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第3話:お妃候補辞退はあっけないものです

カルアに連れられ、部屋から出た。そしてそのまま馬車に乗り込む。


5年ぶりに乗る公爵家の馬車。この5年、実家に帰る事は一度も許されなかった。毎日毎日、厳しい王妃教育に耐え、令嬢たちの嫌味に耐え、孤独に耐えて来た。


それでも自分で決めた事だからと、泣き言など言わず必死に耐えてきたのだ。ジェーン様との幸せな未来のための試練だと思って…


でも…

結局ジェーン様は、私だけを愛してくれることはなかった。それなのに私は彼の言葉を信じて、本当にバカみたいね。


気が付くと涙が溢れていた。


「お嬢様、お可哀そうに…この5年、必死に頑張ってこられたのに、こんな形で裏切られるだなんて…」


そう言ってカルアが抱きしめてくれた。


しばらくすると、お父様が戻ってきた。そしてなぜか、急ぐように馬車が走り出したのだ。


「フランソア…辛い思いをさせてしまい、すまなかった。今陛下にお妃候補辞退の申し出と、書類を提出してきたよ。これでお前は、もう殿下のお妃候補でも何でもない。さあ、家に帰ろう。しばらくはゆっくりしなさい。今まで大変な思いをして来たのだから」


「ありがとうございます、お父様」


涙がそっとぬぐった。


これで王宮ともお別れか…


お妃候補辞退とは、あっけないものね。あんな紙切れにサインをするだけで、全てが終わるのだから…


正直5年間耐えて来たことを考えると、なんだか空しい気もするが、やっとあの息苦しい世界から解放されるのかと思うと、なんだか気持ちが軽くなった。


これからはもう、誰に嫌味を言われる事もない。好きな人が他の令嬢と楽しそうに過ごす姿を見て、涙を流すこともない。厳しい作法を強要される事もない。


これからは、自由に生きよう。


さようなら、王宮。

さようなら、ジェーン様…


ん?あれは、ジェーン様?


なぜかこちらに向かって、必死に走っているように見えるのだが…


「お父様…ジェーン様が走っておられますわ。運動でもしていらっしゃるのかしら?」


「…ああ…そうだね、きっと日頃運動不足だから、ああやって定期的に運動をしているのだろう。さあ、フランソア、あんな男をもう見る必要は無いよ。そもそも、あの男はフランソアとは関係のない男なのだから。カルア、カーテンを閉めてくれ」


「かしこまりました」


カルアがさっとカーテンを閉めた。


確かにもう、私はジェーン様とは関係がない。もう二度と、彼と関わる事はないのだから…


きっとジェーン様も、一夫多妻制を受け入れられなかった私に、愛想をつかしているのだろう。でも、それならそれでいい。私は私だけを愛してくれる人と、共に歩んでいきたいのだから。


「それにしてもフランソア、また痩せたのではないのかい?王宮ではろくなものを食べさせてもらえなかったのだな。可哀そうに…屋敷に戻ったら、料理長にフランソアの好物をたくさん作らせよう。それから、しばらくは社交界に出る必要は無い。社交界には、あの男も来ているからな。しばらくは、あの男には会わない方がいいだろう」



あの男とは、きっとジェーン様…いいえ、王太子殿下の事だろう。お父様はどうやら、殿下の事がお好きではない様だ。


「分かりましたわ、お父様。ありがとうございます」


もしかしたら、一夫多妻制を受け入れられなかった愚かな令嬢だと、貴族世界で後ろ指をさされないかお父様が心配しているのかもしれない。でも、この国では一夫一妻制が主流だ。


それなのに王位を継ぐ者だけ、一夫多妻制に急に変えること自体、おかしいと思うのだが…


「とにかく、もう殿下の事は忘れなさい。と言っても、フランソアは殿下の事が好きで、自らお妃候補に名乗りを上げたのだったね。それなのに、こんな事になってしまって本当にすまない。そもそも殿下が一夫多妻制にしたいなんて言い出さなければ、こんな事にはならなかったのに」


「やはり殿下が、一夫多妻制がいいと言い出したのですね…」


「ああ…他の貴族も難色を示した者も多かったのだが、お妃候補者の多くの家が賛成してね。当事者たちがいいなら、まあいいだろうという事で、可決されたんだ。結局他の貴族たちは、お妃候補に名乗りを上げていないから、他人事なんだよ」


なるほど…


でも、他の貴族たちが難色を示してくれたという事は、やはり一夫多妻制をよく思っていない貴族も多いという事なのね。よかったわ、私と同じ感性の人たちばかりで。


「とにかく、我が家はもう辞退したのだから、王家が一夫多妻になろうが関係ない。それにしても、陛下は何を考えているのだろう。一夫多妻制だった頃、王妃殿下や側妃殿下たちの裏のかけ引きが酷く、さらに王子の暗殺事件などが多発したために、一夫一妻制にしたはずなのに…」


「そうだったのですね…私はとてもじゃないですが、そんな恐ろしい世界に巻き込まれるのは御免ですわ。今日の王太子殿下の姿を見て、100年の恋も一気に冷めました。結局殿下は、色々な令嬢を自分の傍に置きたいだけなのだと思ったら、なんだか引いてしまって…お父様、私のせいで色々と苦労を掛けてしまい、ごめんなさい」


「フランソアが謝る事じゃない。とにかく、しばらくはゆっくりしなさい。さあ、屋敷に着いたよ」


目の前には懐かしい我が家が…


5年ぶりに帰って来たのね。

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