第7話:皆過度の心配性です
翌朝、いつもの様に目を覚ますと、懐かしい天井が。そうか、私、実家に帰って来たのだったわ。それが嬉しくて、飛び起きた。
「お嬢様、昨日は色々とあって疲れたでしょう。どうかもう少しお休みください。ここには口うるさい教育係もおりませんから」
そう言って苦笑いしているのは、カルアだ。
「カルア、あなたにもこの5年、いやな思いをさせてしまってごめんなさい。全て私の我が儘のせいよ。本当にあなたには申し訳なく思っているわ。あなた、この5年間、ほとんどお休みをとってなかったでしょう?どうかしばらく、ゆっくり休んで。お父様にも話しておくから」
そう、カルアはこの5年、休みもろくに取らずに、ずっと私の傍で支えてくれたのだ。全て私の我が儘のせいで、カルアには随分気苦労をかけてしまった。
どうかこれからは、ゆっくり過ごして欲しい。
「ありがとうございます、お嬢様。でも私は、働く事が好きなのです。それに旦那様から、かなりの額の報酬を頂いております。そのお陰で我が実家は、御殿が建っておりますわ。弟や妹たちもかなりぜいたくな暮らしをさせていただいておりますし。ですから、私の事は気にしないで下さい」
カルアは確か男爵家の長女だったな。家の為に頑張って働いているだなんて、同じ貴族として本当に尊敬する。
「それなら尚更、一度実家に帰ってあげて。あなたのご両親やご家族の方も、あなたの顔を見たいと思うの。やっぱり実家はいいものよ。ね、お願い」
「はぁ~、お嬢様は…分かりましたわ。それでは少しだけ実家に帰って参ります。それでは失礼いたします」
どうやら私のお願いを聞いてくれた様だ。本当によかったわ。そうだわ、せっかくだから、中庭でも散歩しよう。
そう思い、中庭に出る。本当に美しいダリア畑ね。デイズお兄様ったら、私の為にこんな立派なダリア畑を作って下さっただなんて…
せっかくなので、奥の方まで行ってみる。すると、デイズお兄様が数名の護衛相手に、剣の稽古をしていた。
真剣な顔で護衛と打ち合うお兄様。護衛3人がかりでも、簡単に倒してしまった。
そう言えばデイズお兄様は、ガレディズ侯爵家の次男という事もあり、騎士団に所属していたのよね。もう騎士団は辞めたのかしら?それにしても、強いわね。それにあんな真剣な表情のデイズお兄様、初めて見たわ。
素敵ね…
「フランソア、そんなところでのぞき見していないで、こっちにおいで」
あら?どうやら気付かれていた様だ。のぞき見だなんて、人聞きが悪いわね。
「おはようございます、デイズお兄様。お兄様の剣の腕、素晴らしいですわね。これほどまでの腕がおありでしたら、相当騎士団の中でも、上の位にいらっしゃるのではないですか?」
「騎士団は1年前に辞めたよ。僕はあまり器用な方ではないからね、公爵になる為の勉強と騎士団の両立は無理だと判断したんだ。ただ、体を動かすのは好きだから、こうやって毎日稽古を行っているんだよ。それに強くないと、フランソアを守れないしね」
ん?私を守る?よくわからないが、デイズお兄様が器用ではないとは思わない。
「デイズお兄様なら、公爵のお勉強も騎士団のお仕事も両立出来たと思いますわ。それに、そんなにお強いのに、辞めてしまうだなんてなんだか勿体ないですね…」
「フランソアは、騎士団員の僕の方が好きかい?それなら、もう一度騎士団に入団しようかな?」
「もう、どうしてそこで私が出てくるのですか?私は別に騎士団員には興味がありませんわ。ただ、せっかくお強いのに勿体ないなと思っただけです!」
「元々騎士団には未練なんてないよ。それよりフランソア、いくら屋敷内だと言っても、あまり朝から人気の無い場所をフラフラと出歩くのは良くないよ。さあ、屋敷に戻ろう」
私の手を握り、歩き出したデイズお兄様。
「公爵家は厳重な警備を行っておりますので、そんなに警戒しなくても大丈夫ですわ。それにもう私は、お妃候補ではなくなったのです。そうですわ、せっかくだから、街に出て買い物でもしたいですわ。きっとこの5年で、随分と変わっているのでしょうね」
この5年、夜会とお茶会以外で、王宮の外に出る事はほとんど許されなかった。だから久しぶりに街に出たい、そう思ったのだが…
「フランソア、街に出るのは、もう少し後にしよう。とにかくしばらくは、屋敷で過ごすように。分かったね。それから、移動するときは必ず使用人を連れて歩くように」
「あら、どうして?わざわざそんな事をしなくても…」
「デイズの言う通りにしなさい」
話に入って来たのは、お父様だ。後ろにはお母様もいる。
「フランソア、朝から勝手にウロウロしてはダメでしょう?とにかく、しばらくは家でゆっくり過ごしなさい。いいわね」
お父様とお母様までそんな事を。
きっと私の事を心配しているのだろう。でも、少し過保護過ぎない?
「フランソア、そんな悲しそうな顔をしないで。あなたはこの5年、大変な思いをして来たのよ。どうかしばらくは家で、ゆっくり心を休ませてあげてちょうだい。いいわね」
「分かりましたわ…」
きっと皆、私を心配するあまり、少し過保護になっているのだろう。まあ、心配をかけたのは私だし、ここは皆の言う事を聞いておこう。
次回、デイズ視点です。
よろしくお願いしますm(__)m