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13 あちらの国では(ナナコ)

※前話から1ヶ月ほど後の、歩夢さんの友人視点です



「なあ、あんたら鑑定石で能力の計測してないらしいけど、して来たらどうだ?」

 訓練が終わり、部屋に戻ろうとすると、勇者に声をかけられた。

 アユムはくっと息を止めてから、にこやかに応じる。


「あら、しばらく計らずに、一気に上がった実感した方が、楽しいじゃない」

「そうね。しばらく計測する気はないわ」

 理由をつけると、なるほどと勇者は頷いて去って行く。

 アユムとナナコは顔を見合わせた。


「あいつ、悪気はないかも知れないけど、面倒ね」

 さっき吐きかけた溜め息を、アユムは漏らした。

「たぶん本当に何も考えてないのね」

 ナナコも応じて、アユムの肩を宥めるように叩く。


 とはいえ、ナナコも最初は、なぜアユムがあれ以降、頑なにステータスを開示しないのか疑問に思っていた。

 ただ「なるべく鑑定石で計測するのは避けよう」と言われ、まあいいかと合わせただけだ。




 しかし今ならわかる。

 自分たちに魔法を教え、訓練をする魔術師たちに言われたのだ。

 お前たちのせいで、仲間が死んだと。

 召喚の儀式で、多くの魔術師が犠牲になったのだと、怖い目で責められた。


 ふざけるなと言いたい。その死んだ仲間は加害者だ。

 私たちを拉致した犯罪の実行犯だ。

 もし犠牲だと言うのなら、指示をした主犯を恨め。


 そう喉元まで出かかったのを、ぐっと堪えた。

 多勢に無勢というやつだ。

 ここは、国家ぐるみで敵地なのだ。


「やっぱりこの国にいるの、ヤバいんじゃない?」

 ナナコが言うと、そうねとアユムも頷いた。

「しーちゃんが計画的に逃げたってことは、そうだと思った」

「例の和菓子屋の子? 私には頭の緩い子にしか見えなかったけど」

「あれは厄介な人相手のときの、しーちゃんの態度。あれでいつも本格的な被害ゼロで、どうにかしてたから」


 アユムは信頼感あふれた声でそう言うが、ナナコにはよくわからない。

 ナナコにとって、彼女がしーちゃんと呼ぶ『ミナミミナ』は、あのときアホっぽい発言をしていた印象しかない。

 なんだか最後に国王をやりこめた感もあったけれど。

 それに何の意味があったのか、不明なままだし。




「しーちゃんの真骨頂はね、相手を的確に見分けることなの」

 ナナコの疑問を感じたのだろう、アユムが彼女の話を始めた。

「いつくらいからかな。たぶん小学生くらいの頃から、彼女が警戒する相手は、何かあるってご近所で言われていたの」

「それ、風評被害につながりそうね」

「でも実際にね、彼女が知らない人をじっと警戒するように見ていたから、近所の人が注意を向けていたら、空き巣だったのよ」

「え!」


 他にも、詐欺関係だとか、置き引きだとか。

 理由もなく警戒をする相手には、近所の人たちも注意を払うようになった。

 それで防げた犯罪も多かったとアユムは語る。


「私は祖母がお茶の先生だったから、お茶菓子を買いに行くお店として、よく知っていたの」

 子供の頃から愛想のいい、機転のきく子。

 大人が奥にいる状態で、きちんと店番ができていた。


 ときに厄介な客も来る状況で、店には彼女がひとりだけということもあった。

 けれど、最初は厄介そうな注文をつける客が、最後はおとなしく客として和菓子を買って帰るのだという。

「クレーマーのタイプって、しばらく話さないとわからないでしょう。でも彼女、早々に見極めてさっと対応するの。超能力か!って思うくらいよ」


 大抵は、クレーマーでもきちんと真摯に対応をする。

 そうして相手が満足して、和菓子を買って帰れば、お互いに気持ち良く済む。


 けれど最初からろくでもない目的で来る者もいる。

 子供が店番のお店で、お金を誤魔化そうとか、お金を巻き上げてやろうとか。

