第17話:領地に着きました
食後は各自湯あみを済ませ、ベッドに入る。隣には大きな窓があり、夜景が一望できるのだ。こんな景色の綺麗な部屋で眠れるだなんて素敵だわ。
明日はいよいよ領地に着くのね。なんだか楽しみだわ。
翌日、ホテルで朝食を頂いた後、再び馬車に乗り込んだ。今日の夕方には領地に着く予定だ。
「フランソア、体の調子はどうだい?昨日は長距離の馬車移動で、大変だっただろう?」
「私は大丈夫ですわ。むしろとても楽しくて、逆に元気なくらいです。それにデイズお兄様の膝を枕にして、グーグー寝ておりましたし」
「そうだったね。今日も僕の膝を枕に、ゆっくり休んでもらって大丈夫だよ。それから、朝ちょっと市場に行ってきたんだ。それでほら、美味しそうな果物を買って来たから、後で食べよう」
「いつの間に街に出たのですか?私も行きたかったですわ」
知らない街だなんて、考えただけで楽しそうだ。デイズお兄様ったら、どうして私を誘ってくれなかったのかしら?
「ごめんごめん、フランソアは気持ちよさそうに眠っていたから、起こすのは可哀そうだと思ったのだよ。頬を膨らませて怒らないでくれ。ほら、ブドウだよ。皮ごと食べられるらしい」
そう言って緑色のブドウを私の口に放り込んだ。
「とても美味しいですわ。皮ごと食べられるだなんて、珍しいですわね。仕方ないですね、ブドウに免じて、許してあげます。でも、次からは私も連れて行ってくださいね」
「ブドウを買ってきてよかったよ。次からは必ずフランソアも誘うから」
そう言ってデイズお兄様が笑っていた。結局その後、2人で果物を食べつくしてしまった。お妃候補を辞退してから、明らかに食べる量が増えた。なぜかデイズお兄様と一緒だと、何を食べても美味しいのだ。
「このままだと私、おデブになってしまうかしら?」
「フランソア、君はまだまだ痩せすぎだから、おデブになる心配をする必要は無いよ。とにかく、もっとたくさん食べないと!」
「デイズお兄様、どうして私の心の声が分かったのですか?」
何とデイズお兄様が、私の心の声に反応したのだ。もしかしてお兄様は、超能力者か何かしら?そう思っていると、急に声を出してお兄様が笑い出したのだ。一体どうしたのだろう?
「フランソア、君、声に出ていたよ。昔からフランソアは心の声が口に出ていることがあったよね」
なんと!私ったら、声に出いていただなんて。恥ずかしいわ。
「もう、デイズお兄様ったら、そんなに笑わなくてもいいではないですか!」
頬を膨らませて抗議をする。本当にお兄様ったら!
「ごめんごめん。それにしてもここ数日で、随分とフランソアは表情が豊かになって来たね。王宮にいた時は、お人形の様だったのに」
「確かに王宮にいた時は、お人形の様でしたわね。て、どうしてそれをデイズお兄様が知っているのですか?」
「実は僕、一時期フランソアが心配で王族を護衛する部隊に志願して入れてもらったんだよ。そこでフランソアを何度も見かけていたんだ。フランソアの人形の様な姿を見て、本当に辛かった。あの時すぐに助けてあげられなくて、ごめんね…」
何と、デイズお兄様は王宮でも私を見守っていてくれていたのね。わざわざ志願してまで。どこまでデイズお兄様は、私の事を思っていてくれていたのだろう…
「そこまでして下さっていたのですね…デイズお兄様、ありがとうございます。まさかお兄様に見守られていただなんて、思いませんでしたわ」
「僕はただ、見ている事しかできなかったから、お礼を言われる様なことはしてないよ。5年間、よく頑張ったね」
そう言ってデイズお兄様が抱きしめてくれた。ずっと孤独だと思っていたけれど、実はデイズお兄様に見守られていた時期があったのね。それがなんだか嬉しかった。
それにしてもお兄様の腕の中は、どうしてこんなに落ち着くのだろう。なんだか眠くなってきたわ…
結局私は、デイズお兄様の腕の中で再び眠ってしまった。
「フランソア、そろそろ起きようか?領地の街に入ったよ」
耳元で聞こえるデイズお兄様の声。温かくて気持ちいい。もう少しだけ、眠りたい。そんな思いから、ギュッとしがみつく。
「困った子だね…本当に。ほら、起きて」
再び耳元で、デイズお兄様の声が聞こえる。ゆっくり瞼を上げ上を向くと、すぐ近くにデイズお兄様の顔がある。今度はお兄様を抱き枕にしていた様だ。
「おはようございます、デイズお兄様」
「おはよう、もう夕方だけれどね…」
そう言って苦笑いしているデイズお兄様。ふと窓の外を見ると、間違いない。領地の街並みだ。大きな海も見える。そして丘の上には、公爵家のお屋敷も。
「領地に着いたのですね。懐かしいわ!」
私が目を輝かせて窓から領地の街並みを見つめている間に、馬車はどんどん進んでいき、公爵家のお屋敷に入って行った。
「ここが領地のお屋敷か。さあ、フランソア。お爺様やおばさあ様、使用人たちも首を長くして待っているだろう。いこうか?」
「はい」
デイズお兄様の手をしっかり握り、2人で馬車を降りたのだった。