第31話:ジェーン殿下に絡まれました
「デイズ、元気そうでよかった。フランソア嬢も、久しぶりだね」
最初に声を掛けて来てくださったのは、デイズ様のご両親だ。
「おじ様、おば様、お久しぶりですわ。色々とご迷惑をお掛けして、ごめんなさい」
「フランソアちゃんが謝る事ではないわ。デイズの事を受け入れてくれて、ありがとう。デイズの事、よろしくね」
そう言ってほほ笑んでくれたおば様。
その後も色々な人が挨拶をしに来てくれた。かつてのライバル、お妃候補の方たちも来ていた様で
「ジェーン様の事は、私たちが責任を持って幸せにしますので、ご安心を」
そう言って去って行った。そんな彼女たちを睨んでいたデイズ様だが、私は相変わらずの姿に、なんだか笑いが込みあげてきた。
その時だった。
「デイズ殿、フランソア嬢、ご婚約おめでとう」
私達に話しかけてきたのは、金色の髪にエメラルドグリーンの瞳をした男性だ。どことなく陛下に似ている。もしかしてこの人が…
「ラファエル殿下、今日はわざわざ私共の為にお越しいただき、ありがとうございました」
やっぱりこの人が、ラファエル殿下なのね。
「こちらこそ、呼んでいただき、感謝しています。あなたがフランソア嬢だね。初めまして。異母弟が君に酷い事をしたと聞いています。本当に申し訳ない」
そう言って私に頭を下げたのだ。
「どうか頭をお上げください。そもそも、ラファエル殿下には関係ない事ですわ」
「いいや、同じ王族として有るまじき行為だ。本当にすまなかった。まさか一夫多妻制にしたいと言い出すだなんて。一夫多妻制のデメリットもよく考えずに、本当に今の王族はどうかしている。君が怒るのも無理はない」
どうやらラファエル殿下はまともな様だ。
「殿下、今はその話は控えましょう。ジェーン殿下派に聞かれると面倒です」
「ああ…そうだね。フランソア嬢、今日君に謝罪が出来てよかった。それではデイズ殿、また後日お会いしましょう」
そう言うと、ラファエル殿下は去って行った。そしてすぐに、お母様のご実家でもあるパーソティ侯爵たちの元へと向かって行った。近くに寄り添っているのは、確かシャーレス侯爵の妹君の、ミラ様よね。
そう、ミラ様はルシアナお姉様の義理の妹なのだ。まさかミラ様とラファエル殿下は、恋人同士?
目を大きくして2人を見つめる私に
“ラファエル殿下とシャーレス侯爵の妹君は、恋仲の様だよ”
デイズ様がそっと教えてくれた。なるほど、そうだったのね。仲睦まじい2人の姿をみたら、なんだか応援したくなってきた。
2人を見つめる私を、急にデイズ様がギュッと抱きしめて来たのだ。一体どうしたのかしら?
デイズ様の方を見ると、まっすぐ誰かを見ている。その視線の先には…
「フランソア、久しぶりだね。ずっと会いたかったんだ…」
私の前に現れたのは、ジェーン殿下だ。
「ジェーン殿下、お久しぶりです。今日は私どもの為にわざわざ足を運んでくださり、ありがとうございます」
そう言って彼に頭を下げた。正直もう、彼を見てもなんとも思わない。
「フランソア、可哀そうに…無理やりお妃候補を辞めさせられただけでなく、デイズ殿と婚約までさせられたのだね。僕は何度も君を助け出そうと公爵家に訪れたのだが、一切屋敷に入れてもらえなくてね。でも、もう大丈夫だよ」
はい?この人は何を訳の分からない事を言っているのだろう。
「皆の者、公爵は無理やり娘を僕のお妃候補から辞退させ、デイズ殿と婚約させました。フランソアと僕は、今でも愛し合っているにも関わらずです。こんな理不尽な事はありますか?さらに第一王子までパーティーに呼んで。これは立派な国家反逆罪だ!今すぐフランソアを返してもらうから。さあ、フランソア、こっちにおいで。王宮に戻ろう」
そう言うと、私の腕を掴んできたのだ。
「嫌、放してください!」
とっさに腕を振り払い、デイズ様に抱き着いた。
「フランソア、大丈夫かい?ジェーン殿下、変な言いがかりはよしてください。そもそもお妃候補辞退は、正式な書類の元、陛下に受理されております。それを不正だなんて、よくもその様な事を言えますね。それもお妃候補を辞退したフランソアに対し、屋敷まで何度も押しかけてきて。辞退した令嬢に対し、それを覆す様説得する事は、法律違反のはずですが。殿下自ら、法律を犯してもいいとでも思っているのですか?」
さすがのデイズ様も、ジェーン殿下に反論している。
「あれは公爵がフランソアに無理やり書かせたものだ。フランソアが僕のお妃候補を辞めたいと言い出すわけがないだろう!そうだろう、フランソア」
この人は何を根拠にこの様な事を言っているのだろう…
「ジェーン殿下、私は父に頼んで自らお妃候補を辞退したいと申し出ました。何度もあなた様に伝えましたよね。“私だけを愛してくださる殿方と結婚したい”と。それなのに一夫多妻制を推し進めた殿下に、失望したのです。とにかく私は、もう殿下には好意を抱いておりません!私が好きなのは、デイズ様ただ1人です。どうかもう、私の事は放っておいてください!」
ジェーン殿下に向かって、そうはっきりと告げた。
「そんな…そんなはずはない。だってフランソアは…そんな、何かの間違いだ。僕は絶対に諦めない。何が何でも、フランソアと結婚するから!」
そう叫ぶと、ジェーン殿下はホールから出て行ってしまった。
「フランソア、大丈夫かい?すまなかった。まさか殿下が、この様な場であの様な行動を起こすだなんて…」
そう言って抱きしめてくれたデイズ様。
周りの貴族も、ざわついている。
「皆様、お騒がせして申し訳ございません。とにかくフランソアとデイズは、正式に婚約し、公爵家を継ぐ予定でおります。どうかご理解のほど、よろしくお願いします」
お父様が必死に訴えている。
ただ、その後貴族たちは、先ほどのジェーン殿下の話でもちきりだった。本当にあの人、何を考えているのだろう…




