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 お米と味噌と、海苔のレシピの登録が済んで。


 ふうと、ギルド長がお茶を飲んで、長めに息を吐かれた。

「これからウズドのダンジョンに行かれるのですね」

 先ほどの話で、私たちの目的地を覚えておられたギルド長。


「そうです。ウズドのダンジョンです」

「あちらには、米のレシピで連絡を取りますが、少し騒がしくなるでしょう」




 そこから少し、ギルド長が話してくださったことによると。

 冒険者ギルド証を作らず、あちらの国に商業ギルドの身分証で出入りをするなら、少し面倒になるかも知れないそうだ。


 転移魔方陣があったホランのある国は、比較的緩めの体質だ。

 でもダンジョン都市ウズドがあるオブシスは、入国審査が厳重で、身分証の発行元に、詳細確認がなされる。


 米のレシピ登録については、今回権利を放棄したので、表に名前は出ない。

 でも商業ギルドの身分証で調査がなされたとき、その履歴は存在する。

 また、数々の特殊レシピ登録があることも、履歴に残っている。


 国にそこまで明かさないにしても、問い合わせがされた商業ギルドで、そういった人物が入国したと把握される。


 また、あちらの国の冒険者ギルドで登録をするときも同じだ。

 新たな身分証発行のため、元になる身分証の発行元に確認が入ることになる。


 入国審査にしても、あちらの冒険者ギルドで登録をするにしても、何かと騒がしくなる可能性があると言われた。




「ミナ様は異世界から来られ、ご自身の食生活を豊かになさろうというお考えで、食材見本を喜んで下さった。こうして新レシピの登録につながり、我々は有り難い限りです」

「こちらこそ。私もいろんな食材を見られるのは、ありがたいです」


 商業ギルド長は、活用できる食材が増えれば嬉しい。

 私は見知った食材が見つかって、気軽に食べられるようになれば嬉しい。

 これぞ、Win-Winの関係!


「ですが他地域の商業ギルドは、ミナ様のご事情までは存じません。短期間に新レシピを次々と登録される方に、食糧事情が悪い地域の商業ギルドとして、どう接触するかと考えると」

「実績だけを見ると、助けてくれそうだと思ってしまいますからね」


 ギルド長もテセオスさんも、情報だけを見て、あちらの商業ギルドの人が、食糧事情の改善のために接触してくる可能性があると、思われている。


 なるほど。確かに困る。

 今みたいに、食材見本をくれて自然と成り行きに任せてくれる程度ならいいけど、なんとか食料になる物を見つけて欲しいみたいに言われても、困る。

 だって知った食材じゃないと、私だってわからない。


 また、助けを求める以外に、利権絡みの接触も考えられるそうだ。

 商業ギルドの中にも、いろんな考えの人がいる。

 画期的なレシピ登録者へ、計算尽くで接触して来ることも考えられるらしい。

 何それ怖い!




「よろしければ今から私と、この王都冒険者ギルドで冒険者登録を行いましょう」


 王都の冒険者ギルド長と、商業ギルド長は知り合いだ。

 直接話をして、良いように取り計らってくれるという。


 冒険者ギルドの身分証であれば、冒険者としての履歴だけが調査対象になる。

 新人冒険者というだけなら、特に騒がれることはない。


 そういうことならありがたい。

 というわけで、王都の冒険者ギルドで、冒険者登録をすることになった。




 実は冒険者ギルドという響きに、シエルさんも私もソワソワしている。

 だって、冒険者ギルドですよ。

 ファンタジーの定番。RPG的なこの響き!


 商業ギルドの馬車で、商業ギルド長と私、グレンさん、シエルさん、ギドさんの五人で、冒険者ギルドへ向かった。

 先に帰るテセオスさんは、モズさんが買い出しついでに、馬車で送ってくれる。


 冒険者ギルドも、商業ギルドに劣らず立派な建物だった。

 厳つい印象なのは、冒険者ギルドらしい感じだ。


 商業ギルドは、きっちりとした身なりの人が多く出入りしていた。

 対してこちらは、物々しい出で立ちの人が多い。

 金属系のプレートで胸元を覆っていたり、革鎧みたいなのをつけていたり。

 あとはマント的なものを身につけている人も多い。


 どうやら温度調整が出来るマントが、冒険者の間で流行っているそうだ。

 野宿でも、それで身を包めば快適なのだとか。

 懐事情に余裕があれば、無理をしてでも買いたいアイテムなのだという。


 私も欲しいなと思ったら、今の上着にもその機能をつけてくれているらしい。

 ソルさん、マリアさん、ありがとう!




