入れ替わってます!
別のサイトの月間コンテスト用に書いた一話完結読み切りです。
一万字で、って事でファンタジーを
で童話パロディにしようと女の子2人だそう!→2人のロッテ
モチーフに恋愛要素入れようと書いてみました。
私の通っている学校裏には、なんでも願いを叶えてくれるお堂があるらしい。
らしいというのは人づてに聞いた噂で真偽は定かではない。
しかも「その願い事も面白いほど面白ければ叶うんだって」と入学して少し経ったころそう聞いた。
なんじゃそりゃと思う反面、いつか何か書くときのネタにしようと思ったのは自分が物書き志望の文学科専攻だからだろうか。
学校と書店でのアルバイト。そして帰って寝る部屋。これが私のルーティンだった。
大学生活は志望校にすんなりと入れただけあってイメージと違い落胆せず、とはいえ色めく事は何一つない。
ただ、入学して数ヶ月が経って特に大学生活に思い出を作ることなく終わるのかなとふと考えた時に思い出したのだ。
校舎裏に願いを叶えてくれるお堂がある事をー。
活字好きな自分にとって、文学部に希望したのは必然だった。親にはもっと身につく仕事に就くためになど言われたが、「何かしら資格は取るから」とわがままを言い上京して一人暮らしを始めた。
軽く昼食をとり、行く先は大学内の図書館。
放課後と昼休みは大半ここで過ごすのだが今日は思いがけない人がいた。ーたしか宮野さんだ。可愛らしい格好をしてるその子はデザイン科だ。何故その子に自分が詳しいのかというと私と彼女は顔が似てるのである。宮野さんはメイクもナチュラルに、でもしっかりしていて可愛らしい。対して自分の化粧は薄い。でも体型も含め入学当初たまに「宮野さんと双子?」と聞かれる事もあった。
さすがに苗字も違うし「違うよ」と返すと納得されたけど。
そんな宮野さんも図書館なんてくるんだと面食らった。授業の参考か、でもそれなら文学コーナーには来ないだろう。文学に興味があるのか意外だ。
私は席を外して本を選んだり読んだり。そうして私の昼休みは終わる。今日の収穫(本)は無しだ。やっぱり今日も何もない。
しかし事件は突然起こるものである。
「うそ」
学生証がない。
学生番号は覚えているものの授業中はなくした事に気づかずバッグを漁って青ざめる。
急いで事務室に行き拾得物はないか確認するが届いてはないらしい。
今日は本借りなかったけど図書館ではいるのに。再発行を考えていたその時隣から「あのー」と事務室に用事の生徒がまた来る。
「これ、落ちてたんですけど」
と事務員に渡そうとしているネックストラップは紛れもなく探していた学生証だ。
「それ、私のです」と名乗るとその人物は宮野さんだった。
「ありがとう!助かりました」とお礼を言うと
「ごめんね…。図書館で見つけたんだけど、すぐ事務室に行けなくて」と彼女は言う。
「ううん!」授業で忙しい中わざわざ届けてくれたに違いない。
「なにかお礼させて」と申し出た。飲み物や食べ物を探そうと自販機を目指そうとしていると
「いいの?」と言う宮野さんは嬉しそうだ。可愛い。この人は自分と違っていつも友達と一緒にいる。互いに軽く自己紹介しあったが向こうも私を知っていたらしく(やはり入学当初私と同じ質問をされたらしい)
あるわけないよね!と2人で笑うと宮野さんは「ねえ、名取さん行きたい所があるんだ」と誘われる。一瞬疑問に思ったが彼女ならいいお店を知ってるのかもしれない。
「こっち!」と誘われるがまま彼女に着いていくとそこは例のお堂だった。
立ち止まった宮野さんを見る。これが彼女の行きたいとこだろうか?しばらく困惑した後宮野さんが話し出す。
「私ね、滝先輩が好きなの」
「え?」
滝先輩。って誰?と思ったが思い出した。ここ一ヶ月の間たまに声を掛けてくれる先輩だ。同じ文学部で人気あるというのは聞いた事がある。というのも失礼ながら文学科で目立つって珍しいと失礼な解釈をしてしまっていたからだ。
宮野さんが先輩が好きなのは意外だった。
「そうなんだ」でも何故今カミングアウト?と疑問がまた生まれた。
「この間先輩が名取さんが気になってるんだって聞いて」
マジで?!と急に知った事実に困惑する。恋愛経験がない自分がこんなかわいい子と三角関係。いや、先輩に気はないけど。話しかけてもらった理由が分かった。
しかし私は彼女から更に衝撃な言葉を聞く。
「だからね、名取さん私と変わって」とその人は私の手を取ってお願いしてきた。
言われた言葉を意味が分かるまで変換するに時間を要したが私の中で自分と似た親切で可愛らしい宮野さんは、もしかしてヤバいミヤノさんでは!?になっていた。
「えと、かわるというのは?」具体的に…とまさか私を殺め成り代わろうとというあり得ない妄想がよぎったが彼女の口からは斜め上の回答が出てきた。
「私と一緒にお互いに入れ替わりたいってこれに願って!」とお堂を指差し迫ってくる。
私の中のかわいい彼女のイメージは消え、そこにいるのはもう電波なミヤノさんだった。
10秒くらい私は何と言って逃げようか必死に考え「あ!今日バイトだったんだ」とそそくさと撒こうとするもまだ彼女は腕を離さない。
「一瞬だけだから!」お参りするだけ!
