第26話:2人の気持ち
「本当に綺麗な夕日ですわ。デイズお兄様、最後にこのような素敵な場所に連れて来てくださり、ありがとうございました」
スッとデイズお兄様の手を握り、そう伝えたのだが…
なぜか返事がない。一体どうしたのかしら?
心配になってデイズお兄様の方を向く。すると、まっすぐこちらを見つめていた。
「デイズお兄様?」
「フランソア、僕は君の兄じゃないよ…」
ポツリとそんな事を呟いたデイズお兄様。一体どうしたのかしら?訳が分からず、固まる。
「フランソア、僕はね、子供の頃からずっと君の事が好きだった。君がお妃候補になった時、君の事を諦めようとした。でも…王宮で変わり果てたフランソアの姿を見た時、決めたんだ。やっぱり君は、僕が幸せにするって!フランソア、僕は君を誰よりも愛している。どうか僕の妻になってくれませんか?」
「えっ…」
思いがけないデイズお兄様の告白に、完全に頭がフリーズしてしまう。
「君が僕の事を兄の様に慕っているのは知っていた。でも僕は、昔から君の事を1人の令嬢として見ていたんだよ。公爵家の養子になったのも、フランソアと結婚したいがためだ。万が一フランソアがお妃候補を辞退した時、公爵家の養子になっていれば、君は必然的に僕と結婚する事になる。そう思ったんだよ…」
「それじゃあ、私と結婚するために、公爵家の養子になったのですか?」
「そうだよ!その事は、養子になる前に公爵とも話をした。だからこそ、フランソアがお妃候補を辞退した時、涙が出るくらい嬉しかった。これでフランソアと結婚できるってね。でも、傷つきボロボロのフランソアに、その事実を突き付けるのは酷だと考えた。だから、少しずつフランソアとの距離を縮めていこうと思ったんだ」
「デイズお兄様…」
「僕は今でもフランソアの気持ちを大切にしたい。だからフランソアが、僕との結婚が嫌だというのなら、僕は公爵家との養子縁組を解消しようと考えている。だからフランソア、君の気持ちを教えて欲しい。君の素直な気持ちを」
私の方を見つめるデイズお兄様。いつもの優しい眼差しなのに、どこか不安で寂しげに見える。私も自分の気持ちを伝えなきゃ。
「私…この3ヶ月、デイズお兄様と一緒に過ごせて、本当に幸せでしたわ。それと同時に、忘れていた昔の気持ちが蘇ったのです。デイズお兄様は、昔から私の傍に寄り添い、守ってくれていましたよね。私、そんなデイズお兄様が大好きでした。あの頃の私は“大きくなったらデイズお兄様と結婚したい”ずっとそう思っていたのです」
「フランソア…」
「お妃候補を辞めてからは、傷ついた私に寄り添い、ずっと傍にいてくれましたよね。泣く事が出来ない私に“僕の胸で泣いたらいい”と言って抱きしめてくれたり、私の為に領地に行く事を決めてくれたり。デイズお兄様と過ごすうちに、どんどんお兄様への気持ちが大きくなっていきました。私も、デイズお兄様が大好きです…もちろん、異性として。私のせいで散々お兄様にも迷惑を掛けてしまいましたが、それでも私は、デイズお兄様と共に、未来を歩んでいきたいです。デイズお兄様、愛しています。これからもずっと傍にいて下さい」
そう言ってデイズお兄様にギュッと抱き着いた。大きくて温かくて、一番落ち着く。
「フランソア…それは本当かい?本当に僕でいいのかい?」
「もちろんですわ。デイズお兄様こそ、本当に私でいいのですか?」
「当たりまだろう。僕がどれほどフランソアを愛しているか…あぁ、夢なら覚めないで欲しい。こんな幸せな事があるだなんて…」
ふと顔を上げると、デイズお兄様の美しい青色の瞳からポロポロと涙が流れていた。デイズお兄様が泣く姿なんて、初めて見たわ。
「デイズお兄様、私のせいで辛い思いをさせてしまってごめんなさい。本当にあの時の私は、どうかしていましたわ。ずっとお兄様が大好きだったのに…」
「もういいんだ、フランソア。君が僕のものになってくれただけで。僕は幸せだから…ありがとう、フランソア」
そう言って涙を流しながら私を抱きしめるデイズお兄様。こんなにも私の事を思って下さっていただなんて。私の瞳からも、涙が溢れだす。もう二度と、彼から離れたりしない。たくさん彼を傷つけた分、これからは目いっぱい彼を愛そう。
そう心に誓った。
ふと気が付くと、辺りが薄暗くなっていた。
「随分暗くなってきたね。そろそろ帰ろうか」
「はい」
いつもの様に手を差し出してくれたデイズお兄様の手を握り、馬車へと乗り込んだのだった。




