第43話:人の心を何だと思っているのですか?
「ジェーン殿下、一体どういう事ですか?どうして僕が飲んではいけないのですか?まさか毒でも入っているのでは?」
「毒など入っていない。どうして僕が、可愛いフランソアに毒なんか飲ませる必要があるのだ!」
「それなら一体何が入っているのですか?あなたはフランソアに何を飲ませようとしているのですか?」
強い口調でデイズ様がジェーン殿下を問い詰めている。
「デイズ、一体何があったんだ?」
「ジェーン、どうした?」
騒ぎを聞きつけたお父様とお母様、さらに陛下と王妃様もやって来た。
「殿下がフランソアに、訳の分からない飲み物を飲まそうとしたのです。至急この飲み物を調べてくれ!」
デイズ様が護衛に飲み物を渡そうとした時だった。
「待ってくれ、それはただの惚れ薬だ!決して毒なんかではない!」
「「「えっ?惚れ薬?」」」
皆の声が被った。惚れ薬とは一体どういう意味なのだろう。ジェーン殿下もしまったと言わんばかりに、口を押さえている。
「いや…その…」
「ジェーン殿下、惚れ薬とは一体どういう事ですか?まさかフランソアに惚れ薬を飲ませようとしたのですか?」
「どういう事だ、ジェーン。そもそも惚れ薬だなんて、どこで手に入れたのだ。とにかく至急その飲み物の成分を調べてくれ。大至急だ」
「はい、かしこまりました」
陛下がデイズ様から飲み物を取り上げ、そのまま護衛たちに渡した。
「それでジェーン、その惚れ薬は一体どこで手に入れたのだ?我が国では毒や薬の処方は、決められたもの以外禁止されているはずだぞ。もちろん、それらの薬を買った者も、厳しく罰せられることになっている」
「殿下、フランソアに惚れ薬を飲ませようとするだなんて!何を考えているのですか?」
陛下もお父様もかなりご立腹だ。まさか惚れ薬を私に飲ませようとしていただなんて…
「待って、きっと何かの間違いよ。惚れ薬だなんて、そんなもの手に入れられるはずがないでしょう?ほら、きっと何かの勘違いよ。そうでしょう?ジェーン」
「そうです、その通りです。そもそも惚れ薬だなんて、どうやって手に入れられるというのですか?あれは僕がフランソアの為に作った特製のジュースだったので、どうしてもフランソアに飲んでもらいたかっただけです」
その時だった。
「陛下、今王宮の薬剤師たちを至急集めて調べさせておりますが、どうやらかなり珍しい成分が含まれている様です。薬剤長が必死に調べておりますので、もう少々お時間が欲しいとの事です」
「やはり何らかの成分が含まれていたのだな…ジェーン、正直に言いなさい。遅かれ早かれわかる事だ!さっきお前が言った通り、惚れ薬なんだな?その薬はどこで手に入れたのだ?」
陛下が強い口調でジェーン殿下を問い詰めている。
「僕は悪くない…フランソアが悪いんだ。君がお妃候補を辞退したから。だからもっと強力な惚れ薬をフランソアに飲ませれば、また僕の虜になると思ったんだよ!」
それは一体どういう事?もっと強力な惚れ薬を飲ませれば、僕の虜になると思った?という事は…
「ジェーン、まさかお前は、一度フランソア嬢に惚れ薬を飲ませたのか?」
「そうだよ。でも、フランソアが悪いんだ!僕がお妃候補になって欲しいと頼んだのに“私はデイズ様が大好きで、彼と結婚するから無理です”て断ったから。だから僕は、フランソアに惚れ薬を飲ませたんだ。それなのに、いつの間にか惚れ薬の効果が切れてしまって。それでもっと強力な物を飲ませたら、また僕の元に戻って来てくれると思ったんだよ!」
「ちょっと待って下さい。それじゃあフランソアは、惚れ薬の影響で、ジェーン殿下のお妃候補になりたいと申し出たという事ですか?そんな…それじゃあフランソアは…」
「ふざけないでくれ!私の可愛い娘にその様な薬を飲ませて、無理やり自分のものにするだなんて!そのせいでフランソアが5年もの間、どれほど辛い思いをして来たか!それにデイズだって!そもそも人の心を、何だと思っているのだ!」
お父様が殿下を怒鳴りつけている。デイズ様はうつむいたまま、動かないし…
それよりも、私は惚れ薬を飲まされたことで、殿下を好きになっていたという事なの?その上、また私を手に入れるために、惚れ薬を飲まそうとしたの?
「僕はただ、フランソアと結婚したかっただけなんだ。そもそもフランソアが悪いんだ。僕の気持ちに応えてくれないから」
「ジェーン、お前という奴は…」
「ふざけないで下さい…何が“フランソアが僕の気持ちに応えてくれないから悪い”よ…それだけあなた様に魅力がないという事でしょう?人の心を何だと思っているのですか?私はあの5年、どんな気持ちで過ごしたか…自分の本来の気持ちを奪われ、無理やり薬で惚れさせられていただなんて。人の心を、何だと思っているのですか?私はあなたの人形じゃない!感情を持った、1人の人間なのよ!」
自分の愚かさのせいで、沢山の人を傷つけたと思っていた。でも…それは違ったのだ。私は薬で感情をコントロールされていた。
悔しくて苦してくどうしようもない感情と共に、涙が次から次へと溢れて来た。




