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間があきました。半月振りの更新です。

新居、片付けを終えてませんが、住めてます。


「先輩とやらは、どういう人物なんだ。何が目的で聖女を召喚した」

 ザイルさんの表情は険しい。


 ホリトさんが聖女召喚をしたがったのは、責任感や使命感として。

 でも先輩という人物は、なりそこないと呼ばれたままではいたくないと行動したと、ムルカさんは言った。


 私の治癒で、精霊が見えるようになるため、だろうか。

 ただそれだけのために、私は周囲を巻き込んで召喚されたの?




 前に立つグレンさんとお義父様の隙間から、ムルカさんを見れば、彼は困ったような顔をしていた。


「正直、あの人の考えまではわかりません。なりそこないではいたくないという言葉から、聖女様の治癒目当てかとも思えますが……今、ボクは聖女様の治癒で精霊が見えるようになりました。でも、だからどうした、という感じです。劇的に何かが変わった感覚はありません」


 精霊の光はきれいだけれど、劇的に何かがあるわけではない。

 クロさんの言葉が聞こえるという点はともかく、精霊が見えなくてもこの世界で生きる上での支障は何もない。


 ムルカさんの言葉が理解できるので、やるせない気分になる。


 そこに深い意味もないのに、私以外の人まで巻き込んで異世界召喚をした事情がわからない。

 その人にとっては、深い意味があったということだろうか。


 幼い頃から差別を受けていた人の心境がわかるわけではないから、理解は難しいのかも知れないけれど。




「ボクたちを出来損ないと呼んだ人たちを見返すと言っても、虚しいだけです。だからどうしたと、思うだけです。ボクはあの人が何を考えて、それほどに聖女召喚をしたがったのか、わからない」


 先輩という人に賛同できなかったとムルカさんは言った。

 わからないのだから、賛同も何も出来なかったのか。


「それはそうだな。誰かを蔑む奴らというのは、今まで攻撃していたものが解消したからといって、その本質が変わるわけではない。何かと理由をつけて蔑みたがるのだろう」


 シエルさんが辛辣だ。

 誰かを思い起こしているのか、顔が険しい。

 まあ、五十代のシエルさんからすれば、いろんな過去の体験があると思われる。

 そっとしておこう。




「その先輩という人は、呪術も使うのかしら」

 今度は王妃様からの質問だ。

「聖女様の名を縛る呪術を使おうとした人がいたの。それもあなたの先輩かしら」


 そうだ。そもそもは洗脳された人が呪術をかけたことで、彼の話が出たんだ。


 私たちを召喚した人と、洗脳の犯人は一緒なのか。

 自分たちが至高のエルフだなんてことも言っていたらしいけれど、どういう意味だろう。


「名前を縛るのは呪術の中でも最悪の禁術だわ。その方法を、先輩とやらはどうして知っていたのかしら」

 王妃様の質問に、ムルカさんは頷いた。


「ウロス様の研究資料にあったのでしょう。ウロス様は当時、勇者召喚の準備を進める傍らで、呪術について研究されていた。聖女様は呪術で瘴気を集めて、世界の浄化を試みたいと魔女の協力を求めておられた。その手助けをしたいと、呪術の研究をなさっていた。そうホリト師から聞いた覚えがあります」


 おっと、瘴気を集める話まで出て来た。

 ということは、聖女召喚のために、各地に瘴気溜りを作ることも、その先輩という人物がしたことかな。




 洗脳の犯人は、自分たちは至高のエルフだと言ったそうだ。

 至高のエルフって何だろう。


 エルフが至高ということ? エルフよりも至高の存在ということ?


 彼らがエルフから差別を受けた理由は、魔力の成長過程における、魔力回路の損傷だった。

 それらを癒やして、至高のエルフになる。


 ウロスさんもホリトさんもハイエルフ。

 魔力回路を損ねるほど成長する人は、元が高魔力な人なのかも知れない。

 だからエルフよりも、自分たちが優れていると考えた?


 馬鹿らしいと思う。

 でも本人からすれば、それがとても重要だったとは、考えられる。




「その研究資料とやらは、今も残されているのか?」

 私がよそ事を考えている間にも、シエルさんから質問が飛ぶ。


「ホリト師の庵にあります。資料はあそこから持ち出せないように魔術がかけられています」

「勇者召喚の魔法陣もあるの?」

「そちらもホリト師の研究資料として残されています」


 聞けば、庵はこの王都の近くにあるらしい。

 ホリトさんは、聖女が姿を消したこの地の近くで、研究を続けていたそうだ。


 ザイルさんが、なんともいえない顔をした。

 まあ、ね。

 竜人自治区の近くに、そんな人の住まいがずっとあったなんてね。




「召喚で使われた魔法陣の元になった資料があるんだな」

 シエルさんの目が輝いている。

「他にも瘴気を集める呪術や、洗脳関係の資料もあるのか。異世界召喚や呪術について、色々と解明できるな!」


「聖女の魔力はどう特定したのかしら。歴代の聖女が同じ魔力という前提なら、過去の聖女の魔力が込められた魔宝石でも持っていたのかしらね」

 王妃様も未知の研究資料に興味津々だ。


「魔力を込めた魔宝石があれば、その人物を召喚できるのか?」

「できるわ。ある人物が魔力を込めた魔宝石を元に、魔法陣で人を呼び寄せた事例があったの。でも召喚そのものがとんでもない魔力を使うから、理論上は可能でも、実行はほぼしないわね」


