さすがに泊まりが許可されるなんて
真面目は今部屋の一室でゆっくりと横になっていた。 完全に身体が動かせなくなるくらいに痛みが激しくなったからである。 それのせいか急にダルさも覚え始める真面目。 よくないと分かっていてもとにかく身体が重いのだ。
「無茶して動くから。 少しだけ長いのは経験済みでしょ?」
「・・・人の家の床に寝転がる程じゃないと思ってたんだけど。 というかそっちはいいの? 両親そろそろ帰ってくるんじゃないの?」
岬の母である湊とは真面目もあっている。 だが父親の方は知らない。 そして自分という異性がいた場合、どういう反応をされるのか想像が出来ない。
「そうですね。 旦那様にもご説明は必要かと思われます。 あらぬ誤解を生む前に。」
「うん。 父さん、一度決め付けると動かない人だから。 頑固とか頭が固いとか言われるのも仕方ない。 一本筋なのもいいことなんどけどね。」
何気ない二人の会話を恐ろしく感じる真面目。 一言間違えるだけで自分に命の危機すら感じているのではと思ったからである。
真面目は両親が喧嘩しているところを見たことがない。 見せないだけなのかもしれないが、真面目も両親を心配させることはあっても怒らせることは滅多に無かった。 真面目自身も何で怒られたのか覚えてすらいないほどに。
それだけに自分の娘を友達、ましてや異性の友達だと言われれば、品定めしてくるのは間違いないだろう。
「・・・せめて家までは帰りたかった。」
筆箱を忘れたのを今になって後悔し始めた真面目。 不運がこれ以上重ならないことを願いながら、苦痛と戦っていた。
「あ、母さん達に言っておかないと。 ・・・浅倉さんの家にも車が見当たらなかったけど、裏にでもあるのかな?」
この家の広大さを考えながら、壱与に連絡を入れることにした。 メッセージだと時間がかかるので、電話で直接話すことにした。
3コールで電話に出た。
「もしもし?」
『もしもし、真面目か?』
「あれ? 父さん? あ、母さんは料理中?」
『そんなところだ。 どうした? この時間に電話なんて珍しいな。』
「んー、実は友達のところで勉強してたんだけど、そこでいま休ませて貰ってるんだ。」
『体調でも悪いのか?』
「そんなところかな。 「女の子の日」が来たからさ。」
『ああ。 そういうことか。』
さすがに理解はしてもらえている。 とはいえ迎えに来て貰うには家に車はないし、かといってこっちの人に送って貰うことも気が引ける。
『それで大丈夫なのか? 歩いて帰ってこれるか?』
「その事なんだけど・・・」
そう言っていると急に真面目の手からスマホが離れる。 そこで上を見てみると、帰ってきていた湊が代わりに出ていた。
「もしもし、現在お宅の息子さんを預かっております浅倉家当主の妻、浅倉 湊でございます。」
『ええっと、初めまして、ですよね。 どうでしょうか? うちの真面目のご容態は?』
父である進の声が聞こえてくる辺り、自分の近くで喋っていることが伺えた。
「今は落ち着いておられますが、急激に容態が変化してもすぐには来られないと思われます。 そこでご提案なのですが、明日も日曜日と休日となります。 こちらで1泊お預かりして、朝もしくはお昼頃に容態が回復次第帰らせるというのはどうでしょうか?」
『え?』
「え?」
最初のは進で次のは真面目だ。 お互いに想定していなかった答えなだけにかなり拍子抜けな声が出てしまう辺りは親子なのだろう。
『た、確かにその方が安全かと思われますが、流石にそちらに迷惑になるようなことは・・・』
『いいじゃない進さん。 どうせ私達明日どっちも仕事で家にいないのだから、1泊泊めさせてあげても。 どうも湊さん。 今通じてるかしら?』
「通じていますよ壱与さん。」