お願いー!と懇願されさらに掴まれた手が力が強くなる。思った以上にこの子力強い。ズルズル引っ張られ自分何やってんだろと冷静になる。所詮迷信だ。これ以上頭と体力使いたくない。とヤケになった私は「分かったから!」と一括すると「やったー!」と奴がパッと手を私から外したので尻餅をついた。
「ごめーん」と軽く謝られたけどなんかもう巻き込まれたくないし長居はしたくないからカフェに行くより事は早く終わるだろう。
「パッとお願いしてすぐ帰りますよ」と言うと「はーい」とミヤノさんは横で早速手を合わせている。
えーっと「ミヤノさんと入れ替わりますように」
と手を合わせ参る。3秒もかからない。ミヤノさんも私よりは長く参っていたけど手を合わせ終わると
「今日はありがとうー!」とぶんぶん手を振って帰っていった。
やっと嵐が過ぎた。30分そこらの嵐だったけど。
咄嗟にバイトと言ってしまったが今日はシフト休みだ。本当は明日だ。
「明日に備えて帰ろ」
頭が疲れた。帰りにコンビニに寄った私はロールケーキを買って食べた後あれこれして布団に入り今日が終わりまた明日になるはずだった。
「トイレ」明け方、いつもより早く目が覚めたが咄嗟に違和感を感じた。
あれ?なんか今の自分声高いな。ベッドがいつもよりふわふわしてると思い立ち上がると床が家じゃないと気づき目が覚める。
目の前は雑貨屋みたいなワンルーム が広がっている。「は?」と困惑しスマホを探す。すぐ見つけたが私のじゃないスマホでトイレに向かう。昨日は誰かの家に泊まった?いや悲いがな友達は少ない。だとすると夢?
とりあえず顔洗おう。洗面所を探見つけた私が目にしたものはミヤノさんを映した鏡だった。
「!!!」
絶句である。
『マジヤバくない!?』
とうるさい「私」の声で喋っているのはミヤノさんだ。彼女に電話(正しくは私の電話)したところどうやら同じ現象が起こっているらしい。
そうして今授業をサボりファミレスに私達は出向いた。
「「うわ!」」
そこに自分市場バッチリメイクを決めたパンツスタイルの私がそこにはいた。
「名取さんの服シンプルすぎてつまんない…」
と言われた。
「ミヤノさんの服はスカート しかないね」と一番気持ち的に着やすい服を着て出てきたが宮野さんにちゃんとメイクしてかわいい格好して!と言われたから自分も、そんな派手にしないでと言うとこれでも地味ですと返された。
適当にメニューを注文して本題に入る。
「っていうかこれ戻れるのかな?」
私が思ったままを打ち明ける。
入れ替わりたいなんて迷信だと思い軽く願ってしまった。
「うーん、私も戻れなきゃ困るから少しだけ交換させてくださいみたいな感じだったんだけどな」
一ヶ月くらい…と能天気にミヤノさんは答える。
「まあ、戻してって言えば戻るっしょ」
軽っ!
