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 ひととおりの挨拶のあと、私たちはまた席に戻った。


 あとで近隣国の方とは、改めて別室でゆっくりお話をするそうだ。

 今はひとまず、この国の他の方々と交流をされる。


 序列のある社会の国際交流、色々と段取りがあるらしい。




 席に座って落ち着いて、広いダンスフロアを見ると、人が少なくなっているように感じた。

 あと、見かけない装束の人がいる。


 首を傾げて見ていると、そっとレティが教えてくれた。


 近隣国の代表とその側近はあちらの席。

 でも近隣国からの客人は、壇上の人だけではない。

 他にも高位貴族や国の高官が来られていて、フロアでこの国の貴族の方々と交流を始められる。


 ここからは国際交流の場になるので、若い人たちは夜会から抜けたそうだ。

 今は当主夫妻など、家を背負う人たちが残っている。


 国際交流で、若い人が何か粗相をしては大変ということかなと解釈した。

 となると、セシリアちゃんたちはもう帰ってしまったのか。残念。




 見渡せば、壇上の人たちそれぞれの装束と、雰囲気が似通っている人の集団がフロアにいる。


 ルビーノの人は薄い生地を巻き付けるみたいな格好。

 エメランダの人はふわっとした輪郭で、オーパズは装飾が多い印象だ。

 ダインはかっちり系の服装。


 各国の特色みたいだ。

 なるほど国際交流だなと思った。


 さっき握手のために、オーパズの王子が差し出した手首に、腕輪が何重もあるなと思ったけれど、どうやらそれもお国柄らしい。

 あちらの世界でも、自分の財産を宝飾品として身につける文化が、どこかの国にあると聞いた気がする。


 ダインの宰相さんのかっちり衣装は、彼の気質かと思いきや、それもお国柄みたいだ。


 その中に、神殿の人らしい装束が混じっている。

 エドアルドさんを目で探してみたら、目立たない隅の方にいた。

 神殿の偉い人みたいだけど、周囲と交流する様子はない。




「ルビーノの王弟殿下は、王妃様の弟さんですか?」

「そうよ。そういえば聖女様へのさっきの軽口は、ダメなんじゃないかしら。竜人族の番より先に会いたかったとか、まずい発言よね」


 王妃様、やめてあげてください。

 実家からそんなにも何かを搾り取ろうとしないで。

 あの程度はセーフでいいと思います。


「社交辞令だと思いますよ」

「あの子まだ独身なのよ。色々と女性への配慮が足りなくてね。アランと一緒ね」


 やめてあげてください。アランさん、猫かぶりはけっこう得意ですよ。

 気を抜いたら猫が行方不明になって、大雑把が出てしまうだけで。




「そういえば聖女様、先ほどはオーパズの殿下をうまくかわしていらしたわね」

 王太子妃に言われて、私は頷いた。

「そうですね。手を取られたら、あちらに電流が流れてしまうので、必死でかわしました」


 そう返した私に、彼女はちょっと固まった。


「かわしたというのは、動きのことではございませんわ」

 第二王子妃がふふっと笑って言う。

「あの方、女性とみたら声をかけるような方なので、少し心配していたのです。そのアプローチを見事にかわして、気を削いでおられましたわ」


 気を取り直した王太子妃も言葉を続けた。

「あの方は美女ではなく、可愛らしい女性がお好きみたいで。聖女様に変な働きかけをしないかと、心配いたしましたの」


 なるほど。手を取ろうとされたのは、挨拶じゃなくそっちでしたか。

 挨拶にしても、いきなり手を取ろうとされたので、さっきは焦った。


 避けてしまい申し訳なかったかなと思ったけれど、そういうことなら避けて正解だった。




 おしゃべりが出来たのは僅かな時間で、すぐに挨拶の人が流れてくる。


 身分の順番などルールがあるのか、他国や国内の高位貴族らしい人たちが数人ずつ、陛下たちと、聖女の私に挨拶をされる。


 名乗られるけれど、まったく覚えられる気がしない。

 笑顔の挨拶だけをひたすら心がける。


 まあ、夜会とか今後出ようと思わないから、この場限りのご縁だろう。

 グレンさんやザイルさん、お義母様たちにも挨拶がされて、彼らも近隣諸国に知られているのかと思う。


 うん。もし彼らの名前が必要になったら、ザイルさんにでも聞こう。




 そうするうちに、神殿の服を着た一団が来た。

 この地域の神殿をとりまとめる立場の、大司祭という人だ。

 大司祭は地域の神殿の代表者。近隣数カ国の神殿のトップだという。


 豪華な装束に、嫌な感じがする。

 だってこのあたりの地域の神殿が、聖魔力を持つ人を強引に所属させて働かせている、元凶ということだ。


「しばらく言い分を聞いてみてね」

 お義母様が、そっと私の耳に囁いた。


 ということは、彼がこうして来るのは、織り込み済みなのだろう。

 もしかしてエドアルドさんが壁際でひっそりしているのは、そのためかな。


 彼はこの地域のトップだけど、中央神殿の偉い人の方が、権限があるはずだ。

 この地域の大司祭が、聖女を相手に何かやらかす現場を押さえて、彼の権限を取り上げるとか、そういうことかも知れない。


 それなら餌として、大人しくしていよう。




 彼はまず、自分がこの地域の、神殿の偉い人だと自己紹介をした。

