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 翌朝、転移した先でヘッグさんと朝食をとり、お仲間との合流場所に向かった。

 そこでお会いした、新たな竜人族の人は。


「はじめましてえ、聖女ちゃんだね。ボクはギドといいますう」

 ちょっと語尾が伸びてる、なよっとした印象の人だった。

 髪色からは、赤竜族だと思えるけれど。

 なんとなく白竜族にいそうなタイプかなと、勝手に思う。


 なよっとしているのは、体格ではない。

 そちらはヘッグさんと同じように、がっしり筋肉体型だ。

 でも動作や仕草が、なんとなくなよっとして感じる。




「はじめまして。グレンさんの番のミナです」

「私は賢者のシエルだ。よろしく頼む」


 私もシエルさんも、そこはスルーして笑顔でご挨拶した。

 異世界でオネエさんは初めて会うけれど、まあ、もちろんいらっしゃるだろう。

 竜人族にというのが、意外ではあったけれど。


「こいつはこうだけど、オレらと同じく、番探し中の竜人族だ」

「ちょっとォ、こうって何だよお。ボクのこれは、皆さんを和ませる温和な態度で好評なんだからねえ」


 うん。オネエさんというわけでも、ないらしい。

 でもお互いに騎獣を連れて、街の外へ向かいながら話を聞くと、可愛い物やキレイな物が好きな、ちょっと乙女なタイプみたいだ。

 まあ、お仲間と合流できて何よりです。




「今朝の合流は、ずっと前から連絡していたんですか?」

 連絡手段が不思議だったので、訊いてみれば。


 冒険者ギルドには、所属する団体の貢献度により、その団体の私書箱的なものを開設することが出来るそうだ。


 基本的に冒険者登録は個々のものだ。

 でも冒険者同士で、協力し合うための組織が作られるケースもある。


「なるほど、クランか」

 シエルさんがそう呟いて、ギドさんが「そうそう、クランだよー」と答えた。


 どうやら冒険系のゲームで、そういう集団に所属する設定のものがあり、クランというらしい。

 オンラインゲームには詳しくないので、私は初耳だった。


 竜人族は、冒険者ギルドの最大クランだという。

 竜人族そのものに冒険者率が高い上、竜人族同士の絆が深い。

 なるほどなるほどと頷いた。




 竜人の里や竜人自治区には、手紙をやりとりする魔道具がある。

 以前、商業ギルドでもそういった魔道具を使っているという話があった。

 同じように、冒険者ギルドでも活用されているようだ。


 冒険者ギルドが世界規模で大組織なのは、地域の安全に貢献しているからだ。

 例えば以前、アランさんと行ったフィアーノ公爵領の瘴気溜り。

 あれにはちゃんと、公爵家の騎士団が対処をしていた。


 でも地域によっては、その地できちんと対処がなされないケースがある。

 たとえば国に属していない土地であったり、そこの領主がすぐに対処できない理由があったり。


 冒険者ギルドは、そうした魔獣の発生を察知すると、魔獣狩りの依頼をギルドから出すことがある。

 状況によっては他地域にいる、高ランク冒険者に依頼をすることもある。

 なので、各地の情報交換は、非常に大事なのだ。


 ギルド側にしても、その土地が荒廃してしまっては安全な運営が困難になる。

 特殊素材の納品など、ギルド側にも利点はある。

 その後きちんと国が対応して、冒険者ギルドに報酬を支払うケースも多い。




 ただし、冒険者ギルドも無闇にそうした事案に手を出しているわけではない。

 戦争中の国や、紛争地域からは、冒険者ギルドが撤退することもある。

 あまりにも身勝手な国に、冒険者ギルドは拠点を置くことは出来ない。

 それは商業ギルドも同じだ。


 かつて二大ギルドが長期に渡って撤退していた国が、滅びたケースもあるという。

 国の戦力だけでは、魔獣被害が防げなかったとか。

 必要な物資供給が滞り、多くの人が逃げ出したとか。

 色々と理由はあったそうだけど。


 商業ギルドも冒険者ギルドも、それほど影響力が強い。

 冒険者というと何でも屋的なイメージがあったけれど、ギルドに所属するからには、ルールは守らせているそうだ。


