昼前に変化を起こす
体育祭は曇天の中ではあるものの、それに負けないくらいに体育祭は熱気に溢れかえっていた。
午前の部中盤の競技に大縄跳びが存在し、クラスが一丸となって大縄を飛ぶ様は、一会場を大いに盛り上げた。
続く大玉転がしも、普通の競争ではないため、てんやわんやでもどちらの応援も熱が入っていた。
そして午前の部最後の学年対抗リレーでは、先輩だろうと後輩だろうと容赦のない戦いがあり、クラス名だけが一緒だという事でなければ、こちらもこちらでバチバチに対抗意識を燃やしていたであろう。
そんな実力派揃いの今年の体育祭の中でも最も盛り上がったことだろう。
リレーが終わればお昼となるので、午前の部で使い果たしたエネルギーを回復に当てる為の腹ごしらえをするのだった。
そして真面目は玉入れが終われば生徒会としての仕事に負われていた。 もちろんこの後の体育祭をより良いものにするために、怪我をした生徒には自前の消毒液と絆創膏で措置を行ったり、競技のための準備にもあったため東奔西走の勢いであちらこちらに行っていた。 それが終わったのも、結局は競技が終わってからになっていた。
「お疲れだったな。 ほら、ここ座って飯にしようぜ。」
「・・・ありがとう。」
隆起に促されるままに木の木陰へとヘナヘナと座る真面目。 お弁当箱は二段式とは言えこれだけで足りるのか不安になっている。 携帯は行事の都合で使えなかったので、連絡は無かったものの、場所だけは知っていた。
「生徒会の仕事は厳しい?」
「ううん、そう言う訳じゃないけど、やっぱり少しでも良くしようと思ったら・・・ね。」
一緒に座っていた岬から心配する様子を示されるが、真面目にとっても大事な仕事なので手は抜きたくないのだ。
そうして真面目は弁当を開ける。 上はぎっしりの白米に鮭フレークが添えられており、下の段は様々なおかずが目に入った。
「相変わらず弁当の手作り感凄いよな。 朝から大変だったんじゃないか?」
「そんなこと無いよ。 ほとんどは冷凍食品だし、この春巻きも昨日の残りだし。」
「この春巻き作ったのは一ノ瀬君?」
「正確には僕も作ったって感じかな。 人数分作るには人手がいるしね。」
そう言いながら箸で掴んだのは春巻きではなくミニハンバーグだった。 これだけ言われたが最初に食べるというわけではない。
ちなみにここにいるのは真面目と隆起、そして岬のみだ。 得流や叶は別グループと食事を取っているからである。
「体育祭が盛り上がってるから、この時間くらいはゆっくりしたいよね。」
「そうだなぁ。 しかもここから雨模様だろ? 普通なら気分萎えちゃえよなぁ。」
「でも今年はそうならないために生徒会が頑張った。 もちろん一ノ瀬君も。」
「僕はまだ庶務だけどね。」
そんな会話をしながら真面目達はゆっくりとしていると、そこから誰かが近付いてくるのが見えた。 そして手を振っている。 どうやら知り合いのようだ。
「やぁ一ノ瀬君。 ぼくもここに座ってもいい?」
「日賀君。 クラスの人と一緒じゃないの?」
「化粧直ししてたら乗り遅れちゃって。」
目の前の女男子は周りよりも自分の事を最優先にするらしい。 そんな風だから紫藤に言われてしまうのでは? と真面目は口にはしなかった。
「なんだ? 知り合いか?」
「あ、初めましての人だね。 ぼくは日賀 下。 一ノ瀬君とはちょっとしたきっかけで知り合ったんだ。」
「あれをちょっとした、で済ませないで欲しいんだけど?」
「なにがあったんだよ・・・まあいいや、俺は木山 隆起。 クラスは真面目とは違うが、友人だぜ。」
「私は浅倉 岬。 一ノ瀬君とは、同じクラス。」
「なんだよ浅倉。 同じクラスマウントか?」
