小さきもの、大きしもの
性別が変わってそろそろ2ヶ月が経過する。 真面目達のような今年から性別が変わった人間にとっては長くも短い時間である。
そんな生徒達が話す内容は日に日に変わってくる。 そしてこの時期になると大抵行われる会話というのが
「にしてもお前がまさかそんなに背が低くなるなんてなぁ。 元々高い方だったんだろ?」
「そうそう。 でもその代わりといってはなんだけど、他の同じ身長の奴よりも、「コレ」があるからなんの問題もないな。 身長をこいつに持ってかれたって感じだろうな。」
「俺も昔はそれ見ただけでも興奮できたんだけどなぁ。 今じゃ全くなにも感じないぜ。」
元が男子だった女子の会話は自分の変化した肉体に対して。
「私はやっぱりこのアイドルが好きだなあ。 ほら、この子とかよくない?」
「えー? 私はこっちのアイドルがいい。 クールな感じって、独創的だと思わない?」
「声とかも低めの方が耳に残りやすいんだよねぇ。 あ、これは私の感想なんだけどね?」
元が女子の男子は相手の魅力を語っている。 ただし見ているアイドルグループは全員が女子である。 年齢は定かではないが。
「随分自分の身体に慣れてきた会話だよね。」
「これぞ高校生活って感じがようやくしてきたよね。」
そんなクラスメイトの会話を窓際で見ている岬と真面目の感想は、そんな他人事にも近いものだった。
あちらこちらでクラスメイトに慣れてきたのか、いくつかの大まかなグループに分かれている。 会話の内容もそれぞれだし、見た目もてんでバラバラだ。 それでも会話が成立しているのは、気の合う友人を見つけたからに過ぎないだろう。
とはいえまだ男子と女子が一緒に会話している様子はほとんど無い。 完全な0ではないものの、少しばかりギクシャクしているように見えた。 それも仕方の無いことだろうと客観的に真面目は考える。 高校になっていきなり性別が変わったのだから、自分の事を話そうとしても、見た目のせいで受け入れて貰えない可能性の方が大きい。 特に元男子側はそれが顕著に現れる。
「男子は基本的に身体的特徴のことを語っている。 嘆かわしいとは思わないけど、いい雰囲気にはならない。」
「逆に女子の方は子供っぽさが戻った感じかな。 憧れのスターに、みたいな。」
真面目のとなりにいる2人は見た目こそ違うものの、クールという点においてはこの場の誰よりも雰囲気を醸し出していた。
「2人はどうなのさ? 少なくとも女子の方に入らなくていいの?」
真面目は2人が孤立するのではと考えてそう提案する。 これは真面目の勝手な憶測と偏見が混じるが、女子の中には彼女達の中にある順位やら軍などが存在して、それによって優劣を付けることを。
真面目にとっては生徒会の一員としてはあまり寛容出来ない部分はあるものの、人というものは結局見下すことでしか自分を見出だせない生き物だとも知っている。 ゆえに少しでも馴染んだ方がよいのではないかと思ったのだが、2人の反応は異なったものとなった。
「私はああいったグループには興味がない。 人の気持ちを汲み取りながらグループの中にいるなんてまっぴらごめん。」
「私の場合は常に誰かが寄ってくるから、一人になる時間が欲しいんだ。 もちろん拒んだりはしないけど。」
ああいった集団行動、というよりは上辺だけの女子関係には興味を示していないようだった。
「そういう一ノ瀬君はどうなの?」
岬からの質問返しに真面目も少し考えた後に
「僕も集団行動は好きじゃないかな。 なんていうか、誰かに左右されるなんて事が・・・ああ、そういうことか。 だから浅倉さんも鎧塚さんも群れたがらないんだ。」
自分が答えた発言が、彼女達の大いなる理由だと真面目も感じだ。 付き合う人間なんてものは少ない方が楽だ。 むしろ無理に広げすぎて、本当の自分を見失うようでは、一人の人間として何かを失うことになりかねない、というところだろうか。
「とはいえ私達が入りたがらない理由はまだ別にあるのだけどね。 浅倉さんもじゃないかな?」
「まあね。」
「ん? 入りたがらない理由? 彼女達の話の内容に付いていけないとか?」
「それだけならまだ私はよかったよ。 たまにあるからね。 でも本命はそっちじゃない。 ほら、男子だったらどう異性をみるかって話だよ。」
そう言って刃真里は1つのグループを目で見てみる。 するとそのグループのメンバーは、まるで有名人にでもあったかのように目線をなるべく合わせないようにしていた。
「別にあれぐらい普通じゃない? それに鎧塚さんを見ただけなら特に問題があるようには見えないけど。」
「いや、彼女達が見ていたのは私じゃないよ。 見ていたのは一ノ瀬君。 君なんだよ。」
「えぇ? 僕?」
流石に想像が出来なかったようで、少しすっとんきょうな声をあげてしまった真面目。 その理由を聞く前に、向こう側から声が聞こえてきた。
「ねぇねぇ。 やっぱり一ノ瀬君って凄いよね。」
「私達がいくら集まったってあの胸の大きさには敵わないよ。」
「でもそれがいい。 着やせするタイプな感じがしてなおいいよね。」
「・・・なにあれ?」
「元男子である君なら分かるんじゃないかな?」
いきなり話題を振られていく真面目であったが、なんと言うのか、なにを求めているのかは察することが出来た。
だからこそ、真面目としても物申して置かなければならないと思った。
「言いたいことは分かるかもしれないけど・・・僕はあいにく外見だけで人は見ないからね。」
「一ノ瀬君は初めて一緒に登校した時からそうだった。 人の隣に立つことが上手いから。」
「それ誉めてる?」
少しまと外れな事を言われた気がするのだが、いちいちは真面目も気にはしない。
「一ノ瀬君って、見た目に反して、結構特殊な性癖の持ち主だったり?」
「その件に関してはノーコメントで貫くよ鎧塚さん。 少なくともこんな公に近い場所では話さないよ。 流石に。」
「別に本当に語ってほしかった訳じゃないさ。 気になっただけさ。 私もね。」
刃真里は真面目に向けて優しく微笑む。 それを見ていた岬は、真面目に近付き、そして真面目の前に立ち、刃真里を見ながら、まるでバックでガレージに入る車のように、真面目の懐に入って、真面目の胸を頭で支えるような姿になった。
「ちょっと? 浅倉さん? なにしているの?」
「互いの良いところを抜き出せば不思議なことはない。 個性は人それぞれだから。」
その言葉の今の行為になんの意味があるのか、真面目も刃真里も分からないまま、次の授業のチャイムが鳴るのだった。




