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 レティのあとから追いかけるようにやってきたセラム様とアランさんも、いつも以上の王子様っぽい装いだった。


 セラム様は、レティと対になるような衣装だ。

 二人が並ぶと王子様とお姫様な感じで、とてもお似合いだ。


 アランさんはエスコート相手がいないまま、ひとりで参加するみたいだ。

 見た目はいいのに、中身が大雑把兄ちゃんでお相手が見つからないのかなと、少し思ってしまう。


 竜人自治区からは全員ペアで参加するけれど、この国の夜会のしきたりとして、必ずペアで参加というルールはないらしい。

 男性も女性も、ひとりで参加してもマナー違反ではないようだ。


 でも基本的に女性は、パーティーの場で羽目を外す男性がいることもあるので、保護者か男性パートナーと出席することが多いという。


 私にも皆とはぐれないようにと、注意がされた。




 ひとしきり挨拶を交わしてから、招かれた部屋はゴージャスな控え室。

 王族の皆様とここで合流する予定だと説明されたものの、今は私たちだけだ。


 王族専用控え室だというそこは、座り心地の良いソファーなどが配され、くつろげる空間だ。

 セラム様に促されて座れば、さっとお茶がサーブされ、テーブルには軽食が用意されていた。


 昨日料理人さんたちと一緒に準備した、パーティー用の軽食類もあるので、会場だけではなく控え室にも、この料理は用意されるらしい。


 そうだよね。ああいう会場って、なかなか食べられないと聞くからね

 せっかく準備した料理だ。是非とも皆様に食べて欲しい。




「異世界の料理は面白いな。甘い生地としょっぱい料理がこんなに合うとは」


 アランさん、パクパク食べ過ぎではないでしょうか。

 セラム様もレティも美味しそうに食べてくれているので、まあ、いいけど。


 クロさんまで襟巻き役を一時やめて、食事に参加していた。

 きっとバレずにいようという気はないのだろう。

 周囲の侍女さんたちが戸惑う空気に、ちょっと申し訳ない気がする。


 セラム様とレティは驚いていたけれど、別に構わないと言ってくれた。

 動物は困るけれど、精霊のようなものだと説明したためだろう。

 精霊王とは言わなかった。


 レティがおずおずと手を伸ばし、クロさんの背中を撫でて嬉しそうな顔をするのは、癒やされる光景だ。


 もちろん私たちも食事に参加した。

 これから夜会という名の戦場へ向かうのだから。


 と思っていたけれど、竜人族のカップルが三組いるのだ。

 当然のように番の口に美味しそうな料理を入れようとする男性陣。


 お義母様もティアニアさんも受け入れているので、まあいいかと私も口を開き、そのあとグレンさんの口元に一口タルトを差し出した。




 私たちがくつろいでいると、他の方々が来られると声がかかったので、居住まいを正した。

 クロさんも、襟巻きの配置に戻る。


 扉が開き、陛下、王妃様、他にも見知らぬ男女が来た。


「兄たちと、その伴侶だ」

 セラム様からそっと教えられる。


 さっきここで待っている間に、セラム様のお兄さんたちについて教えて貰った。


 第一王子は王太子で、天才と呼ばれている人らしい。

 頭の回転が速く、すぐに先を見通すようなところがあるという。

 顔立ちなどは陛下と少し似ているように思えた。


 第二王子も頭が良く、騎士団長として武力にその能力を発揮しているそうだ。

 戦場での兵の配置、戦略などの采配が主だという。

 こちらはセラム様と同じで、王妃様と少し似た顔立ちだ。でも体格は陛下寄りで、立派な体格をなさっている。


 そしてその伴侶は、貴族の中から厳選された女性。

 確かに二人とも、優秀そうで優雅で、次期王妃とか王弟の妻らしい雰囲気だ。

 まあ、それを言えばレティもだ。親しく話していないままだったら、とても優雅なお姫様なので、気後れがしたことだろう。




 私たちが頭を下げて迎え入れると、陛下たちも丁寧に挨拶をして下さった。


「短い準備期間で無理をさせ、申し訳ない。国内の統率がとれておらず、聖女様にはご迷惑をおかけした」

 挨拶のあとの会話は、陛下がまず謝罪を口にされた。


「皆に顔を見せることで、今後何か困ったことが発生することも考えられる。そちらも出来る限りの対処をする」


 私が、なるべく人に知られないようにしたい、利用したがる人たちが近づいたら煩わしいからと希望したからだよね。

 結果的に、そういう人たちは好きに動いている。


 ちゃんと顔を見せて、正当な対処をしないといけない。

 今日がいちばんの踏ん張りどころなのだろう。


「聖女という存在は大きい。隣国からも聖女様に会いたいと参加されている」

「そうですわね。聖女への下手な思惑というのは、この国だけの問題で留まるものではありませんわ」


 陛下の言葉に、ずいっと出たのはお義母様。

 え、いいの? と思ったけれど。


「ミナは既にグレンと番の儀をした、グレンの妻。竜人族の一員です。聖女に何かをするとなれば、竜人族を敵に回すことと心得て頂けるよう、本日はしっかり釘を刺すといたしましょう」




 お義母様の堂々とした宣言に、浮き立ったような顔で、王太子と第二王子の奥様方が手を握りしめるのが見えた。

 あれ、なんだろう?