とツッコむ自分をよそにミヤノさんはデザートも追加で注文する。
「だって先輩に近づけるんだよ」
「顔似てるから入れ替わんなくても話しかければいいじゃん!」というとミヤノさんは
「あー、それなんだけど私先輩と接点特にないんだよね」
とドリンクを飲みながら話す。
「学部違うとサークルくらいしか接点じゃん。先輩どこにも入ってないし。たまたま友達に文学部の子いて一緒に遊んだ時に先輩優しくて好きになって。ラインとかも交換したけど、イマイチ脈なさげだし・・・」
「・・・ミヤノさんでも恋愛で悩むんだね」
自分の恋愛経験は片想いしか無い。
「マジそれ!私彼氏途切れた事なくてさ」
へぇ・・・。
「告白とか、向こうからしてきてくれて好きになるんだけど自分が好きな人には振られるんだよね」
自分には無縁な悩みだなと適当に話を聞く。
「でね、何で名取さんなんだろうって思ったの」
あれ、もしかしてコレ喧嘩売られている?
「ああ、失礼な意味じゃないよ。ほら顔なら似てるから。そしたら一緒に遊んでた文学部の子が名取さんの事知ってて、先輩もその子に色々名取さんの事聞いたり話したりしてるみたいだから」
なるほど。
「その子からさ名取さん、いつも1人だからなんか先輩気になっちゃったんだって。いいなって。でも自分名取さんと全然違うじゃん?
だから入れ替わって名取さんみたいに過ごせれば
私に戻った時に先輩好みになってるかもじゃん?だから学生証もちょっと」と言葉を濁されたからまさかと思ったがそのまさかだった。ミヤノさんの一人芝居でトイレに行ってるすきに取られたのだ。
最低!
私巻き込まれた訳で不利なのでは?
ここで私は昨日あったはずの怒りが再燃し始めた。
「名取さんもなんか頼みなよ」とこの状態で楽観視しているのにさらに腹が立ちキレる寸前だ。
「一応ミヤノさんが持ってるのは私の財布なんだからね」と嫌味たっぷりに釘を刺したが彼女には通じなかったのかドリンクを飲み首を傾げる。
「それと今日私バイト入ってるからよろしく」と言うと「ええっ!」と驚ろかれる。
「名取さん、バイトしてるの?」
「一人暮らしだから。そういえばそっちは?」
「・・・」
追加注文を待つ際、これまでお互いについての情報を聞き出した。
宮野さおりはデザイン科で主に雑貨デザイナー志望らしい。どおりで部屋にどこで買ったんだと思われるインテリアやファッションが多いわけだ。
隣の県から来て寮生活を送り生活費は仕送りでまかなっているらしい。羨ましい限りである。
「本屋でバイトかあ。できるかな?」
「私、家庭科と美術壊滅的なんだけど」
不安、不満をぶつけ合い2人で今後の生活スタイル
、禁止事項、必要最低限の知識を教えあう。
私においてはバイトに出ること。バイトや何か分からない点があったらすぐ相談して。学校ではなるべく1人で行動して目立つなと伝えると、宮野さんは「ええ〜!」と不貞腐れて「じゃあ、その格好まず直して!スカート が地味だったらトップスは可愛いいやつ着て!メイクももっとちゃんとして!」
不器用だから無理!と答えると「これ!不器用な人でも使いやすいアイライン!パンダ目にならないマスカラ!アイシャドウはせめて一色でいいから!」
教えるから!と圧が強い。
「ええ〜?」と不満そうにすると「はあ、私バイトできるかな〜?」とここぞのタイミングで宮野さんが畳み掛けた。
「・・・分かった。やります」と諦めて折れると「じゃあ、授業中分からない事があったらなるべくあっちゃん達に聞いて」と言われたので宮野さんの周りにいる人達を何となく思い出す。ちなみにこの人達ねと宮野さんがスマホを見て友達を紹介する。「デザインって言っても私も雑貨については助けられるけど、それ以外微妙だから」あっちゃん達に聞きながらやってると話した。
意外だ。
「こういうのって自分1人で全部やるって思ってた・・・」と言うと「まあ、それが普通だけど授業だし、みんなで課題やってると作品見れたりして楽しいよ」
「楽しそうだね」と言うと宮野さんはパァッと明るくなり「アスミン、よろしくね♪」と握手を求めてきた。
アスミン・・・。確かに私の名前は名取あすかだけど。あだ名で呼ばれることはあったけど彼女は変わっている。
握手に応えると手作りであろう雑貨を渡してきた。
「ナニコレ?」「クリオネのブローチ」革製のブローチだ。「・・・ありがと」センスは分からないが貰っておく。
「私はさおりんね♪」
「さおり・・・」と返すと若干不満そうだがさおりん呼びは勘弁だ。
「じゃあ、またなんかあったらラインするねー!」
「バイトちゃんと出てよ」と言い合って別れた。
とりあえずどうしよう。午後のバイトは無くなった。まあ、あの子が代わりにバイト出てくれるのは私としてはありがたいけど。「バイト初めてって言ってたしな」
迷いに迷った末、結局自分は職場に来てしまったた。ショッピングセンター2階の書店がアルバイト先だ。
この尾行は彼女を見守る為である。
始業時間より早めに着いて適当に店横のフードコートに着くと彼女からラインが来ていた。「どこから入ったらいいの?」や「お菓子とか配った方がいい?」等メッセージが来ていたのでまず従業員入口でこうして。いや、お菓子はいらない。レジ打ち自信ないなら最悪、体調悪いと体調悪いとか言って今日棚卸しもあるからそっちをやらせてもらって」
と送り返す。「棚卸し?」
「在庫管理のこと」「( ̄^ ̄)ゞ」
大丈夫だろうか。一応レジ打ち手順は伝えたが。
出勤時間をしばらく経った後、すかさず店に出向きレジを確認する。
彼女は見当たらない。まさか店内を迷ってる?
