第29話:今後の話
馬車が停まると、デイズ様と一緒に降りた。
「「「おかえりなさいませ、デイズ様、お嬢様」」」」
「おかえり、デイズ、フランソア」
「ただいま戻りました」
使用人や両親が迎えてくれた。
「フランソア、あなたすっかり元の体に戻ったのね。それに顔色も良くなって。あら?体が引き締まったのではなくって?」
「はい、領地では乗馬をしておりましたので。お父様とお母様も元気そうで何よりですわ」
「こんなところで立ち話もなんだ。2人とも疲れただろう?さあ、中に入ってくれ」
両親に促され、屋敷へと入っていく。とりあえず着替えをするため自室へと向かうと。
「お嬢様、酷いではありませんか!私を置いて領地に行くだなんて」
すかさずカルアが抗議の声を上げた。
「ごめんなさい、急に領地に行く事が決まったのよ。あなたは休暇中だったから、呼び戻すもの可哀そうだと思って…」
「だからって、置いて行くだなんて。もう二度と私を置いて行くような事はしないで下さいね」
「分かったわ。本当にごめんなさい。はい、これ、あなたへのお土産よ」
「こんなにいいのですか?ありがとうございます。でも、私はお土産でつられる様な人間ではありませんから」
そう言って頬を膨らませているが、顔は嬉しそうだ。
「さあ、湯あみを行いましょう。長旅で疲れたでしょう」
機嫌が戻ったカルアが、湯あみを手伝ってくれる。長年私のお世話をしてくれているだけの事はある。やっぱりカルアにお世話してもらうのが、一番安心する。
湯あみを済ませ着替えると、4人で夕食を頂いた。久しぶりに両親と食べる夕食も美味しいわね。相変わらずデイズ様は私に構いまくってくれる。その姿を、生温かい目で見守る両親。
夕食後は皆に領地のお土産を渡しながら、話に花を咲かせた。
「そうか、両親も元気にしていたのだな。それにデイズやフランソアも目いっぱい楽しめた様でよかった」
そう言ってお父様が笑っていた。
「とても有意義な3ヶ月でしたよ。領地の勉強もしっかりできましたし。義父上、義母上、僕たちを領地に行かせてくださり、ありがとうございました」
「それは良かった。それで、帰って来て早々申し訳ないのだが、今後の話をしてもいいだろうか?」
急にお父様が真剣な表情になった。もしかして、第一王子派とジェーン殿下派の話をするのかしら?そう思ったら緊張して背筋を伸ばした。
「フランソア、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
そう言って私のおでこに口づけを落としたのは、デイズ様だ。ちょっと、今からお父様が真剣な話をしようとしているのに、何を考えているのかしら?この人は。
「ちょっと、デイズ様。今はその様な事はお控えください」
「フランソア、いいんだよ。デイズの気持ちがやっとフランソアに伝わったのだね。よかったよ。という事は、もう既にフランソアにもある程度話をしてあるのかな?」
「はい、フランソアは僕の気持ちを受け入れ、僕と共に歩む未来を選んでくれました。王都に帰ったら正式に婚約をする事も、フランソアには理解してもらっています」
「そうか、それは良かった。来月はデイズの17歳の誕生日もある。デイズの誕生日には、盛大に公爵家でパーティーを開く事になっている。その日皆に、デイズとフランソアの正式な婚約発表をしようと思っているのだが、どうだろう」
「僕は構いませんが、もっと早く婚約を結んだ方がいいのでは…」
「私もそう思ったのだが、やはり発表はたくさんの貴族がいる前で、大々的に行った方がいいと思うのだよ。それまでフランソアには、社交界はもちろんの事、外にはなるべく出さない様にと考えている」
ん?今なんと言った?
「そうですね、とにかく僕たちの婚約が正式に発表されるまでは、屋敷から出さない方がよさそうですね。ただ、フランソアは随分と領地でやりたい放題しておりましたので…」
チラリと私の方を見ているデイズ様。
「どうして婚約発表が終わるまでは、私は外に出てはいけないのですか?それに夜会にだって。せっかくデイズ様と心が通じ合ったのですもの。私が幸せにしている姿を、皆に見て欲しいですわ」
そう訴えたのだが…
「とにかく婚約発表があるまでは、ジッとしていなさい。といっても、あと半月程度の事だろう?それくらいジッとしていられないと、公爵夫人は務まらない。いいな、フランソア、私たちのいう事を聞きなさい。母さん、悪いがフランソアを見張っていてくれるかい?」
「ええ、分かりましたわ。フランソア、あと半月の辛抱なのですから、大人しくしていなさい」
お母様まで!もう、分かったわよ。
「分かりました。でもそれなら、後半月、領地に居てもよかったのでは…」
「デイズもあまり長い事王都を離れている訳にはいかないからね。とにかく、ジッとしているのだよ。分かったね」
お父様に念押しされてしまった。
私、もしかして信用されていない?よくわからないが、もしかしたら王族の派閥に関係しているのかもしれない。これ以上家族に迷惑はかけられないし、ジッとしているしかないか…