 そして知的好奇心から、王妃様とシエルさんが盛り上がっている。




 私は、やっぱり私が皆を巻き込んで召喚されたのだと知り、ショックだったわけだけれど。

 飛び交う質問と、王妃様やシエルさんの興味の方向に、次第に気が紛れた。


 なんといっても私自身は不可抗力だったんだ。

 責任を感じてどうこうという話でもないのだろう。


「ではその資料を見せてもらおう!」

 シエルさんが宣言し、王妃様が自分も行くと張り切っている。


 今はもう夜なので、翌日案内してもらうことになった。

 うん。もう帰りたい。疲れた。


 グレンさんに甘えるようにくっついたら、また抱き上げられた。

 今日は抱き上げられる率が高いけれど、今はもうそれでいい。








 帰ってお風呂に入って、ベッドに横になった頃には、クタクタだった。

 大きな手に頭を撫でられながら、グレンさんの魔力だけに包まれて、ほっとする。


 今日はいつになく長時間、悪意を感じた。


 画面越しで、セシリアちゃんを囲んだ男の人たち。

 夜会の壇上で、値踏みするみたいな視線。

 そしてフロアに下りてすぐの、囲んできた男の人たち。


 神殿の人もそうだ。

 聖魔力を持つ者は神殿が管理すべきだなんて、堂々と言っていた。


 最後の呪術やムルカさんとの話は、悪意カウントかどうか微妙だけれど。


 微妙といえば、セシリアちゃんからの残念聖女呼びや、エドアルドさんから聞いた、歴代聖女が神様扱いされていることとか。

 悪意ではないけれど、ダメージは受けた。


 もうもう、大変な日だった!




 グレンさんの魔力に、ゴロゴロ喉を鳴らす猫みたいにくっついて。

 ウトウトとまどろみそうになったところで、私の頭を撫でるグレンさんが、考え事をしている様子に気がついた。


「グレンさん?」

 私のかけた声に、グレンさんはぱちりと瞬いてこちらを見た。


「ああ、すまない。竜王の記憶をたどっていた」

「竜王の、記憶」


 代々竜王の記憶をグレンさんは持っている。

 それは自分の記憶とは異なる、データベースのようなものだと以前聞いた。


「先代聖女がウロスを癒やしたことがあったなと」

 グレンさんが言った言葉に、ひと呼吸置いて、なるほどと頷いた。

 そうか。あったんだ。




「癒やされたウロスは涙を流していた。当時は竜王も聖女も、泣くほどのことだとは考えていなかったが、今回の話を聞いてわかった気がした。迫害された根本を覆されたという、彼にとっては深い事情があったのだな」


 なるほど。当時はわからなかったんだ。


「あと聖女がハイエルフの子供を癒やしたこともあった。その子供も泣いていた」

 それは、もしかしてホリトさんだろうか。


「その子供に、聖女が何か手紙を渡して送り出していたが、あれはもしかすると、ウロスに宛てたものだったか」




 グレンさんが言った言葉を考えて、ちょっと、それはどうなのと思った。

 先代聖女さん、何やってんの!


 確かに同じ境遇のハイエルフだったのだろうけど。

 ウロスさんに子供を預けるとか、可哀想だと思わなかったの!


 私の魂の、前の人生だと考えると、複雑だ。

 もっとちゃんと考えて行動してよ、先代聖女さん!

 そう思ってしまう。


「ホリトとやらの日記があるというから、すべては明日、わかるだろう」

 グレンさんはそう言って、私の眠りを促すように、背中を優しくポンポンしてくれる。


 そうしながらも、少し困ったような顔になって呟いた。

「勇者の懸念はあるが、彼らが思い切ってシホリを召喚してくれたから、今があると思えば、複雑だな」




 召喚を実行した人たちは、いい人たちではないかも知れない。

 それを計画した、ムルカさんの先輩とやらも。


 でも世界の崩壊を食い止めるために、聖女を召喚しなければと必死になっていた人がいて。

 研究半ばとはいえ、その成果の魔法陣で、私はこの世界に来た。


 聖女が召喚されないままだったら、この世界がどうなっていたのか。

 そういう意味では、召喚を実行した人たちの英断とも言える。


 勇者対策の心配はあるけどね。




 何か言葉を返そうとして、私の口から出たのは欠伸だった。

 グレンさんは小さく笑って、私をいつものように包み込んでくれる。


「今日は色々あり過ぎて、疲れたな。寝ようか」

「うん」


 私は返事もそこそこに、夢の世界に引き込まれた。

 グレンさんがしばらく眠れずに、私の頭を撫でて私に口づけて、考え事をしていたことは、知らないままになっていた。


まだ新居がごたついてまして、次回9月5日更新予定とさせて頂きます。

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