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※引き続きシエル視点です



 竜人自治区へ来てからの日々も、慌ただしく過ぎる。


 竜人族が使う魔道具を見せてもらい、竜人族の方々と交流。

 ダンジョンのことを聞き、行きたいと希望をして、装備を揃えるため竜人族の魔装具士の方に会った。


 その人物から付与魔法について詳細を聞けたのは、いい収穫だった。

 城の魔術師たちとは異なる、付与の技術を教わることが出来た。


 同じ下宿のソランさんからは、錬金術を教わった。


 魔道具には、魔法石や魔宝石などの、電池や電源に代わる動力源。

 そして魔石を粉にして特殊な薬液と混ぜた、魔力インクが必要になる。

 それらの素材は、錬金術で作成する。




 動力源から、魔力インクで魔力の道筋を敷く。

 発動させる魔術は、魔術言語を仕込んだ魔導回路を基板になる素材に書き込み、効果を設定する。


 複合的な効果の場合、複数の基板の組み合わせも理論上は可能だ。

 実際には打ち消し合う効果の魔術など、組み合わせの相性や、発動順序で効果が異なるなど、複数の組み合わせは設定が難しい。


 魔導回路の基板には、特殊素材で付与効果を仕込むこともある。

 複雑で効果の高い魔道具には、そうした工夫も欠かせない。


 さらに効果の高い魔道具の場合は、効果に対する物質の耐性も必要になるため、耐性のある素材を使う。

 特殊な素材は、効果を引き出すための加工も必要になる。

 そこでも錬金術の出番がある。


 それら基板を魔力の道筋と結びつけ、発動させる部分に繋げる。

 魔道具の基本原理は、そんなところだ。




 魔導回路の書き込みは、付与と魔力操作、両方のスキルが必要になる。

 私は両方を持っているため、魔道具を作ることが出来る。


 物質の錬成と付与、魔導回路の書き込みが出来れば、魔道具作成に関する、素材からすべての処理が出来る。

 作成可能な物の幅が、大きく広がる。


 ときに錬金術士と、素材の加工についてイメージをすり合わせることが、大変な作業になることもあると聞いた。

 その部分を自分で出来るのなら、効果の設定も自由自在だ。


 魔道具の作成以外でも、異世界の技術は興味深い。

 様々な技術を教わることが出来るのは、嬉しい限りだ。




 調理魔道具が攻撃魔法の練習になると耳にし、それを使って魔法の練習もした。

 なるほど。すぐに使いこなせる気がしなかった風魔法の攻撃は、難しい。

 鎌鼬の原理を利用した風魔法は考えていたが、あれは威力が強すぎるだろうか。


 考察をしながら、新しい魔法陣に触れ、魔道具に活用されている魔術に触れ。

 魔法石や魔宝石の加工、調薬の初歩技術も教わり、部屋で練習をしてみる。

 素材は竜人自治区の素材庫で買うことが出来た。

 完成させた魔法石や魔宝石、薬品などは、買い取りもしてもらえた。


 様々なことを教わり、細々とした物作りや魔法の練習などで、時間は過ぎ去る。

 大浴場でゆったり風呂に入り、整えた新しい自分の部屋で眠る日々。


 そういえば、菓子職人を目指していたミナが和菓子屋の娘で、和菓子も作れたことは、嬉しい驚きだった。

 小豆にあたる食材は既に見つけていたという。


 ミナが作った羊羹を食べれば、懐かしい餡子の風味と甘さが頭にガツンと来た。

 和菓子だ。好物の和菓子が食べられる。


 異なる世界だが食生活が充実し、大浴場もあり、自分の下宿の部屋がある。

 新生活は、実に充実した日々だ。


 そんな中、マリアさんから部屋に招かれた。




「シエルさん、手伝ってもらえないかしら」

 そんな言葉で部屋に招き入れられ、ドキドキしなかったと言えば嘘になる。

 実際、女性の部屋らしく、部屋の中もいい匂いがした。


 彼女の用件は、ランプの魔道具のために外枠を作成したものの、ランプとして機能させる方法がわからないため、手伝って欲しいというものだった。


 ランプ魔道具は実に単純だ。

 光らせるという単純な魔導回路を書き込み、魔法石と繋ぐだけだ。

 あとは魔法石との接続をするかどうかでオンオフが出来ればいい。


 マリアさんは、特殊な素材でステンドグラスのようなランプを作り上げていた。

 私が魔導回路を書き込み、魔道具としてセッティングすると、美しい光を放つランプになった。


「ありがとう、素敵なランプに仕上がったわ」

 彼女自身も満足そうだ。

 物作りの好きな人らしく、自分の作品に満足げに笑う笑顔。実にいい。




 彼女は亜空間にお茶とお菓子を入れていた。

「ミナちゃんが作った蒸しパンだけど、美味しかったわよ」