 冒険者ギルドの中は、通常窓口がいくつか。

 そして個別窓口として、『鑑定買取』『解体受付』などがある。


 新たな登録や、一般の人が冒険者ギルドへ依頼をするのは、通常窓口。

 登録済み冒険者が依頼を受注するのも、同じく通常窓口だ。


 鑑定買取は、採取した素材を個別に鑑定、査定して買い取ってもらうための窓口。

 何かわからないけれど、有益だろうと思う物を採取したときや、受けた依頼と異なる物を採取してしまったときは、そちらになる。

 鑑定スキル持ちが窓口担当として、鑑定してくれる。


 解体受付はそのまま、魔獣の解体を有料受付している。

 冒険者は自分で解体することが多いため、扱いの難しい素材が持ち込まれる。

 大物で自力解体が出来ないものや、特殊で扱いの難しい素材などだ。


 そんな一般知識を、ギドさんが説明してくれた。




 さて、冒険者ギルドの窓口に商業ギルド長が向かわれて。

 少しやりとりをしたあと、奥から別の人が出て来て、上の階に案内された。


 応接室のようなところに入る。

 どっしりとした家具の、重厚なお部屋だ。

 壁には立派な大剣と、槍のようなもの、大きな骨が飾ってあった。

 うん。なるほど。冒険者ギルドっぽい。


 シエルさんが、ワクワク感丸出しで周囲を見回している。

 ソファーも重厚そうに見えたけど、座り心地は良かった。

 身体が沈み過ぎない、程良い硬さだ。


 しばらく待ってから部屋に入ってきたのは、初老の紳士。

 上背と肩幅はあるものの、温和な紳士らしいタイプに見える。

 ちょっと意外な気はしたけれど、その人が冒険者ギルド長らしい。

 商業ギルド長のボンドさんと、親しげに挨拶を交わしている。




「こちらが聖女のミナ様です」

 商業ギルド長はまず、私を聖女として紹介した。


「おおお、あなたが聖水を商品として扱うことにして下さった」

「あ、はい」

 どうやら聖水、冒険者ギルドで商品として重宝しているらしい。


 国には私が納めた聖水が納品されているけれど、あのあと聖スキル者が持ち込んだ聖水も、商品として活用されている。

 そちらは冒険者ギルドにも販売されているそうだ。


「瘴気溜り関係の魔獣を浄化するのに、非常に助かります」

 素材は稀少だけれど、瘴気を含む素材なので扱いが難しかった。

 それが、低魔力の聖水で浄化できるのが、非常に有益だという。


 この周辺だけでなく、各地でも扱われ始めているそうで、画期的な発案だと喜ばれているらしい。

 そう聞くと、人の役に立てた気がして、ちょっと嬉しくなる。




「神殿に依頼をすると、何かと面倒だったのが、いやあ、有り難い」

 紳士らしい服装と振る舞いの中、ニヤリと笑った顔がちょっと物騒な印象になる。


「ゼノン、素が出ていますよ」

 商業ギルド長が、そう呼びかけて、また紳士らしい笑みに戻る。

 なるほど。素はそちらみたいだ。


 よく見れば、ゆったりした服で、ムキムキ体型を誤魔化しているみたいだ。

 上背があり、肩幅の広さも均整がとれているので、わかりにくい。

 威圧感はないけれど、隠している雰囲気もある。


 なるほどギルド長。どちらも曲者だ。

 でも友好的だし、頼もしい味方と思っていいのだろう。




 改めてソファーに座り、商業ギルド長がお米の話をした。

 そのお米の産地近辺であるウズドのダンジョンへ、私が行くことを話されると、冒険者ギルド長は難しい顔になった。


「あそこは今、初心者が行くには不向きなダンジョンですが」

 ダンジョンの変動期は、浅い層でも危険だと、注意をしてくれる。


「変動期だからこそ、行く必要がある。聖女の役割に関することだ」

 グレンさんの発言に、冒険者ギルド長がグレンさん、ギドさんを見た。


「なるほど。竜人族の高ランク冒険者が同行されるか」

「ミナはオレの番だ。番を危険に晒すことはしない」

「他には?」

「ヘッグも行く。それにミナとシエルは、結界魔法が使える。危険に対して、本人たちでもかなり対処が出来る」


 なるほどと、冒険者ギルド長が頷かれた。




「聖女様が変動期のダンジョンに向かうのは、必要な理由があるということだな。まあ、竜人族の方々が知る情報を、深くは聞くまい」

 そう言ってから、冒険者ギルド長はしばらく考え込んで。


「それで、今回ここに来られた目的は?」

「あちらに出向く前に、こちらで冒険者登録を済ませておくべきかと思いまして」

「確かに。商業ギルドの身分証で動くのはまずいな」

