第9話:僕が出来る事~デイズ視点~
王宮でのフランソアの変わり果てた姿を見て、僕は驚愕した。いつも笑顔のフランソアが、暗い顔をして俯いていた。かなり体重も落ちたのか、やせ細っていてまるで別人の様だ。
さらに意地悪な教育係に激しい叱責を受け、必死に涙を堪えている。他のお妃候補者たちには、酷い暴言を吐かれているし。それに何よりも、王太子殿下はフランソアを庇う事すらしていない。
何なんだ…この光景は…
フランソアに対する酷い扱いに、怒りがこみ上げて来た。一刻も早く、フランソアをこの地獄から助け出したい。こんなところで指をくわえて見ているだけだなんて、耐えられない!
そんな思いから、僕はフランソアの実家でもあるシャレティヌ公爵家へと向かった。そして、王宮でフランソアが酷い扱いを受けている事を、事細かく説明した。
「フランソアはやっぱりその様な扱いを受けているのだな…」
「やっぱりとは、どういう事ですか?」
「実は夜会などでフランソアを見かける事があるのだが、日に日にやつれていて…笑顔も消えてしまっていたから、気になっていたのだよ」
「それを分かっていながら、どうして今まで放っておいたのですか?フランソアは今も、王宮で辛い思いをしているのですよ。一刻も早く、連れ戻しましょう!」
「私もそうしたいのは山々なのだが…フランソアが“自分で決めた事だから、大丈夫です”と言って、頑なにお妃候補を辞退しないんだよ。あの子は変に頑固なところがあってね…」
そう言って公爵がため息を付いている。だからといって、このままにしておく訳にもいかない。
「とにかく、後1年半の辛抱だから、大丈夫の一点張りなんだよ。後1年半で、王太子殿下の婚約者が決まるだろう?」
確かに後1年半で王太子殿下の婚約者が決まる。でも、フランソアがあんな姿になっているのに、そのまま放置している王太子殿下なんかに、大切なフランソアと結婚させてもいいのだろうか?
考えれば考えるほど、王太子殿下に対するいら立ちが増す。
「とにかくフランソアが自分で決めた事だ。私達は見守るしかない…」
そう言ってため息を付く公爵。
公爵家を後にした後も、心がモヤモヤする。このまま僕は、何もしないまま変わり果てたフランソアを見守り続ける事しかできないのか?
考えれば考えるほど、胸が苦しくなる。その日は一睡もできなかった。
翌日、僕は両親と共に、再び公爵家を訪れた。
「公爵、夫人、どうか僕を養子として迎え入れて下さい。この家は、僕が継ぎます!」
「デイズ、一体何を言っているのだ?確かに私は君に公爵家を継いでくれたらいいと思っていた。でも…フランソアは王太子殿下といずれ結婚するのだよ」
「…分かっています。それでも僕は、この家でフランソアを待ちたいのです。それに公爵家だって、このままいけば跡継ぎがいなくて家が絶えてしまう。フランソアの為にも、この家を絶えさせることは絶対にしてはいけないと思っております。ですから、どうかお願いします」
「公爵、デイズはどうしてもこの家で、フランソア嬢を待ちたいみたいなんだ。息子の願いを叶えてやってくれないだろうか?もちろん、フランソア嬢が予定通り王太子殿下に嫁いだとしても、デイズにはいずれ公爵として、シャレティヌ公爵家を支えて行く覚悟を持っている。だからどうか頼む」
父上が公爵に頭を下げた。
「分かったよ。デイズがこの家を継いでくれるなら、私たちも言う事はない。それじゃあ、早速養子縁組をしよう」
「ありがとうございます、公爵。ただ、僕と公爵家が養子縁組をしたことは、しばらくは内緒にしておいて欲しいのです。もしフランソアがお妃候補を辞退したいと思った時、僕が既に養子になっていたら、フランソアが家に帰って来にくいかもしれません。フランソアは僕の気持ちを知りませんから」
フランソアの事だ。僕が公爵家に養子に入ったと人づてに聞けば、もう自分の帰る場所はないと、腹をくくるだろう。それだけはして欲しくないのだ。あわよくばフランソアには、お妃候補を辞退して、この家に帰ってきて欲しい。そう思っている。
「分かったよ、それじゃあ、私とデイズの養子縁組は、王太子殿下の婚約者が発表された後に行おう。それでいいかい?」
「はい、もちろんです。ありがとうございます。早速今日からでもこの家で一緒に暮らし始めてもいいですか?」
「もちろんだ。まさかデイズが私の息子になってくれるだなんて、こんなにも嬉しい事はない。妻と2人での生活は、なんだか寂しくてね。デイズがいてくれたら、また賑やかになる」
そう言って笑った公爵。
早速養子縁組の書類にサインをし、晴れて僕はデイズ・シャレティヌになったのだ。その足で、騎士団の脱退手続きを行った。騎士団長からはかなり引き留められたが、もう騎士団に未練はない。
そしてその日から、僕は公爵になる為の勉強をするとともに、密かに公爵家を改装した。手始めに中庭にフランソアが好きなダリア畑を作らせたのだ。このダリアはちょっと特殊で、1年中花を咲かせることが出来る。
その為、フランソアがいつ帰って来ても、いつでも満開のダリア畑を見る事が出来るのだ。
そしてフランソアの専属メイドでもあるカルアにフランソアのサイズを聞き、これでもかというくらい、ドレスも作った。僕とフランソアの色でもある、青系のドレスを中心に作らせた。
そして王太子殿下の色でもある、黄色系や紫のドレスは一切作らなかった。
クローゼットいっぱいに並んだフランソアの為のドレス。もしかしたら、一生着られることはないかもしれない。それでも僕は、この場所でフランソアを待ち続けたい。そう思ったのだ。