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お昼のアーケード街

まだお昼のお話です

 2人がアーケード街の門をくぐると、右も左もお店が立ち並び、どれもこれも興味をそそられるものばかりだった。


「へぇ。 アーケード街ってこんな感じなんだ。」

「一ノ瀬君、来たこと無かったの?」

「買い物とかは大体ここから反対側で済ませるから、ここにはあんまり来ないんだよね。」

「そうなんだ。 実は私も初めて。」

「それはお家柄?」

「確かに家は広いけどそんなに特別なことはしてない。 ご先祖の杵柄と言っても過言じゃない。」


 ふーんと真面目は思いつつも、和室の部屋が多いことには変わり無いんだと、心の中では考えていた。


 アーケード街に入って最初に見かけたのは洋菓子屋さん。 ケーキやタルトはもちろん、モンブランやプリン、シュークリームやマリトッツォなんてものも見受けられた。


「洋菓子はケーキとかの事を言うのだと思ってた。」

「西洋って意味じゃヨーロッパも間違ってないかもね。 それにシュークリームやマリトッツォはフランスやイタリアのお菓子だし。」

「そういえば一ノ瀬君のお母さんはパティシエだって。」

「働いてるのはここじゃないけどね。」


 そう言った矢先に「ぐぅ」と真面目のお腹の音が鳴る。


「お昼はまだ食べてなかったね。」

「折角だから食べ歩きしてみたい。 アーケードの醍醐味ってテレビで言ってた。」


 真面目はそんな岬を見て、言葉や表情に感情が籠ってないように見えるにも関わらず、今か今かと楽しみにしているのが、何となくだが分かった。


「あそこのお店、結構並んでる。」

「なに屋さんだろ? ・・・あぁ、韓国料理屋みたい。」

「韓国料理。 結構辛いのが並んでるイメージ。」

「確かに香辛料は使ってるとは思うけど・・・折角だから並んでみよう。」

「そうしよう。」


 2人は最後列に並ぶ。 平日の昼間と言うこともあってか人の量はまばらでそんなに時間が掛からずに注文する前まで来ていた。


「イラッシャイマセ。 ゴ注文ハ?」

「ええっとどうしよう。」

「海鮮チヂミを1つとトッポギ1人前お願いします。」

「ハイ。 850円ネ。」

「1000円から。」

「150円オツリと、番号札、番号呼バレタラココデ渡ス。」


 そうしてお店のレジの人は厨房らしき場所にメニューを言った。 最もハングル語なので言葉はわからない。 その後すぐに次の注文を取っていた。


「邪魔になら無い位置で待ってよう。」

「結構早めに注文した。 なんで?」

「迷ってたようだし、なんだったら韓国料理の定番でも食べておこうかなって思ってさ。」


 そして待つこと数十分。 それぞれの手にはチヂミとトッポギがあり、手に持っているのをそのままに一口食べた。


「おお。 チヂミはそんなに辛くないよ。 イカとかエビが入ってるよ。」

「トッポギももちもちして美味しい。 そっちも一口頂戴。」

「じゃあ僕もトッポギ貰うよ。」


 容器を交換して真面目もトッポギを1つ食べると、チヂミとは違った辛さにむせてしまった。


「っ! けほっ! えほっ!」

「わっ、大丈夫?」

「た、大丈夫・・・喉に当たっただけ・・・ふぅ。」

「一ノ瀬君は辛いの苦手?」

「そう言う訳じゃないけど、急に来たからむせちゃった。」


 けほけほと咳き込む真面目を見て、岬はクスリと笑っているのだった。


「お昼も食べたし、奥に行ってみよう。」

「そうだね。 まだ序の口。」


 そして2人はアーケード街の反対側まで歩いていく。 時折服屋を見つけたり、謎の風貌の店を見つけてどんなお店なのかを予測しあったり、アーケード街のスーパーの品物の安さに驚いたりと、2人はアーケード街を楽しんでいた。 そんな2人は今ゲームセンターの中にいる。


「よっ。 っとと。」

「ふっ。 わわっ。」


 エアホッケーで遊んでいる真面目と岬。 確実に狙いを定めながら打つ真面目。 小柄な体躯を活かした変則打ちをする岬。 勝負は五分五分まで持ち越されてタイムアップ後の延長線で