 あとは単なる八つ当たりや、暴れたり強盗目的だったり。

 特に店が雑誌に掲載されてからは、お金があるだろうと押し入り強盗的な人も出たらしい。


 そんな人たちには、早くに警察を呼び、あのアホっぽい演技で時間稼ぎをしていたという。

 そんな話に、驚きしかない。

 つまりあのときの彼女の対応は、ろくでもない方のクレーマー相手の態度だった。




「実はナナコと本格的に友達になろうと思ったの、しーちゃんがきっかけなの」

「え?」

 それは初耳だった。


「駅でナナコと別れてすぐに、しーちゃんに会ったときにね、今の友達?って聞かれたの」


 アユムは語る。あのとき、女友達の不条理さに疲れて、深い友人付き合いをするつもりが失せていた。

 でも彼女から言われた言葉がきっかけで、ナナコと友達になろうと思ったそうだ。

 今の人は、アユムと気が合いそうだと。相性良さそうだよねと。


 そうして思い切って本音を晒してみたら、ナナコも自分と似たような価値観を持っていた。

 今では親友と言える間柄になったと。




「おい、お前ら。鑑定石で計測しないで、ステータス見れるのか?」

 部屋の扉を開けかけたところで、レンが声をかけてきた。

 ぱっと見は日本人ではなさそうな顔立ちの彼だが、あの沿線の住人だったらしい。

 三バカの次にステータス確認をしていた男だ。

 都会でもない彼女たちの地元でも、国際化が進んでいるようだ。


「あの野郎ども、こっちが教わらないと何もわからないのをいいことに、イビりやがって。ちょっと能力をつけたら、嫌みを言いやがってよ」

 かなり頭にきているらしい発言に、二人は顔を見合わせて、頷いた。


「ステータスを確認したいって意味のことを、心の中でも、口の中でも言えば、自分でチェックはできるわよ」

「そうなのか!」


 彼はすぐにやってみて、おおと声を上げる。

「そっか。じゃあ鑑定石でチェックしなくても、これで見てるのか。なあ、鑑定石でチェックしないの、何か理由があるか?」

 ストレートに訊いてこられた。


「あなたは、この国をどう思ってる?」

 逆にナナコは質問をしてみる。

「正直、ヤバいと思う。ただ、どう逃げればいいか、わからん」

 彼もやはり、周囲の態度などから、まずい状況だと察している様子だ。

「魔法の使い方も、教わらねえとわかんねえしな」

「あ、それもステータス確認して、ヘルプ機能で見れるわよ」

「何だと!」


 驚きながらも、すぐに実行して、うへえと声を漏らす。賑やかな男だ。


「ああ、こういう機能あるなら、確かに鑑定石でチェックしない方がいいな。ひとりで能力伸ばせんじゃん」

「でしょう。彼らに逐一、状況を知らせてやる必要はないわ。むしろこっそり訓練して、隠し球を多くしておかないと」

「だよな、だよなあ! ああ、早く教えて欲しかった!」

 悔しそうにレンが言う。

 出来ればもう少し声を抑えて欲しい。


「私たちも、すぐに知ったわけじゃないわ。でもしーちゃんのあの態度、何かありそうだったから。何か出来るはずと思って、試してたの」

「しーちゃん?」

「ミナミミナって、早口言葉みたいな名前だった子。ほら、勇者に先にステータス鑑定させてた子」

「ああ、…え? 知り合いか?」

「そうね。私も彼女も、あの沿線なの。私の馴染みだったお店の子」

「へえ。なんでしーちゃん?」

「内緒」


 ふうんと言ったあと、彼は少し静かになった。


「あのな、さっき聞いたんだけどよ。奴ら国外に出たあの三人についても、変な企みをしてたみたいなんだ」

「え?」

 アユムが眉を寄せた。


「奴らは自分たちのものだ、他に奪われるなんて、みたいなことを上が言って、やらされたって」

「ちょっと、それ」

「でもな、なんでかあの三人を保護している国に、潜入もできなかったんだって」

 言って、彼は黙り込む。


 潜入もできなかったって、どういうことだろう。

 あの国が優秀で、潜入をさせなかったってこと?