 商業ギルド長の言葉に、冒険者ギルド長が頷く。


「どっちみちダンジョンに入るなら、冒険者登録は必要になる」

「ええ。なので先に冒険者登録を。ホランは緩いので問題なかったようですが、オブシスではそうは行きませんからね」


 にこやかな商業ギルド長の言葉に、冒険者ギルド長が反応した。

「待て。ホランにもう行ったのか?」

「だからこそ、オコメという食料の発見があったのです」

「日数がおかしいだろう」


 冒険者ギルドも、かなり情報を持っている。

 聖水が日々お城に納品されていることで、私が竜人自治区から動いていないと判断されていたようだ。


「任意の地点を結ぶ、転移魔道具を開発されたそうですよ」

「あア?」


 さらりと言われた商業ギルド長の言葉に、冒険者ギルド長がチンピラみたいな声を上げた。

 顔つきも、ちょっと凶悪な感じだ。紳士とのギャップがすごい。




「ええ、あなたも巻き込まれて下さい。私だけでは、手に負えない」

 商業ギルド長が、何やらひどいことを仰っている。


「今までに無かった魔道具開発。賢者か」

「そうですね。異世界から来られた賢者様ですね」


 冒険者ギルド長が頭を押さえ、獰猛に唸る。

 もう素を隠しもしていない。


「オイイイイ、頼むから、見つからないようにしてくれよ。とんでもないシロモノじゃねえか」

 叫ぶ声が懇願だ。

 そして視線は、私たちを一巡りしたあと、ギドさんを見据えている。


 ギドさんが、苦笑で頷いた。

「ボクとヘッグが目を光らせて対処するよお。基本の転移先は竜人自治区内で、宿の部屋から転移予定だからねえ」

 本当に頼むからなと、冒険者ギルド長がギドさんの肩を揺すっていた。




「今のところ、魔力をかなり使うから他の者の利用は難しいだろうな」

 グレンさんの言葉に、シエルさんも頷く。


「私は一万を超える魔力だが、かなり限界まで注いだ。私が足りない分は、ミナとグレンがかなりカバーしてくれていたのだろう」

「昨夜のことなら、私は二万ちょっとでしたね」

「オレは魔力共鳴で、ミナの注ぐ魔力より、少し多く注ぐようにしていた」


 グレンさん、知らない間に器用なことをされていたようだ。

 私が回復魔法を使っている分、自分が多く魔力を負担してくれたみたいだ。


「三人の転移で六万ほどの魔力なら、エルフでも扱いは難しいだろう」

 そんなグレンさんの言葉に、なるほどと冒険者ギルド長が頷く。

 一般的に扱いが難しい魔力量が必要と知り、ちょっとひと安心な顔だ。


 それでも魔宝石の補助など、色々と手段はある。

 とにかく知られないようにしてくれと、念押しをされた。




 そうして無事に、冒険者登録を、ギルド長自らにして頂いて。

 注意事項については、まとめられた冊子を読むように渡された。


 依頼が遂行できなかった場合の違約金。

 依頼関係の情報を漏らした場合の罰則について。

 普段いない場所で魔獣を目撃した場合はギルドへ必ず報告する。

 冒険者同士の争いごとが生じた場合、必ず調停申し入れをギルドにする。

 そうした数々の約束事が書かれている。


 手書きの冊子は、新しく冒険者登録をする人に、必ず目を通させる内容だという。

 文字が読めない場合は、ギルド職員が読み上げることになる。


 なるほど、これが今の信頼される冒険者ギルドとして、冒険者に求めていることかと納得できる内容だった。


 説明後、誓約文書にサインを書く段階で、誓約の呪術らしきものが使われていた。

 シエルさんが、それに気づいた。


「口約束で、守られなかったら、意味がないからな」

 冒険者ギルド長は、悪びれずに言った。

 約束をして困る内容ではないので、書類にサインを入れた。




「有益な素材があれば、あちらのギルドじゃなく、こっちに卸してくれよな!」

 最後にそんな要望がされた。

 私とシエルさんが、亜空間収納を使えるためだ。

 いろんな素材を持ち帰れると知り、ご機嫌になられた。


「変動期のダンジョンは、かなり珍しい素材も得られる。頼んだぞ!」

「ゼノン、口調」

「おっとォ。よろしくお願い致しますね」


 最後は紳士に戻られたけど、かなり素を見てしまった。

 うん。面白い人だ。


前々話の後書きにも書きましたとおり、更新ペース落としてます。

5日毎くらいのペースに切り替えました。

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