 かつて冒険者ギルド創設の当初、冒険者とならず者は似たようなものだった。

 でもその扱いのままでは、冒険者の仕事は非常に少ない。

 新たな冒険者を育てるには、安全な仕事で経験を積むことも必要だ。


 今の冒険者ギルドになるためには、色んな人の、様々な貢献があった。

 そうして今の、きちんと依頼を遂行する冒険者という価値観、信頼を勝ち取った。


 今もその信頼を継続するため、各地の安全に関する情報をマメに共有している。

 そのネットワークを活用し、貢献度の高いクランに、私書箱を使わせてくれる。


 そんな話を、少し身をくねらせながら、ギドさんは教えてくれた。




 さて、冒険者ギルドの私書箱的なものに話は戻る。

 竜人族は冒険者ギルドへの貢献度も高いので、私書箱が使える。

 その私書箱で、各地の竜人族ネットワークが繋がっている。


 各地で竜人族の人たちが知った情報が、その私書箱で竜人の里に送られる。

 竜人の里は、竜人自治区とも情報共有をしている。

 そして各地の竜人族も、その私書箱情報をギルドで確認出来る。


 もちろん全ギルドの私書箱に発信しているものではないけれど、竜人族であれば、私書箱で情報の受け取りが出来て、竜人族同士も私書箱を使える。

 今回はヘッグさんが、私書箱経由でギドさんに合流の連絡をとっていた。




 グレンさんが各地のダンジョンの状況を知っていたのも、竜人族ネットワークによるものだ。

 それで変動期になっているダンジョンを知り、精霊王の居場所を特定した。


 他に、各地の瘴気の状況も、ある程度把握しているそうだ。

 どうしても現地で対応出来ないような、瘴気関係のトラブルには、竜人族の聖魔法スキル持ちが出向くこともある。

 竜人族は、聖女不在の間、ずっと瘴気の対処をしてきてくれた。


 そして各地の竜人族は、この世界に聖女が復活したことも、竜人族ネットワークで知っている。

 ついでに私がグレンさんと、番の儀をしたことも。

 ギドさんも、私書箱情報でそれを知っていたという。


 各地の竜人族が、私がグレンさんの番になったことを知っている。

 見知らぬ人たちにまで、私の情報が知れ渡ってしまっているという、ちょっと微妙な気分になることを知ってしまった。









 街の外へ出て、騎獣に乗ってウズドを目指す。

 外の景色も転移前のサフィア国とは、ずいぶん違った印象を受ける。


 荒れ地も多い中、あちこちに巨大な葱坊主みたいな植物が生えている。

 たくさんあるそれを、グレンさんに抱えられながら、なんとなく鑑定していた。

 なぜなら、ふと鑑定してみたときに「中の種子は食用」と出たからだ。


 食用なら、どんな食材なのか。

 地球の何かに似ているのか。

 興味を持って深く鑑定してみていると。


「え、お米!」


 なんとお米だった。

 中の小さな種子をきちんと処理すれば、地球の米に似た食材になる。

 そうヘルプ情報で出てきた。




「ん? それがどうかしたのか?」

 私が葱坊主に反応したことで、ヘッグさんが変な顔をした。


「あれ、食用な上に、お米なんです! 私たちの国の主食だったお米!」

「米だと! それに米が入っているのか!」

 シエルさんも興奮しているので、さらにヘッグさんは変な顔になる。


「この中身か? これは臭いし食えたものじゃないだろう」

 ヘッグさんは大きく顔を顰めていた。

 こんなものが主食だったのかと言いたげな顔だ。


 この中身は、特殊なポーションの材料だという。

 一時的な魔法の威力を高められる、魔力関係のポーションらしい。


 あるときヘッグさんが採取依頼を受け、素材部分を仕分けて持ち帰ろうとしたら、とても臭かったそうだ。

 まあ、見た目からして地球の稲とは違うので、色々と違いはあるだろうけれど。

 本当にこれが私たちの知るお米として扱えるのか、ちょっと不安になってきた。




 ひとまず騎獣たちには止まってもらい、葱坊主を詳しく鑑定する。

 食用になるのは、この大きな葱坊主の中にある、小さな種子だけ。

 種子を包む部分を丁寧に取り除き、種子だけにすれば食べられるらしい。

 なるほど。臭いのは糠のような部分か。


