でも話題になっていた。
竜王は誰かに殺害されたらしいと言われたが、聖女の死は謎のままだった。
そのため、当時関わりがあった魔女が何かしたのでは無いかと言われた。
魔女の呪術は不思議な技だと、世間には思われていたからだ。
そこから起きた魔女の迫害。
ウロスさんのしたことを誰かに話すこともできず、ホリトさんはウロスさんと住んでいた場所へ逃げ帰った。
そうして資料をまた紐解くうちに、どうやら魔宝石の魔力を追跡する能力が、異世界の青年に備わっていたらしいとホリトさんは知る。
洗脳として備わったそれのせいで、聖女の近くに来たとき、彼はその魔力を追うために姿を消したのだと、わかった。
ウロスさんの罪を気にかけながら、長い時間を生きる中、ホリトさんはやがて聖女がこの世界に現れない状況に気がついた。
誰かが聖女を隠している可能性もあるけれど、人族のこれまでのサイクルとして、聖女の死からそう長くない時期に、新たに聖女は生まれていたはずだ。
隠されていたにしても、とっくに人族として寿命が尽き、新たな聖女が生まれるはずの時期。
なぜ聖女は現れないのかと考えて、ウロスさんが遺した聖女の資料をまた紐解く。
その中に、聖女の能力が魂と結びついているようだという記述があった。
同時期に聖女は存在しない。
前の聖女が死亡してしばらくしてから、新たな聖女が生まれる。
歴代の聖女は、同じ能力を有しているのではないか。
同じ慈悲の性質を持つ聖女は、同じ魂なのではないか。
聖女の魂が、世界で再生を繰り返しているのではないか。
だとしたら、もし聖女の魂が、この世界から失われたらどうなるのか。
浄化の能力、治癒。そうした聖女の能力の中に、あのとき異世界の青年を消した能力があったとして。
たとえばそれが、彼を元の世界に帰すものだったとして。
魔力切れで死亡した聖女の魂は、どうなったのか。
青年が元いた異世界に、聖女の魂が飛ばされた可能性をホリトさんは考え始めた。
もしそうだとしたら、この世界には聖女が不在のままになる。
ウロスさんから聞いていた。
聖女は、この世界にとって重要な意味を持つのだと。
そう竜人たちが扱っていたと。
聖女を取り戻さなければ。
そうホリトさんが決意するまで、それなりの年月が必要だった。
待てば聖女が現れるのではないかと期待してしまった。
やがて決意をしたホリトさんは、ウロスさんの残した資料から召喚の魔方陣を読み解き、聖女を召喚できないか研究を始めた。
見知った魔術式を手がかりに、魔法陣の構造を読み解こうとする。
困難だったけれど、幸いにもウロスさんの持ち物の中に、聖女が魔力を込めたという魔宝石があった。
魔力の持ち主を召喚する魔法陣というものを、以前見た記憶がある。
ただし、世界を超えるような召喚ではない。
世界を超える召喚は、元の魔法陣を使う必要があった。
その研究の傍らで、ホリトさんは自分の存在を隠蔽して、誰にも気づかれない状態でエルフの里を訪ねるという行動を、何度かした。
隠蔽の魔法陣は、ウロスさんが完成させていたものだ。
なりそこないエルフと呼ばれる者は、魔力が大きく成長する過程で、魔力回路が損傷する。
自分たちはそのために、精霊を見ることが出来ず、迫害された。
それがウロスさんの持論だった。
だとすれば、なりそこないエルフは高い魔力、高い能力を有している。
その中にはウロスさんのように、ハイエルフでありながら賢者のスキルを有している者がいるのではないか。
ウロスさんは天才だった。
ホリトさんでは及ばない知識を多く持ち、解析能力も高かった。
ウロスさんの遺した資料と、聖女をこの世界に取り戻す研究は、他の者に明かすことが出来ない内容だ。
けれどホリトさんひとりで成せることではない。
エルフの里から潜在能力の高い者を救い出し、手助けをしてもらえないか。
そんな意図で、迫害されたなりそこないエルフを助ける行動をした。
残念ながら、賢者には巡り会えなかった。
ハイエルフに出会うこともなく、自分ほどの魔力を持つものはいなかった。
それでも連れ出した彼らは一様にホリトさんへ感謝を示し、快適に暮らした。
冒頭にも書きましたが、書籍が明日発売です。
よろしければ下のリンクから書籍情報ご覧ください。
色々書き足したり手直ししたので、そちらもお付き合いくださると嬉しいです!
発売日なので、明日も更新しますよ!