「…そういうことか」

 しばらくして、アユムが呟いた。

「つまり私たちも、この国の外に自分の意思で出ることさえ出来れば、この国から何かをされることは、なくなるわ」


 その言葉の意味が、よくわからなかった。

「おい、どういうことだよ」

 同じだったらしいレンが尋ねる。


「しーちゃんのつけた条件。あれ、強制的に守らせる魔法とかがあって、しーちゃんは、それを狙って、ずっと国王相手に念押ししてたんじゃないかしら」

「は?」


 訳がわからないという顔のレン。

 うん。私も訳がわからない。


「あのときのしーちゃんがつけた条件、この国を出てから彼女たちと、それを保護した国とかに干渉できないって言ってたわ」

「強制的に守らせる魔法って、そんなもんあるのかよ。いや、あったとして、オレらと一緒に召喚された子が、それを出来たって?」

「しーちゃんなら出来るわ」

 また出た。アユムの謎の、しーちゃんへの信頼感。


「だからね。最後のあれ、私たち異世界人が自分の意志でこの国を出たら、干渉されないってやつ」

「そんなこと言ってた?」

「言ってたのよ。正確な言葉は忘れたけど、意味はあるはずだし、その部分は私たちにも関係するから、覚えておこうって思ったの」



 レンはまた、静かに考えてから口を開く。

「なあ、そんなスキルあったなら、スキルを表示させないことが出来るんだよな」

 …スキルを、表示させない?


「あー!」

 やってみてから、叫んだ。え、嘘。本当に出来たわよ。


 え、つまりスキルを非表示にしていただけで、強制的に約束させるようなスキルが、彼女にはあったってこと?

 あれ、でも能力値もかなり低かったけど。


「…あーあーあー」

 疑問をとことん解消しようと試したら、桁非表示、できた。やられた。

 え、何あの子、あの短時間でこんな芸当やってのけてたの?

 何それ、すごい子じゃない。えー。




 二人にそれを教えたら、レンはあっけに取られた顔になり、アユムは笑った。

「さすがしーちゃん!」

「じゃあ本当に、私たち、この国を出さえすれば、彼らは私たちをそれ以上どうにも出来ないってこと?」

 アユムが頷く。


 彼女がここまで信頼しているのだ。本当に優秀な子なのだろう。

 だってアユムは、かなり現実的でシビアなところがある。

 その彼女の信頼を得ている子だ。


「そもそも、不自然だったでしょう。異世界言語以外のスキルが皆無って。絶対あれ、異世界言語の次に、何かヤバいスキルがあって、隠したのよ」

 でも方法がわからなかったのよねと、アユムが言った。

「背の高いのに囲まれながら、こっそり何かしてるとは思ってたのよ」


 そうして三人で、顔を寄せ合う。

「しばらくしたら、魔獣が出る地域に遠征に行くって、言ってたでしょう。そのときに、逃げるわよ」

「勇者はどうするの?」

「奴に計画を共有したら、裏目に出そうなのよね。まったく、悪い奴じゃないかも知れないけど、厄介だわ」


 とりあえず、この国からの脱出計画はこの三人だけで。

 勇者も仲間に入れるための声かけは、するにしても、ギリギリで。

 そういう結論になった。


次話から新章です。

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― 新着の感想 ―
主人公への信頼が厚いw と言うか、転移前から不思議な能力を持ってたんだなぁ
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