しかしラインは来ていない。
心配になり店内をうろつくと彼女がいた。本にバーコードを当てて作業している。どうやら棚卸しに入ったらしい。棚卸しは私も入ってまだ一回やっただけだ。不明点があって誰かに質問しても変に思われない。
しかしイレギュラーは起こるもので棚卸し中でも合間を見て本を探していると声をかけるお客様はいる。大丈夫か?「お待ち下さいね」とそそくさ彼女はレジに行きスタッフに相談する。正解!とほっとすると同時、親じゃないしとなんとも言えない気持ちになる。しばらくしスタッフにレシートを出してもらった彼女は商品を探し無事初の接客をこなした。基本ルーティンだし慣れてくれるといいかな?
もう少し見守って帰ろかと彼女を見ていたら彼女が振り返りこっちに近づいてくる。「アスミン、さっきから何してるの〜?」と腕を掴まれる。バレていたらしい。「いや、ちょっと心配で」覗きに来た。
と言うと彼女は眉を下げ「へぇ〜?」って不満そうだ。「大丈夫そう?」と聞くと「多分。レジ緊張するから嘘付いて棚卸ししてるけどなんか暇」
わからなくも無い。
「一応、呼ばれたら入るように言われよ」
「私でデモストでもする?」
「助かる!」
じゃあ適当に一冊選ぶか。安くてカバー掛けの練習なら文庫かなと文庫コーナーに向かうおうとした矢先、スン・・・。と泣く子供の声が耳に入った。迷子だ。どうしよう。さおりも気づいたみたいで近寄る。「大丈夫?」とさおりが話かけると混乱したのかその子は更に涙を流す。さらに自分が戸惑っているとさおりが「見て見て!」と子供に缶バッジを見せた。フェアのおまけだ。さっきスタッフにもらったらしい。「あげるー」とその子に手渡すと、その子は「・・・?いいの?」とポカンとしてる。呆気に取られてると、「ママと来たの?」と聞くと「ううん。兄ちゃんと」とぽそぽそその子は話し始めた。「トイレかも。すぐ戻ってくるかもよ」となだめる。「うーん?」心配そうにその子は首を傾げる。「お兄ちゃんの服はどんな色?」「・・えっと
黒い服」さおりが兄弟の特徴を聞き出す。「アスミンお願いちょっと探して来て」とさおりから言われる。
「分かった」と言うと私は店内を探す。
結果その子は入り口から戻ってきた。それとない格好をしていて誰かを探している様子だったので引き合わせると迷子の男の子はすぐお兄ちゃんの元に戻っていった。どうやら本当にトイレに行っていたらしい。
「よかったね」
「仕事してないのにハラハラした・・・」
でも、これで一安心だし彼女いいとこも分かった。そういうとこは自分と違って素直に尊敬した。
もし自分だったら子供相手はおろおろして店長任せだ。
2人して話し込んでると「名取さん、大丈夫だった」とスタッフが話して来た。
つい名前を呼ばれたので「はい」と私が答えてしまったのでさおりもスタッフも固まる。
「あー・・、何とかすぐ見つかってよかったです」
さおりが会話に入る。
声をかけてくれたのは八木君でちょうど同じ歳でたまたま同じ時期に入ったスタッフだ。
じぃ・・・と私とさおりを見ていている。
「名取さん、双子だったの?」
「え?」
そうに違いないと感じたのか「アルバイトの八木です」とさおりの姿の私に八木君は挨拶する。
「いえ、双子じゃなくて大学が一緒なんです」
さおりが説明すると「マジ?双子じゃないの?分かんねーんだけど」似てるに?と八木君が困惑していたので「宮野です」
と挨拶を返す。
「こちらこそ。名取さん、子供大丈夫じゃん」