「そこ!」

「っ! 入れられた!」


 真面目の打ったパックが入ったのを最後にゲームが終わる。 勝負は真面目に軍配が上がった。


「ふぅ。 ギリギリ僕の勝ちだね。」

「仕方ない。 次は勝つ。」


 そんなやり取りをしてからゲームセンターを出ようとすると、不意に岬の足が止まった。


「どうかした?」

「あれ。」


 そう言って岬が指差したのはプリクラの筐体。 筐体の数は多くなくとも興味を惹かれたらしい。


「僕もプリクラって初めて、というかそう言う機会って全く無かったなぁ。」

「女子同士でも滅多にはやらないって聞いた。」


 そんな会話をした後に沈黙が数秒続いて


「撮っていく? 記念に。」


 岬が言葉を発した。 その言葉に真面目は「え。」とちょっと驚きながら岬を見た。


「い、いやー、こういうのはちょっと恥ずかしい・・・」

「証明写真の可愛く撮る感じだと思えば不思議じゃない。」


 岬が意外にもやる気満々だったので、真面目はプリクラを撮ることになった。


 プリクラを使って色々なポーズや変顔をして、デコレーションの画面で色々と書いたりマークを載せたりした。


「これはこうして・・・」

「これはこんな風にすればいいんじゃない?」


 2人で和気あいあいとしながらデコレーションして、出来上がったのを確認する。 そして2人でまた笑いあっていた。


「いい思い出になった。 やっぱり楽しい。」

「まだまだこれからでしょ。 っとと。 そろそろ帰らない?」

「そうだね。 結構寄り道としては時間を使った気がする。」


 岬はそう言っているが、時刻は午後3時を回っている。 午前で休みでなければ補導される一歩手前だ。


 そんな風に思いながらゲームセンターを出て歩いていると、反対側からアナウンサーとカメラマンの人が歩きながら向かってくるのが見えた。


「この時間からでもニュースやってるんだね。」

「もしくは何かの宣伝かも。 生放送じゃないかもしれない。」


 そんなことを話していると、アナウンサーの人がこちらに寄ってくるのが見えた。


「折角ですのでこちらのカップルの学生さんにインタビューをしてみたいと思います。 こんにちは私達はテレビ夕方で放送しております「ハローこの街」という番組の者なんですけれど。」

「・・・え? あ! 僕たちですか?」


 流石に本当にインタビューされるとは思っていなかったので、困惑してしまった真面目。 一方で岬は真面目の後ろに隠れるようにしている。


「あ、もしかして新入生の方ですか? どうですか? 性別が変わってしまった事でなにか困ったこととかはありましたか?」

「あ、ええっとその。 制服とかの着替えが大変ですね。 今までと感覚が違うって言うか、スカートって足元がスースーするので違和感があると言うか。」

「なるほど。 転換したてならではのご意見ですね。 そちらの方もそうですよね? お話を聞かせてもらっても・・・」

「すみません。 この子まだ色々と慣れてないものですから。」

「そうですか。 申し訳ありませんでした。 では私達は行きますので、引き続き楽しんでくださいね。」


 そう言ってテレビ局の人達は去っていった。


「テレビに出るのかな? あれで。」

「生放送じゃないことを祈ろう。 ところで、その・・・いつまで隠れてるのかな?」


 その疑問に対して、岬は思い出したかのようにすぐに真面目から離れる。


「ごめん。 隠れやすかったから。」

「僕を柱のように扱わないでよ。 もうすぐアーケード街も終わりだよ。」


 そして屋根の無い場所へと解き放たれる二人は、沈み行く太陽を見るのだった。


「多分途中までは一緒だよね?」

「そうだね。 そこまでは一緒だね。」


 どちらが言うでもなく歩き始める。 これが放課後の帰り道かと思うと、今日のは少しだけ得をした気分にもなってくる。 そしてある交差点まで来て、岬と真面目の向く方向が変わった。


「あ、ここで変わるんだね。」

「そうみたい。 それじゃあここまでだね。」

「うん。 それじゃあ、また明日。」

「また明日。」


 互いに手を振りながら別れて、少し歩いた所で二人は先程の言葉を思い出す。


((また明日、か。))


 これからもっと仲良くなれるかもしれないと予感しながら、道は違えど気持ちは通じあっている二人だった。

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