第42話:やはり事件勃発です
デイズ様が守ってくれたことが嬉しくて、彼にギュッとしがみついた。
「フランソアは甘えん坊だね。せっかくだから、一緒にダンスを踊ろう。僕はずっと、フランソアと踊る事が夢だったんだ」
「もちろんですわ。私はこれでも、ダンスは得意ですのよ」
2人でホールの真ん中に向かい、音楽に合わせて踊り出す。
「デイズ様はダンスがお上手なのですね。とても踊りやすいですわ」
「フランソアも得意と言っただけあって、上手だね。フランソア、今日は僕の夢を叶えてくれてありがとう。君とダンスを踊れた事、とても幸せだよ」
「デイズ様ったら…これからは夜会に参加するたびにダンスを踊りましょう」
「そうだね、そうしよう」
終始和やかな空気の中、ダンスを踊った。ダンスが終わると
「フランソア、久しぶりね。デイズ様もごきげんよう」
「ルシアナお姉様、お久しぶりですわ」
私達の元にやって来たのは、ルシアナお姉様だ。
「シャーレス侯爵夫人、よくもフランソアに要らない情報を与えましたね。本当にどうしようもない人だ」
「あら、私はフランソアにも知る権利があると思ったから教えたまでですわ。そうそう、フランソア、こっちは私の義妹のミラよ。それから、彼女の恋人の、ラファエル殿下ですわ。ラファエル殿下とは、デイズ様の誕生日パーティーの時に既に挨拶は済ませたのよね」
「ミラ・シャーレスと申します。義姉からあなた様の話は聞いておりますわ。どうぞよろしくお願いいたします」
「フランソア・シャレティヌです。こちらこそ、よろしくお願いします」
お互い挨拶をした。
“フランソア、今日の夜会が私たちにとってターニングポイントになると思っているの。あのおバカなジェーン殿下が、きっと何かをやらかして来ると踏んでいるわ。あの人、前回のデイズ様の誕生日パーティーにもやらかしたでしょう?今日フランソアが来てくれて助かったわ。あなたが来ないと、あのおバカが何かやらかしたくても出来ないものね。さあ、今日はどんな醜態を晒してくれるのかしら?”
耳元でそんな事を呟いているルシアナお姉様。いくら何でも、王太子殿下にあのおバカはないでしょう…
“シャーレス侯爵夫人、聞こえていますよ。いくらラファエル殿下のためとはいえ、フランソアを利用しようとするのはお止めください!”
“あら、使える者は使わないと!”
「君はフランソアを何だと思っているのだ。本当に!」
さすがに我慢が出来なくなったのか、今まで小声で話していたデイズ様も、大きな声を出していた。
「義姉上が申し訳ございません。義姉上は私の為に必死に動いてくれておりまして。もちろん、デイズ殿にも感謝しております。それからフランソア嬢、もし私の為に今日夜会に参加してくださったのでしたら、本当に申し訳ない。私は自分の力で、王位をもぎ取ろうと考えております。ですので、どうか無理はなさらず、出来るだけジェーンには近づかない様にしてください」
そう言って頭を下げたラファエル殿下。既にルシアナお姉様の事を、義姉上と呼んでいるのね。きっと既にミラ様と結婚する事を決めているのだろう。
「お気遣いありがとうございます。私もあなた様が王位を継がれた方がよろしいかと思っております。この国の為にも、我が公爵家の為にも…ですから、私にできる事があったら何でもおっしゃってください」
「ありがとうございます。フランソア嬢」
そう言ってにっこりと笑ったラファエル殿下。優しい微笑…やっぱりジェーン殿下より、彼が王位を継いだ方がいい。そんな気がした。
「それでは私たちはこれで失礼します」
デイズ様がぺこりと頭を下げて、その場を去った。
“フランソア、まさかラファエル殿下に惚れたなんて言わないよね…”
恐ろしいほど低いデイズ様の声が、耳元から聞こえてくる。
“そんな訳ございませんわ。ただ、彼の方が国王にはふさわしいなっと思っただけです。私が好きなのは、デイズ様ただ1人ですわ”
“それならいいのだけれど。君は油断すると、すぐに他の男の方に行ってしまうからね”
もう、デイズ様ったら。私を尻軽みたいに言わないで欲しいわ。確かに昔はそんな事もあったけれど…
その時だった。
「喉は渇いていらっしゃいませんか?どうぞ飲み物を」
使用人が飲み物を手渡してくれたのだ。そう言えば喉が渇いていたのよね。
「ありがとう、せっかくなので頂くわ。これはお酒は入っていないわよね」
「はい、桃のジュースですので、問題ありませんわ」
桃のジュースか。美味しそうね、早速頂こう。そう思って口を付けようとした時だった。
「待って、フランソア。どうしてフランソアにだけ飲み物を持ってきたのだい?なんだか怪しいね。僕が毒見をするよ」
そう言って私から飲み物を取りあげたのは、デイズ様だ。そのまま飲もうとした時だった。
「ダメだ!それはフランソアにあげた飲み物だ。絶対にデイズ殿は飲んではダメだ!」
血相を変えて飛んできたのは、ジェーン殿下だ。一体どういう意味なの?