そういえば以前同じような事があった際八木君とは子供の対応ムズイよねという会話をした。なんて言い訳しよう。
「ちょうど甥っ子と遊んでいけるかなって思ってー」とさおりが言ったので、返しに感心した。
「じゃあ、私本探してくる」と2人と別れて今度こそ本を探す。
一応2人で使っていい金額は話し合ってはいる。
買い物で考えるとなるべく物は増やさない方がいいな。お互いに興味ある内容にしよう。
しかし、意外とデザインに関する書籍は図案集が多い。代わりに私が手に取った文庫は「綺麗な空の色」という色についての図鑑のような軽いタッチで読める文庫だった。「選んだ」とさおりに持っていき一緒にレジに行く。「名取さん、大丈夫?」と体調が悪い設定だったけど「少しなら」と断りレジに入ってもらう。さおりは教えられたとうりにレジを打つ。私に確認をとるようにレジを打つ。カバーもつけ完璧だ。「ありがとう」と礼をいう。
大丈夫そうかと無言で聞くとうんと彼女は頷く。
よかった。またラインするとさおりと別れてやっと私はその場を立ち去る。ああ、長くて変な一日だった。今日はさおりの家に帰るんだ自分。
帰って化粧落として寝ようとようやく床についた。
しかし、翌朝さらに今度は私が窮地だった。
朝起きても戻らない現実に気分は下がりこの姿で学校。ラインを開くと「連絡あるかと思った」とさおりから来てたので服の相談や持ち物を教えられ学校に着いたのは授業開始スレスレだった。
とりあえず空いている席に座ったがそこで「あっちゃん」そばに座ればよかったと思った。変じゃないかなとまわりを見てみる。私の学科とは雰囲気が全然違う。
どうやら今は配色についてのところを講師は話している。タイムリーだ。これだったら自分もできるくもしれないが「みんなにはそれを意識してアクセサリーを課題で制作してもらいます。」と言われた。自分実技はダメなんだって。しかも私はアクセは2、3個しか私物はない。みんなはどんなの作るんだろ。結局授業は色彩の話で終わり課題は次の授業かららしい。
「さおり、おはよ」
「あ、おはよう」
遅かったじゃんと授業後あっちゃんが話しかけて来た。上手く会話できるだろうか。
「地下鉄混んでた」
「マジで?うちの方面もだったよ」とお互い地下鉄通学でよかった。
「・・あっちゃんは課題どうする?」
と聞いてみる。
「う〜ん。私こないだコレ作って見てさ」
と出したのは幾何学のパーツがついたかっこいいアクセだ。
「この色違い作ろうかな」
「かっこいいね」デザインに関する人はもっと奇抜な物を作っていると思っていた。
へへっとあっちゃんは笑うと「さおりは?」と聞いてきた。やべ。
「まだ、思いつかなくてさ」というと「珍しい。いつもだったらプレゼンしてくるくせに」と言われたので言葉に詰まる。あははと誤魔化し、結局あっちゃんの話を聞いて休み時間は終わって次の授業が始まり休み時間が来る。休み時間の度私はトイレに行く事にした。
「お昼どうしよう」さおりは昼はあっちゃんと学食だ。
スマホを見るとさおりからラインが来ていた。
「上手くやってますかー?」
「ごめん!昼は1人で食べたい」
「まあ、あっちゃんよく喋るけどさー。アスミンも無理しないで」
「色彩の講義があって、課題でる。私デザインなんて無理」
「分かった。アスミンが作れそうなやつで私考えるよ。デザイン画は流石に描くし、あとね!さっき先輩と話せたよ(^^)」
マジで!?
「なんかちょっとびっくりしてたけど」
何も変な事してないよな?
