部活は雨が降る前に切り上げよう
「今日の天気が怪しくなってきたけど、多分外で今日はやれるよね。」
今の天気を見ながら生徒会の仕事をこなしていた真面目は、ふとそんなことを思った。
「外のってことは、水泳部の方に行くのかい?」
真面目の独り言を聞いていた松丸がそう質問を返す。 彼も会計の仕事がわんさかあるものの、それでもほぼ1人でこなしている。 これも銘生徒会長の仕事の割り振りがしっかりしているからだろう。
「雨続きだったんで僕が生徒会の仕事を終える時はまともに残ってないんですよ。 学校での声だしは禁止ですからね。」
「でもぉ、水泳部ってこれからが本番じゃない。 大丈夫なの? ここにいて。」
真梨子は真面目の行動に疑問を持ちつつも、両立することの難しさを知っている。 そもそも部活の掛け持ちに加えて生徒会の仕事をしているので、まともな実力が付くとも思えないのが現実でもあったりする。
「まあその時はその時です。 これだけ色々とやっておいてレギュラーが取れるとは思っていませんし、顔出しをしていないのは日本舞踏クラブも同じですから。」
「退部に関しては様々な理由があるが、その大半はアルバイトによるものだ。 文芸部なら節度を守れば掛け持ちを認めているが、運動部となるとそうは行かない。 たまに練習についていけない、自由な時間が欲しいという理由で退部する生徒も多い。 個人の自由とは言うものの、学生としての本分は忘れないで欲しいものだ。」
海星は今の生徒の現状に納得がいっていない様子。 学生の本分と社会経験でどちらを取るかが重要な場面でもあるのだろう。 海星にとってはあまり似つかわしくないと言っているのかもしれない。
「それでも彼らの話を聞くのが我々の仕事でもある。 生徒会は他生徒の模範とも言えるが、それ以上に彼らに寄り添っていかなければならない。 彼らの意見は無駄にする必要は無いからな。」
会長の席に座る銘は、自分の仕事が無いにも関わらず、なにかを模索しているように手を動かしていた。 銘はどっしりとは構えていないものの、どこか尊厳のある出で立ちをしているので、「らしさ」は感じられるのだ。
「・・・よし。 これで今日の分は終わりです。 会長、ご確認をお願いします。」
「うむ。 確認はこちらでしておくから、君は部活に顔を出すといい。 時間は待ってはくれないぞ。」
「ありがとうございます。 失礼致します。」
銘が気を利かせてくれたようなので、真面目はそのままの流れで部屋を出て、水泳部へと赴く事にしたのだった。
「お疲れ様です! まだ部活動ってやっていますか?」
真面目がついた頃には既に走り終えていた水泳部だったが、真面目を見てから答えを出していた。
「心配いらないぞ! これから縄跳び練習をするところだったからな! 一ノ瀬君もウォーミングアップが終わったら、参加をしてくれ!」
駿河にとっては遅刻をすることは気にするほどではないらしい。 もちろんそれは真面目が生徒会に入ったことを視野にいれての発言でもある。 そう言った意味合いでは優しい世界であった。
「あんまり急に動いても体は動かないからね。 ゆっくりやっていきなよ。」
目黒に言われてストレッチを真面目が動いたその時。
「・・・ん?」
頭頂部になにかが当たった感触のあった真面目が上を見上げると、ポツリポツリと雨が降り始めてきたのだ。
「むっ。 雨が降ってきたな。 皆、一度部室の中へと向かうのだ。」
そうして駿河に言われるがままに真面目達は部室棟へ向かい、雨をギリギリで回避する。 隣からもドアの開閉音が聞こえたので、他の部活も同じ理由だろう。
「危なかったな。 皆、濡れてはないか?」
駿河の判断の速さのお陰でほとんどの部員が濡れずに済んでいた。 もちろんその中には真面目もいる。
