第27話:お爺様とおばあ様も喜んでくれました
馬車に乗り込むと、いつも通り座ろうとしたのだが、なぜかお兄様のお膝に座らされた。そして後ろからギュッと抱きしめられる。
「フランソア、僕を受け入れてくれてありがとう。それから、僕の事をお兄様というのはもうやめて欲しい。僕は君の兄ではないのだから」
どうやら私がデイズお兄様と呼ぶ事が嫌だった様だ。確かにこれから婚約をして夫婦になるのに、お兄様はおかしいわよね。
「分かりましたわ。では、デイズ様と呼ばせていただきますね。うっかりとお兄様と呼んでしまったらごめんなさい」
今までの癖は早々抜けない。きっとまたデイズお兄様と呼んでしまう事もあるだろう。
「それは困ったね。それじゃあ、もしフランソアが僕の事をお兄様と呼んだら、罰として口づけをしてもらう事にしよう」
「え?何ですか?それは」
口づけだなんて、恥ずかしすぎる。そもそもまだ私たちは、まだ口づけをしたことがないのに。
ビックリしてデイズ様の方を向くと、そのままチュッとお互いの唇が触れたのだ。
「フランソア、愛しているよ」
「私も、愛しています」
今度はゆっくりとお互いの顔が近づき、そして唇が重なった。それはどんどん深くなっていく…
その時だった。
馬車が停まったのだ。
「公爵家に着いてしまったね。まだまだ僕は、フランソアに触れていたかったけれど仕方がない。行こうか?」
「はい」
デイズ様と手を繋ぎ、屋敷へと戻ってきた。すると、玄関には心配そうな顔のお爺様とおばあ様の姿が。
「2人が手を繋いで帰って来たのいう事は、よかった。成功したのだな」
「本当によかったわ」
お爺様がホッとした表情を浮かべ、おばあ様は涙を流していた。一体どういう事かしら?
「お爺様、おばあ様、ご心配をおかけしましたが、フランソアと気持ちが通じ合いました。これで王都に帰って、婚約を結ぶことが出来ます」
「それはよかった。さあ、お腹が空いているだろう。すぐに食事にしよう。今日はデイズとフランソアが領地で過ごす最後の夜とあって、料理長がご馳走を準備してくれているよ」
「さあさあ、行きましょう」
お爺様とおばあ様に連れられ、食堂へとやって来た。
「お爺様とおばあ様は知っていたのですか?その…デイズ様が私に、その…」
恥ずかしくてうまく説明できない。
「ああ、知っていたよ。そもそもデイズの方から、私たちに相談してきてくれたからね。だからあの場所を紹介したんだよ。あの場所は私達2人の思い出の場所だからね」
「まあ、そうだったのですね」
「あの場所で孫たちの気持ちが通じ合ったと思うと、私も嬉しいわ。デイズ殿、フランソアの事、どうか幸せにしてあげて下さい。フランソア、あなたももうフラフラしないで、しっかりデイズ殿に付いていくのよ」
フラフラだなんて…でも、正論なので、反論する事は出来ない。
「さあ、夕食にしよう。フランソアとデイズの好きな海鮮をたっぷり使った料理だよ。たくさんお食べ」
「本当ですわ、デイズお兄…じゃなくて、デイズ様。早速頂きましょう」
うっかりお兄様といいそうになったけれど、今のはセーフだろう。そう思ったのだが…
“フランソア、今僕の事、お兄様と呼んだね。後で口づけをしてもらうからね”
私の耳元でそんな事を呟いているデイズ様。今のもダメなの?厳しいわね…
「フランソア、この魚介のスープ、とっても美味しいよ。僕が食べさせてあげるね。こっちのタコとイカのカルパッチョも。このステーキも絶品だ。はい、口を開けて」
なぜかデイズ様が私の口に食べ物をドンドン放り込んでいく。
「若いっていいわね。私達もああやってよく食べさせ合ったわね」
おばあ様がそんな事を呟いている。
せっかくなので、私もデイズ様に食べさせてあげた。デイズ様も
「フランソアが食べさせてくれる料理は格別だな」
といって喜んでくれている。
「この分だと、ひ孫の顔が見られるのもすぐかもしれないわね」
そう言っておばあ様が笑っていた。おばあ様ったらひ孫だなんて。気が早いのだから。でも、お爺様とおばあ様が元気なうちに、私たちの子供を見せられたら嬉しい。ついそんな事を考えてしまう。
食後は4人でお茶にした。楽しい時間はあっという間に過ぎるもの。名残惜しいが、もう寝る時間だ。自室に戻り、湯あみを済ませ寝る準備する。すると
「フランソア、ちょっといいかしら?」
やって来たのはおばあ様だ。
「ええ、どうかされましたか?」
おばあ様を部屋に招き入れ、隣同士でソファに腰を下ろした。
「フランソア、これをあなたにあげるわ」
そう言って渡してくれたのは、綺麗なブローチだ。よく見ると、公爵家の家紋が入っている。
「これを私にですか?ありがとうございます。大切にしますね」
「このブローチはただのブローチではないのよ。録音機能が付いたブローチなの。王都に戻った後、万が一あなたが良くない事に巻き込まれたとき、この録音機能が役に立つかもしれない。いい、必ずこのブローチを、付けていなさい。分かったわね。これが再生する機械よ」
さらに機械の扱い方まで教えてくれるおばあ様。
「おばあ様、この様な機械は…」
「今王都で何が起こっているのか、あなたもルシアナ嬢から聞いて知っているでしょう?とにかく、持っておきなさい。いいわね。私の可愛いフランソア、必ず幸せになるのよ」
私のおでこに口づけをすると、そのままおばあ様は部屋から出て行った。元公爵夫人だったおばあ様がそう言うのなら、きっと付けておいた方がいいのだろう。
そっとブローチを胸に付ける。
明日領地を旅立ち、明後日には王都に戻る。ルシアナお姉様やおばあ様の様子を見ていると、なんだか不安になって来た。でも…デイズ様も傍にいてくれるし、きっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、眠りについたのだった。




