第36話:フランソアを手に入れたのに~ジェーン視点~
早速僕は、飲み物に薬を入れてフランソアに飲ませた。本当に効くのか不安だったが、その日からフランソアは僕の虜になった。その後はとんとん拍子に、フランソアは僕のお妃候補になった。
お妃候補になってからのフランソアも、僕にベッタリだった。ただ、やはり争いごとを嫌うフランソアにとって、他の候補者たちがストレスになっている様でもあった。さらに王妃教育でも、かなり叱責を受けている様で落ち込んでいる姿を頻繁に見かけた。
それでも僕の為に一生懸命頑張っている姿を見ると、嬉しくてたまらない。
“ジェーン様が他の令嬢と楽しそうにしている姿を見るのが辛いです。ジェーン様は、私だけを愛してくださっているのですよね?”
そう悲しそうに訴えてくるフランソアを見ると、無性に興奮するのだ。僕はフランソアの笑顔も好きだが、僕を思って不安そうな顔をしているフランソアの姿はもっと好きだ。もっともっと僕を思って嫉妬して欲しい。
そんな感情が僕の中で芽生えていた。
そして月日は流れ、後半年で婚約者を決める段階になった。後半年で、僕とフランソアは正式に婚約者同士になる。これからは目いっぱいフランソアに愛情を注げる。でも…
他の候補者たちがいなくなったら、フランソアは今みたいに嫉妬してくれなくなる。それが無性に悲しかった。
そんな中、お妃候補者の家族から、一夫多妻制を提案されたのだ。そうか、一夫多妻制にして他の令嬢たちもお妃にしてしまえば、フランソアはずっと嫉妬し続けてくれる。
でも、フランソアはずっと“ただ1人の男性に愛し愛されたい、自分だけを見てくれる人と結婚したい”と言っていた。まあ、フランソアには強力な惚れ薬を飲ませてあるから、大丈夫だろう。
そう思い、僕は一夫多妻制を押し進めた。ただ、父上は猛反対、母上までもが難色を示したのだ。父上はともかく、母上がうんと言わないと、話が進まない。そう思い
「母上、万が一フランソアに子供が出来なかったら、もしかしたら第一王子のラファエルに王位がうつるかもしれませんよ」
そう吹き込んだ。母上はラファエルの事を毛嫌いしているのだ。彼の名前を出した途端
「そうよね、万が一フランソア嬢が子供を産めなかったら大変だわ。それに、ジェーンの血を沢山後世に残した方がいいわね。わかったわ。陛下は私が説得するから」
そう言って母上も賛成してくれた。そして貴族会議が開かれた。お妃候補の家は賛成、王族も賛成、他の貴族は自分所は関係ないと言わんばかりに、傍観していた。ただ1人、フランソアの父、シャレティヌ公爵だけが激しく反対していた。
話が違う!娘が可哀そうだ!そう言って。
でも、貴族世界は多数決制だ。公爵がいくら喚いたところで、一夫多妻制は可決された。これでフランソアはずっと僕の事を思い、嫉妬し続けてくれる。そう思っていた。
でも…
「我が娘、フランソアはお妃候補を辞退させていただく。本人も承諾しております。こちらが書類になります。陛下、受理をお願いします」
何とシャレティヌ公爵が、お妃候補辞退の書類を提出したのだ。
「待って下さい、公爵。今更お妃候補辞退だなんて。第一フランソアがそんな事、同意するはずがありません!」
そう訴えたのだが
「フランソアは自ら“お妃候補を辞退したい”と私に申し出て来ました。それにここにもフランソアのサインがございます。そもそもお妃候補辞退は、貴族の正当な権利です。陛下、受理をお願いします!」
公爵が父上に迫っている。そんな…僕はフランソアと結婚したいんだ。もしフランソアと結婚できなかったら、一夫多妻制になんてした意味がないじゃないか…
僕の気持ちとは裏腹に
「公爵からの書類、不備などはないな。わかった、受理しよう」
そう言って父上が受理してしまったのだ。
「それでは娘は連れて帰ります。後日荷物は取りに参りますので」
そう言い残し、足早に部屋から出て行った公爵。待ってくれ、僕はフランソアを愛しているんだ。フランソアだって僕の事…
急いで公爵を追いかけたが、そのまま馬車に乗り込み走り去っていった。馬車にはフランソアの姿も確認できる。必死に追いかけたが、馬車に敵う訳がない。
そんな…
フランソアは強力な惚れ薬を飲んでいるんだ。彼女が僕の傍から去るはずがない。ということは、きっと父親でもある公爵に無理やり連れて帰らされたんだ。そうだ、そうに違いない!
僕は急いで公爵家へと向かった。早くフランソアを連れ戻さないと。そう思っていたのだが…
僕の前に立ちはだかったのは、何とデイズだ。彼はいつの間にか、公爵家の養子になっていた様だ。さらにフランソアとデイズは、いずれ結婚して公爵家を継ぐとも…
そうか…デイズの差し金だったんだな。だから公爵も、無理やりフランソアを屋敷に連れ戻したのか!可哀そうなフランソア。早く助け出してあげないと!
そう思って翌日も公爵家を訪ねたのだが、またしてもデイズに邪魔され、フランソアに会う事が出来なかった。さらにお妃候補を辞退した者の家に押しかけたことで、僕が父上から叱責を受けた。
僕が必死に“フランソアは無理やり公爵に連れ戻された”と訴えても、正式な書類がある以上、覆る事はないと言われてしまった。さらにデイズが正式に公爵家の養子になった事、フランソアがお妃候補を辞退したことが、公爵によって全貴族に報告されたのだ。




