他校の生徒会
「本日は前々から話していた他校の生徒会との交流の日となっている。 既に向こうから向かってきているらしいので、我々はこちらで待機をするのみだ。」
生徒会の面々は銘がそう宣言したのを聞いて、より一層の緊張が増す。 しかも真面目は更に険しい表情にもなった。個人的な問題ではあるものの、やはり同じ高校の生徒である以上は何かしらの言葉は欲しいものだと感じてしまっているからだ。
「ちなみに今回は向こうの事情もあり、生徒会長と副会長のみでの参加と聞いている。 向こうも忙しいのだろう。」
それでもトップ2人が来るのだから、それだけ任せられる人材でもあるのだろうと真面目は思った。
「そう言えば向こうの、桃源高校の生徒会長と副会長って、どんな人なのか、会長はご存じなのですかぁ?」
真梨子がそう訪ねると、銘は一度窓の方を見る。
「私自身も桃源高校についてはあまり聞いたことはない。 そもそもどの学校も自分達の生徒の事で頭が一杯だから、他校の交流などは実はあまり無かったそうだ。 これは私と海星が入った時からそうだった。」
「確かに何度か試みた形跡はあったものの、やはりうまくいかなかった、もしくは学校同士での利益が考えにくいという結果が招いたものだと推測されます。」
2人が入ってきた時期からなので、本来ならもっと前からも同じことがあったのだろう。 それだけ他校交流は厳しいものがあったのだろう。
「しかし、だ!」
そんな言葉を放ちながら銘は振り返る。
「今回の学校交流により、互いの利益を尊重できれば、今後の人脈や交流も発展が出来るかもしれない! これは我々にとっては大いなる進展になること間違いないだろう!」
「ドン!」と言った具合に仁王立ちする姿は威厳そのものであった。 故に海星は頷き返し、他の役員は拍手をするのだった。
「そろそろ時間にはなると思うが・・・」
コンコンコン
生徒会室のドアがノックされる。
「生徒会諸君。 桃源高校の生徒会長と副会長がお見えだ。 通しても良いだろうか?」
「お願いいたします。 鍵は開いておりますので。」
外から先生の声(真面目はまだ顧問を知らない)がしたのを皮切りに、2人の男女が入ってくる。
1人は朱色のショートヘアーを後ろ髪で縛り、目は大きく堂々としている女子だった。 背があまり高くないことを除けば銘とも張り合えただろう。
もう1人は隣にいる女子とは対称的な濃い緑髪の男子生徒。 何処かで使いとしてやっていそうな出で立ちをしていた。
「初めまして州点高校の生徒会諸君。 我は桃源高校生徒会長の中崎 東吾だ。 小さく見えるかも知れないが、これでも高校3年生だ。 今回の交流会を有意義なものにしたいと考えている。 短い間になるが、よろしく頼むぞ。」
「わたくしが桃源高校副会長であります山吹 歴でございます。 わたくしの事もどうぞご贔屓に。」
本当に対称的な2人の自己紹介が終わり、州点高校側の自己紹介も始める。
「今回の交流会にご協力いただきありがとうございます。 自分が生徒会長の高柳 銘と申します。 以後お見知り置きを。」
「副会長の花井 海星だ。 よろしく頼む。」
「会計の金田 松丸です。 今日はお二方だけだと聞いて、そちらの会計の方と会えないのは残念に思いますが、是非ともお話は聞かせて貰いたいです。」
「水上 真梨子。 書記してまーす。 仲良くして貰えれば幸いでーす。」
「庶務を務めさせて貰っています一ノ瀬 真面目です。 本日はよろしくお願いいたします。」
全員の紹介が終わったところで、東吾は真面目の方を見る。
「ほうほう。 こちらには既に庶務がいるんだな。 我々は最低限で回ればいいから、庶務までは使っていないからなぁ。」
「庶務を募ったりはしないので?」
「いや、我の考えは仕事を分割して減らしても無意味に近いという事を思っている。 確かに分散すれば速くはなるだろう。 しかしそれでは連携を主体としなければならない。 そして仕事を任せることの責任感を転嫁するのはもっとも行ってはいけないことだと思っているのだよ。」
