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※引き続きシエル視点です



「エルフは精霊魔法が特徴だけど、実はそんなに有益な魔法じゃないんだよね」

 護衛のエルフ族の方々も、自分たちについて語ってくれる。

「実のところ、エルフの里って閉鎖的なんだ。ボクは帰りたくなくて、すっかり外の国に居着いちゃったよ」


 そうして教えてくれたのは、精霊魔法という独自の価値観。

 世界の魔力を運ぶ、精霊という存在を感じ取れること、彼らに働きかける精霊魔法を使えることが、エルフにとってはステータスになるらしい。

 ただし効果は微細なもので、エルフが実際に使うのは、普通の魔法になる。


「精霊魔法って独特で、他種族には理解し難いよな」

「有用性がないのに、精霊魔法を使えないエルフは見下されるんだ」

「くだらないことにこだわる老人が多いんだよ」

「そこにこだわらない者はエルフの里を出るから、里にはそういうのが残るんだ」


 なるほど。里に残るのは、その価値観に馴染んだ人たちになるため、なおさら閉塞的な集落になっていくということか。




「精霊魔法なんて、本当に使い勝手が悪いから、あれを大事にする意味がわからないよ」

「精霊が見える、感じられるからって、だからどうしたって感じだよな」

「竜人自治区みたいにエルフ自治区って作れないかな」

「そんなものを作れば、あちらが出張ってくるだろう。ひっそり人族に混じって生きる方が楽だよ」


 護衛のエルフ三名は、とにかくエルフの里への不満が大きいようだ。

 彼らの愚痴になってきたので、そっとフェードアウトしようとした私だったが、興味深い話題が出た。


「聖獣様ほどの存在なら崇める気になるが、普通の精霊は存在するだけだからな」

「世界の魔力の循環に必要な存在だけど、そこらの精霊に意思はないからねえ」

「……その聖獣様というのは」


 そっと聞きたい言葉を挟めば、彼らは文句の言葉を止めて、こちらを向いた。


「エメランダ国で崇められている、獣の姿をした、魔力を持つ高貴な存在だ」

「言葉を発されなかったけど、こちらの言葉は理解されている様子だったよな」


 知性ある獣、魔獣とは異なる精霊に近い存在。

 そうエルフ族の三人は感じたそうだ。


「セラム様の護衛について聖獣様とお会いしたときに、精霊特有の魔力を感じた。だから聖獣様は精霊なんだ。でもそこらにいる精霊とはまるで違う、力のある存在だった」


 精霊という存在が、私たちがイメージするものと一致するかは不明だが、魔力を循環させるために存在する、特殊な魔力の塊のようなものだという。

 そういう存在がいるのかと、頭に入れておく。


「精霊王様という存在がいるらしいけど、伝説として残っているだけなんだ。会ったというエルフはいない」

「でも聖獣様も、エルフの里を出てからお会いしたんだから、精霊王様もいるんだと、ボクは思う」


 精霊王という存在は伝説だが、聖獣がいるなら実在するかも知れないようだ。

 聖獣に知性があるなら、何らかの方法で意思疎通が出来るのかも知れない。

 直接聞けたらいいのにと、彼らは語る。




 セラムさんの護衛は、獣人族とエルフ族、人族で、竜人族はグレンさんとザイルさんだけだった。


「竜人というのは、その……竜に変わったりするのだろうか」

 気になっていたことを、思い切って質問してみた。


 爬虫類が苦手でも、彼らは人型で意思疎通が出来る。

 むやみに嫌ってはいけないが、とはいえ竜人族と言われると、爬虫類的なものを想像してしまう。


 だが私の質問に、周囲はきょとんとした顔になった。

「その……リュウとは何だろうか」

「は?」


 竜人族という名なのに、竜とは何か、とは?

