一ノ瀬家の買い物事情
そして次の日、一ノ瀬一家は昨日真面目が行ったスーパーへと足を運んだのだったが、
「・・・僕が行ったのは夕方だったからなぁ。 この光景は知らないや。」
「これだけの行列だもの。 何かあるに違いないわ。」
「その想いが杞憂に変わることは・・・無さそうだね。」
三者三様で感想を述べているのも無理はない。 真面目達が来た開店準備15分前には、既に主婦達が今か今かと待ち望んでいた。 中には家族連れもいるが、この様子を見ると、大方一人一つが限定商品を数で増やすか荷物番だろう。
そして開店と同時にお客が中へと入っていく。 並んでいるとは言え押すな押すなのてんやわんや状態だ。
「まずは精肉コーナーに行くわよ。 多分この人集りだといいお肉が残らないと思うし。」
「スーパー自体の通路がそこまで広くないから行きにくいかも・・・狙い目は?」
「豚バラ。 牛はちょっとお高い気がするのよね。」
通路内で揉みくちゃにされながらも(実際に真面目は誰かの手が胸に触れた)精肉コーナーへと足を運んでいく真面目と壱与。 進は既に別行動をしていて、比較的安全な調味料のコーナーに入っていた。
「ふむ・・・」
「母さん、吟味してないで早く籠に入れなよ。 無くなるよ?」
他のお客が次々と取っていく中で、壱与は品定めをしていた。 そして壱与の目が光ったかのように見えた後に、豚バラパックを手にとって籠に入れていた。
「上の方はちょっと脂身が多かったからね。 グラム数的にもちょうどいいでしょ。」
「食材を見る時は本当にそうなんだから。」
少しでも良質なものを買おうとするのが壱与のモットーではあるものの、そんなところで張り合う必要はないと真面目は思っていた。
「壱与さん。 これとかどうかな?」
「うん。 バッチリよ進さん。」
そう言って進が調味料置き場から持ってきたのはシーザードレッシングだった。
「あれ。 今回はそれにするんだ。」
「前回が胡麻ドレッシングだったからね。 今度は酸味のあるドレッシングでいこうかなってね。」
一ノ瀬家でのサラダにかけるドレッシングに決まりはない。 マヨネーズだろうとポン酢だろうとサラダは普通に食べる。 なので常に決まったドレッシングがあるわけではないので、ある程度適当に買ってきても採用されるのだ。
「次は魚かしら。」
「昨日はすぐに調理したかったから開きに来たけど、多分もっといいのあるよね。」
そう言いながら鮮魚コーナーに向かう。 魚独特の匂いが鼻腔を刺激する。 真面目が昨日見たのは既に調理済みのコーナーだったが、勿論自ら調理するための魚も完全な0ではなかった。
「私も魚はあんまり上手く捌けないのよね。 綺麗に三枚下ろし出来るのって凄いと思うわ。」
「パティシエの母さんが言うなら、それほどなんだって思うね。」
「包丁も使わない訳じゃないんだけど、ほとんどがカットフルーツにするときなのよねぇ。 扱い方が違うわ。」
それはそうなのだろうと思いながら壱与の手元を見ていた真面目は、壱与が鯖の切り身を買っているのが見えた。 やはり三枚下ろしにはしないのかと思った。
「壱与さん。 野菜はどうしようか。」
「そうねぇ。 小振りなのとかちょっと危なそうなのはあるけど、野菜は大事だからねぇ。 ちょっと危なそうなのでも、安いのにしましょうか。」
その言葉で進はある程度安くても、それなりに品揃えの良い野菜を転々と入れていっていた。 本屋を運営する上での目利きがいかされているのだろう。
「あ、そう言えばポン酢と白だしが無くなってた気がする。」
「それなら持ってきてちょうだい。 あとふりかけかお茶漬けの素でも持ってきて。」
了解といいながら真面目は注文の物を持ってくる。 もちろん足りなそうになっている調味料も含めてだ。 具体的には粉チーズとタバスコ。
「後はパンとお惣菜ね。 あんたが見たときはどうだったの?」
「ほとんど見てなかったけれど、そこそこあったと思うよ?」
真面目も気になった料理のためだけに動いていただけで、そこまで見ることは無かったのだった。
そして真面目達は適当に見て、それっぽい惣菜を適当に入れると、かごが足りなくなったので追加して、そこそこ重たくなったかごを真面目と進の手に渡して、レジへと並んでいく。 それなりの時間いたはずなのだが、レジには長蛇の列が出来ていた。
「レジの数が少ないのかな?」
「それともレジの係が少ないかだね。」
「どっちみち時間はかかりそうね。」
前の方が微妙に見えないことと、レジ前の幅が広いことから、こうなることは想定範囲内なのだろう。
それから並んでいく事15分ほど。 ようやくレジに商品を出したのだが、それでもレジの係の人のやり方がかなり遅かったのだった。
「まさしく地域のスーパーって感想だったわね。」
結局レジの時間がそこから5分ほどかかってしまったのだった。 仕方がないとは言え、少々疲れが生まれてしまう。
「やっぱり車とかいるんじゃないの? 買い物袋持ちながら帰るのは、ちょっと遠いよ?」
「私達自体は運動しなくても、ある程度動いてるからね。 これくらいなら何て事無いでしょ?」
「それとこれとは話が別じゃない?」
そうは言いつつもちゃんと両手に袋を持っている辺りは、問題だとは思っていないらしい。 そして真面目達は色々な食材を買ったので、冷蔵庫に入れるべく、家へと歩みを進める。
「それにしてもあんたが持つ必要は無いのよ?」
「残念だけど見た目は女子だけど中身は男子だからね。 見た目に騙されちゃいけないと思うんだよね。」
「私としては今は両手に花状態な訳なのだがね。」
「だから片方は男だってば。」
真面目の今の状態に対して、受け入れてはいるものの、違和感が少しあるのだろうか。 娘ということに完全には脳が受け付けていないようだ。
「まあ、これくらいあれば、今週は大丈夫そうね。」
「そんなに食べないでしょ。 でもあそこも今後の買い物に入れてもいいんじゃない?」
「父さんの帰り道にあるみたいだし、もしなにか足りなくなったら、あそこで買うように頼んでくれてもいいかもね。」
家について、すぐに冷蔵庫の中にある程度入れていき、惣菜を取り出して、そのままお昼ごはんへと繋げた。 添え物はロールパンである。
「こうやってやるだけでも立派な昼食よね。」
「今週は忙しかったからパンなどで過ごしていたが、今日の昼食は少しだけ豪勢に見えるね。」
「そんなに乏しいお昼を過ごしてたの?」
父のストイックな現実を聞きながら惣菜であるメンチカツを食べていた。
「今夜はどうするの?」
「そうねぇ。 昨日真面目が作ってくれたから、今日は私が作るわ。 なにか食べたいものはある?」
壱与がそう聞いてきたので、真面目は考えつつも、今買ってきた食材を考えて、そして思い浮かんだ答えは
「炊き込みごはんが食べたい。」
「また微妙に季節外れの食べ物をあんたは・・・ 分かったわよ。 具材は適当に入れるから文句は言わないでよ?」
そしてお昼を食べ終えた一同は、各々の休日を過ごし、夕飯時に炊き込みごはんの匂いが立ち込めるベランダで夕飯を過ごして、真面目にとってゆったりとした週末を過ごしたのだった。




