表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/159

111


 宿のコテージに戻り、今日はヘッグさんと一緒に竜人自治区へ転移した。

 ギドさんには、夕食になるものをテーブルに並べて帰った。


 ギドさんからの要望は、ケークサレとブランデーケーキ。

 ヘッグさんだけが食べて、おいしかったと言っていたので、自分も食べたいというご希望だった。

 スープ鍋も好きなものを選んでもらい、合わせてテーブルに置いてきた。


 ブランデーケーキは、また食べ尽くされる可能性がある。

 私も食べたいので、改めて作らなければならない。




「おおー、戻った戻った。ちょっとオレ、風呂に行ってくるわ!」

 転移でシエルさんの部屋に出た途端、ヘッグさんは快活に叫んだ。

 よほどお風呂に入りたかったみたいだ。


 そしてなぜか、グレンさんの首をひっつかんで、連れて行く。

 まだジェラシーな気分が残り、一緒にいたかった私は、グレンさんが連れて行かれてちょっと不満だったけれど。


 夜にイチャイチャする予定で気分を切り替え、厨房へ向かった。

 夕食準備には少し時間が早いので、まずはブランデーケーキだ。

 ついでにケークサレも少し多めに作っておこうかなと、生地を作っていく。


 そんなふうに調理を進めていると、ソランさんが帰ってきた。

「ミナ! 昨日のオコメっていうやつ、扱い方を教えてくれないか!」


 昨夜、私たちは夕食にリゾットを作った。

 これまでにない食事に、皆はちょっと戸惑った顔だったけれど。

 食べ始めれば、美味しいねと言って、完食してくれた。


 私たちの故郷の穀物が見つかったのだと、あのときソランさんには説明していた。

 新しい穀物ということで、ソランさんはとても気になっているようだ。




「私はお鍋で炊くのに慣れていませんけど、一緒にやってみますか?」

「頼む!」


 そうしてソランさんと一緒に、お鍋でご飯を炊いてみる。

 炊きたてご飯なら、今日は牛丼にしようと、お肉やタマネギなどを煮込んだ。

 温泉卵とか作ってみたいけど、こちらの卵の実で作れるだろうか。


 試しに温度や時間に気をつけて、温泉卵を作ってみると。

 ちょっと緩めだけど、温泉卵になった。


 まあ、これはこれでヨシとする。

 ご飯もちょっとお焦げが出来たけど、うまく炊けてくれた。

 早めの時間に取りかかったので、ティアニアさんとマリアさんが来る頃には、豚汁も含めてあらかた作り終わっていた。


「私もオコメの炊き方を覚えたいのに」

 ティアニアさんに、ちょっと拗ねられた。




 夕食は牛丼と、豚汁、そして唐揚げ。

 唐揚げは私がお弁当を作っているのを見て、マリアさんがティアニアさんに、どういう料理か説明し、一緒に色んな味を作っていたものだ。

 マリアさんが亜空間に、揚げたてを収納していた。


 うん。唐揚げって色んなアレンジがおいしいよね。

 スパイス系の葉っぱを使ったり、塩の実の醤油系など、色々とある。

 あと唐揚げにしてから、さらにソースをかける系もある。


 お昼ご飯とかぶった唐揚げだけど、味の種類が違う。

 なのでヘッグさんもグレンさんも、シエルさんまでたくさん食べていた。




 今日はガイさんが、夕食に遅れて帰ってきた。

 どうしたのかなと思っていたら。

「城からミナに、手紙を預かっている」


 またセラム様からかと思ったけれど、どうやらお城からということらしい。

 目の前の食事をひとまず完食していた私は、食事の席ではあるけれど、その手紙を開いてみた。


「夜会、ですか」

 内容は夜会への招待状。

 あのときの王妃様の言葉が、どうやら本当になってしまったみたいだ。


 他国の人も来られる夜会へ、聖女を招くように、各所から要請があったらしい。

 いっそ私が人前に出て、噂を払拭した方がいいという話も書いてある。




 私自身、あのときほど聖女であることを隠す必要は、もうないと思っている。

 そもそも竜人自治区にいれば、煩わしい接触をされることはない。

