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違う家での一夜

「・・・ねぇ、この場合って謝るのはどっちなんだろう?」

「どうなんだろうね?」


 会話としては普通なのかもしれないが、状況は真面目が正座をさせられて、岬が目の前で立っている状態だ。


「ええっと、確か僕がお風呂を使っていることは」

「知らされていない。 名瀬さんがお風呂が空いたことを知らせには来たけれど。」

「というかそもそも僕が使うってこと自体は?」

「一応知ってた。 その辺りはまあ。 私達の慈悲ではあるし。」


 ここで普通の状態を考えれば、真面目が着替えているところに岬が入っていく図になり、真面目の()()()()()()裸を見ることになっていた事だろう。 だが現実は違っており、真面目の()()()()()()裸を男子の岬が見た構図となる。


 さらに言えば岬の方は服を半分脱いでいたこともあったので、立ち位置だけ聞けば大混乱は必須だった。


「・・・とりあえずは私の不手際だった。 いないものだと想定していたから。」

「それは僕も。 開ける前に声をかければ良かったかも。」


 2人が謝り、2人が反省点を述べた。 その光景がおかしくて、「プッ」とどちらがでもなく息が口から漏れてしまった。


「あはは。 私達、一体なんの話をしてるんだろうね?」

「本当だよ。 こんな悩み誰が分かるのさ。」


 大声とまではいかないものの、笑い声はそれなりに響いていた。


「あー面白いや。 あ、こんなに声だして大丈夫? 向こうに届いてない?」

「心配ない。 この部屋は客室としてたまに使うだけ。 私達が使ってる部屋の位置とは距離がある。 そういう風に設計されてる。 昔はここでよく遊んだから分かる。」

「浅倉さんにとっても思い出の場所なんだ。」


 改めて見渡すとそこまで使われている様子はなく、柱なども綺麗だ。 部屋自体も名瀬さんの手入れが行き届いている証拠だろうか、ハウスダストが舞っていない。


「ん? それなら茶道をやってる場所ってどこになるの? 静かな場所でやるならこういった場所はいい場所だと思うけれど?」

「後もう2、3部屋向こうだよ。 そっちはリビングが近い。」

「茶道を始めたきっかけを聞いても?」

「大した理由じゃない。 何かのテレビで見て興味を持っただけ。」


 ふーんと思いながら真面目は机に頬杖をつける。 みんなで使っていた机とはまた別の机で、折り畳み式になっている。


「私ばっかりって言うのもズルい。 一ノ瀬君からもなにか無いの?」

「何かって、なにさ?」

「んー、例えば・・・料理が上手なところとか。」


 特になにも思い浮かばなかった岬は、少ない真面目の情報からそんなことを聞こうと思った。


「あー。 料理に関しては父さんも母さんも共働きだからって言うのが第一理由かな。」

「自分の料理を作らなきゃいけないもんね。 私は名瀬さんがいるからそんなことも考えないし。」

「でも作ってる時間があって、それを見てたら興味が湧いて、手伝いを繰り返してたら出来たって感じかな。 かれこれ5年はやってるから、煮物も今じゃ出来るし。」

「やっばりそれなりの年月がかかるんだね。 それに今は女子の姿だから、料理が出来たら行く手数多じゃない?」

「それは家庭的って意味合いでの話?」

「どうだろうね。」


 こうやってはぶらかす岬には何を言っても無駄だということを学んだ真面目は、それ以上深く追求することを止めた。


「そういえばなんで部活を2つを掛け持ちしたの? どっちかだけじゃ不満だった?」

「そういう訳じゃないんだけど、なんかこう、自分の中でこれはどっちもやってみたいなって思いが出てきてさ。 運動部と文化部だし出来るんじゃないかなって。」

「それで生徒会にも入っていると。 なんか将来飼い殺しにされそうなイメージが・・・」

「嫌なイメージを起こさないでくれる?」


 そんな会話を繰り返していると、ふと戸からノックオンがした。


「夜分に失礼いたします。 お水をご用意致しました。」


 そう言って名瀬が戸を開けて、お盆の上に乗ったコップと花瓶のような容器に入った水を用意してくれていた。


「お手数ですが一ノ瀬様。 ただいま鎮痛剤等はお持ちでしょうか?」

「ああ、持っていますよ。 こうなった時のためにって、母さんが入れてくれたんです。 備えてくれていたお陰だと思います。」

「左様でございますか。 もし痛みが伴った際には、こちらのお水をご使用下さい。 それでは私はこれで。」


 薬はなるべく水などで流した方がよいと確かになにかで言っていたので、これはありがたいことであった。 のどが渇いた時に水を飲めないのはなにかとツラいからである。


「他になにか必要そうなものはある?」

「これ以上は・・・どうかな?」


 頭の中で浮かんでこないと言うことは、更に要求するものは無いという現れだろう。 真面目も無理して捻り出そうとは思っていないので、思考を止める。


「一ノ瀬君どう? 眠たくなったりしてない?」

「夜だって言うことを差し引いて言うなら・・・まだそんなにって感じがするかな?」

「それじゃあダルさ。」

「お昼辺りからずっと座ってたからそんなには・・・あ、でも流石に頭の痛みは感じるかも。 これもそうなの?」

「うん。 気分が悪くなる時は、大体頭やお腹の痛みのせい。 それを和らげるための鎮痛剤。」

「この痛みと付き合うのも2回目・・・あ、3回目だ。」

「回数数えるのは意味ないと思うよ? 月に1回は必ず起きるから。」

「そうなんだね。」

「でも時期は大体同じだから、その時が来るんだって思っておけば、怖くはない。」


 未来を知れる、とまではいかないものの、やはり対策の仕方を分かっているものほど、怖いものは無いのだろう。 真面目もそこに関しては安心していたのだった。


「それじゃあ、私はそろそろ自分の部屋に戻るね。」

「うん。 ありがとう、助けてくれて。」

「それだけツラくしているしている友人の姿を放っておくような人間じゃないから。 おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」


 そうして岬が出ていった部屋に1人布団と共に取り残された真面目。 そして静かになった部屋で1人、闇に溶け込むように身を委ねて、眠りにつくのだった。


 そして翌朝になり真面目が目を覚ますと違和感を覚える。 いつものように起きようとしても床が近いので起き上がるには自らを支えなければならない。 そう思いながら真面目は思い返した。


「ああ、そういえば今は浅倉さんの家に泊まらせてもらったんだっけ?」


 昨日の記憶を思い返しながら無理にでも起きあがる。 元々はベッドで寝ていたためか違和感が凄まじいのだ。


「今何時だろ?」


 日の光も当たらない場所のためか、正しい時間が分からないままなのだ。 そして自分の携帯の時刻を確認すると、5時55分を指していた。 まだ6時前なのを確認した後にどうしようかと悩んだ。 これが自分の家ならば浴室へと向かい、シャワーを浴びるのだが、今はそれは出来ない。 だが真面目は二度寝をする気もない。


 どうするべきかと考えていたその時、扉からノックの音がした。


「一ノ瀬君。 起きてる?」

「浅倉さん?」

「もし気分が悪くないんだったら、外に出掛けない?」


 そんな朝の散歩のお誘いを、嫌だと言わずに行くことを決めた真面目であった。

起きたら知らない天井ぁった。

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