「えー、こんなに降るなんて言ってなかったじゃん天気予報。」
「通り雨かもね。 でも流石にこの雨の中で帰るのはやだなぁ。」
部員達も急な雨に参ってしまっている。 真面目もこの雨は想定外で、折り畳み傘すら持っていなかった。
「これは雨が弱まってからにした方が良いだろうな。 この時期は身体を壊しやすいからな。 無理をするのは良くない。」
駿河の体調面を考える辺りは部長らしいとも言えるだろう。 しかし雨はなかなか止まず、帰る時間が見つけられない。
「どうする? 誰かの迎えを待つ?」
「でもうちは夜まで帰ってこないからなぁ。」
そんな会話をしつつも、天候の動向を探りながら待っていると、雨の勢いが少しだけ弱まった。
「部長。 雨が弱まってきたよ。 帰るならいまじゃない?」
「そうだな。 よし、皆! 家まで各々走って帰るように! それでは解散!」
そう言って駿河は既に着替え終わっていたようで、小雨になっている間に、すごい勢いで走っていった。
「あの人凄いなぁ・・・」
「私達も帰ろうか。」
目黒が言うように真面目達を含めた部員達も次の雨にやられる前に学校を出ることにしたのだった。
「さてと、これからルートを間違えたらまた雨にやられちゃうからなぁ。」
真面目は雲の動向を見ながら最短距離を走るのを心がけてはいるが、信号なども見なければいけないので、屋根を探しつつも雨にやられないようにしなければいけないのだ。
「それにしてもこんなに雨が降る時期に傘を持ってないなんて、なんとも間抜けな話だよね。 でも走ってると胸が揺れて邪魔になるんだけどさ・・・!」
真面目は走っているのだが、制服姿であること、そして今更ながら自分の胸について一番の障害が始まったのだった。
「こんなに走ってて、ツラいのは、今日が初めてかも・・・」
胸の息苦しさが男子の時よりもツラく感じるのは、それだけのものを持っているからだろう。
そしたそんな真面目の後ろから、再び雨が降り始めてきたのだった。
「いやいやいや・・・流石に雨と鬼ごっこはキツいって・・・! もう!」
天気に文句を言ってもしょうがないことは分かっていつつも、真面目は悪態をつく程には、体力がついていないのだ。 せめて屋根のある場所へと行くことをまずは考えて走ることにした。
「ほんと・・・勘弁してよ・・・! はぁ・・・はぁ・・・!」
そして屋根の下に行ってしばらく休むことにして、そして再び雨が止むのを繰り返した。
「ただいま・・・」
しかし雨との鬼ごっこは雨の方が軍配が上がり、真面目はずぶ濡れとまではいかなくても、それなりに雨に打たれたのだった。
「雨にやられるなんてなぁ。 風邪引くとまずいから早くシャワーだけでも浴びよう。」
そう言って真面目はすぐさま脱衣室に向かってそのまま服を脱いで、急いでシャワーのコックをひねり、暖かいお湯を被る。
「はぁ・・・気持ちいいなぁ・・・」
寒さを軽減してくれるシャワーに恩恵を受けながら真面目はため息をついた。
そして服を洗濯かごに入れた後に、最低限の服装で部屋に戻ってから、部屋着に着替えてからリビングに入った。
「真面目、大丈夫だった?」
「うーん、危なかったけど何とかなったよ。」
「寒くなるだろうからスープで暖まったほうが良いだろう。 ご飯は出来るからさ。」
進に言われるがままに椅子に座って、夕飯を食べてテレビを見ると、明日からも不安定な天気になりやすいとの事。
「明日は傘持っていこう。」
「そうするといいさ。 今日は暖かくして寝なさい。」
壱与に言われたように部屋に戻る前に、壱与からホットミルク(砂糖入り)を寝る前に貰い、布団もしっかりと被りながら眠りについた。
そして次の日の朝に真面目は、体調を崩すことは無く、しっかりと登校出来るのだった。
体調管理はしっかり出来る系男子(女子?)