 偉いという言葉を直接出したわけではないけれど、まとめればそういうことだ。


 そして私を見据えて、重々しく口を開いた。

「瘴気の浄化は、聖女様の義務にございます」


 義務、と来たか。


 私は反発を顔に出さないように、笑顔を固める。

 でもこの人は嫌いだなと、魔力の印象以上に思った。




 もし私が、この世界に来てすぐ神殿の所属になり、こんなことを言われたら。

 聖女だとバレないように偽装して変装して、瘴気の浄化は一切せずに逃げ続けようと思っただろう。


 一方的に異世界召喚され、世界のために働くなんて出来ない。

 この世界のことなんて知ったことじゃないと。


 セラム様が、瘴気の浄化について、協力をして欲しいと要請されたこと。

 ザイルさんたちが、私がこの世界に馴染めるように、私の気持ちを優先してくれたこと。


 それらがあったから、今の私はなるべく瘴気の浄化をして、この世界が平穏であればと思っている。


 私に自己犠牲を強いて求められるばかりなら、きっと私は全力で逃げ出した。

 あのヴォバルでステータスを偽装して逃げようとしたみたいに。


 神殿という場から逃げ出すために、全力を出しただろう。




「聖女様は神殿が保護すべきなのです。様々なところが口を出されるが、そもそも聖女とは神殿に帰属するべきものです」


 厳かな口調に腹が立つ。

 そう思っていたら、不意に王太子が口を開いた。

「帰属というのは、聖女に指示するということか」


 不思議そうな声だ。

 挨拶以外で王太子の声を耳にしなかったけれど、この人も話すのかと思った。


「我々がこの世界の道理を、異世界の聖女様にお教えいたします」

「道理を教える、か。指導するということか」

「まあ、そうなりましょうか」


 そして大司教、フロアを向いて、響き渡る声で言い放った。

「どれだけ理由を尽くそうとも、聖魔力を持つ者は、神殿が管理するべきなのだ。それが世界の安寧につながる」


 人を管理って何だと私は思うけれど、彼は言葉を続ける。

「世界の浄化は常に必要であり、聖女が不在になったのも、神殿が管理していなかったからだ」


 違うよ。

 前回の勇者召喚のとばっちりだよ。


 私が心の中で反論していたら、王太子は神殿の人を見て、私を見て、また首を少し傾げてから、口を開いた。


「神殿に所属する者が、神殿が神と崇める相手を管理するのか。不思議だな」

 心底不思議そうな王太子。


 え、ちょっと、何言い出したのこの人。




 神殿の人もきょとんとしている。


 王太子は軽く首を傾げて瞬きをして、セラム様を見た。

 セラム様がひとつ息を吐いて、王太子に訊く。


「神殿が神と崇める存在とは、何のことでしょうか」

「そのままだ。神殿が祀る創造神以外の神は、過去の聖女だろう。千年前の聖女が、この地で愛と豊穣の神となり、崇められているように」


 聖女を、神としている。とは?


 みんなで疑問を頭に貼り付け、王太子を見る。

 え、本当に何を言っているのかこの人は。不思議ちゃん?


「兄上、お待ちください。愛と豊穣の神が、千年前の聖女様というのは、何をもってそのように言われるのでしょうか」

 そうだそうだ、根拠もなくそんな変なことを言われても、困るよ!

 根拠があっても困るけど。え、あるの?


「文献を組み合わせて考えれば、自然とわかることだろう」

 わかっていないこちらのことを理解できないとばかりに、王太子が言う。


 え、待って。

 エドアルドさんが今にも拝みそうな態度だったのは確かだけど。

 待って。




 なんだかすごく嫌な感じがして、竜人族は何か知っているのかなとザイルさんに目を向けた。

 すると、目を逸らされた。


 えー、待って待って待って。

 強引に袖を引いたら、重い口を開いたザイルさんが小声で。

「そう読み取れる記述を見たことがある。言っておくが、神殿のことに竜人族は関知していない」


 そうしてまた、気まずそうに目を逸らした。

 え、そういう文献が、本当にあるの?


「二千年前に、神殿の元となる組織が作られ、聖女が崇められていたというのは、まあ、あったらしいな」


 ちょっとヤダやめて!

 私は次にクロさんへ目を向けた。


『わては地上の動きは知らんがな。創造神以外の神とかも知らんし』

 だよね。クロさんは今まで聖女とも竜人族とも関わってこなかったし、知らないよね。


 グレンさんに目を向けると、なぜか嬉しそうな顔。

「聖女が崇められて、ミナの安全がはかれるなら、いいことだな」


 うむうむって頷くところじゃないですよ、グレンさん。

 突き抜けた竜王目線をそこで発揮されても困るんですよ。


 普通の一般人が崇められるって、精神的にきついんですよ!




 世界の管理者とか、大仰なことを言われているとは感じていた。

 でもそれは一般的に知られていないことだし、そもそもの役割がそうだと言われたら、まあそういうものかと思ったんだ。


 生活そのものに、影響はないと思ったんだ。

 まさかの思わぬ影響があるなんて!


 ちょっと誰か助けて、神様扱いなんて怖いんですけどー!


自宅のアレコレで慌ただしく、更新を週イチ金曜更新にします。

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