「ひいたんじゃない?」と返信すると「デザインどーしよーかな」と弱みを握ったのかこれ見よがしに送ってくる。
「ご飯誘っちゃおっかな?」と来たので「ガンバ。でもやり過ぎんな」私の体で付き合われても困る。
「とりあえず、今日放課後」とラインを終わらせる。
午後の授業が終わりさおりと待ち合わせしているファミレスに向かう。
あっちゃんとはバイトがあるらしく帰りは一緒じゃなかった。
「お待たせー」と入って来たさおりを見てうへっとなる。
「地味にしろって言った」昨日と格好変わってないじゃん!
さおりは授業に馴染めたんだろうか。
「全然だよ」と向こうも向こうで苦戦しているらしい。文学部なのに歴史あるし・・・。面白いやつもあるけど勉強嫌い。と愚痴っている。
「とりあえず習った範囲だけ教えてくれればいいし。授業でるだけでいいから」
こっちとしてもそれが一番助かる。
「あっちゃんもさ、自分から喋る方だから聞いてるの楽しいんだけどな」
「2人はいつも何話すの?」
「う〜ん、いつもはあっちゃんの彼氏さんの話とか、飼ってる猫ちゃんの話してるよ」
「猫・・」
そういえばあっちゃんの持っているスマホケースは猫デザインだった。
「・・・猫の事なら話せるかも」
実家には猫がいるので話題には出せないがあっちゃんの話が聞けるだろう。
「彼氏さんとの話聞いてると同棲とかいいなって思って」きゃっきゃっとさおりは話す。
「彼氏欲しいって言ってるとイジられるの」だそうだ。
とりあえず、課題はさおりとし、あっちゃんとは主にあっちゃんの話を聞く事でまとまった。
次の日はさおりに聞いていたとおりあっちゃんは
猫の話題をふってきてくれたので話に乗れた。
さおりも猫派なので私も飼いたいけど無理なんだよねと話すと「彼氏がいない時に触りに来てもいいよ」だそうだ。改めてあっちゃんを見ているとさおりよりも話す子いるんだなとびっくりするくらいだ。そしてさおりと違うとこといえば面倒見がいい。さおりは妹ポジションなんだろうなという事が伺えた。
そんなこんなで上手くやってけそうと自信がついた頃、先輩とご飯したよとさおりからラインが入った。
「ほんとに誘ったの?」と聞くと「たまたま先輩が食べてこって誘ってきた(^^)」らしい。よかったじゃんと送ると「明日アスミン課題作るかって奴考えて来たし会おう。早く話したいし(主に先輩の事)と言ってきた。
次の日久しぶりの日曜の昼過ぎたちはまたファミレスに集合した。話は尽きない。課題はさおり案でプラ板アクセを作る事にした。
「デザインがこれでこっちが原寸大の図案。確かプラ板意外は道具あるから」とさおりが資料を広げる。今回沙織はデザイン画!こうやって実際に見るのは初めてだ。「デザイン画ってこんな風に描くんだ」と感動する。「そんな驚ろかなくても」と言うさおりに珍しくてとはしゃいだ。
プラ板と言われた時はちょっと子どもっぽすぎないかと思ったが何色もの色を合わせた月と星のブローチがデザイン画に描かれていた。一つ付けたり合わせて付けても合うデザインでまるで刺繍が施されているタッチで色を付けている。
「アスミン塗り絵得意?」とさおりがカラーペンを出して円を手帳に描くと、これに色を塗ってと言われて強制的に色を塗る練習をさせられる。
そうこうして思いの外話していると時間が経っていた。
大分疲れて来てそろそろ帰ろうかとなった時、入り口に滝先輩がいるのが見えた。さおりも気づいたらしい。早速先輩に声をかけている。
「先輩、よくここ来るんですか?」とさおりの質問に家が近くてと先輩が答える。
「2人とも知り合いだったの?」と先輩は不思議そうに私達を見る。
なんと言ったらいいだろうと迷っているとさおりは「落とし物拾ってくれて、ね?」と話を合わせるようにさおりに話を合わせ「はい」と答える。
「へえ、意外だけどやっぱ2人似てるよね。あ!俺今から飯なんだけど奢るから2人とも食べてかない?」と先輩が提案して来た。さおりは待ってたとばかり「いいんですか」と喜んでいる。
え!?と私は帰った方がいいんじゃないかと困惑しているとさおりはお願いという表情でこっちを見てる。