『うちの息子がごめんなさいね。 ご迷惑はかけないと思うので、よろしくお願いいたします。』
「はい。 こちらもよろしくお願いいたします。 真面目君にお返しいたしますね。」
そう言って湊は真面目に携帯を返した。
「ちょぅと。 本人がいるんだから直接聞けばいいじゃんか。 話を普通に進めないでよ。」
『別にいいじゃないの、いくらこのご時世高校生大学生の男女の交流が厳しくなったとはいえ、夜はどちらかの親が責任を持って監視していれば問題にはならないでしょ? それともあんたは岬ちゃんを襲うかもって思ってるの?』
「そんなわけ無いじゃんか!? ・・・いててて・・・」
『生理中の人間がそんなこと出来るわけ無いでしょ? あんたよりも倍近く生きてる人間からの立派なアドバイスよ。 不純異性交友なんか起きないのは私も湊さんも分かってるのよ。 進さんだって心配してるのはあんたの身体。 泊まるだけ泊まらせてもらって帰ってきなさい。』
「・・・分かった・・・」
『よろしい。 それじゃ、明日の夜にね。』
そう言って電話は切られてしまった。 そしてもう一度湊の方を向く。 ついでに見えてはいなかったが岬もいることが伺えた。
「ええっと、それでは、今夜はよろしくお願いいたします。」
「うん。 よろしく。」
「さてとお夕飯を持ってこないといけないかしらね。 あの人に会わせるには少しだけ間が悪いわ。 真面目君も動けないだろうし。」
「お気遣いありがとうございます。」
「後で名瀬さんに運ばせるから、ちょっと待っててね。」
そうして湊と岬は部屋を後にした。 そして真面目の中で色々と大変なことになった事を考えていた。
待つこと数分後。 名瀬が部屋の戸をノックした。
「一ノ瀬様。 お食事をお持ちいたしました。」
「あ、ありがとうございます。」
戸を開けて名瀬が持ってきたお盆の上にはご飯や味噌汁、そして数種類の天ぷらと里芋の煮物が乗っていた。
「お食事が終わりましたらまたこちらに来ますので、お盆はそのままにしておいて下さい。 それでは。」
そう言って部屋を出る名瀬。 真面目は早速食事に手を付ける。 天ぷらはしっかりと油が切られていて、サクサクとした食感と肉厚な身によって高級感を出していた。
「この技法、僕らにも出来るわけかな・・・?」
何故かこの状況で何かを掴もうとしている真面目。 自分の立ち位置としては泊まっているという状態なのだが、表に出せないのは少し残念であったりする。
「明らかに僕が食べてる物とは違う・・・素材が普通のものじゃ無いんだもの・・・」
食べ終えて少し時間が空いたので、折角なので持ってきていた勉強道具を取り出して、昼間に出来なかった勉強をしようと思った時に、戸をノックされる。
「一ノ瀬様。 お風呂の準備が出来ました。 こちらお風呂に使用していただければよろしいかと思います。」
「お風呂使っても大丈夫なのですか?」
「最初に入れば、あとは我々が入る番になるので、どうぞ今のうちに。」
そう言われたので、真面目は名瀬に案内されてお風呂場へと案内される。 お風呂場はそこまで広くは無いので、そこの部分に関しては安心した。
「温泉みたいのが出てこなくて良かった・・・」
そんな風に思いながら真面目は湯船に浸かり、ゆったりしてからお風呂場から出ようとしたその時、誰かの気配がした。
「ん。 名瀬さんでも来たのかな?」
そう考えていると浴室のドアが開けられる。 そこに立っていたのは
名瀬ではく、既に上半身を脱ぎ捨てた岬の姿だった。
互いの状況を目で確認したところで、岬がドアを閉める。 真面目は早めに着替えを済ませてからドアを開けた。
「・・・ええっと、空いたよ? お風呂。」
「・・・うん。」
真面目と岬の立ち位置が入れ替わってから、真面目は自分が使用している部屋へと戻っていったのだった。