 神殿のおかしな動きも、地域性であって、神殿本部の意向じゃないみたいだし。


 一時は下手に顔バレして、竜人族の皆に迷惑をかけたらと、考えていた。

 でも今の噂を放っておく方が問題だ。


 私はグレンさんと番の儀をしたので、もう夫婦だ。

 なのに他の人が勝手に、私にセクシー系なお誘いを受けたとか言っているらしい。

 魔性の女とか、この私が言われているのは、圧倒的におかしい。


 私が人前に出て噂を払拭というのは、子供な見かけになっていることだろう。

 どう考えても、今の私は、噂とはかけ離れている。

 セクシー系な美女とかけ離れていると、自分で認識するのは、ちょっと傷つくけれども。




「わかりました。受けて立ちましょう!」

「夜会か。ドレスが必要だな」


 おっと、ザイルさんに指摘されて、そこはどうしたものかと、ちょっと困った。

 以前レティにドレスは頂いたけれど、あれは夜会で通用するのだろうか。

 夜会のお作法なども、よくわからない。


 既に予定されている夜会への出席依頼なので、開催までは十日ほど。

 準備期間のあまりの短さに、謝罪もされている。

 ここはレティに相談するべきかなと思っていたら。


「夜会へ出席するということなら、城で用意するそうだ。明日、ひとまず出席の意向だと伝えよう」

 ガイさんが、お返事を引き受けてくれた。




 その後夕食も済み、ブランデーケーキやケークサレ、その他料理を作り。

 聖水作りや寝る支度も済ませて、お部屋へ戻る。


 グレンさんは、私のお部屋のソファーで待ってくれていた。


「シホリに渡す物がある」

 そう言って、細長い布包みが差し出された。


 アクセサリーなどではなさそうだ。

 ずっしりとした重みの、腕の長さほどある、布に包まれたものだ。


 意外な重さだったけれど、グレンさんが手を添えていてくれたので、落とす危険はなかった。

 包みを開いてみれば。


「短剣、ですか?」

「武器を使ってみたいと、言っていただろう」


 なんと、魔力包丁と同じ仕様の、魔力を込めて斬るタイプの短剣だった。

 ヘッグさんのお風呂へのお誘いは、どうやらこれを用意するためだったみたいだ。

 急ぎで竜人族の武具職人へ依頼して、既製品に少し手を加えてもらったそうだ。




「ありがとうございます!」

「この仕様なら、シホリが自分で怪我をすることはないはずだ」


 そんなグレンさんの言葉には、微妙な気分になる。

 まるで私が運動音痴みたいな認識は、やめて欲しい。

 そりゃあまあ、グレンさんのように華麗に武器を振り回せる気はしないけれども。


「では明日は、これで魔獣をやっつけてみます!」

 私が意気込んで言うと、グレンさんに頭を撫でられた。


 なんだか慰められているみたいで、やっぱり微妙な気分になる。

 そう思っていたら。




「今日シホリは、嫉妬をしていたのだろうか」

 そうグレンさんから訊かれた。

「ヘッグが、嫉妬をさせてしまった後は、贈り物をしろと言っていた」


 それは私にバラす話なのでしょうか。

 ちょっと反応に困ってしまった。


 でも、そうか。

 それで考えついた贈り物が、この短剣なんだ。


 グレンさんが一生懸命に考えてくれた贈り物だ。もちろん嬉しい。




「嫉妬は、もちろんしますよ。だってグレンさんは、私の番なんですから」

 そう伝えると、グレンさんが私を大事そうに抱きしめてくれた。


 うん。焼き餅はもちろん、焼いてしまいますよ。

 だってグレンさんは、カッコイイから。

 シェーラちゃんだって、初恋がグレンさんだったと言っていた。

 今日みたいなことは、これからもあるかも知れない。


 グレンさんを信じる云々じゃなく、私が不快かどうかの問題だ。

 やっぱり他の人が、グレンさんに女性的な接触をするのは、嫌だ。




 あと、以前の聖水を使った魔獣討伐は、番の儀の直後なのに、グレンさんがひとりで行った。

 でも私だって戦えると見せておけば、次の機会は一緒に行ける。

 グレンさんの妻として、私だって色々とやれるのだ!