 しばらく考えて、はっと思い当たる。


 異世界言語は、共通認識がない物事の場合、近い言語に置き換えられる。

 獣人族も、私たちのイメージする獣人ではなく、獣の能力を持つ人たち。

 エルフも恐らくは、私たちがファンタジーで認識するエルフ族とは異なる。


 ということは、竜人というイメージに近い種族、ということか。

 竜という言語がないのに、あえて竜が当てはめられた。

 竜のイメージとは何だ。ラスボスか。最強種族だからか。




 詳細を訊くと、どうやら爬虫類的な存在ではないようだ。ほっとした。


 同時に『竜』にあたる存在は、聞いたことがないそうだ。

 最強の種族、高位な生命体として、異世界言語で竜と変換されたのだろう。

 種族名は『超越した者』という古語が語源だとは、後から聞いた。

 それが異世界の私たちにわかりやすく、竜に変換されたらしい。


 体の表面を硬化できる特殊能力があるという。

 寿命は他の種族に比べて一番長く、総じて魔力も身体能力も高い。

 なるほど。体も最強、魔法も最強で竜という認識なのか。


「竜人族より長生きをするのは、ハイエルフくらいだな」

「おお、ハイエルフ! エルフの上位種族か」

「え? ただエルフの魔力を多く持つ奴が、ハイエルフと呼ばれるだけだよ」


 エルフ族の人から、そんな言葉が来た。

 異世界言語、わかりにくいな。


 しかしまあ、それはそうだろう。

 この世界が意図的に作られた世界だというならともかく、まったく別に存在した世界同士で、共通認識などそうあるものではない。


 我々が認識するファンタジーの存在に置き換えられているが、すべてがそのものではないということだ。

 エルフの認識に近い種族。獣人の認識に近い種族。

 あちらの世界の架空の存在が、別世界にそのままあると考える方がおかしいと言われれば、そのとおりだ。


 考えれば竜という存在も、西洋と東洋で姿や意味合いが異なる。

 共通認識が『高位生命体』『最強種族』ということなら、竜人族はそうした種族なのだろう。


 まあ、まったく異なるこちらの世界でも、普通の食事があり、味覚に大差がなく、生活様式が似ている。

 それだけで、とてもありがたいことだ。




 そんなふうに、こちらの知識を聞いて、宿に泊まり、街で食事をして。

 馬車の旅はそれほどかからず、王都に着いた。


 城では女性であるマリアさんとミナは侍女に託され、私はセラムさんに部屋を与えられ、魔術師長という人に紹介してもらった。

 私が異世界の賢者と知り、彼はとても興味を持った。


 異世界のことを、どれほど話していいものかは、よくわからない。

 下手に科学知識を持ち込んでも、良くなさそうだと思える。


 生活様式の差や、あちらに当たり前にあった道具の話などをして、こちらの魔法や魔術について教わった。




 魔術は、まるでプログラミングのようだと思った。

 特定の言語を、特定の法則で置く。

 さらに私はその特定の言語や法則が、魔術解析で翻訳され、ヘルプ情報で詳細を知ることが出来た。


 これが私のチートなんだと、心が躍る。

 賢者は特別な存在ではなさそうだが、ひとつの時代に一人か二人程度だと言われれば、やはり稀少な称号のようだ。


 と同時に、理解し過ぎていることを表に出すと、まずいとも感じた。

 城には様々な人がいる。

 魔力感知で、一緒に旅をした護衛の方々も含め、あのメンバーは心地良い魔力ばかりだった。

 一方で城の人は、ときに不穏なものも混ざる。


 下手に有能さを見せれば、利用されかねない気配も感じる。




 それでも直接教えてくれる、魔術研究をする人たちは、心地良い魔力だった。

 私に接する人はある程度厳選してくれている。

 セラムさんの母、王妃の側近の魔術研究者たちだと説明された。


 城では一般的な魔法陣や、公開されている魔術言語を見せてもらった。

 書庫も好きに出入りする許可を得られた。


 ずいぶん優遇されていると感じたが、異世界の賢者である私は、彼らにない知識を持っている。

 出来れば仲間に勧誘したいと、優遇してくれたようだ。


 あちらも魔力感知で私の人物像をある程度把握し、魔術の知識を増やしても、悪用しそうにない人物だと判断されたとは、後から聞いた。




 自分で解析が出来る私は、基本のレクチャーを受けたあとは、書庫にこもる。


 専門の書物には、転移施設に設置されている転移魔法陣の記載もあった。

 ふと、魔法陣の記憶が出来ないかと考えた。


 今調べている魔法陣は、見たいときにすぐ見られるものでもないだろう。

 城を出たあと、こういった書物が手に入るかどうかもわからない。


 魔法創造で出来ないか試してみると、スキルとして記録魔法が作り出せた。

 スキルで私の頭にデータベースが作れたようなものだ。すごいことだ。


 原理はよくわからないが、イメージをしっかりすれば、新しい魔法を作ることが出来る。

 魔力はそうかからなかった。 




 独自魔法も、魔法創造で様々に試すことが出来た。

 科学知識を魔法に応用することで、かなり実践的な使い方も出来る。