まあ、いい雰囲気になったら席外れて帰ればいっかと思ったが先輩は私たち2人に話しかけてさおりも先輩に質問したり、先輩の話を笑いながら聞いている。途中、3人でラインも交換した。結局私たちは先輩に奢ってもらった。
しかし、私たちは昼から来て結構な額だった。さおりは素直に喜んでいたが私は半額先輩に渡そうとしたが受け取ってもらえなかった。
こうして、課題に苦戦しながらもあっちゃんと喋ったりしてるうちにこの生活も慣れたら悪くないかもと思い始めていた。さおりにも進捗をラインで話したりしている。さおりも試作で作ったアクセを仲良くなった子に渡したらしい。
仲良くって私自身友達少ないけど、何したの?と聞くと授業分からなすぎて声かけたら仲良くなっただそうだ。恐るべきコミュ力。しかし、先輩と最近出くわす事は少ないらしい。
数日後。アスミン、またファミレス集まろうよとまたさおりからラインが来たので1人で行った方が先輩と過ごせるんじゃと返すと、それもそっかと返ってきた。
また別日。私は困惑していた。先輩からご飯行かないかのラインが来ていた。
はて?なんで私と思う。さおりと2人でという意味なのだろうか。さおりに聞いてみて判断しようか。
下手に返事はできない。迷った末私は体調不良と先輩に返信を送る。次の日さおりから久しぶり電話が入る。
学校とバイト生活ばかりで暇らしい。先輩とも会えないしと嘆いていた。ラインは来ないのと聞いてもないらしい。どうやら先輩は私だけ誘ったらしい。先輩、どういうつもりだ。
「アスミンにもライン来てない?」とさおりが電話で聞いて来たのでつい「うん」と答えてしまった。
「そっかー」とさおりは残念そうにしてるのが伝わってくる。
一通り2人で話して電話を切る。初めてさおりに嘘をついてしまった。と思ったが誘いは断った訳だし追求はされないだろう。
しかし、予想外にも外でも先輩は私に声をかけてくるようになった。
たまたまその日は校舎内でさおりと会った。お互い時間があったので人のいないとこで話していると先輩に出くわす。「2人とも久しぶり」と声を掛けてきた。「お久しぶりです」と挨拶すると先輩は私に「元気そうじゃん」と声をかけて来たから「はあ」と適当に返す。さおりは不思議そうに「体調悪かったの」と心配してくる。違うよとさおりに言おうとしたが先輩は「ううん、この間ラインしたら体調悪そうだったんだよね」とさおりに話す。さおりはえ?と言う表情になり私もしまった!となんて返そうか言葉が見つからない。「私、次の授業あるから行くね」とさおりは私達を残して行ってしまった。
「ごめん」さすがに不穏な空気を悟ったのか先輩も謝ってきた。最悪だ。
その日の午後、努力の末に課題が完成した。
力作だ。
完成した喜びを伝えたかった。写真だけ撮ったもののしばらくさおりにラインできないなと感じた。
その後、課題の結果も通った。あっちゃんは
たまにはご飯食べようとその日、猫カフェに行ったりして気を紛らわした。
また別の日、屋上でお昼を食べようと上を目指すと先客がいた。さおりだった。さおりは屋上に続くドアの側を動かない。何やってるんだろうと足を進めると向こうも私に気がついたので声をかける。「久しぶり」と声をかけるが「うん・・・」と一言返ってくるだけだった。「中入らないの?」とリアクションがなかったので先に行こうとすると「待って」と足止めされる。何がしたいんだと思ってると誰かが電話で喋っている。滝先輩だ。外を向いて電話してる。私もさおり同様先輩が話している様子を見ている。
「今日は俺帰るから家にいるでしょ」
家族に電話か?先輩って自宅住まいだったっけ?と聞き耳を立てると「はあ!?」と先輩が急に電話ごしにキレた。なんだ?喧嘩か?
しかし次の言葉で私とさおりは絶句する。
「彼氏が帰ってくるんだから、別にそれくらいするのが当たり前じゃね?」
彼女!?いたの!!?
慌ててさおりを見ると下を向いて落ち込んでいる。
この場所離れた方がいいんじゃないかとオロオロ気が気じゃないでいると先輩が「だから泣いても無駄だから」とまさに彼女と喧嘩修羅場してるらしい。
その瞬間、さおりを心配していた私は先輩に怒りを覚えた。クズい!!