 ミナは菓子職人を目指していただけあり、蒸しパンはとても美味しかった。

 亜空間収納は、料理を出来たてで収納できる、夢のスキルだ。


 きちんと自分で収入を得られる目処がつけば、ミナに色々とお菓子を注文して、いつでも食べられるように収納しておきたい。

 今は城からもらったお金を切り崩す状態であり、好きに使うには心許ない。

 魔法石や魔宝石の加工は小遣い稼ぎになるが、職業にしたいわけではない。


 しばらくすればダンジョンへ行けるが、それで収入は得られるだろうか。

 同じ下宿のヘッグさんは、冒険者だという。

 それもまた、異世界物語では定番の職業だ。




 一緒にお茶を飲む時間、マリアさんはぽつぽつと、自分のことを話してくれた。

 あちらの世界に、娘を二人残してきたという。


 彼女たちに会えなくなると、召喚された当時は焦り、思わず声を上げていた。

 だが、考えれば二人とも成人し、既に独立している。

 心配はかけるだろうが、彼女たちの生活そのものに問題はない。


 しかし問題ないと告げたその顔は、寂しそうだったので、帰りたい気持ちはあるのだろう。


 娘がいたということは、旦那さんがいたということ。

 近い年齢かと少し浮き立っただけに、残念な気持ちになった。




 ところが夫とは、若いときに離婚したという。


「暴力を振るわれたことがあって」

「なんてことだ。さぞ怖かっただろう」


 男の私でも、父の暴力にはかなり身構えていた。

 荒れた気持ちを行動に移すようになった父を目の当たりにして、姉を出入りさせることは出来ないと、私も義兄も判断した。


 マリアさんのようなか弱い女性が、身内の男性の暴力に晒される。

 あってはならないことだ。


 私の言葉に、彼女は控えめな笑みを浮かべた。

「心配してくださって、ありがとう。当時は確かに色々とあったわ。でも娘たちを育てきって、今の私は満足しているの」




 そんなことがあったのに、私を部屋に招き入れてくれた。

 私と二人であることに、マリアさんが特に構えた様子はない。


 マリアさんから信頼されていると、考えていいのだろうか。


 緊張した私は、ミナのことを話題に持ち出した。

「ミナはあちらに帰りたがっていると思っていたから、グレンさんと婚姻のようなことをするとは、思わなかったな」


 そこで教えてもらったのは、竜人族の番というもの。

 なるほど。独身男性が多い下宿だが、独身女性のマリアさんでも、男女のトラブルは問題ない下宿ということだ。


「ミナちゃんがあちらに帰れば、グレンさんは一生独身になってしまうのよね」

「難しい問題だな。もしあちらに帰る方法が見つかった場合、ミナは難しい選択を迫られる。まあ、今はその可能性が望み薄だが」


 私の言葉に、マリアさんは眉根を寄せた。


「あちらへ帰ることは、やっぱり難しそうなのかしら」

「魔術を学べば学ぶほど、帰還は難しそうだと思えた」


 今の正直な予測を、私は話した。




 召喚は、恐らく可能な技術だ。

 恐ろしく魔力を使う前提であれば、まず条件設定をした上で、その条件に合う世界とパスを繋ぐ。


 亜空間、異なる世界。そういう認識が魔術でもあることは、城の蔵書で学んだ。

 召喚術という魔術があり、異世界から使い魔を招く技術が昔あったそうだ。


 ただし、その技術の伝承は途切れている。

 そうした技術があったという記載だけで、それが具体的にどういうものかまでは書かれていなかった。


 存在した技術であれば、過去のその方法を見つけるか、新たに作ることは可能だろう。

 パスさえ繋げることが出来れば、あとは引き寄せるだけだ。


 その引き寄せるときに、条件付けをすれば、特殊な能力のついた使い魔を呼び寄せることも出来るとあった。

 呼び寄せる、つまり召喚だけであれば、失われた技術を見つければ可能だ。




 ただし帰還となると、まったく別だ。

 私たちが召喚され終わったときに、パスは消えてしまっている。


 私たちがどこから呼び出されたかという情報は、条件付けがわかったとしても、正確なパスを再び繋ぐことは難しい。

 無理に繋ごうとしても、似た別の世界とつながる可能性が高い。


 元の世界を正確に割り出すことは、恐らく不可能だ。


 そうした話をマリアさんにすると、そうと呟き、彼女は辛そうに目を閉じた。

 諦めさせるしかない現状が、今は歯がゆい。


 思わず出そうになった溜め息を、私は押し殺した。


あと1話、シエルさんです。

魔術や魔道具などの設定説明をシエルさんに任せたら、長くなった!

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