 魔法創造は必要な魔力量に注意が必要とあったが、思い描いた魔法を発動する前に、魔法分析からヘルプで詳細を確認したら、必要魔力のおおよそがわかった。

 ヘルプ情報で様々なことを知り、知識を増やす。


 発案した魔法を、発動直前に分析して、実際の発動はせずにおくと、魔法作成だけが出来る。

 危険な魔法でも試しに作ることは出来たので、面白くて様々に試した。

 実際に使用するには怖い魔法も、作成してしまった。


 気がつけば数日があっという間に過ぎていた。


「竜人自治区に落ち着いたミナとマリアが城に顔を出すが、シエルはどうする」

 ある朝、そうセラムさんに聞かれた。


 数日前、二人は城でトラブルがあり、竜人自治区に住まいを移すと聞いたのを覚えている。

 私はまだまだ城で学びたいことがあるので、一緒に行かないと返答した。


 あれから城の蔵書は、速読と記憶魔法で、おおよそ頭に入れ終えた。

 そろそろ二人に合流しても、いいのではないだろうか。




 今は魔道具作成に興味が移り、作成方法や構造についても様々な本を読んだ。

 実践を希望すれば、材料も提供してくれた。


 ヒゲを剃ろうとしたら鏡がなかったので、魔道具として鏡を作ったのは、面白い体験だった。


 魔法で物体の表面に、目の前の物を投影するという、単純な魔道具だ。

 これをもっと工夫すれば、ビデオカメラのような物も作れるのではないか。

 記憶媒体と、音声記録を合わせれば、映像を残す魔道具を作れる。

 この世界にはないものなので、作りがいがあるかも知れない。


 魔道具制作は異世界物語の醍醐味だ。実に面白い。

 私の作った鏡魔道具に興味を持った研究者たちが、自分たちでも作ってみたいと言ったので、原理を説明した。


 ついでにビデオ魔道具の構想も話しておく。

 親切に色々と教えて貰ったのに、城を去ることになった私からの、せめてもの置き土産だ。


 もしかすると、彼らの方が先にビデオカメラを作成してしまうかも知れないが、それはそれで面白い。

 竜人自治区はこの王都の中にあるため、会おうと思えばすぐ会える距離だ。

 しばらくしてから、互いの成果を披露し合うのも悪くない。


 セラムさんに、二人が滞在している竜人自治区がどのような場所かと聞けば、竜人族は魔道具を豊富に持っているという話だった。

 魔道具制作を面白く思い始めていたところでもあり、二人とともに私も、竜人自治区に住むことを希望した。




 再会して驚かされたことが三つあった。

 ひとつ目。私たちには、魔力の効果による若返り現象が起きていた。


 この世界に来たことで、魔力で寿命が変わるこちらにあわせて、私たちも若返っていたという。

 調子がいいのは、馬車で治癒魔法を何度も浴びたせいだと思っていたが、単純に体が若返っていたからだった。

 小中学生にしか見えないミナは、なんと二十歳の女性だと聞いた。


 なるほど、しっかりしているはずだ。成人している。

 しかし大学生だと考えれば、大人見習いという年頃だ。

 あの機転の利かせ方、張り詰めて頑張った末、夜に泣き出したこと。

 実際の年齢を知り、腑に落ちた。


 マリアさんの年齢も気になったが、女性に年齢をこちらから尋ねてはならない。

 人から年齢を尋ねられたときの姉の反応は、恐ろしかった。




 二つ目は、ミナが成人だったんじゃないかと思わず口にしたときだ。

 グレンさんと婚姻の話が出ているという。

 番の儀というのは、竜人族の婚姻にあたるようだ。


 まあ、見た目はともかく二十歳の女性なら、婚姻は自己責任と言えるだろう。

 グレンさんは真面目で誠実そうな男だ。

 ミナもまんざらではなさそうで、何やら必要な理由もありそうだ。


 ただ、こちらでそうした仲になると、あちらの世界に帰る方法が見つかっても、ミナは帰ることが出来なくなるのではないか。

 親との関係で泣いていた彼女の姿が頭をかすめて、少し気にかかった。

 既に帰ることが出来ないと、ミナが決意を固めていたとは、思いもしなかった。




 三つ目。鑑定や、自分のスキルを調べるときに深く知ることが出来るヘルプ情報は、私たち異世界の者だけにある、特別な能力らしい。


 なるほど、それは嬉しい誤算だ。

 ヘルプ情報で得られる知識は、かなり多い。

 賢者の中でも、私はかなり特別な存在と言えるのではないだろうか。


 自分が特別な存在ではなかったとがっかりしたが、改めて実は特別な能力があるのだと知り、浮かれた気持ちが戻る。


 異世界に来たからには、異世界チートは夢だ。


 34話で、異世界言語スキルは近い言語に置き換えられるだけで、種族はこちらの認識そのものではない。竜人族は高位生命体としてその言葉が選ばれた。そんな話を書いたのですが、さらっとし過ぎてわかりにくかったようで。


 この世界に竜そのものは存在しないのです。タイトルで、もし竜に変化すると思っていらしたら、すみません。

 今回シエルさん視点で補足しておきます。


 そしてシエルさん視点、ボリュームの計算違いであと2話あります。

 一部の設定説明をシエルさんに任せたら、文書量が予定より増えました。

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