「はいはい、そんなことで喧嘩しないの。 日賀君の前なんだから余計にさ。」
面倒な事になる前に仲裁に入る真面目の姿を見て、下もホッとした表情でその様子を見ていた。
「君はぼくに会った時もそんな感じだったよね。 自分より他人って感じで。」
「一ノ瀬君は意外と自分の事を省みない。 たまに見てて不安になる。」
「自己犠牲の精神って良くも悪くも捉えられるからな。 そういう意味じゃ、真面目って損してるよな。」
「みんなして僕をなんだと思っているの?」
ちょっとした風評被害を受ける真面目だったが、特にそれ以上は怒ることも無く、下も一緒になってお昼を食べることにした。
「ありがとう、場所を空けてくれて。」
「まあそれなりに広いからな。 って下のお昼はその中か?」
「そうだよ。 ぼくのはここにあるよ。」
そう言って出したのはコンビニの袋。 その中にあるということで取り出したのはメンチカツサンドとカップサラダだった。
「おー、なんか俺と似たり寄ったりだな。 お前もあの購買部激戦区の経験者か?」
「あれはさすがにぼくには無理だったよ。 安いのは目を引くんだけどさ。」
そう言いながら下はモグモグとサンドイッチを食べ始めた。
「あれ? 化粧直ししたのに、そのまま食べて大丈夫なの? 普通なら食べ終えてからやるものだと思うんだけど?」
「元々薄化粧にしてたし、なによりぼくが出る競技は全部終わったしね。 だから何にも問題ないってわけ。」
「素でも綺麗なのは女子にとっては願っても願えないこと。 そういう意味ではその美貌はちょっと羨ましい。」
そんなこんなで時間を過ごしていると、同じ様に近付いてくるの男子の姿があった。 真面目と岬はクラスメイトなので見覚えがあった。
「ここにいたんだ一ノ瀬君。 ちょっと来てくれないかな?」
「どうかしたの? なにかあった?」
「手伝って欲しいことがあるの。 浅倉さん。 一ノ瀬君借りるね?」
「う、うん。」
そうしてそのクラスメイトと真面目は一緒に体育館裏までやってきた。
「それで手伝って欲しいことって?」
「一ノ瀬君。 たとえ運動が得意じゃない私達でも、体育祭を盛り上げることが出来ると思うの。」
「・・・達?」
「運動は出来なくても応援は出来ると思って、応援用の衣装を作ったの。 私家庭科部に所属してるから、服を作ったりするのは得意なんだ。」
「・・・うん。」
話を聞いていて、だんだんと真面目の中で嫌な予感が積乱雲のように沸いてくる。
「それでね? 応援団ら体育祭の華だと思うんだけど、この格好じゃ男装寄りになるから、やっぱり応援するなら・・・ね?」
「ごめん、僕も生徒会の仕事があるし、そう言うのは別の人に頼んで・・・」
逃げようと思った真面目であったが、既に隠れていた数名の男子(女子)に羽交い締めされるのだった。
「君がいいの。 君が一番この服を体現出来ると思うの。 練習はしなくても適当に踊って応援してくれるだけで、それだけでいいからさ。 お願い、私達の悲願を達成させて?」
「人に頼むときはまずこう言ったことをしないことが大前提であってね? いや、ちょっ、心の準備が・・・あ、ああぁ!」
この時真面目は悟った。 完全に集団的なものには勝てないと。 絵面だけならば男子数名に囲まれているのは、もはや目も当てられない程の惨状だ。 これから起こることを真面目はただ受け止めることしか出来なくなっていた。
隆起「そういえばなんで真面目を連れてくのに、浅倉の許可を貰ったんだ? 真面目は既に行くって言ってたのに。」
岬「それは私にも分かんない。 心当たりもない。」
下「後々本当にそうなるかも知れないって事なのかな?」
隆起「なんか言ったか? 日賀。」
下「なんでもないよ」




