他学校との交流の話
「さて、今回も校内の巡回をすると共に今後についての案を出して貰いたい。」
生徒会長の席に座っている銘が、今日の生徒会の動きを簡潔に語るのだった。
「今回回るのは図書室方面となっている。 図書室の利用者数を増やすにはどうすればいいか、という議題が図書委員から出ていた。 それを解決するために、我々が出向いていこうと言う訳だ。」
真面目もこの学校の見取り図などを見る機会が増えたこともあってか、学校全体の教室の場所などは完全ではないものの把握はしていた。
図書室は教室棟の3階置くにあるのだが、利用者数は多くない。 理由としてはいつも使っている教室の奥にあること、そして3階であるため一度最上級生の教室の隣を歩かなければならないと言った点から、新入生も含めて足を踏み出しにくいのだ。
「同じ様に図書委員からで、保管書物の内容が古いため、所々で文字が薄れていたり、本自体が破れているものも少なからずあるとも報告があがっていましたね。」
「この高校の図書室に置いてある本は創業以来置いてあるものも少なくはないが、本も取って貰わなければ価値にならない。」
松丸も海星も事の重さは受け入れているようで早急に解決しなければと考えていた。
「ここにいてもしょうがないし、なにが原因か早速行かない?」
話に飽きたのか、そんなことを言ったのは真梨子だった。 彼女は思い立ったら即行動の人物らしい。 そしてそれに当てられるかのように、銘達も動き始める。
「全く、お前に諭される羽目になるとはな。」
「いやねぇ。 私だって生徒会の一員よ? そう言ったところはちゃんと考えてるの。」
「後はその性格が治っていればな・・・」
愚痴を言いながらも正論をぶつけられた海星であったが、結局それ以上は文句も言わなかったのだった。
「ここが図書室だ。 一ノ瀬庶務は初めてかな?」
「そうですね。 実際にここに来るのは初めてです。」
流石に高校の図書室なだけあって入り口から見渡す限りの本棚があった。 どの本棚の中もぎっしりと本が入っており、左も右も本だらけである。
「生徒会長。 来てくださったのですね。」
図書室のカウンターから声を出したのは、眼鏡をかけた男子生徒だった。
図書委員の一人だろう。
「あぁ。 生徒の声に出来る限りの答えていきたいからな。」
「ありがとうございます。 それで、どうでしょうか? 改善の余地はあるでしょうか?」
「それを確かめに来たのだ。 そう急かずとも、考えては見るさ。」
そう言いながら銘達は原因を追求しようと図書室の中へと入る。
「まずは中の書物について見ていこう。」
本棚の中にびっしりと入っている本はどれもこれもが分厚く、取り出すだけでもそれ相応の力が必要になっていて、周りの本にも一緒についてくるのが、怖くなってくる。
そして机や椅子は入り口近くにしかないため、持ってくるだけでも大変だろう。 更に場所が場所なので、流石に借りてまで本を読みたくはない、というのが感想だろう。
「棚が高い場所もあって、脚立があったとしても、上から落ちてくると考えるとかなり危険ですね。」
「それに上にある本は歴史書が多い。 その分厚くなってくるためか、1つを取り出すだけでも大変だ。」
「あ、これ、カビがちょっと生えてる。」
「本を日に当てていないからだろうな。 本の天日干しのことも考えないといけないな。」
この図書室はかなりの課題があるようだ。
そうして一通り回ったところで、もう1つ気になることがあった。 それは利用者がいないことだった。 図書室ならば1人か2人はいるものだろうかと思っていたのだが、まさか1人もいないとは思っていなかった。
「お帰りなさい。 どうでしたか?」
「うむ。 一つ一つを処理するには時間が掛かるが、必ず図書室に活気を与えて見せよう。」
「図書室は静かにする場所では?」
冗談交じりではあったが、やはり思うところがあったので、言わせて貰った。
そして図書室を後にしながら銘は改めてメモを書いていた。 図書室で書いていなかったのは、迷惑だろうと思ったのだろう。
生徒会室へと戻り、銘はすぐにでも紙に書き直していた。
「うーん、これだけ考えてるなかでこんなことを言うのはどうなんだろうなぁ・・・」
「なんだ? 銘会長は忙しいから、俺が聞くぞ。」
海星からそんな提案を受けたので、真面目は話してみることにした。
「いやぁ、他の高校との交流というか、お互いの良し悪しを交換するのもどうかなと思っただけです。」
「思っただけ、という割には随分と具体的な内容だね。」
紙に書きながらも、真面目の会話を聞いていたようで、返事をした銘は、その経緯を聞きたくて知りたいようだ。
「うちのある生徒と、元同級生との間の話ではあるのですが、友好的とは見えなかったことがあり、それを見てそれぞれの高校での蟠りを少しでも失くすことが出きればと思ったのです。」
「確かに高校は州点高校だけではないし、互いの問題点というものから、解決策を見出だすヒントになるだろうし、より良き高校を互いに作るためにも、交流という話は良いかもしれない。」
銘は真面目の事を見ること無く、教師陣に提出するための書類作成をしていた。 これだけ会話に混じっていても仕事の手は止めてはいなかった。
「しかし今のご時世にそのような事をするものがまだいたとはな。 嘆かわしい限りだ。」
「僕としてはこの学校にも少なからずあると思うんですよね。 実際に生徒会に入ろうとした理由だってそう言ったところからですし。」
真面目が生徒会に入った理由を述べつつ、銘は書類が完成したのか、それを松丸に渡して真面目を真正面から見つめる。 その眼差しは女子の目ではなく、逆に獲物を見つけたかのような、獣の目をしていた。
「とはいえ交流が完全に無いわけではないのだよ一ノ瀬庶務。 折角だ。 次までに交流の深い高校との対談と互いの現状を語り合っていこうではない
か。」
そう言いつつ本日の生徒会での仕事は終わりを迎えて、時間もかなり経っているため、部活は両方ともやっていないと感じたため、そのまま昇降口へと向かう。
昼間まで降っていた雨は止んではいるが、雲の厚さは変わっていない。 雨が降り始める前に帰ってしまおうと、水溜まりを避けながら真面目は帰路に立ち、足早に学校を出るのだった。




