第44話:被害者は私だけではなかった様です
「フランソア、そんな酷い事を言わないでくれ。別にそんなに怒らなくてもいいだろう?僕はただ、君に振り向いて欲しかっただけなんだよ」
「振り向いて欲しいのなら、薬なんて卑怯な事をしないで、相手に好きになってもらえる様に努力するものではないのですか?そもそもあなたは、私の気持ちなんて全く考えていないではありませんか?ふざけるのも大概にして下さい!」
涙がぬぐいながら、殿下に訴える。惚れ薬で私の心を操っていただなんて。私の気持ちなんて、全く考えていない証拠だ!こんな男の為に、今まで辛い思いをしていただなんて…
「ジェーン殿下、あなたのしたことは最低だ。フランソアの心を何だと思っているのですか?そもそも、惚れ薬など人の感情を支配する薬は使用を禁止されているはずだ。それを破れば、極刑に処せられる重罪。それをあろう事か、王族が使うだなんて!」
「極刑?ちょっと待ってよ。僕はただ、フランソアに振り向いて欲しかっただけなんだ。それに、母上だって父上に使っていたじゃないか!そうだ、元はといえば母上が僕にあの魔女を紹介したのがいけないんだ」
「ちょっとジェーン、なんてことを言うの?」
「何だって!一体どういう事だ?魔女とは誰の事だ?」
陛下がすかさず王妃様に詰め寄っている。
「違うのよ、あなた。ジェーンはきっと錯乱していて…」
「陛下、お待たせいたしました。薬の成分が分かりました。殿下のおっしゃった通り、かなり強力な惚れ薬です。殿下の血液も入っておりましたので、殿下に惚れさせる薬で間違いない様です」
やっぱり惚れ薬だった様だ。
「そうか、ありがとう。すぐに王妃とジェーンの部屋を捜索しろ。それからジェーンと王妃に薬を提供した魔女という女も探し出せ」
「承知いたしました」
「待って、あなた。私は本当に何も知らないのよ!」
「黙れ!それじゃあどうしてジェーンが惚れ薬なんて手に入れらえるのだ。そういえばさっき、王妃が私に惚れ薬を飲ませたと言っていたな…悪いがすぐに私の血液を調べてくれ。もしかしたら、惚れ薬の成分が検出されるかもしれない」
「かしこまりました。それではすぐに準備をいたします」
その場で血を抜く陛下。既に準備されていた薬の様な物に血液を付けて確認している。すると、薬がかすかにピンク色に変化したのだ。
「陛下の体にも、惚れ薬の成分が検出されました。ただ、随分と薄れて入る様なので、近いうちに自然と効力が無くなるかと」
「やはり私にも使われていたのだな…そうか。分かった。もう下がっていいぞ」
「それでは私たちは失礼いたします」
そう言って薬剤師たちが去って行った。
「フランソア嬢、本当にジェーンが申し訳ない事をした。人の心を操るだなんて、どれほど恐ろしい事か…謝っても許される事ではないが、まずは謝罪させてくれ。それからジェーン、王妃、お前たちは扱ってはいけない薬物を扱った罪で、地下牢に投獄する。すぐに2人を連れて行け!」
「父上、待って下さい。僕はただ、フランソアを愛していただけなんだ。フランソア、僕は悪くないと言ってくれ!頼む、フランソア!」
「あなた、これは何かの間違いよ。お願い!許して頂戴」
2人が必死に訴えているが、そのまま護衛たちに連れて行かれた。
それにしても、まさか私以外にも被害者がいただなんて…
よほどショックだったのだろう。その場に陛下が頭を抱えて座り込んでしまった。さすがに誰も陛下に声を掛けられるものはいない。そりゃそうだろう、信頼していた妻に惚れ薬を飲ませれていたうえ、息子まで罪を犯したのだから。
そんな中、陛下の近くにやって来たのは、ラファエル殿下だ。
「父上、しっかりしてください。あなたはこの国の国王なのですよ。ショックなのは分かりますが、あなたが取り乱してどうするのですか?それに一番の被害者は、フランソア嬢です。皆様、我が王族があろう事か人を操る薬を使っておりました。これは許しがたい事です。本当に申し訳ございませんでした。フランソア嬢、本当に申し訳なかった。謝っても許される事ではないと思っている。だが、同じ王族として謝らせてくれ」
ラファエル殿下が私に頭を下げたのだ。
「殿下、どうか頭を上げて下さい。あなた様は何も悪くありませんわ」
そう、ラファエル殿下は何も悪くはない。それだけは断言できる。
「ラファエル…しばらく見ない間に本当に立派になったな…アイラ…お前の亡くなった母親にそっくりだ。彼女は優しくて強くて、私が王太子の重圧に耐えきれなくなった時も、そうやって叱責して励ましてくれた。ラファエルを見ていると、まるでアイラを見ている様だ…私は彼女だけを愛していたはずなのに…」
ポロポロと涙を流す陛下。
「父上、過ぎた事は仕方がありません。いつまでも過去にこだわっていても、幸せにはなれませんよ。未来を見ていきましょう。これから一緒に、未来を!」
「ラファエル…私はお前を守れなかったのに。また王宮に戻って来てくれるのか?」
「当たり前です。私はあなたの息子なのですから」
そう言って優しく微笑んだラファエル殿下。
「あぁ…アイラ。君は私に本当に最高の宝物を残してくれたのだね。ありがとう」
陛下がラファエル殿下に抱き付き、涙を流している。
「ラファエル殿下、おかえりなさい。あなたこそが次期国王にふさわしいお方だ。そうでしょう?皆様」
お父様が他の貴族に問いかけた。すると、貴族たちが拍手をしだしたのだ。その拍手は、どんどん大きくなっていく。次期国王はラファエル殿下と、認められた瞬間だった。




