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岬からの嫉妬

翌日も雨が降り、真面目は今日も岬と合流が出来ずに学校へと投稿した。 教室には誰もいないので、教室で響くのは窓に吹き付ける雨粒のみだった。


「こんな調子で、体育祭なんて出来るのかな?」


基本的に外競技の多い体育祭。 これだけ連日雨が続いてしまえば、例え当日晴れていても、グラウンドは水溜まりやぬかるみが発生しているため、正統な体育祭とはならないのではないかと真面目は思っていた。


体育祭まではまだ先のようであっという間に現れる。 そう言うこともあってか、最近では水泳部にまともに顔も出せていなかったりするのだ。 水泳部が室内で練習をすることに異議を唱える生徒はいないものの、声を張り上げられないという点に置いては、どうしても見劣りしてしまうようだ。


「無くなることがないように願うばかりか・・・いや、運動が苦手な人にとってはむしろ好機だったりはするのかな? そんなことを言ったら不謹慎にも程があるのかも知れないのだろうけれど。」

「こんな朝早くから窓とお話かい?」


そんな声と共に逆側を見ると、今しがた到着したであろう様子の刃真里が真面目を見ていた。


「おはよう鎧塚さん。 丁度今は誰もいなかったしね。」

「ボクもそこまで早く来る方ではないのだけれど、今日は何故か早くに着いてしまった。」

「何かあったの?」

「いや? そう言う訳じゃないんだ。 ただいつもの出る時間だと雨が強くなりそうだと予報で言っていたからね。 ほら、この通り。」


先ほどまで見ていた窓に打ち付ける雨は、更に威力を増したようにも見えた。


「あっちゃぁ。 これは確かに大変そうだ。 特に今から登校しようとする人は。」

「そう言う君はいつも早くに登校してるよね。 そんなに早く来なくても、もっとゆっくりすればいいのに。」

「こればっかりは性分だから仕方ないってことで。」


そんな2人の会話はゆっくりとだが確実に時間は過ぎていって、それを最初に打ち破ったのは、必死にスケッチブックに何かを書いている1人の男子クラスメイトの存在だった。


「・・・ああっと・・・全く気が付かなかったけど・・・おはよう蓮池さん。」


改めてクラスメイトに挨拶を交わすものの、周りが見えていないかのようにその目と手はスケッチブックに集中していた。


「完全に聞こえてないね、あれ。」

「まあ気が付かなかったのはお互い様ってことで?」


その言葉に蓮池と呼ばれた男子は動きを止めた。 


「あ、終わった?」

「・・・いえ、もう少し・・・もう少しだけ・・・」

「折角だからボク達と話さないかい?」


そう優しく刃真里は声をかけるが、それを蓮池はビシッと鉛筆を持った右手を前に出した。


「いえ、そう言うわけにはぁ、いきません! この蓮池 久那(はすいけ くな)が、今のような空間の間に挟まるなど・・・そんな恐れ多い事は出来ません! 久那は絵になる光景を見て、それを形として残すのみであります!」


そう言いながらまたスケッチブックを書き始めた。


「素晴らしい・・・雨降りの静けさがある教室の窓辺で顔が整った男女が互いに話をしている・・・あぁ! 本当に素晴らしい・・・」

「ねぇ、もしかして彼女ってかなりヒステリックな部分があったりする?」

「いや、あれは多分自分のキャパシティを越えた先にあるなにかなんじゃないかな?」

「・・・! 出来ました!」


そう言って久那は今しがた書いたものであるスケッチブックを見せてくれた。 確かにそれはほとんど先ほどの風景画であった。


「はぁぁ。 本当に綺麗なものだ。 全く飾り気のない、あるがままって感じだよ。」

「これほどまでに絵が綺麗にかけるなんて凄い情熱だよ。 もちろんそれだけの技術があっての事だけど。」

「ああ、こんなお二人にお褒めにかかれるなんて・・・久那は光栄です・・・!」


久那は何かを表現するかのように身体をくねらせる。


「蓮池さんは美術部なのかな?」

「あぁいえ。 一応この学校にも漫研がありましたので、そこで活動しております。」

「へぇ、漫研なんてあったんだ。 どこで活動しているんだい?」

「別館の2階の石膏室という場所になります。 そこなら日の光も少ないので、漫画を描くのに最適なんです。 今度はサークルとして参加する事にもなって・・・あぁ! すみませんすみません! 久那がお二人の間に入るなんて事は!」

「入ってはないけどね。 会話くらいはしてもいいんじゃないかな?」


そんな会話をしつつも、クラスメイトはどんどんと増えていく。


「おはよう一ノ瀬君。」


ようやく岬がやってきたのだが、そこにはかなり強い雨に打たれたのか、とにかく濡れていた。


「なんでそんなに濡れて登校してきたの?」

「元々雨はあんまり好きじゃないから少しでも濡れないようにしたかったけど、逆効果だった。」

「んー。 そういうことなのかな?」


真面目自身もその事に関してはよく分からずにいた。


「おやおや、随分と濡れているじゃないか。 はい。 これはまだ使っていないタオルだよ。」


刃真里がタオルを渡すと岬は途端に髪をわしゃわしゃと拭いていく。 髪は短めだったのでそこまで勢いよくやる必要はないのだろうが、今は男なので気にしないようだ。


「そうだ。 次の理科の授業なんだけど、もしよかったら教えてくれないかな。」

「え? 鎧塚さん、理科は得意じゃないの?」

「意外に見える? ボクはどちらかといえば喋りとかの方が好きなんだ。 化学者の人達を敵視する訳じゃないけど、理数系は勉強をしていると何故か頭が痛くなってしまってね。 一種の拒絶反応ではないかと考えているんだ。 流石に次の試験では赤点から余裕を持たせたいからさ。」

「そうなんだ。 あ、それなら僕の方からは英語を教えてよ。 国語の方は文法の力はあるけど、英語の方はどうも分からなくてさ。」

「いい等価交換だね。 今すぐにって訳じゃないから、機会があったらそのときは。」

「そうだね。 よろしくお願いするよ。」


そう刃真里と約束を果たした後の間に岬が入ってくる。 小柄なのであまり邪魔をしているようには見えないのだが。


「どうしたの浅倉さん。 間に入ってくるなんて。」

「・・・別に・・・でもなんか・・・2人だけの空間ってところに、ちょっともやっとしただけ。 自分でもなんでこんなことをしているのか理解が出来ない。」


真面目側に顔を向けている岬は、よくよく見ればどこかムッとした表情をしていたのだが、それを見た真面目も、それに便乗するかのように真面目と顔を見合わせた刃真里には、よく理解が出来なかった。


――――――――――――――


「ほうほう、これはこれは。 元々一ノ瀬氏と浅倉氏は席も前後だったこともあって仲がよろしかった。 しかしそんな中で知らぬ間に一ノ瀬氏は、笑顔がまさしく少女キラーの鎧塚氏と、仲良くなったことに浅倉氏は心の中に眠る一ノ瀬氏に対する感情が無意識に働いている・・・ 無自覚天然の女子になった男子も、まだ本当の気持ちを分からないショタよりの女子による謎の嫉妬。 そしてそれを奪い去ろうとしているのは、2つの意味で王子な男子・・・! 今はまだ互いに気持ちが分からないながらも、他人に取られる恐怖を無意識に発揮してそこから始まる青春物語・・・! 次のサークルで出すものは決めていましたが、次回のネタとしてメモをしておかなければ・・・!」

最後のはごく稀にいる「外部から見たアオハルの感想を全力で語る人」のような目線でお送りしております

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