大変だと分かっていても自分でやった方が良いという考えなのだろう。 その部分だけでも州点高校とは違いが出てくる。
「さてと、こんなことをしている場合ではないね。 早速だが校内案内をしてくれないかい?」
「ええ。 我々としてもそれが一番の目的ですから。」
そう言って東吾と歴を連れて学校案内が始まった。
「最初は近くの視聴覚室から見ていきましょうか。」
「広々とした空間だね。 視聴覚室というものはこう言った空間なのか。 我々の学校ではそれなりに狭いからね。」
そう言いながら生徒会長同士の会話は続けられる。 色んな場所を見回りながらあれやこれやと会話を繰り返している。 しかし見ている観点はそれぞれ違うようで、ああ言えばこう言うと言ったような議論も続いているようだ。
「そちらは元男子生徒の方が多いと聞いているのだが、こう言った更衣室周りはどうしているのかな?」
「基本は防音だが、ちゃんと他の生徒から見えないようには配慮しているさ。 具体的にはブラインダーにして日の光を入れつつも、こちら側が見えないようにするためにね。」
「確かに隠すだけならカーテンで良いが、日の光については考えていなかったな。」
「それを言うなら購買のあの出入り口をあえて分けるシステムについてはこちらも参考にさせて貰いたいね。 言われてしまえばあの場所でごった返すのは、正しく整列できていないからだろうからね。」
「そこに着眼点を持っていったのは、後ろにいる一ノ瀬庶務だ。 なかなかの逸材だろ?」
「ほうほう。 よく学校の事を見ていらっしゃる。」
真面目は褒められたことに驚いたが、流れとしては完全にいきなりだったので反応が出来なかった。
「はぁ、まあ、そんなところです。」
「しかしだな中崎生徒会長。 彼には少しだけ困ったことがあってだな。」
銘はいきなり話を変えたのと同時に、ここでその話を持ってくるのかと真面目は思った。
「彼とそちらの生徒との間で少々いざこざがあったようでな。 この写真を見て分かるとも思うが、彼は頬に殴られ痕がある。 しかも胸ぐらを掴まれているのだが、これに関して我々もとやかく言うつもりはないが、良好な関係としてひとつ、代表として謝罪を申し立てたいのだが。」
銘の説明に真面目はそこまでして貰わなくてもと思った矢先に、副会長の歴が頭を下げてきた。
「この度は我が校の生徒が不手際を起こしたことを深くお詫び申し上げます。 我々も全ては見れないゆえに、生徒の動向及び行為について関与することが出来ずにいる始末。 それが如何なる理由であれ学校間でのトラブルになるのは避けたいのであります。 どうか、わたくしに免じて彼を許してもらいたい。」
まさかの全うな謝罪に真面目は逆に引いてしまう位だった。
「い、いや。 本当に個人的な事ですから。 別にそちらになにかをして欲しいわけではないので。」
「我も何故このような事になったのかを知りたいな。 生徒会室に戻る間に、差し支えなければ話してくれるか?」
そうして真面目は東吾達に説明をしていった。 本当に個人的な話になったので、東吾もこの話はこちらの謝罪で終わらせる気ではあるが、次の事も考えていた。
「そちらの元同級生の人にはかなりツラい想いをしたことだろうが、あまり交流をしないことを念頭に置けば問題はないと推測される。 大きく事を荒立てるつもりはない。」
そう言って東吾達は去ろうとしていた。
「今度はこちらの学校の紹介をしよう。」
「皆さんまたのご機会に。 失礼致します。」
そうして桃源高校の2人は帰っていったのだった。
「みんなお疲れ様。」
「会長、いかがでしたか? 向こうの生徒会長は?」
「ただこちらの学校の確認をするのではなく、互いに意見を交わせれるのは良かったな。 本日は疲れただろう。 ここで解散といこうか。」
そうして生徒会の仕事として終えて、昇降口へと向かうのだった。