 鑑定のヘルプ情報では、熟れて弾けるほどになると、周囲の成分が種子にも入り込んで、食べられない状態になるそうだ。

 今の葱坊主状態が、ちょうど美味しいと出ている。


 なのでグレンさんの腕から飛び出して、葱坊主の丸い部分を収穫し、包丁で半分に割ってみた。

 ちょっと固めの殻だけど、さすがの魔道具包丁、あっさり切れた。


 中には黒いモロモロした感じの物が詰まっている。

 このモロモロは、あちらの世界の糠にあたるものなのだろうか。

 なるほど、変な臭さだ。




 このモロモロは、どの程度の作業で分離できるんだろう。

 精米みたいな作業をすればいいのだろうか。


 中を探ると、確かに固い粒がたくさんある。

 このモロモロと分離させれば、お米になりそうな感じはする。


「糠にあたる部分に違いはありそうですけど、この粒々の中心がお米です。あと熟れて弾ける前の、この状態がいいそうです」

 私が言うと、へえとヘッグさんの感心した声。

 逆にギドさんが、ちょっと懐疑的だ。


「ミナちゃんのこと疑うわけじゃないけどお、これが美味しくなるって、ちょっと考えられないなあ」

「大丈夫だ。ミナが作る物は、色々と美味い」


 なぜかヘッグさん、私の料理への信頼度が高い。

 ここで納豆とか作って見せたら、きっとこの信頼度はガタ落ちするはずだ。

 異世界の食べ物がすべて、この世界で受け入れられるとは思えない。

 一応は、一般受けするものを作っているので、受け入れられているのだろう。




 野外調理が出来る、コンロ型魔道具をヘッグさんは持っているという。

 でも精米をどうするかが困ってしまう。


 考え込んでいると、ヘッグさんが提案してくれた。


「なあ、これがもし食料になるなら、かなり大きな話になる。オレが転移魔方陣を預かって進んでおくから、いったん帰ったらどうだ?」




 ヘッグさんが言うには、このあたりは植物の育ちが悪く、常に食糧事情が深刻だ。

 この葱坊主は、ここらへんの植生に適しているのか、勝手に生えている。

 でも、臭くて食べられない、食料ではない認識だった。


 あと無理に食べた人が、下痢をしたこともあるそうだ。

 なるほど。特殊なポーションの材料というし、薬と毒は表裏一体とも聞く。


 食材にするには、きちんと処理方法も一緒に広めなければいけない。

 でも食べ方さえ広めれば、このあたりの食糧事情の大幅改善に繋がる。


 お米はこの周囲の食糧事情を変える、大きな発見になりそうだ。




 お米発見に気分が沸き立ったものの、また大事になりそうだ。

 ここはサフィア国王都の商業ギルド長に、丸投げするべきか。


 そんなわけで、まずは葱坊主をいくつか急いで収穫。

 鑑定しながら収穫すると、いろんな種類が混ざっていて、餅米もあった。

 一般的な、うるち米に似たものもある。

 種類によって、少しずつ色味が違っている。


 シエルさんにそっと伝えると、顔が喜びに輝いた。

「普通の米だけでなく餅米もあるなら、色々と食べられるんだな。白米もいいが、おこわもいいな。おはぎや餅入りぜんざいも最高だな!」




 転移場所をどうするか迷ったけれど、幸い周囲に人はいない。

 背の高い、巨大葱坊主に囲まれて、人目は遮られている。


 ここで結界魔法を展開して、転移をしよう。

 結界を張った私が転移をすれば、解除される程度の結界にすればいい。


 私たちが転移したあとは、転移魔方陣の敷物を、ヘッグさんに運んでもらう。

 そして私たちがまた合流するタイミングで広げてもらい、転移して来る。




 私たちはヘッグさんと、どう合流するかを打ち合わせた。

 そしてヘッグさんとギドさんの話し合いで、なぜかギドさんが、一緒に来ることになった。


「復活した聖女の非常識さを、見ておくといい」

 いやそれ、どういう意味ですかね、ヘッグさん。


諸事情で更新を週1~2度くらいにペースダウンします。

出張モロモロで今のペースが厳しくなりました。


感想も読ませて頂いております、ありがとうございます。

お返事は出来ずに申し訳ございません。

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