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第15話:楽しい旅の始まりです

翌朝、いつも以上に早く起きた。既にメイドたちが昨日のうちに出発の準備を進めてくれていた様で、次々と荷物を馬車に乗せていく。


そう言えばお妃候補になって王宮に向かう時は、基本的に家から何も持って行ってはいけない決まりになっていた為、ほぼ身一つで向かった。でも今回は、領地に行くのだ。たくさんの荷物を持って出発する。


なんだかワクワクしてきたわ。私も動きやすいワンピースに着替え、外で使用人たちが荷物を積む様子を見守った。


「フランソア、ここにいたのだね。ダメだろう?勝手に外に出たら」


私を見つけると、急いでこちらにやって来たデイズお兄様。相変わらず心配性ね。


「デイズお兄様、おはようございます。ここにはたくさんの使用人もおりますし、大丈夫ですわ。それに今日は、とても天気もいいですし。私、領地に行くのを楽しみにしておりましたの」


「僕もだよ。さあ、朝食の時間だよ。義父上も義母上も待っているだろうから、早く行こう」


「はい」


いつもの様に手を握り、2人で食堂へとやって来た。


「おはようございます、お父様、お母様」


「おはよう。随分と嬉しそうね」


「もちろんですわ、今日から領地に向かうのですもの。目いっぱい楽しまないと」


「それは良かったわ。デイズ、フランソアの事、よろしく頼むわね。3ヶ月とはいえ、2人がいないと思うと寂しいわ。お母様も付いていこうかしら?」


「何を言っているのだ!それじゃあ私が1人になってしまうだろう。とにかく、3ヶ月もすれば2人は帰ってくるのだから」


すかさずお父様が文句を言っている。お父様もお母様も、寂しがり屋なんだから。そんな2人を5年もの間、放置していた私が言える立場ではない。


「フランソア、急に悲しい顔をしてどうしたんだい?ほら、しっかり食べて。フランソアはただでさえ痩せすぎなのだから。今日から2日かけて、領地に向かうのだよ。長時間馬車に乗らないといけないのだから、しっかり食べておかないとね」


「ありがとうございます、デイズお兄様。そうですね、しっかり食べないと、馬車酔いをしてしまったら大変ですものね」


ちょっとした変化にもすぐにデイズお兄様は気が付いてくれる。どうしてこの人は、こんなに私の事を見てくれているのだろう…


デイズお兄様といると、殿下がいかに私の事を蔑ろにしていたのかがよくわかる。それなのに私は…て、また暗い事を思い出してしまったわ。またデイズお兄様に心配されてしまうわね。


あまりお兄様に心配かけない様に、なるべく王宮にいた時の事は思い出さないようにしないと!


美味しい朝食を頂いた後、いよいよ馬車に乗り込み出発だ。


「フランソア、デイズ、気を付けてね」


「何かあったらすぐに連絡をするのだぞ」


5年前と同じ、不安そうな顔のお父様とお母様…て、またいらない事を考えてしまったわ。


「デイズお兄様もいらっしゃるし、大丈夫ですわ。それに3ヶ月後には戻ってきますし。お土産をいっぱい買ってきますから、楽しみにしていてくださいね」


「そうよね…デイズもいるし…あの時とは違うものね」


「コラ!君は何を言っているのだ!フランソア、母さんは少しネガティブになっている様だ。気にしないで領地を楽しんできなさい。デイズ、フランソアの事を頼んだよ」


「ええ、もちろんです。義母上、僕たちはすぐに帰ってきますから。どうかそんな悲しそうな顔をしないで下さい。それでは行ってきます」


「行ってきます」


デイズお兄様と一緒に、馬車に乗り込んだ。そして窓を開けて、両親に手を振る。なんだか5年前の事を思い出してしまい、胸が苦しくなった。あの頃の私は、胸弾ませて馬車に乗り込んだのよね。地獄が待っているとは知らずに…


でも、今回は領地に行くのだ。それもデイズお兄様と一緒に。きっと楽しい時間になる、そう私は確信している。


「本当に義母上は心配性だね」


そう言ってデイズお兄様が笑っていた。馬車は王都の街並みを進んでいく。


「まあ、あんなお店が出来たのね。あら、こっちも。しばらく見ない間に、王都の街並みも随分変わりましたのね」


「そうだね、この5年で、王都の街並みも随分変わったよ。領地から戻ってきたら、王都の街にも出かけよう」


「本当ですか?それは嬉しいですわ。楽しみな事ばかりで、いいのかしら?」


「いいに決まっているだろう。そもそもフランソアは、今までしなくてもいい苦労をたくさんして来たのだ。これからは楽しい事や嬉しい事、フランソアがやりたい事を目いっぱいしたらいい。それからフランソア、そんなに姿勢を正していたら、体への負担が大きいよ。もう君はお妃候補ではないのだから、楽に乗ったらいい」


私ったら、つい王妃教育で叩き込まれた姿勢をしてしまっていたのね。最初はこの姿勢でずっといるのが辛かった。本当に体中が痛くなるくらいに…もうすっかり慣れてしまったが、さすがにずっとこの姿勢では大変だ。


そもそも王妃様ですら、あの様な姿勢をしていた姿を見た事がなかったが…て、もうあの時の事を考えるのは止めよう。


早速楽な格好で座った。


「それでいいのだよ、フランソア」


そう言ってデイズお兄様が微笑んでくれている。やっぱりお兄様の顔を見ると、ホッとする。


いつまでも嫌な事を思い出して、がっかりしていても仕方がない。せっかく楽しい旅が始まったのだ。存分に楽しもう。

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