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作品タイトル修正いたしました。

でも旧題も表記したら、タイトル欄がさらに長くなりました。

これ、どの程度残したら、新タイトルだけに出来るのでしょうか。


 拳まで振り上げ出したセシリアちゃんの肩に、お兄さんが手を置いた。

 そこで彼女は息を吐き、改めてご令嬢らしく扇を口元に当てる。


「もちろん、聖女様から最初にお話を伺ったときに、ときめいた部分もあったからこそ、書こうと思いました。ええ、元の世界に帰りたいと泣いた彼女と、それを慰める番のお話は、とても素敵だと思いましたわ」


 セシリアちゃんが熱く語る言葉に、元から周囲にいた人たちと、不穏な雰囲気で寄ってきていた人たちとの間に空気の差が出来ている。


 元からいた人たちは、セシリアちゃんの物語を既に読んでいる様子で、そうねえと頷いた。

 対して新たに来た人たちは、完全に困惑の表情だ。




「あちらの世界で懸命に生きようと、家業に関する修行をしていた職人意識。お父様との行き違いを解こうと帰省する矢先に、世界を超えて呼ばれてしまった悲劇。帰還方法はきっとあるはずと、こちらで生き抜く決意をされたところで、帰ってはならない運命を知り、そこを番の竜人に慰められた。世界を超えた運命の相手! 世界を超えた魂の結びつき!」


 また口調がヒートアップしていくセシリアちゃんを、お兄さんはなぜか、微笑ましそうに見ている。

 元気になったことを喜んでいるのかも知れない。


 でも頭が切れると言われた人にしては、セシリアちゃんが野放しだ。

 もしかして妹溺愛で、妹に対してはポンコツとかそういう可能性があるのかな。


 今は興奮しても倒れなくなったセシリアちゃんの熱い語りは、止まらない。


「秘されていた真名を番に名乗り、互いの魔力を混ぜ合わせ、体を造り替えられる番の儀。竜人族の番がどういうものか、今回お話を伺えたことは、とても嬉しく思っておりますわ」


 竜人族には真名があること、番の儀のことも、特に隠さなければならないものではないからと、ザイルさんが一般的な番の儀について説明していた。

 セシリアちゃんが懸命にメモを取っていたなと思い返す。




「ですが聖女様は、跪かれて愛しい人から真名を名乗られた感想について、呼ぶときに噛みそうで不安だとか仰いましたのよ! どういうことですの!」


 あ、確かにそれ、話したときに呆れられたやつだ。

 真名は明かせないけど、せめてそれを告げられたときの感想をと求められて、話したやつだ。


「番同士の魔力の効果。心地よさが刺激的な快感という、番の儀はまさに官能の物語。なのに彼女は、試合の立会人に助けを求めるレベルの威力だと例えましたわ」


 なるほど。レフェリーストップは、異世界言語でそういう解釈になるんだ。

 

「肝心の番の儀すら、感想が面白方面になってしまわれる方ですのよ。そんな方に対して、妖艶で蠱惑的だとか、ありえませんわー。あの聖女様に、本当に色気が欠片でもあるとお思いなのですか!」


 そこは抗議をさせて欲しい。

 欠片くらいはあるもん!

 小さいかも知れないけれど、欠片くらいはきっとあるはずなんだよ!


「恋愛方面がこれだけ壊滅的な方に、あの噂は無理があり過ぎますわ。あり得ないほどの鈍さ、あり得ないほどの恋愛音痴。そしてズレたヒーロー」


 ちょ、グレンさんにまで被弾はやめて!




「あの二人の物語を、私の創作だと言われるのは、もう本当に心外極まりありませんわ! 聞き取った事実を物語として描写したからこそ、ああなりましたのに」


 気圧されていた男の人が、口を挟んだ。

「それは君が、嘘を吹き込まれたということも」


「あれを嘘として吹き込むメリットは何でしょうか。次々と残念な恋物語の展開を口にして、美談がすべて台無しになるような話ですのよ。もし、わざと私に書いて欲しい話を吹き込んだなら、もう少しマシな話を作るはずでしょう」


 残念だとか、美談が台無しとか。

 映像を見ているこちらのお部屋の空気が、なんだかいたたまれない。


 力説し過ぎてちょっと息が切れてきたセシリアちゃんの背中を、またお兄さんが宥めるように撫でている。

 セシリアちゃんは、少し間を置いて息を整えてから、彼らを見据えた。


「グレン様を理想的な武人として、その男性的な凜々しさに心惹かれながらも、雰囲気にうっとりするよりも心の中でツッコミを入れている。聖女様は、そんな残念な方でしたわ。私はありのままを書きました。もし私の創作、でっち上げであれば、もっと美しい物語を書きましたわよ!」




 周囲の人たちからは、もう言葉が出なかった。

 恩人だから、噂を否定する物語を書いたと主張するには、あり得ないほど相手をこき下ろしている。


 途中でアランさんとフィアーノ公爵が近くに歩み寄ったけれど、口を挟む隙はなかった。

 セシリアちゃんの迫力と主張の内容に、相手も黙り込んだ。


 そこへさらに、セシリアちゃんが追撃する。

「私は逆に、あなた方が聖女様のことをまったくご存じではないことが、今回のやりとりで、よくわかりましたわ」


 またも低くなった声に、お兄さんはセシリアちゃんの頭を撫でた。

 撫でられるのは日常なのか、セシリアちゃんは構わずに続ける。


「あなた方が、もし聖女様と欠片でも面識があれば、いかに的外れな噂を流そうとしているか、気づくでしょうに。一度も会ったことがないからこその、思い違いをなさっておいでですわ」