こんな奴の事で2人入れ替わって頑張ってたのがバカらしい!一発殴ってやりたい!
さおりはまだ下を向いている。
そんなことも知らず奴はさらに「別れても俺困んないし」と吐き捨てるように言った。
クズ確定。
そう思った瞬間、信じ難い光景に固まった。バン!とフェンスに何かがあたった音が鳴る。
さおりが先輩を足蹴したのだ。
驚いてさおりを見ていたが先輩が起き上がって痛えー!と叫んでる。額怪我してんじゃ?
ヤバい!このままでは奴に蹴った犯人を見られてしまう。急いでさおりの手を握り階段を駆け降りる。
「待て!」と奴が追ってきたが引き離して女子トイレに個室に入り時間が経つのを待つ。
「何やってるの?」と呆れながらさおりに聞く。
さおりは下を向いて「・・・だってさ、ムカついたんだもん。あり得ない」「うん」奴はクズかった。
「アスミンの事好きかもとか言って彼女いるとか聞いてない」「うん」「彼女ナメすぎだし・・・」
「うん。・・早めに気づけてよかったじゃん」
「せっかく、お堂にお願いしたのに、ごめん」とさおりがスンスン泣く。なんじゃそりゃ。
「誰かさんと入れ替わったからコミュ力は上がったんだ」と言うとさおりはポカンとして「何それ。ウケる・・・」とフッと笑う。
「でも私たち戻れるかな?」
「じゃあ、また行こうか」と言うとさおりは不思議そうにしていたので「あの場所」に行く。夕暮れ時だったので今日も誰もいない。
「アスミン本気?」
「入れ替わったんだからまた願えばいけるって言ったのはそっちじゃん」
さおりはむーっとしていたがしばらくすると手を合わせ始めた。私も続けて願う。最初よりも長く。
「もし・・さ。戻らなかったらどうする?」弱気なさおりが聞く。「これが毎日続くんじゃない。まあ、流石に卒業までには戻りたい」流石にそうなったら何か備えようと明るく話すと「そうだね」とさおりが笑う。
「帰りに何か食べよう」と言うとさおりは「よーし、奢られるぞ」と笑う。
そうして私はさおりの部屋に帰った。
翌日、聞き慣れないアラームが鳴る。さおりのスマホのアラームこんな音だっけ?と目が覚めるとそこは元の私のアパートだ。どうやら戻れたようだ。
「うへぇ、今日バイト入ってるし」
あんなに嫌がってたくせに入れ替わった当初が懐かしく感じた。
変なの。
しかし、日常は変わらず今日も授業とバイトはある。
「あれ、名取さんなんか戻った?」メイク薄くなってる。と誰かが声をかけて来た。たしか同じクラスの林さんだ。「いや、ちょっと目元腫れたかもで」と誤魔化す。これもこれでめんどくさい。
「あのね、これ」と林さんはブローチを見せてくる。「ありがとうね。つけて見た」と言われた。
なんの事かと思ったがさおりがクラスの子にも渡したんだと言ってたのを思い出す。「似合ってるよ」
というと林さんは笑い話題は課題や文学の事になる。林さんはライター志望らしい。名取さんはと聞かれたから「小説とか」と言うと読ませてよと言われた。「林さんが見せてくれたら」と言うと彼女は折れず「いいよ」と言ってきた。私の周りにいる人達は意地が悪い。
夕方バイトに入ると意外な子が店内にいた。さおりだ。「アスミン、来ちゃった」
さおりである。
「何しに来たの?」と言うと「冷た〜い」と冷やかす。「アスミン大丈夫かなって」「ラインしたじゃん」と言うとさおりはいいじゃんとへらへら笑う。
「いやさ、アスミンに話があって来たんだけど」
「うん」何かまだあっただろうか?
「八木君、今日いる」
「いないけど、なんで」と聞くと「そっか〜」と残念そうな声を上げる。まさか!
「いやあ、八木くんいいなーって思ったんだよね」
とお約束と言わんばかりキラキラしてさおりは私を見つめてくる。
「嫌だ」「何も言ってないじゃん」「何言われても無理」「アスミンのケチ!」何がケチだ。散々振り回しておいて。
「じゃあ。私レジ行くから」強制的に会話を終了し私はレジに入る。
さおりはまだ何か言っているがこの後におよんでお断りだ。
「いらっしゃいませ」と今日もいつも通りに私は挨拶をした。