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 翌朝、またしても寝起きドッキリの心境になりまして。

 そこにグレンさんが、優しい目で頭を撫でてきた。

「おはよう。よく眠れたか?」


 相変わらずのイケボに腰が抜けそうになるけれど。

 やはり子供を保護している感覚かと、理解した。


 ちょっとこのドキドキを返せと思わなくもない。




 周囲は明るくなり、馬車の他の人たちは、みんな起きていた。

 二度寝をした私がひとり、寝坊をしてしまったようだ。

 なんだか視線が生ぬるいが、色々と不可抗力だ。


 ようやくグレンさんの膝から下ろしてもらい、座席に腰掛ける。

 そうして、みんなに頭を下げた。


「昨夜はみっともなく泣いてしまい、そしてそのまま寝てしまいまして、申し訳ございませんでした」

 きっちり謝罪はしておくべきだ。

 何しろ、これからお世話になる国の方々と、数少ない同郷の人たちだ。




「気にするな。異世界召喚されたという状況では、無理もない」

「ああ。むしろ、よく頑張ったな」

 セラムさんから労られ、ザイルさんも隣で頷く。


「お前のその頑張りのおかげで、助かった。礼を言う」

 シエルさんから、お礼を言われ。

「お互い様よ。いちばん最初に取り乱したのは、私だもの」

 マリアさんからは共感された。


 そしてグレンさんは、またあの優しい目で、頭を撫でてきた。

 く、完全に子供扱いか。




 明るい中で、改めてグレンさんを間近に見ている。

 アイラインを描いたような、くっきりとした目が印象的だ。

 鋭い目つきに感じるのは、これのせいかと思った。


 そしてザイルさんの目も、同じようなくっきりとした目。

 肌の色味は違うけれど、親戚かなと思うのは、パーツが似ているせいらしい。


 そのザイルさんは、頭を撫でられている私を、ニヤニヤ笑って見ている。

 さっきは労ってくれたが、そのニヤニヤは何なのかと、物申したい。

 ついでにマリアさんからもニヤニヤを感じる。


 抱えられて寝ていたことに、何か言いたいなら言えばいい。

 どう言われようと不可抗力だったと主張する。




 馬車から降りての朝ご飯休憩でも、護衛の皆様に謝罪だ。

「昨夜はご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございませんでした」


 こちらもケントさんを始め、皆様に労られる。

 なんだか気恥ずかしく思っていると、さらに微笑ましそうに見られ、さらに気恥ずかしい。くうっ。


 私が出したお菓子の箱は、シエルさんが亜空間魔法で預かってくれていた。

 あのまま食べてもらうには、私が大泣きをしてしまったので。

 雰囲気的に食べることができなかったのだろう。申し訳ないことをした。


 改めて保存食を食べたあと、皆様に振る舞えば、驚かれた。

「なんだこれは!」

「ふわっとして、口で溶ける」

「外はサクサクしてるぞ」

「甘いが、うまい」

 食レポか。コメント上手だね。


 ミニタルトの詰め合わせだったが、大絶賛だった。

 こちらの世界のお菓子は、固い焼き菓子などが中心らしい。

 砂糖は貴重品でもなく普通に流通しているそうだ。

 でもお菓子の技術は、そんなに発達していないという。


 また食べられるのかと訊かれ、少し考える。

「材料があれば、私なりのものは作れますけど、異世界の食材がわからないから、なんとも言えませんね」

「ぜひ作ってくれ!」

「売っていたら買う!」

「給料を注ぎ込んで買う!」


 主に護衛の方々に、熱く迫られた。

 肉体労働系の方々なので、甘い物は好きなようだ。




 その日もハードだった。

 街道ではない荒れた道を馬車で急ぎ、疲れるたびにエリアヒールをかける。

 シエルさんが結界を張り、強引に草原の中や、森の中の道などを進んでいるのだ。

 もちろんマリアさんによる、馬車への浮力付与もある。


 そうして昼頃に休憩をとったすぐあと、街道に出た。

 そこからバーデンまでは、それほどかからずに着いた。




 街の入り口は、異国の使節団である証明書であっさり通れた。

 異国の公式の使者を、交通の要となっている街が拒むなど、基本ありえないのだ。

 下手をすれば国際問題に発展する。


 犯罪者の国外脱出阻止など、王都からの指示が出ていれば別だが、王都からここまで通常速度では、あと数日かかる距離だ。

 早馬にしても、今回私たちが取ったような、回復魔法を酷使するような手段は使えない。

 無茶をした甲斐があり、早馬よりも私たちの方が先に、この街に着いたらしい。


 また国境にいったん向かったことでタイムロスはあったが、何か特殊な手段を使うとすれば、国境側に手を割くだろう。

 サフィア国へ行くことを、ここまで来れば邪魔されることはないはずだと言われ、ほっと息を吐いた。




 転移魔方陣がある施設へと向かう、ゆっくりペースの馬車の揺れに身を預ける。

 どっと疲れた。魔力値はまだ残っているが、気力が絞られた感じだ。

 隣のグレンさんから、また頭を撫でられた。


 そういえば、夜の配置が今日も続いている。

 体の大きさから、この配置が楽だと言われたのだ。


 進行方向に、普通の大人サイズの、マリアさんとシエルさん、セラムさん。

 逆側に大柄なグレンさんを真ん中に、縦には大きいが横幅は普通サイズなザイルさん、そしてチビの私。

 言われてみれば、サイズ的に都合がいいのだろうけれど。

 ことあるごとに頭を撫でられているのが、なんだか納得いかないのですが。




 転移魔方陣には、異世界召喚された私たち三人で、魔力を注入した。


 『私たちがこの国を出たら、けして私たちに干渉しない』の項目があるので、大丈夫だとは思ったけれど。

 自分たちの意思で国を出るという条件には、自分たちで転移魔方陣に、魔力を注入すれば完璧だと思ったのですよ。


 注ぎ込まれた魔力に、魔方陣が反応して光を放つ。

 その光が強くなり、ふわっと体が浮いた感覚がして。

 光が収まると、違う建物に立っていた。

 あの召喚のときの感覚に、少し似ていた。


 そうして私たちは、サフィア国のリオールという街にたどり着いた。


次回の別視点を挟んで、次の章になります。

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― 新着の感想 ―
こんなスキルだらけの国というか世界なのに、伝達魔法とかないのかぁ……。 今回は助かったとはいえ、早馬だよりとは不便な。
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