 子供の見かけで侮られても、私はグレンさんの妻だ。

 隣に堂々と立って、一緒にどこへでも行ける。

 そのためには魔法だけじゃなく、武器での戦いだって出来ると見せておきたい。


 うん。明日はこの短剣で、華麗に魔獣をやっつけちゃいますからね!









 翌朝、早くに目が覚めたので、また色々と早朝の調理をして。

 朝昼のご飯の準備を亜空間に収納して、シエルさんの部屋へ集合。


 ヘッグさんはまだ来ていなかった。

 待っていたシエルさんが、私とグレンさんに布を差し出してきた。

 見れば、魔方陣が刻んである。


「魔力譲渡の魔方陣だ」




 シエルさんは、あれから魔力譲渡について、考えていたらしい。

 魔力の相性が悪ければ死に至ることもあるので、通常は出来ない魔力譲渡。


「竜人族の番同士であれば、出来るだろう。ミナとグレンの間で使えばいい」

 だそうだ。


 私かグレンさんに、何か魔力について問題があれば、お互いに魔力を譲渡出来れば、色々と対処できるだろうという。

 確かに、何かのために持っておいて損はない。

 ありがたく受け取らせてもらった。


 あと増幅の魔方陣と魔道具を、考えているらしい。

 誰かの魔法の威力を増幅させるというものだ。

 どうやら米糠だったモロモロ素材で、そういう何かが出来そうだという。


 まだ構想中で、完成はしていない。

 でも浄化魔法の増幅なんて出来たら、かなり楽だろうと言われた。

 確かに、大規模瘴気溜りはキツかったので、そういう魔法があれば嬉しい。


 魔道具として完成させると、下手に悪用されると困る。

 だって攻撃魔法だって増幅できてしまうからだ。

 なので魔道具ではあるが、使用時に魔方陣が必要な仕様にするという。


 お待ちしておりますと、力強くお願いしておいた。




 ヘッグさんの合流後、朝の転移をして、ギドさんを交えて朝ごはんを食べる。

 やはりブランデーケーキは食べ尽くされていた。


「ヘッグが言ったとおり美味しかったあ!」

 満足そうに言われては、苦笑するしかない。


 まあ、美味しく食べてくれたなら、何よりだ。

 ヘッグさんもギドさんも、胸焼けはしていないみたいだし。




 ダンジョン行きの準備として、私はグレンさんから頂いた短剣を装備してみせる。


「おー、似合うな!」

 仕掛けたヘッグさんが褒めてくれたので、気を良くして軽く振ってみた。

 ヘッグさんは「お、筋がいいな」とまた褒めてくれる。


「グレンに手ほどきをしてもらったら、上達するんじゃないのか?」

 そう言われると、気分が上がってその気になったのだけれど。


「いや、オレは手加減がうまく出来ない。ミナに怪我をさせたくない」

 グレンさんから拒否られた。しょんぼりだ。


 でも結界を張った状態で、ダンジョンで剣を使う許可は出た。

 体に結界を張って、剣の部分は結界の外にあれば、攻撃は出来る。




 さて、その日は大きなトラブルもなく、存分にダンジョン攻略をした。

 武器での戦い方も学んで、私はご機嫌だ。


 なんとなく一人前の冒険者な気分になっているけれど、ヘッグさんとギドさんの視線は、相変わらず微笑ましいものを見る目だ。


 なんだろう、どういうことだ。

 強くなったと褒めてくれているのに、その微笑ましげな表情は何ですか。

 まるで子供のヒーローごっこを見る視線だ。


 きっと彼らからすれば、私はとっても弱いのだろう。

 まあ、本当に強い彼らみたいな、あんな動きは出来ないからね。


 でも結界で身を守ったままとはいえ、ちゃんとオオトカゲを剣で倒したのに。

 登録したての冒険者としては、まずまずだと思うんだけどなあ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
グレンちゃんがヒロイン 主人公よりグレンが可愛いな(笑)
更新ありがとうございます。 ブランデーケーキ、一晩で消費再び(苦笑) 「1週間置いたほうが美味しいよ」とか言われても、我慢できない魅惑の塊なのね~ 誘惑されたとか魔性とか関係の、真実の半分は『美味…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