 セシリアちゃん、バッサリだ。

 相手は反論しようとして、でも事実面識がないので、反論の切り口が見つからない様子だ。




「私も噂は耳にしておりますわ。私が聞いたものでは、アマラス伯爵、ムネーノ子爵、オシリー男爵。そうした方々が、聖女様から誘惑されて、男女の関係を持たれたというお話ですわね。お間違いございませんかしら?」


 セシリアちゃんの言葉に、元から周囲を囲んでいた人たちが、それらしき人物に目を向けた。

 彼らは今さら自分の主張を引っ込められないのだろう、頷いている。

 なるほどとセシリアちゃんは頷き、その人たちを見据えた。


「ムネーノ子爵、とても豊満な胸の女性だったそうですわね。あとオシリー男爵、聖女様は魅惑的な腰つきだったとか。あの発育不良な方に対して!」


 ちょ、ちょっと、待って。

 本当に、私に被弾しまくりなんですけど! 発育不良って!


「アラマス伯爵は、聖女様は激しいのがお好きだと触れ回っていらしたとか。幼げなあの方に、激しい行為! 事実と吹聴されるなら、鬼畜の所業ですわね」


 あまりな言い様に、ざわりとセシリアちゃんの周囲の空気が揺れた。

 こちらでも、グレンさんからピリついた魔力が漏れている。

 嘘だとわかっていても不快なんだろう。


 構うことなく、セシリアちゃんは言葉を続ける。


「考えるだに悍ましいですわ。見るからに未成熟な相手に、そしてそちら方面の情緒が育っていない方に対して、それが事実であったとすれば、あなた方が無理強いの行為を働いたとしか判断出来ない状況ですわ」




 突然の糾弾に、相手はうろたえている。


「ひと目で未成熟とわかる相手に、迫られたなんて表現をして手を出す殿方など、さらにそれを吹聴するなど、最低最悪の行いですわ!」


「いや、誤解だ!」

 相手は糾弾の場に変わった状況に、慌てて否定する。


「何が誤解ですの。あの幼い聖女様との肉体関係が事実だと、あれほどに吹聴して回っていらしたのに」


 幼いとか未成熟とか連呼しないで欲しい。私、二十歳なんですけど。

 まあ、体が中学生くらいになっているから、性的対象とされるには幼いというのは、確かにそうだけれども。


「あのグレン様が、まだ体が成熟していないお相手だからこそ、大切に慈しまれて、まだそうした行為は控えていらっしゃるというのに。よりにもよって、そんな方を相手にあなた方は何をされたと、主張されますのかしら。改めて仰って頂けますかしら」


「ま、待て。幼いとは、どういうことだ!」

「私がお会いした聖女様は、とても幼く見えましたわ。言動こそしっかりしておられましたけれども」




 彼らは視線をうろつかせ、周囲の冷たい目を感じて、言い訳を探すように口を開き、閉じた。

 セシリアちゃんの口撃は止まらない。


「やはり姿をご覧になったことすら、ありませんのね」

 セシリアちゃんの決定打になる言葉。

 反論を無くした相手に、会場中の冷ややかな視線が向けられている。


 そう、この場は今、会場中の視線を集めている。

 別角度からの映像も映されるようになったけれど、会場中の人がセシリアちゃんたちのところに集まっている。


「そもそも誘惑されたという設定そのものに、無理がありますわ。素敵な殿方への情緒が微妙なあの方が、男性を誘惑するだなんて、あり得ませんもの。グレン様については素敵だと思っていらしたけれど、セラム様を苦労性な人物だとか、アラン様を残念大雑把兄ちゃんと表現されるような方ですのに」


 あー、覚えがあるなあと記憶にかすったけれども、でも、それも待って。

 そういうのをバラされたら、後からなんかややこしいことになりそうだから、やめてー!


 そんなことをぶっちゃけられて、私の斜め後ろから、セラム様の冷ややかな目線が来てるみたいなんですけど。

 なんとなく、怖くて振り返ることが出来ない。




「セラム様はさほど存じませんが、アラン様については、確かにと頷ける部分も、ございますわ。お茶会で具合が悪くなった私を別室へ案内くださり、体が弱いならしっかり食べろと、侍女に山盛りのお肉を届けるよう指示なさるなど、気遣いが明後日の方向へ行かれる大雑把さは、確かに感じましたわ」


 セシリアちゃん、その感想、言ってしまっていいの?

 あなたの斜め後ろで、アランさんが固まってるんだけど。

 そして隣でフィアーノ公爵も、額を押さえて天井を見上げてるんだけど。


「ですがきちんと気遣いもされますのよ。別室へ案内される前に兄や、我が家の侍女も呼び寄せて、二人きりにならないよう気配り下さいましたわ。お肉も、私が元気になるようにと気遣って下さったからこそです。少し斜め方向でしたが、お優しい方だとは感じました。世間でも人気のその方を、聖女様はばっさり行かれましたわ。そこで質問です」


 またセシリアちゃんが、改めて彼らを見据える。




「あなた方は、グレン様やセラム様、アラン様よりも、ご自身がとても見映えも性質も優れていると、声を大に宣言なさっている状況でございますけれど、本気でいらっしゃるのかしら」


「は?」

 セシリアちゃんの次なる発言に、相手の人たちは固まった。


人名を考えるのがただでさえ苦手なのに、人物が増えすぎております。

敵対勢力のぽっと出の方は、かなり適当な名前です。すみません。


そして敵も味方も滅多斬りのセシリアちゃんのターン、あと1話です。

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― 新着の感想 ―
ボッコボコで本当に面白いww いいぞもっとやれ!!
流れ弾で方々HPは0ですね(笑) セシリアちゃん無双! お腹痛いです。笑いすぎて家族に引かれています。
セシリアちゃん最強!
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