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 瘴気溜まりの浄化を終え、あとに残された荒れ地を護衛さんたちが確認する。

 時折、魔獣が現れたけれども、瘴気溜まりで巨大化・凶暴化した魔獣は、元になった瘴気が収まると弱体化するそうだ。

 だから大丈夫と言われ、私の仕事は終わった。


 護衛の人が、また使い走りに向かうことになった。

 さっきまで私たちがいたリオールの街に、この事態を知らせる必要がある。

 瘴気溜まりの原因調査も必要だ。


 ちょうど日も沈みかけていたので、その場で野営をすることになった。

 今夜こそ宿に泊まるはずだったのに申し訳ないと、セラム様に謝られた。




 昨夜のように馬車移動の必要はなく、この場で野営のため、女性二人で馬車を利用するようにと言われた。

 男性たちは交替で見張りをして、地面で雑魚寝になる。

 王子なセラム様が外で雑魚寝はいいのだろうかと思ったけれど、それでいいと押し切られた。

 なので今夜の馬車の中は、私とマリアさんだけ。


 夕食は、あのボソボソした保存食だ。

 ボソボソなのに噛み切れない、微妙に固いそれを噛みしめる。

 噛めば噛むほど味が出る、わけではない。微妙にまずい。

 なんだろう。噛み切りにくいナッツ系が入ってる?


 これだけでお腹はそれなりに膨れるから、栄養素はありそうだ。

 味と食感の改善ができれば、かなり有益な保存食になるのではないだろうか。

 うん。この味と食感は、ない。

 健康食品だったとしても、日本なら商品化出来るレベルではないはずだ。




「聖女がいるというのは、これほどにまで異なるのだな」

 セラム様が、しみじみと言った。

「昔の文献では、聖女の浄化は当たり前のように出て来た。聖職者の浄化よりも高度らしいとは感じていたが」

「それって、過去にも聖女を異世界召喚していたってことですか?」

「いや、違う。聖女は元々、この世界で生まれていた。過去に何人も、この世界で生まれ育った聖女がいたはずだ」


 それがいつからか、この世界から聖女が消えたという。

「あの国の連中は、勇者と賢者と聖女を同列に扱っていたが、それぞれが異なるものだ」


 聞けば、勇者は異世界召喚で、過去にも誕生したことはあるが、この世界にはそもそもない存在だったという。

 賢者は異世界召喚ではなくても、この世界でも生まれるし、一定の能力を持つ者に与えられる称号らしい。


 シエルさんのスキルのひとつ『魔法創造』を持つ者が、賢者と呼ばれるそうだ。

 この世界でそのスキルを得た者に、『賢者』の称号がついたという。

 今回はたまたま、異世界召喚されたシエルさんが、そのスキルを得たため、賢者の称号を得たということだ。


 そこで称号とは何かという話になった。

 私やシエルさんは、職業欄に『聖女』だの『賢者』と表示されていた。

 けれどそれは称号であり、職業欄を書き換えたからといって、消えるものではないらしい。


「職業の書き換えは、何でも可能なわけではない。自分が持つスキルに見合った職業のみ選択可能だ」


 つまり私は、最初からこうだと思って料理人にしたけれど。

 たとえば『剣士』とかにしようと思ったら、それはダメだったらしい。

 あっさり思ったもので行けたので、何でも選択できると思っていた。

 調理スキルがあるので『料理人』は選択可能な職業だったということだ。


 シエルさんの『魔道具士』も、賢者であれば選択可能な能力を備えているため、アリだったとのこと。

 そうか、そこでつまずいて時間を取られていたら、マズかったのか。


 つまり今も私は、自分が持つスキルの範囲で『聖女』に戻ることは可能。

 聖女の可能性をキープしたまま、料理人になっている。

 そんな一般的ではない、特別なスキルだからこそ選択可能な職業が『称号』という扱いになるそうだ。なるほど。




 セラム様知識では、勇者は異世界召喚のみで誕生し、賢者は『魔法創造』スキル持ちのみに与えられる称号。

 そして聖女は、特別な存在に与えられる称号なのだとか。


「特別な存在って何ですか?」

「知らない」


 あっさりだった。

 セラム様らしくない、少し目をそらしてのあっさり発言だった。


「聖女に関する文献は、人族にはあまり残っていない。聖女は人族から生まれるはずなのだが」

 セラム様にとっても、不思議な存在らしい。

 そして自分が知らないことが、不満だと言いたげだ。


 本来なら、この世界で生まれていたはずの存在なのにも関わらず、異世界召喚された私が『聖女』になった。

 どういうことだと首をかしげて、周囲を見て、ふとグレンさんと目が合った。

 じっとこちらを見ていて、ふっと目を伏せる。


 なんだろう。なんだか違和感だ。

 でもそれが何かが、今はつかめない。


 そこで同じ竜人族のザイルさんに目を向けてみると。

 ニヤリと、笑われた。

「教えてやらない」


「ちょっと、何か知ってるってことですか?」

「我々竜人族には、聖女がどのような存在かはわかっている」

「え、じゃあ教えて下さいよ!」

「嫌だ」


 嫌だって、どういうことなのか。子供か。

 もう一度グレンさんを見たけれど、視線は合わなかった。

 それでもじいいっと見てみる。


 視線を感じたのだろう、グレンさんが顔を上げた。

「すまない。今は…言えない」


 これまた煮え切らないが、なんだかしょんぼりしている様子のグレンさんに、問い詰めることはできなかった。

 ザイルさんのニヤニヤは腹が立ったけれども。


 そのあとマリアさんの『魔装具士』についての話になった。

 聞けばマリアさんは、職業が服飾関係で、趣味がアクセサリー作成だという。

 なので製造関係の『布加工』『皮加工』『金属加工』『特殊素材加工』など、幅広い加工スキルを持っている。

 肝になるのは『特殊素材加工』と、魔法スキルの『付与』らしい。

 それらがあることで、珍しい職業『魔装具士』になったのだろうと説明された。


 マリアさんは、戦闘系の数値は低いけれど、魔力はけして低いわけではない。

 製造職としての能力は、むしろかなりすごいのではないだろうか。

 彼らは異世界人に戦闘能力を求めていたため、バカにしていたけれども。

 いやいやいや、すごい人材を流出させてるんじゃあないかな。


 あんなふうに人をバカにしたり、利用し尽くそうなんて思わなければ、いい人材も手に入っただろうに。

 まあそもそもが、そういう人たちだったから、平気で異世界召喚という世界を超えた誘拐事件を起こしたわけだが。




 ところで本日も、みんなが保存食を食べ終わったところで、少量ずつにはなるがと、友人のお土産に買ったクッキーを出した。


 また護衛さんたちに非常に喜ばれた。

 ただのクッキーでも、こちらの固い焼き菓子とは雲泥の差らしい。


 私がお菓子の箱を出したところで、グレンさんが心配そうに寄ってきた。

 いやいや、お菓子の箱で今日も泣いたりはしないから。

 あの大泣きで、それなりの心の整理はついたから。


 そのときは、そう思っていた私でした。


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