 そう思っていたら、今度はザイルさんがそっと耳打ちで教えてくれた。


 お義父様とお義母様が、竜人自治区の先代大使夫妻だとは聞いていた。

 でも、そもそも無口傾向なお義父様と、その伴侶のお義母様がこの国における竜人族の窓口役になったのは、お義母様の経歴に理由があったそうだ。


 隣国の貴族令嬢だったらしい。

 さらに、騎士を目指していたという。


 お義母様の凜々しいたたずまいに、なるほどと納得する。

 女性的な美しさがありながら、雰囲気といい姿勢、何より体の動きが凜々しい気がしていた。




 そんなお義母様は、この近隣では『最強竜人と騎士令嬢の恋』として、お義父様とのなれそめが広く知れ渡っているそうだ。

 何それ、早く教えて欲しかった!


 隣国にも、セシリアちゃんのように物語を書く人がいた。

 その人がお義父様とお義母様のお話を書き、この国にも伝わっていた。

 お義母様たちが現役大使だったとき、この国でもご夫妻で大人気だったそうだ。


 それで王太子や第二王子の奥様方は、熱い目を向けているのか。

 憧れの人に向ける目を、お義母様に向けている。


 まあ、わかる。

 お義母様って美人で凜々しくて、おひとりでも素敵な人だ。

 でもお義父様といるときのお義母様は、愛されている自信が溢れている効果か、さらにかっこいい。

 美しいよりも、凜々しさがかっこいい。


 私も将来ああなれたらなあと、ちょっと思っていたりする。




「ええ。その打ち合わせをした上で、会場へ入りましょう。まずはね、これを見て欲しいの!」


 今度は王妃様が前に出た。

 目がキラキラしているので、何か魔術か魔道具の話かなと思う。

 ちょっとドヤ顔にも見える。


 妖艶系美人な王妃様のドヤ顔、なんだか可愛らしい。


 そうして王妃様の合図で、大きな金属製らしい板が運ばれてきた。

 ホワイトボードみたいだなと思う。

 縦に置かれた板に足がついたものが、運ばれてくる。


「シエルさん、素敵な置き土産をありがとう」

 その板の横に立ち、王妃様はシエルさんにお礼を言った。

 シエルさんは、きょとんとしている。


「鏡魔道具の構造を教えてくれたでしょう。それで映像を残す方法や、別の場所の映像を映す理論なんかを、うちの研究者たちに教えてくれたわよね」


 その言葉に、シエルさんは心当たりがあったようだ。

「ほう。ということは、映像魔道具を作り上げたのか!」




 頷いて、王妃様は大きな板の裏に手を置き、たぶん魔力を通したのだろう。

 板が光ったと思ったら、人が大勢いる場所の風景が映し出された。


 それは大きなスクリーンになっていて、夜会の場の様子が映せるようだった。

 もう人が集まって、知り合い同士の挨拶みたいな人の輪が、多くできている。


 広範囲を映していた画像は、やがて各所の詳細を映すようにズームアップし、それぞれの人の輪を、ゆっくりと映していく。


 あの大勢の前で挨拶をするのかと、ちょっと遠い目になりかけたとき、見知った顔が視界に入った。

「セシリアちゃんだ!」


 私の声に、王妃様が合図して、各所を映すように動いていた画面を、少し戻してくれた。




 人の輪の中に、セシリアちゃんの姿があった。

 セシリアちゃんと少し顔の似た、男の人と一緒にいる。お兄さんかな。

 知り合いらしい人に囲まれて、楽しそうな顔をしているなと見ていたけれど。


 輪の外から、声がかけられたのか。

 そちらにふと向けた顔は、不快そうだった。


 音声が聞こえないので状況がわからないけれど、不穏な感じだと思った。


次回から、セシリアちゃんのターンです。

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― 新着の感想 ―
『竜人族と隣国の姫騎士(仮)』には、推しが尊くて辛いファンがムッチャいてるんだろうな~ ……はっ!親子二代で小説化されたということ!? セシリアちゃん作『竜王と失われた聖女(仮)』も、『姫騎士(仮)』…
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